殿下が好きなのは私だった

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 朝食の時間が既に来ていた。約束通りリゼルは来てくれたがタイミングが悪すぎた。ばっちりとネロにキスをされた場面を見られた。解説が不要な程怒っているリゼルの許へ慌てて飛んで行った。パパ、パパ、と必死に呼ぶが続きが浮かばない。勘違い、でもなく、誤解、でもなく、上手な言葉がない。大きな魔法を放つ寸前のリゼルを止める方法はないかと必死になり過ぎた結果、リシェルが紡いだのは朝ご飯食べようだった。
 呆気に取られるリゼルとネロ。彼の方もリゼルが魔法を投げてくると予想して魔法障壁を貼りかけていた。
 掌に集中させた魔力を消したリゼルは深く息を吐き、ネロも警戒を解いて噴き出した。自分でも場違いな台詞を口にしたと恥ずかしくなるも、リゼルを止めるには効果があった。


「あ、その、パパ、朝ご飯を食べましょう。私と約束したでしょう?」
「……分かったよリシェル。おいで」
「うん!」


 差し出された手を取って部屋を後にした。


 ●〇●〇●〇


「うんうん。人間の作る飲み物は美味しいねえ。そうは思わない? リゼ君」
「今すぐ死にたいならそこにいろ」
「死にたくないけど退く気もないよ」


 不機嫌だ。不機嫌が魔力となって何時ネロに襲い掛かるか目が離せない。三人がいるのは宿の近所にあるカフェ。朝食を待つ間、先に出された紅茶を嗜む。レモンの爽やかな香りも紅茶の香ばしい香りも二人の間にある雰囲気を消す力はなかった。
 リシェルは隣に座るリゼルの服を小さく引っ張った。今から自分の気持ちを話すのだ。


「あ、あのねパパ。聞いてほしい事があるの」
「いいよ、言ってごらん」
「うん」


 九日後に処刑となるビアンカに今までされてきた嫌がらせに対する仕返しがしたい事。その内容がアメティスタ家が当初リシェルを売り飛ばそうとした貴族へビアンカを売り飛ばすというもの。リシェルなりに考えた一番の仕返しだ。どんな相手か知らないが碌な相手じゃないのは何となく解せる。
 駄目だと叱られるだろうか、呆れられるだろうか。ビクビクしながらリゼルの返事を待つと意外そうな声を出された。


「リシェル。その程度で良いのか?」
「え?」


 リゼルの予想外な返答に間抜けな声が出た。


「散々ノアール大バカと一緒になってお前を苦しめて来た女なんだ。それくらいで許すのか?」
「えっと、仕返しにならない、かな……」
「お前が良いと言うならその通りにしよう。ある程度のオプションは付けさせてもらうがな」


 オプション?
 何を付けるのかと問うても秘密だと微笑まれ、頭を撫でられた。昔からリゼルに頭を撫でられるのは大好きだ。


「怖いパパだねえリゼ君は。何をするのかな」
「うるさい。お前は今からでも殺してやってもいいんだ」
「私を殺したら君の愛娘は悲しむよ。それでも良いなら殺ってごらん」


 頭上から舌打ちが聞こえた気がするが頭を撫でられる感覚が気持ちよくて聞こえない振りをした。



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