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馬車内での会話

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 エルサから視線を逸らすと「わ、わたくし、疲れたから先に帰るとお父様とお母様に言ってきたので、わたくしも帰るところです」と慌てた様子で言ってきた。


「そう? 気を付けてお帰りなさい」
「お、お姉様はどうやって帰るつもりですか? か、帰りの馬車なんてないのでしょう?」
「そうなのよ」


 困ったと溜め息を吐く。何故か勝ち誇った笑みを見せたエルサが何かを言う前にセラティーナは王城の外へと歩き出した。また慌てた様子でエルサが声を掛けて来たので振り向いた。


「どうしたの?」
「何処へ行く気ですか?」
「街に行って帰りの馬車を拾うわ。貴女も早く帰りなさい」
「城から街まで距離があるのですよ!?」
「ええ。でも、城から屋敷までとなると徒歩はきついから、街へ――」
「お姉様が街まで歩いているところを誰かに目撃されたら、我がプラティーヌ家の恥です! すっっっごく嫌ですが同乗しましょう」


 言葉通りかなり嫌そうだ。が、どうして頬が赤いのだろう。見た目に反して具合が悪いのかと心配になる。前世の記憶を持つお陰で普通の令嬢よりかは戦闘知識も攻撃魔法も扱える。何かあってもセラティーナなら一人でも無事でいられる。早くエルサを屋敷へ帰そうと、一緒に馬車へ向かった。プラティーヌ家の家紋がある馬車に着くと御者がセラティーナを見て目を丸くした。


「あれ? セラティーナ様は今夜グリージョ様の馬車で戻るのでは?」
「ちょっと事情が変わったの。エルサを乗せて早く戻って。具合が悪そうなの」
「お姉様も乗りますわよ!」
「わっ」


 御者に扉を開けさせエルサを乗せたら、エルサに腕を引っ張られ中に入れられた。二人が入ったのを見た御者に扉を閉められてしまい、仕方なくエルサの向かいに腰を下ろした。


「貴女、どうして私を?」
「さ、さっき言いました」
「大丈夫よ。今はまだ皆会場にいるだろうから。こんなに早く帰るのは私達くらいよ」
「貴族の娘が夜遅く一人で街を歩いて無事で済むと!?」
「魔法が得意だから、何かあったら一人で対処出来るわ」
「そ、それは、まあ……お姉様はプラティーヌ家の者からしたら魔法が得意な方ですけど……」


 王国一の財力を誇るプラティーヌ家だが、血筋なのか、魔力量は多くても魔法の扱いが下手な者しかいない。商売に関する才はあっても魔法に関してはイマイチ。セラティーナに関しては前世を覚えているからだろう。セラティーナ以外で魔法が得意な一族の者はほぼいない。魔法を上手く扱えるセラティーナに劣等感を持っているのが父。母は可でもなく不可でもないが自分に厳しかった義母の面影があるセラティーナを遠ざけ、更に夫に同調してセラティーナを嫌うようになった。


「お姉様がシュヴァルツ様と婚約したのは、お姉様の魔法の才能をグリージョ公爵が見初めたからですよね?」
「それと我が家の財力に目を付けたからよ」
「聖女様と婚約しなかったのは、その為ですか?」
「ちょっと違う」


 両親との関係は絶望的。妹との関係も悪い……とは一概には言えない。何かに突っ掛かってくるが完全に悪者になれないのがエルサ。二人きりだとこうして冷静に会話が成立する。


「歴代の聖女の殆どは王族と婚姻を結ぶのが習わし。今の聖女様も例外じゃない。王太子殿下と婚約が初めは決まっていたの。ただ」


 王太子と聖女の婚約が成立する前に、大国である隣の帝国の第二皇女との婚約が決まった。王子は王太子が一人。下に王女が二人いる。聖女と婚姻を結べる王族は他にいなかった。この時点でシュヴァルツと婚約を結べていたのなら良かったのだが……その時既にセラティーナとの婚約が成立していた。確か二年は経過していた筈。プラティーヌ家の財力とセラティーナの才能欲しさに結ばれているのでグリージョ公爵は婚約解消はしなかった。
 その頃からだ。社交界でセラティーナが両想いの二人を引き裂く悪女扱いをされ始めたのは。


「王太子殿下と帝国の第二皇女の婚約は政略結婚。両国の関係性を強く結びつける為のものだもの。誰も異議なんて唱えないわ」
「今日は第二皇女は来ていませんよね」
「ええ。運悪く、帝国で流行っている感染症に掛かってしまったみたいで。でも、帝国に仕える魔法使いが特効薬を見つけたと今朝の新聞で載っていたら、じき回復するでしょう」
「し、新聞なんて読むのですか?」
「ええ」


 自国の情報は勿論、他国の情報もしっかりと把握しておきたい。新聞を読みながらよく思い出す。フェレスと住んでいたのは帝国から遠く離れた場所にある森の奥。そこで二人ずっと暮らしていた。
 フェレスはセラティーナと会う百年前からそこに住んでいると嘗て語っていた。きっと今も暮らしているだろう。


「グリージョ公爵はシュヴァルツ様と聖女様が両想いだと知っていながら、お姉様と婚約させるなんて」
「元々、聖女様は王太子殿下と結婚する筈だったから。まあ、無かった事になっても私とシュヴァルツ様の婚約を無かった事にする理由にはならないわ」


 シュヴァルツから婚約破棄なり、解消なりを宣言してもらいたい。ずっと待っているのだがない。セラティーナのせいで聖女ルチアと婚約出来た筈なのに、出来なくてシュヴァルツからも嫌われている。出会った当初から嫌われているのは知っているが、王太子が第二皇女との婚約が決まってからより強くなった。



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