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婚約者君から私に変えてみる?3
しおりを挟む悪魔が住む世界を魔界と言い、天使や神が住む世界を天界と言い、エイレーネー達人間が住む世界を人間界と言う。
生きていた王子の話はまた今度、と横へ置いたイヴが意外な事実を知って考え中のエイレーネーに近付いた。イヴ? と首を傾げるもイヴは距離を縮めてくる。逸脱した美貌が眼前に迫り、うさぎだった彼しか知らなかったエイレーネーは眉尻を下げて困って見せた。頬が熱いのは気のせいだと思いたい。
「レーネはこのまま、あの婚約者君と婚約を続けるの?」
「分からないわ。私は今の生活が性に合っているから、ソレイユ公爵夫人としての役目は果たせないと思うの」
「じゃあ、立場は抜きにして婚約者君の事はどう思ってるの?」
これまで何度かイヴが手を差し伸べても、ラウルへの気持ちが捨てられなくて拒んできた。邪魔をする者が誰もいなくなり、漸く昔のような関係を取り戻しつつある。ラウルを好きな気持ちは未だある。が、このまま婚約を続けても良いのかと悩む自分もいた。
「ラウルの事は今でも好きよ」
「でもこのまま婚約者でいてもいいのかとは思ってるんでしょう?」
「……ええ」
イヴがある提案をした。
「私にしなよ」
「え」
「私は君をよく知っているし、そうしたらレーネは何の負い目もなく此処にいられる。此処にはダグラスもいる」
「で、でも」
「悩むくらいなら婚約を解消したらいいよ。婚約者君がごねたって、ダグラスさえ王国に留まれば大人達は納得するんだから」
元々がダグラスを王国に留め、ダグラス譲りの魔力を持つエイレーネーを王家に取り込みたい思惑から結ばれたラウルとの婚約。解消されてもイヴの言う通り、ダグラスが王国に居続ければ問題は解決となる。当人達の気持ちは無視をされるだけ。
ずっと女性だと思っていたイヴが男性と知って戸惑いはしても、今はあまり気にしなくなった。友人を突然異性として見ろと言われてもエイレーネーには無理だった。イヴが正直エイレーネーをどう思っているのか、この際だからと訊ねた。
ラウルではなく、イヴにしろと言うのなら、好意的には見られている筈。
「イヴは私が好きなの?」
「そうではなかったら言わないよ」
「私がお父さんの娘だから?」
「それもある。だけど、ダグラスの許へ行った方が楽なのに自分から進んで苦しい場所に居続けた君に興味が湧いた。その理由が婚約者君と知った時理解に苦しんだ。報われない気持ちをいつまでも持ち続ける君に諦めさせる方法は幾らでもあった。しなかったのは、レーネの妹君と仲良くしながら君にご執心な婚約者君や妹と仲良くよろしくしておきながら婚約者君を捨てられない君が気になったから、かな」
「私を好きな理由とは結び付かないわ」
「そう? 人間の物差しで測ると何も分からなくなるよ」
そうだった。イヴは天使(仮)だった。
「レーネの側にいると楽しいし、退屈しない。婚約者君とこのまま婚約をし続けたらレーネはいずれ此処を出て行くだろう? 正体を明かしたから、再びうさぎの姿で君の側にはいられない。此処に居ようよ、レーネ」
「イヴ……」
エイレーネーとて、正体が男性と分かったイヴをうさぎの姿になっても連れて行けない。
イヴがいてくれたから、味方がいないホロロギウム家での生活に耐えられた。
ラウルを選ぶか、イヴを選ぶか。
エイレーネーはどちらも選べない。
けれど、ラウルとの婚約継続はやはり難しいと改めて知れた。
瞳を閉じ、1度深呼吸をして、イヴを見つめた。
「明日の話し合いでラウルとの婚約解消を陛下やソレイユ公爵様に進言する。でも、イヴを選ぶとは言わない」
「じゃあ、どうするの?」
「お父さんと一緒に生活してある願いが出来たの。ホロロギウム公爵令嬢のエイレーネーより、大魔法使いの娘エイレーネーとして生きたいと。私は魔法使いとして生きていきたい」
「それがレーネの願い?」
「ええ」
貴族として生きられないなら公爵となるラウルの側にはいられない。
ダグラスの娘として、魔法使いとして生きていく。貴族でなくても魔法使いとして国で働ける。
「そう」と発したイヴが適切な距離を作った。どちらかが動けばキスする距離でいたと今更ながら気付き、顔全体を真っ赤にしたら不思議そうに見られた。
「どうしたの?」
「な、なんでもないわ。ゆ、夕飯の準備をしましょう」
顔が赤い理由を誤魔化し、献立も考えていないのに夕飯の準備に取り掛かった。
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