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壁の花
しおりを挟む今日は王城の豪華絢爛な舞踏会場で王太子殿下の誕生日パーティーが開かれている。壁の花になって中央で踊っている絶世の美貌を持つ男女を眺める令嬢がいた。
腰まで少々癖のあるプラチナブロンドと青い瞳の令嬢はセラティーナ=プラティーヌ。王国一の財力を持つプラティーヌ公爵家の娘。中央で踊っている男の方はセラティーナの婚約者シュヴァルツ=グリージョ。灰色の髪と同じ色の瞳を持つ美しい青年。そして、熱が籠った瞳で見つめる先にいる相手はルチア=ルナリア。二人が幼馴染で、だがルチアは聖女で、シュヴァルツはセラティーナの婚約者。先にシュヴァルツと婚約したセラティーナは両想いの二人の仲を引き裂いた悪女だと社交界で囁かれている。
今でもそう。ファーストダンスが終わったらすぐにシュヴァルツはルチアの許へ急ぎ、いつも置いて行かれるセラティーナは周囲にいる他の貴族に嘲笑われていた。
ふう、と息を吐き給仕から貰ったワインを飲む。味は良いのに周囲のせいで台無しだ、と再度溜め息を吐くと「華やかな場に辛気臭い方がいらっしゃるわね~」と数人の令嬢を引き連れて金の髪をハーフアップにして宝石のついたリボンで結った令嬢がやって来た。
セラティーナの妹エルサだ。
「そんな陰気な性格だから、シュヴァルツ様もお姉様が嫌なのですよ」
後ろの令嬢達がエルサの言葉に次々に同意していく中、セラティーナは気になっている事があり、だが此処で言うべきかと悩む。何も言い返さないセラティーナに痺れを切らしたエルサが「何か言ったらどうなのです?」と語気を強めた。
そこまで言うのなら、とセラティーナはグラスをテーブルに置いてエルサの前に立った。急に近くに来られてエルサは身構える。セラティーナは両手を伸ばし、少し結びが緩んでいるエルサのリボンを結びなおした。きょとんとするエルサに首を傾げた。
「リボンが緩んでいたわ。ダンスを踊った時に緩んでしまったのね」
「あ……ありがとうございます……」
何をされるのかとエルサは身構えたのか。瞬きを繰り返すエルサは立ち去る気配がない。取り巻きの令嬢達が何とも言えない空気に困惑しているとセラティーナは「まだ何か用が?」と訊ねた。
「……な、なんでもありませんわ」
「?」
エルサは何をしに来たのか。不機嫌になって令嬢達を連れ何処かへ行ってしまった。去り際、耳が赤かったが大丈夫だろうか。
セラティーナはまだ中央で踊り続ける婚約者と聖女の二人を一瞥すると、気にした風もなくスイーツを取りに行った。王太子の誕生日を祝う場だけあって用意されている茶菓子はとても豪華だ。セラティーナが好きなオペラがある。王城が用意したオペラは絶対に美味しいだろうと小皿を取り、オペラを載せた。スイーツ用のフォークを手にして一口頂いた。セラティーナの予想通り格別に美味しい。毎日では飽きてしまうが月に一度は食べたい。
エルサみたいに堂々とセラティーナを馬鹿にしようとする人はいない。
エルサは妹だから出来るのだろうが、昔からセラティーナの周りにはあまり人は来ない。特に悪意を持つ人は。
――昔もそうだった。
外に出たくなって、オペラを素早く完食してからテラスに出た。雲一つない夜空を見ていると思い出す
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