強い祝福が原因だった

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無関心②

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 そこへ時間通りに国王エレンと聖女アリアーヌも来た。聖女の同伴までは聞いていなかったホロロギウム家の面々は顔を青褪めた。先日の小パーティの一件で聖女に嘘を見抜く力があると知り、今日この場に居る意味を悟ったのだ。エイレーネー達を見回すと席にどかりと座った。そして、呆れた眼をダグラスにやった。

  
「早速兄弟喧嘩でもしたのか?」
「そうなのか?」
「……俺はお前に聞いたんだ」
「さてな。ルーベンにでも聞け」


 やれやれと溜め息を吐いたエレンの気持ちが何となく分かる。魔法と限られた人以外に対しての関心が極端に薄い。エレンがルーベンに説明を求めるも「感じたままさ」と言われて終わった。一言で状況を察したエレンは空気を入れ替えるように咳払いをし、改めて周囲を見回した。


「ソレイユ家とホロロギウム家との話し合いに俺は立会人として同席する。聖女アリアーヌには、各々が嘘偽りを申していないかを見てもらう為に同席を求めた。異論はないな?」
 

 誰も発しない。それが肯定と汲み取ったエレンは両家の婚約について切り出した。

  
「ソレイユ公爵家側はエイレーネー嬢との婚約をどうする?」
「此方は継続を望みます。ラウルとエイレーネー嬢の婚約は、大魔法使い譲りの魔力を持つ彼女を国外に渡さない為と王家に取り込む為のもの。エイレーネー嬢がダグラスの所に行こうとそれは変わらない」


 ラウルの個人的感情には一切触れず、政略的婚約を理由に継続を宣言したルーベン。父親としてよりも公爵としての役割を優先する貴族らしい一面をダグラスが意外そうに見ているとこっそりと一瞥したエイレーネー。次にダグラスに話が降られ、黄金の瞳に促されたエイレーネーは固く頷きラウルを見た。

 不安げな面持ちをされ、これから自分が言う言葉がより彼の不安を増強させるにしても決めてしまったのだ。今更覆らない。


「……私はラウルとの婚約解消を望みます」
「なっ」

  
 絶句し、顔を青褪め、立ち上がり掛けたラウルをルーベンが肩に手を置いて無理矢理座らせた。ガブリエルやリリーナのはしゃぐ声もエレンの咳払いによって止まった。


「エイレーネー嬢、理由を聞いても?」
「ソレイユ公爵様やラウルには大変申し訳なく思います。ですが、ここ1月お父さんと生活をして感じました。お父さんと同じ魔法使いとして生きていきたいと」

 
 冷遇されながらも公爵令嬢として育てられた事に不満はない。
 関係修復が進んでいる中、ラウルと結婚をしてソレイユ公爵夫人になっても不幸にはならないのだろうが。

 自由に魔法を使い、真摯に魔法と向き合う父の姿を見ていく内にもっと魔法に触れたい、魔法を知りたい欲求が強まり魔法使いとして生きていきたいとエイレーネーの意思を固くした。
 決してラウルを嫌いになった訳じゃない事だけは強調した。

 青くなったまま項垂れたラウルへ申し訳ない気持ちと痛みが出来ても決心は揺らがない。


「ダグラスは?」
「俺はこの子の意思を尊重する。解消したいのは此方だから、望む物があれば何でも言うといい」
「慰謝料の事か? 婚約破棄じゃないんだ。穏便に済ませよう。……と言いたいが」

 
 哀れみが込められた青の瞳が息子へ注がれた。今は父親としての顔を出すルーベンはここ1月のラウルの頑張りを知っており、婚約についてはどうにか継続させたい気持ちが強く、初めは公爵としての意見を出しながらも内心はラウルの為にどうにか出来ないものかと思考していた。

「お姉様との婚約が解消されるなら、わたくしと婚約をしたら良いではありませんか!」と静かにさせられたガブリエルが突然言い出し、場の空気が一気に変わった。国王に咳払いをされ静かにさせられたのに、許可もなく話しアリアーヌが顔を青褪める。エイレーネーも拙いとガブリエルを窘めた。

  
「何故邪魔をするのですか! ご自分から、ラウル様との婚約を解消したいと言ったのに!」
「そういう問題ではないわ! ガブリエル、貴女達はさっき陛下に……」
「……はあああ……」


 エイレーネーの言葉を遮ったのはダグラスの深い溜め息。呆れと哀れみの念をガブリエルにやった後、飛び掛かる寸前のロナウドへある疑問を放った。


「跡取り教育は施していたのか? エイレーネーがソレイユ家に嫁いだら、お前の娘しか跡取りがいない。平民の母親だろうが父親がお前ならホロロギウム家の血を引く者だ。その辺は考えていたのか?」
「うるさい! 魔法にばかりかまけていたお前が貴族の問題に口を挟むな!」
「俺よりも貴族の問題に詳しいお前が放置していた事に疑問を持っただけだ」


 ロナウドが食って掛かってもダグラスの冷静さは乱されない。こっそりと囁いたイヴ曰く、ダグラスにとってはどうでもいいからだとか。

 そうなのだろうかと抱く。どうでも良いなら、態々口を挟む真似はしない。父はそういう人だ。

 無関心に見えて内心はロナウドを気に掛けている気がする。本人に聞いても「そうか?」で終わりそうだが。
  

  
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