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愛の形は色々

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 部屋に戻ると扉が乱暴に叩かれた。誰だと思い返事をすると勢いよく扉が開いた。現れたのは母。凄まじい形相である。


「セラティーナ! 貴女何処へ行っていたの!?」
「街へ散歩です」
「折角、貴女にも宝石を買ってあげようと呼んだのに、使用人に呼びに行かせたらいないなんて! 出掛けるなら前以て一声掛けるのがマナーでしょう!」
「申し訳ありません」


 セラティーナが何処へ行こうが何をしようが毛ほどの興味も示さないのに。大方、外出の報せを受けていないのを商人の前で知り恥をかいたと怒っているのだ。プラティーヌ家でのセラティーナの扱いは、馴染の商人なら殆ど知っている。大事にされていない娘を擁護しても得にならないので、商人達も見て見ぬ振りだ。
 母の気が済むまで怒鳴られ、今夜は夕食抜きだと吐き捨てると漸く母は出て行った。長かったと嘆息し、椅子に座ったセラティーナは机に白紙を置いた。家を出て帝国へ行く必要は無くなっていない。フェレスと会ったら家を、王国を出て行く。

 帝国で流れ者として住むには何が必要か。優秀な魔法使いだと判断されれば、向こうでの待遇は良くなる。


「魔法薬を作るのもありね。作り手が強い魔法使い程、魔法薬の効果も大きく絶大。評判もすぐに上がる」


 狙う客層は無論平民だ。貴族御用達は店の評判が上がってから。平民でも気軽に買える魔法薬となると何かと紙に綴っていく。


「ポーションとヒーリングサブレは欠かせない。解毒剤……なら、毒と麻痺、重傷なら万能薬を……」


 万能薬は複数の毒を食らうか、重傷を負った時にしか使わない。装備として持つなら一般の解毒剤で十分。ポーションとヒーリングサブレは体力回復の薬でポーションは一般的、ヒーリングサブレは妖精が好んで作る薬。作り手によって左右される魔法薬。セラティーナならどれも高品質を作れる。
 錬金術で作るのも良いがやはり材料を使って一から作りたい。フェレスと会う前に帝国周辺の採取地も頭に入れよう。
 紙に書いていくとやる事が案外多いなと実感し、ペンを置いて腕を伸ばした。


「ふう」


 転生先の家族関係は前世と違うと言えば違う、同じと言えば同じ。前世の父は仕事人間で一切家庭を顧みない人だった。常に仕事を優先し、家族の身を案じる事はなかった。そんな父を持った子を不憫に感じたのだろう、母は沢山の愛情を注ぐ人だった。優しくて愛情深い母をセラティーナも大好きだった。
 愛する母は流行病で亡くなった。仕事人間の父は葬儀を済ませるだけしてさっさと仕事に戻るだろうと思っていたが実際は違った。棺に収められた母を涙を流しながらずっと見つめていた。母は父を決して悪く言わなかった。自分達家族の為に毎日必死に働いているのだと。


「あれもまた一つの夫婦の形だったのね」


 父なりに母を愛していたのだと、あの涙で悟った。それからはぎこちないながらも父と生活をしていたなと思い出していると「セラティーナ様」いつの間にかナディアがカットされたオペラと紅茶を運んで来ていた。


「すみません、声は掛けたのですが返事が無かったので心配になって……」


 セラティーナの許可なく入ったのを言っているのだ。セラティーナは「気にしないで」と微笑み、ナディアが買ったオペラを食べようと机から離れソファーの方へ移動した。


「何をしていらしたのですか?」
「大した事じゃないわ」
「そうですか」


 テーブルに置かれた紅茶とオペラ。早速頂こうとティーカップを持ち上げたのだった。
  


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