逃がす気は更々ない

文字の大きさ
上 下
20 / 32

8-1

しおりを挟む


 


 お腹辺りまで伸ばした白い髭を撫でながら、現教皇リドルは皇太子に会わせろと子犬の如く吠えるイデリーナを揶揄った。


「して、お主はわしを知らんと」
「当り前よ! あんたみたいな年寄りの顔なんて覚えるわけ……」
「そうかそうか。わしこれでも教皇なんだがの」
「え……」


 大教会の頂点を知らないと大声で啖呵を切ったイデリーナは相手が教皇だと知らされ顔を青褪めた。周囲は平民ですら教皇を知っているのに貴族の令嬢が知らないのはどうしてかと好奇の視線を浴びせた。羞恥心で顔を真っ赤に染め、小刻みに震えるイデリーナをどうしようか神官達は教皇の指示を仰いだ。

 髭を撫でながら応接室へ案内しろと指示を出されるとさっきまではとは別人のように大人しくなったイデリーナは神官と向かった。
 残った神官に後を任せた教皇が隠れているリナリア達の許へやって来た。


「ヘヴンズゲート侯爵令嬢」
「も、申し訳ありません……」


 イデリーナの代わりに同じ家の者としてリナリアが謝ると軽快に笑われた。


「元気な異母妹を持ったな。あれなら性根を叩き直す甲斐があるというものじゃ」
「どういう意味ですか?」
「後日話すが聖女はわし預かりとして大教会にいさせる。折角目覚めた聖女の能力を下らん事で消滅させるのは痛い」
「マジかよ……」


 げんなりとした声で呟いたのはユナン。


「なんじゃユナン。文句があるのか」
「純粋培養の性悪を叩き直すのは骨が折れるのでは」
「誰もお前がやれとは言わん。わし直々に叩き直すつもりだ」
「というか、なんで彼女に? 普通、聖女は清らかな心を持つ女性限定だった筈」
「神の人選ミスだろう」
「最悪……」


 歴代の聖女についてユナンから話を聞かされたリナリアも疑問には感じていたが、何でもないように教皇が言うのでそういうものなのかと納得してしまいそうになった。


「教皇」


 ラシュエルが前に出た。


「皇太子殿下。お体の具合は如何かな?」
「見ての通りだ」
「して、今日はどの様なご用件かな?」
「先にそこの神官から聞いた。聖女の能力について教皇に訊ねたかったんだ」


 教皇の意見も聞いたらいいと言うユナンの助言に従い、聖女の能力について訊ねた

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

(完結)何か勘違いをしてる婚約者の幼馴染から、婚約解消を言い渡されました

泉花ゆき
恋愛
侯爵令嬢のリオンはいずれ爵位を継ぐために、両親から屋敷を一棟譲り受けて勉強と仕事をしている。 その屋敷には、婿になるはずの婚約者、最低限の使用人……そしてなぜか、婚約者の幼馴染であるドルシーという女性も一緒に住んでいる。 病弱な幼馴染を一人にしておけない……というのが、その理由らしい。 婚約者のリュートは何だかんだ言い訳して仕事をせず、いつも幼馴染といちゃついてばかり。 その日もリオンは山積みの仕事を片付けていたが、いきなりドルシーが部屋に入ってきて…… 婚約解消の果てに、出ていけ? 「ああ……リュート様は何も、あなたに言ってなかったんですね」 ここは私の屋敷ですよ。当主になるのも、この私。 そんなに嫌なら、解消じゃなくて……こっちから、婚約破棄させてもらいます。 ※ゆるゆる設定です 小説・恋愛・HOTランキングで1位ありがとうございます Σ(・ω・ノ)ノ 確認が滞るため感想欄一旦〆ます (っ'-')╮=͟͟͞͞ 一言感想も面白ツッコミもありがとうございました( *´艸`)

「婚約破棄、ですね?」

だましだまし
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 「殿下、もう一度仰ってください」 「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」 「婚約破棄、ですね?」 近頃流行りの物語にある婚約破棄騒動。 まさか私が受けるとは…。 でもしっかり聞きましたからね?

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◆エールありがとうございます! ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆なろうにも載せ始めました ◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

処理中です...