強い祝福が原因だった

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納得したのなら①

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 朝食を終えて外に出て、ベッドシーツを洗い、風の魔法で乾燥させていると眠そうに紅茶を飲んでいたダグラスが外に出てきた。手にはクロワッサンサンド。昨日イヴと買ったハムが挟んである。新鮮な野菜と一緒に挟んだクロワッサンサンドを食べながら外を見るダグラスに声を掛けた。今気付いたとばかりにダグラスの黄金の瞳がエイレーネーを視界に入れた。


「どうしたのですか?」
「ああ……」
「?」


 眠いからか、今日はぼんやりとしている。


「気になる事が?」
「そんなところだ」


 再び前を向いたダグラス。
 エイレーネーが見てもそこには何もない。
 何かが起きれば変化が訪れると乾燥を再開させた。


「――来たな」
「え」


 およそ20分経過した辺りでダグラスが発した。シーツの乾燥もそろそろ終える頃に。乾燥の手は止めず、ダグラスが向いている方を見たエイレーネーだが何も起きていない。かと思いきや、急に人が現れた。エイレーネーもダグラスもよく知る人だ。
 エイレーネー達と目が合うと「あ……」と気まずそうにするが此方へやって来た。
 訪問者――ロナウドはシーツを風の魔法で乾燥中のエイレーネーを一瞥するなり、3個目のクロワッサンサンドを食べているダグラスに向いた。
 今までのロナウドなら、自分が来たのに立ったまま食事をしているダグラスを見れば苛ついていた。此処にいるロナウドに苛立ちは感じられない。


「……話したい事があって来た」
「そうか」
「私が来ると知っていたのか?」
「なんとなく、な」
「……それで私を通したのか」
「いや。結界がお前を通した。お前に敵意を感じなかったんだろうな」
「……」


 シーツの乾燥もそろそろ終わる。シーツを畳んで収納スペースに仕舞ったら、街に出て買い物をしよう。何ならイヴを誘おう。2人だけの方がロナウドも話をしやすい。
 何かを言いたげにチラチラとロナウドに見られるも、声を掛けられるまでは気付かない振りを貫く。エイレーネーから話しかけてもロナウドは言わないだろうから。

「中に入るか」ダグラスに促されたロナウドは固く頷き、クロワッサンサンドを食べながら屋敷に入ったダグラスの後を付いて歩いた。長年見てきた堂々とした姿じゃない、おどおどとした後姿は1度も見た事がない。どうしてか、頼りない後姿は兄の後を追いかける弟にしか見えない。

 風を消し、ふわりと舞うシーツを両手で受け止め邸内に入り、それぞれの部屋の収納スペースにベッドシーツを畳んで仕舞った。誰が誰のかを分かるよう色や刺繍で分けている。
 

「私のは若葉色、お父さんは黒、イヴは白。分かりやすい」

 
 自分自身もだが予想に反しない色の好み。イヴを誘って街に出ようと部屋に行くと丁度イヴが出てきた。
 

「うん? どうしたのレーネ」
「イヴ。今から買い物に行きましょう?」
「いいけど、欲しい物があるの?」
「そうじゃないわ。公爵様がお父さんを訪ねに来たから、誰もいない方が話をしやすいかなって」
「ああ、そういうこと。いいよ」

 
 長年の確執は簡単には消えないだろうがあの2人は、時間を掛ければ良い傾向になっていくと期待したい。エイレーネーの転移魔法で街に着いた。ここ1月で魔法の腕もかなり上達をした。毎日研究で部屋に引き籠ってばかりのダグラスに魔法を見てほしいと頼めば、ずっとは無理でも数時間程時間を作って見てくれる。イヴが付き合ってくれるのもある。

 目立たないよう一目が少ない路地に到着。表に出てまず向かったのはケーキ屋。以前、エイレーネーがうさぎ姿だったイヴと食べる為に沢山購入した店だ。

 
「あ」
 

 以前にも見かけた意外な人は今日もいた。先月の話し合いの場にもいた聖女アリアーヌ。前は声を掛ける程親しい間柄ではないから話し掛けなかった。今も変わらない。声を掛けるか迷っていると「レーネ?」と店の前で立ったまま困った顔をするエイレーネーを見兼ねたイヴに呼ばれた。イヴの声でアリアーヌもエイレーネーに気付いたらしく顔が此方に向けられた。イヴを見るなり慌てて頭を下げた。

 
「レーネ、私って怖く見える?」
「聖女様の立場からしたらそうなんじゃないのかしら……」
「偉いのは私じゃなくて、兄者や甥っ子なのに」


 聖女の立場では、神ではなくても、神の一族出身者であるイヴに畏敬の念を抱くのは仕方ない。
 アリアーヌに頭を上げてもらい、一緒に店内へと入った。


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