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予想は二つ

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 真夜中の空が雲に覆われ、月も隠れて散歩気分が台無しだとフェレスは嘆息した。散歩をする時間か、とランスがいたら突っ込まれるところだが生憎と今は一人。耳や首、腕に指、髪に大量の装飾品を身に着けた姿で外を出歩くのは人が誰もいない真夜中しかしたくない。
 全て魔力制御装置。強大な魔力を若い妖精並に下げる為にかなりの量の魔力制御装置を着ける羽目になった。用意したランスがいたら、組合にある全てと個人が所有している制御装置でもまだ強い魔力を維持するフェレスの化け物にドン引きだと言われる。


「はあ、怠い」


 本来ある魔力を強制的に制限されているせいで体が怠くて重い。異常な数の魔力制御装置を身に着けている今は余計に。

 ただ、効果はあった。

 先日現れた黒い影がまた現れた。あの時はランスを狙っていたが今度はフェレスを狙っている。強い妖精を狙わないのは、恐らく敵の力量では若く未熟な妖精しか狙えないという事になる。
 六つの影に囲まれるも、即座に魔力制御装置を全て外し、呪文無しで全ての影を拘束した。逃れようともがく影を逃さないよう強く拘束すると呻き声が漏れた。


「へえ、姿を偽る幻覚か」


 黒い影は正体を偽る仮の姿。なら、黒い影を払ってしまえばいい。

 六つ全ての影を取り払ったフェレスは目を細めた。

 全員魔力を持った人間で額に洗脳魔法特有の文字が刻まれていた。古い魔法の一つで現代では禁じられている筈。使用者は相当な魔法使いだ。人間でも有り得るが妖精でも有り得る。記憶の引出しを開けて洗脳魔法を人間に使って企みを実行する輩はいないかと探るがいない。
 人間で限定すると知らない。長い時を生きているフェレスが初めて人間に興味を持ったのはセアラだったからだ。
 人間相手の情報なら組合に訊ねるのが効率的だ。拘束した者を全員気絶させる前に洗脳魔法の文字を消す作業がいる。一人に近付き、額に指を当てた時だ。


「!」


 全員、前触れもなく血を噴き出し倒れた。咄嗟に結界を展開し、血吹雪を拒絶したフェレスは微かに青の目を見開いた。
 なるほど、失敗した挙句捕らえられたら死ぬよう管理されていたようだ。折角の情報源だったのに、とランスがいたら落ち込むだろうがフェレスは無の表情でバラバラになった死体を見下ろす。拘束している最中しっかりと情報は抜き取った。使い捨ての下っ端から大した情報を得られるとは思っていないがないよりマシ。

 フェレスが額に指を当てた者から興味深い情報を抜き取った。
 脳に情報を貼り付け、記憶を再生させると映像が浮かんだ。
 気絶させられた若い妖精の男が黒い影に捕まった状態で薄暗い部屋に放り込まれた。見目的に地下室、だろうか。全体石造りの部屋全体を植物の蔓が覆っていた。微かな隙間から石造りの部屋と判断するくらいの量から推測するに、巨大な植物の根っこと見える。妖精が床に抛られた刹那——蔓が妖精の体に巻き付いた。
 身体が光に覆われた直後、妖精から絶叫が発せられた。
 生命と同等の魔力を強制的に奪われる苦痛は尋常ではなく、喉が焼け声が掠れても絶叫は消えない。妖精の魔力を吸い続ける蔓は室内全体に輝き、上へといく。天井の一か所に特に太く蔓が集まっている箇所がある。そこに栄養たる魔力を送っていると考えられる。

 映像はそこで終わった。


「あの妖精は生きてはいないか」


 発見された妖精は皆木乃伊となって死んでいる。きっと、フェレスが見た妖精も例外じゃない。


「魔力を奪う植物、か」


 明確な目的は見えなくても大体の要素は掴めた。
 外れた魔力制御装置を一纏めにして組合へ持ち帰り、受付嬢のいるカウンターに全部置いた。すぐにランスが寝泊まりしている個室に入り、ベッドで寝相良く寝ているランスのデューベイを引き剥がしたたき起こした。
 熟睡していたのに強制的に起床させられたランスは起こした相手の顔を見て文句を飛ばすも、敵の大体の目的が分かったかもしれないと言うフェレスの言葉にすぐに頭を覚醒させた。
 床に胡坐をかいて話を聞く体勢になったランスにこう告げた。


「僕が考えるのは二つだ。一つは死者の蘇生。もう一つは器移しだ」
「器移し?」


 前者は訊ねなくても解る。後者は初めて訊くと言いたげなランスに説明をした。


「器移しは死者蘇生と少し似ている。死者蘇生は、死者の肉体に同じ魂を降臨させる事で成立する。器移しは、魂の宿った肉体が何らかの原因で使えなくなった場合、別の肉体に魂を移す外法だよ。ただし、重要な点がある」
「重要な点?」
「ああ。器移しに使う肉体は——血縁者でないといけない。肉体の拒絶反応を防ぐには、血縁者の器が一番相性が良い」


 仮に二つの予想どちらかが当たっているとした場合。敵が誰を蘇らせたいのかとなる。

  

 同時刻。グリージョ邸、シュヴァルツの私室にて。寝台に腰掛け、深く項垂れるシュヴァルツは帰宅後父に午前の出来事を報告した。黙っていてもプラティーヌ家から抗議の文が来れば何れ知られる。後より自分から報せるのが適切だと判断して偽らず全て話した。
 当然の事ながら父に叱られた。何より、聖女だからと言って伯爵令嬢のルチアが公爵令嬢のセラティーナを平手打ちをしたのは前代未聞だと叱責され、プラティーヌ家から抗議の文が来ると報せるとそうだろうと溜め息を吐かれた。


『明日、必ずセラティーナに謝罪しろ。そして今後一切ルチアとの付き合いを絶つと誓え』
『それではルチアが可哀想ですっ』
『自業自得だ。言っておくがルナリア家を助けようとは思わないことだ。私も助ける気は一切ない。いい加減、公爵家の次期当主としての自覚を持て。どうしてもルチアを手放せないなら、第二夫人として迎えろ。以前言ったように正妻も子を産むのもセラティーナ以外認めん」


 子供の頃からの気持ちを捨てられないでいるシュヴァルツを無情に一蹴するのが父アベラルドだ。
 ルチアといると心が穏やかでいられ、安心感が込みあがる。妹がいたらきっとこんな感じなのだと。

 そう思うと相手がセラティーナになると心が乱されてしまう。あの時目撃した、はにかんだ笑みが忘れられない。

 帝国の魔法使いには見せて、自分には一度も見せてくれないのかと。同時に考えるのがセラティーナに抱いていた微かな苛立ちと……後は……。



  
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