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夜の訪問①

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 夕刻になっても父から話が無かった辺り、皇帝からの手紙はまだ王家に届いていないのだろうか。それとも、此方に話が来ていないだけで手紙は届いていても報せられない何かがあるのか。
 今日は食堂で食べるようにと態々言いに来たのは驚いた。まあ、言いたいことだけ言ってすぐに部屋を出て行ったが。こればかりは応じないとならないとセラティーナは食堂へ足を運び、定位置であるエルサの隣に座った。

 四人揃うと夕食が始まった。いつも通り、両親とエルサの和気藹々とした会話を聞いて素早く食べ終えるつもりが、父がワインを一口飲んだ後「話がある」と切り出した。


「今朝、領地にいる父から報せが届いた。母の容態が悪いと。私達二人で少しの間領地に戻る」
「まあ、お祖母様が? 前に風邪を引いたと聞いてはいましたが……」
「どうやら、風邪を引いてしまった為に他の症状も出てしまったようでな」


 夕食を頂きながらセラティーナは母を一瞥した。父の隣で黙々と食事を食べているが顔色は良くない。婚約時代から祖母と母の関係は悪い。侯爵令嬢であった母だが、祖母の求める理想になれなかった為お互いを嫌い合っている。

 プラチナブロンドに青の瞳の、セラティーナや亡くなった叔母ファラとよく似た女性。言い方を変えればセラティーナとファラが似た。幼少の頃から、絶世と称賛される美貌で数多の男性を虜にし、年老いた現在もその美貌は衰えを知らない。

 祖母ミネルヴァ=プラティーヌは母だけではなく、母に似たエルサを快く思っていない。プラティーヌ家を継ぐ者として努力を怠らない姿については認めていても、見目が嫁として認めていない母に似ているせいで当たりがキツイ。

 セラティーナに対しては過保護だ。夭折したファラの死を誰よりも嘆き悲しんだと聞く。兄妹仲が悪い父は叔母の死に涙さえ流さなかったらしく、祖母と父の関係はそこで険悪の一歩を辿った。


「お父様、わたくしもお祖母様のお見舞いをしたいです」
「必要ない。エルサとセラティーナは屋敷に残っていろ」
「分かりました……」


 ——珍しい……


 基本、常識の範疇を超えない限りエルサの言葉は何でも聞き入れるのに、今回に限ってばっさりと切り捨てた。多少の間もなかった。

 話は終わりだと言わんばかりに父は全く別の話題をエルサに振り、漸く話の中に入れると感じた母が表情を明るくして父やエルサと会話をする。

 その間、セラティーナは一人黙々と夕食を食べ進め、完食するとすぐに食堂を出た。
 後ろに付いているナディアに「湯浴みの準備をお願い。お湯は熱いくらいでね」と頼み、自身は部屋に戻るつもりだったが——「セラティーナ」と父に呼び止められた。今日は珍しい事ばかりだと吃驚してしまう。


「近々、グリージョ邸に行く用事は?」
「いえ……ありません」


 すっぽかされた逢い引きは今月に起きているので、次の逢い引きは来月の予定となっている。


「そうか」
「グリージョ公爵に何か用事が?」
「……何でもない。今のは忘れろ」


 何を言いたいのか分からないまま、背を向けた父に倣いセラティーナも部屋に戻った。


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