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ガブリエルは諦めない⑤
しおりを挟む貴族としてよりも、魔法使いとしていてほしいダグラスに極力貴族問題に関わらせたくなかったメルル。愛しているのはダグラスとしても、貴族として生まれたからには必ず役割というものが付き纏う。メルルにとっての役割がロナウドと結婚し、借金の肩代わりをしてもらうこと。好いているから婚約を申し込んだのではなく、ダグラスへの憎しみから婚約をしただけだと見抜いていたメルルは初夜の日にロナウドを突き放した。ガブリエルは話を聞かされており、初夜の日にメルルが口にした台詞を再現した。政略結婚とはこういうものだろうが母はロナウドの思惑に気付いていたからこそ、敢えて突き放したのではないかと抱いた。
偶に母を見ていたロナウドの目は寂しげであった。もしかすると、あれは愛していたからではなく、母への申し訳なさだったのやもと。周囲に不貞と嗤われようがメルルはダグラスとの関係を続け、エイレーネーを身籠った。
「お母様はお腹に子供が宿れば、公爵様は離縁すると思っていたんだわ」
実際はダグラス憎しが勝り、離縁はしなかった。
「ガブリエル。文句を言いたいなら、公爵様に言いなさい。此処で喚いてもどうにもならない」
「お父様はあの話し合いからずっと変でわたくしやお母様が話しかけてもずっと上の空! 急に領地に行くと言い出すなんておかしいです」
「お父さんと公爵様の関係が拗れているのはお祖母様のせいと知って領地に戻ったのよ」
「嘘です。お祖母様はいつもお父様やお母様、わたくしに優しくしてくれます。顔を見せるだけで話もしないお姉様をいつも嘆いていました」
「お祖母様と私はそれでいいの」
会っても傷付き、傷付けられるだけ。
なら、会わなくて正解だ。
意味が分からないと喚くガブリエルをどう帰そうか考え始めた矢先、ラウルを味方にしたら優勢になると期待したガブリエルがラウルに駆け寄った。が、ラウルは手で制した。
「ラウル、様……?」
「ガブリエル。すまないが私もエイレーネーと同意見だ。昨日の話を聞いていたら、エイレーネーと祖母殿は会わなくて正解なんだ。会ってしまえば、お互いに傷付く」
「ラウル様までそんな事を言うのですか!?」
「誰にだって相性がある。合わない者同士を会わせても良い事は何もない」
「お祖母様がお姉様に会いたがっているとラウル様は知らないからその様な事を言えるのです!」
「会いたがっている真意を少なくとも祖父殿は見抜いているんだろう? ダグラス様の祝福の魔法が遠ざけていたにしても、誰かがエイレーネーに近付けさせないとしたなら、その時点でエイレーネーに会う資格は君達の祖母殿にはないんだ」
「……この前までの僕が言えた義理じゃないけどね……」最後、自嘲気味に呟いたラウルの声は届かず、おかしいおかしいと何度も叫ぶガブリエルの声は高く頭が痛くなってくる。家族なら会うべきという主張は間違ってないが関係が破綻していれば、会ったところで待ち受けるのは永遠に交わらない関係のみ。
理想の家族が崩壊していく光景をガブリエルは耐えられないのだ。エイレーネーを犠牲にして築き上げた理想は、エイレーネーがいなくなるとあっさりと崩れた。
「ガブリエル」とエイレーネーが呼ぶと喚き続けるガブリエルやおろおろする従者や馭者が一瞬にして消えた。無意識にダグラスを向くと魔法を使った感覚があった。
「ホロロギウム家に帰した。後はあの家の問題だ。これ以上聞いたところでどうにもならん」
「公爵様は何をしに領地へ行ったと思いますか?」
「母と話をしたくなったんだろう。俺が言っていたのが事実なのかを」
「もしも、本当だと言われたら……」
「その辺りは父が説明する。その後どうなるかはロナウド次第だ」
信じていた人の言葉が偽りだと知らされた時のロナウドの驚愕はエイレーネーでは知れない。
ロナウドにとって転機になってくれたらと願う。
ダグラスもそう願っている。
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