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捨てられた王子
しおりを挟む似た人はいると言えど、あまりにも似すぎている。人当たりの良さそうな第一王子と他者を圧倒させ冷たい容貌のノアール。一見違うように見えても、二人はやはりそっくりだ。
ネロがノアールを気にしていたのは、第一王子に似ているからだった。第一王子を凝視していれば、手を誰かに繋がれた。誰か等と考える必要もない。ネロだ。ネロに手を引かれるがまま、大聖堂を後にした。近くのカフェに入り、二階の空いている席に座って給仕に飲み物を頼んだ。此処はガラスケースに入れられたケーキを自分で選びに行く方式らしい。
「ビックリした?」
「とっても……。殿下は悪魔なのにね」
「……いいや。昨日のリゼ君の口振りで分かった。王子様は悪魔じゃない」
大きな声が出そうになって慌てて口を抑え、深呼吸をして落ち着きをとリシェルは念じて。ネロの隣に回って理由を訊ねた。
「この国の王族はね、皆プラチナブロンドに青い瞳を持って生まれるんだ。それに例外はなくて、逆に言えば王族の証とも言える。王家の血を引く者以外に同じ色を持つ者はいない」
「必ずその色を持って生まれるの?」
「そう。神の祝福の一つとも言われている」
不貞を働いて王族の子だと主張しても、髪や瞳が王家の証でなければ即見破られる。
「殿下の髪も瞳もどれも違う……」
「そう……当時、大問題になってね」
ネロによると、王妃は第一王子を出産してから身体を壊し、現在も離宮にて療養中なのだとか。王妃に代わって側妃が王妃の仕事を熟している。
王の子を孕んだ王妃が産んだのは双子の王子だった。……が、先に生まれた兄の容姿にパニックとなった。
王家の血を引くなら絶対に生まれない黒い髪と青みを帯びた美しい今紫の瞳の男の子。続いて生まれた弟は紛れもない正当な王子。
初めは王妃の不貞が疑われるも、この王族は愛する人に対し並々ならぬ執着心と独占欲を発揮すると言う。王妃を愛していた王は四六時中監視を付けていた。こっそり浮気をしようにも、王妃の行動は全て王に筒抜けであった。
王妃は不貞を働いてない。よって、真実二人の子である。
却って問題を大きくした。
「で、出された結論が――悪魔に憑りつかれた呪いの子、って烙印。王子様は生まれて間もなく森に捨てられたのさ」
「そんな……」
「私が知っているのはここまで。王子様を捨てるよう指示したのは、大天使だ。人間達が神に助けを求め、大天使に伝えさせたのさ」
「それじゃあ、殿下と陛下は他人……。どうして陛下は殿下を……」
「さて。そこまでは」
「けど、意外。天使なら、悪魔を即殺すように命じるのに」
実際に悪魔という確証がなかったからだとネロは言う。膨大な魔力を秘めてはいたが魔族の魔力を感じられなかった。
エルネストがノアールを拾い、王子として育てた経緯が気になる。気になる事があると知りたくなってしまう。
「お待たせしました」
給仕が二人分の紅茶を運んで来た。お代わり用のティーポットも忘れず。
「リシェル嬢、ケーキは何が食べたい?」
「あ、私が取ってくる。ネロさんの分も選んであげるね」
レディファーストだと毎回リゼル任せだったが、ネロには自分で選んであげたい。ネロの反応を待つより先にケーキのあるガラスケースの前へ来た。
苺ケーキ、苺タルト、チョコレートケーキ、チーズケーキ、フルーツケーキ、フルーツタルト、ロールケーキ等……。多種類のケーキが陳列され、どれにしようか非常に悩む。
「……よし!」
リシェルはケーキが大好きで今はネロがいるんだ。きっといける。
トレーを取り、トングを使い一面がケーキで埋め尽くされる量を載せた。
「戻ろっと」
全種類は載せられなかったが食べきったらまた来たらいい。
席に戻ったらビックリされた。
「え? その量を食べるの?」
「ケーキは美味しいもん。ネロさんもいるから、大丈夫かなって」
「……そうなんだ」
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