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今の君
しおりを挟む「セアラ。君が私を探していると聞いて居ても立ってもいられず、どうしても会いたくて来てしまったんだ」
「お、おいフェレス! そのお嬢さんはセラティーナ=プラティーヌっていう貴族のお嬢さんで……」
「知ってる。彼女の気配を感知してからずっと会いに行く機会を伺っていたんだから」
変わらず焦りの声を出すランスが「へ?」と間抜けた声を発した。フェレスに抱き締められているセラティーナも然り。漸く体を離したフェレスの顔をまじまじと見つめた。亡くなる瞬間まで目に焼き付けた姿と一切変わっていない。月を宿した濃い青の瞳が若干潤んでいて、セラティーナも釣られて目頭が熱くなった。
「私を探してくれていたの?」
「勿論さ。僕はもう一度、君に会いたくて魔法を掛けた。亡くなる直前にね」
ということは、前世の記憶を持って転生したのはフェレスの魔法のお陰だったみたいだ。
「セラティーナ……それが今の君の名前?」
「ええ。セラティーナ=プラティーヌ。これが私の名前よ」
「セラティーナ。なんだか、貴族の娘らしい名前だ」
セラティーナは「実際に貴族の娘だから」と苦笑し、個室に入れてもらった。未だ状況が掴めていないランスに改めて説明をすることになった。
「ごめんなさいランス。貴方に話したフェレスに会いたい理由、あれ嘘なの」
「あ、ああ……見てたらなんか違う気はしてきた」
放心としながらも話を理解する思考能力は残っているらしく、ゆっくりと説明を始めた。約五十年前までフェレスの妻であったセアラがセラティーナに転生し、セアラだった時の記憶がある為フェレスに会いたくて帝国に行きたかったと話した。
「け、けど、フェレスに自分が妻だと名乗り出る雰囲気じゃなかったぜ」
元はフェレスが自分に気付いていないという前提で会いたかっただけ。妖精の粉を婚約者に贈りたいというのもフェレスに会う口実。つまり、嘘である。
「婚約者?」フェレスの眉がピクリと反応した。
「……君に婚約者?」
「ええ。貴族だもの。政略結婚はつきものでしょう」
「……婚約者との関係は?」
一言話す度に長い間を開けるフェレスに苦笑しつつ、有り難いと言えばいいのか、残念と言えばいいのかと肩を竦め婚約者は他の女性と両想いで自分は二人を引き裂く悪女らしいと話すとフェレスの整った相貌が歪む。
「馬鹿な話だ。君が悪女だなんて」
「タイミングが悪かったと言うか、ね……」
帝国の第二皇女と自国の王太子の婚約が無ければ、今頃ルチアは次期王太子妃として王太子の側にいただろう。シュヴァルツがセラティーナと婚約しても、ルチアは彼への気持ちを捨てられず、王太子との婚約が完全に無くなったのを良いことにシュヴァルツと想い合う。本来ならシュヴァルツに不貞と突き付け婚約破棄を申し入れたいがセラティーナの独断では叶わない。
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