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ガブリエルは諦めない②
しおりを挟むホロロギウム家では。
社交界で評判のデザイナーに作らせた最高級ドレスをベッドに数点並べ、慎重に吟味するガブリエルとリリーナ。今日の話し合いは散々だった。両想いだと信じていたのはガブリエルだけで、ペットの魔獣にそっくりだったからラウルが好意的に接してくれていたのだと知らされ凄まじいショックを受けた。話を受けた当初は母と2人泣いていた。
リリーナから、可愛いガブリエルが魔獣に似ているから好かれていたんじゃないとの説得を受けて、泣いてばかりのガブリエルもやっと泣き止んだ。
元気が出たら即行動を。
まずは情報の拡散。
ラウルとガブリエルが如何に愛し合い、エイレーネーが両想いな2人を邪魔する悪女かを徹底的に広める。今月は幾つかのお茶会に参加予定で、その時にガブリエルは話を広める。幸いなのは参加者にガブリエルの友人が多い事。ロナウドやリリーナがエイレーネーを外に出したがらず、エイレーネー自身もあまり外に出なかったので友人の数はガブリエルが上。
「どれもわたくしに似合って悩んでしまいますわ」
「当然よ。ガブリエルが似合うドレスを作らせたもの。貴女に似合わないドレスなんて必要ないわ」
愛する父にもドレスを見てもらいたかったが話し合いが終わってからずっと部屋に籠っている。心配したリリーナが様子を見に行っても「……1人にしてくれ」と追い返される始末。
「大魔法使い様のあんまりな態度にお父様は大変傷付いています。お父様を元気付ける為にも、ガブリエル、ラウル様の婚約者の座を何としてでも得るのよ」
「勿論です! ラウル様はあんな事を言いながら、本心ではわたくしを想ってくれていますもの!」
大好きなペットに似ているからと言って、婚約者を放って常に会ってくれたのだ。好意的な感情がないとは言わせない。
すっかり祝福の話が頭から抜け落ちている……でもなかった。
「大魔法使い様が無関心な振りをして性格が悪い方とは想像もしませんでした。お姉様を守る祝福の魔法がラウル様を遠ざけていたなんてはったりです」
「ええ! ガブリエルを悪のように語って許せないわ! エイレーネーさんに掛けられていた祝福の魔法とやらは、きっとラウル様の本心を見抜いていたからこそ、エイレーネーさんと会わせなかったのよ」
「そうです! お姉様よりわたくしが劣っていることなんてありません!」
魔法の才能については触れない。生まれ持った素質が違い過ぎる。
勉学や振る舞いについてもガブリエルは及第点で、エイレーネーは優秀と家庭教師からの覚えも目出度い。これは前妻の生家が手配した家庭教師だからエイレーネーに甘いのだとガブリエルとリリーナは信じている。
「性格が悪い者同士から生まれたエイレーネーさんも中々ね。ガブリエルには幸せな夫婦になってほしいとお母様もお父様も願っています」
「はい!」
ダグラスの婚約者だったメルルと結婚し、初夜を迎えた時ロナウドは明確な拒絶をメルルから示された。
『私が貴方を愛する事はありません』と。
想う相手がいようが自身は貴族。貴族としての役目よりも、個人を優先したメルルを軽蔑する。
1人、私室に籠りベッドに腰掛け考えに浸るロナウド。手に持つのは古い絵本。王国の子供なら誰でも知る魔法使いの物語。
色褪せた表紙をそっと撫でた。前妻メルルもよく読んでいた。
初夜で言われた言葉が蘇る。
『私が貴方を愛する事はありません。ロナウド、私を手に入れてもダグラスの関心は得られないわ。彼に見てほしいのなら、たとえ鬱陶しがられようが結界魔法で弾かれようがしつこく会いに行けばいいだけ。私も王太子殿下もルーベン様もそうしてダグラスの視界に入れた。何もしないで、ただ憎むだけ見ているだけではダグラスの意識は貴方には向かない。
私は貴方を愛さないから、貴方も私を愛さなくていい。他に好きな女性を見つけて、その人と再婚してください』
「私はただ…………輪の中に……入れてほしかった……」
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