26 / 48
捨てられた王子
しおりを挟む似た人はいると言えど、あまりにも似すぎている。人当たりの良さそうな第一王子と他者を圧倒させ冷たい容貌のノアール。一見違うように見えても、二人はやはりそっくりだ。
ネロがノアールを気にしていたのは、第一王子に似ているからだった。第一王子を凝視していれば、手を誰かに繋がれた。誰か等と考える必要もない。ネロだ。ネロに手を引かれるがまま、大聖堂を後にした。近くのカフェに入り、二階の空いている席に座って給仕に飲み物を頼んだ。此処はガラスケースに入れられたケーキを自分で選びに行く方式らしい。
「ビックリした?」
「とっても……。殿下は悪魔なのにね」
「……いいや。昨日のリゼ君の口振りで分かった。王子様は悪魔じゃない」
大きな声が出そうになって慌てて口を抑え、深呼吸をして落ち着きをとリシェルは念じて。ネロの隣に回って理由を訊ねた。
「この国の王族はね、皆プラチナブロンドに青い瞳を持って生まれるんだ。それに例外はなくて、逆に言えば王族の証とも言える。王家の血を引く者以外に同じ色を持つ者はいない」
「必ずその色を持って生まれるの?」
「そう。神の祝福の一つとも言われている」
不貞を働いて王族の子だと主張しても、髪や瞳が王家の証でなければ即見破られる。
「殿下の髪も瞳もどれも違う……」
「そう……当時、大問題になってね」
ネロによると、王妃は第一王子を出産してから身体を壊し、現在も離宮にて療養中なのだとか。王妃に代わって側妃が王妃の仕事を熟している。
王の子を孕んだ王妃が産んだのは双子の王子だった。……が、先に生まれた兄の容姿にパニックとなった。
王家の血を引くなら絶対に生まれない黒い髪と青みを帯びた美しい今紫の瞳の男の子。続いて生まれた弟は紛れもない正当な王子。
初めは王妃の不貞が疑われるも、この王族は愛する人に対し並々ならぬ執着心と独占欲を発揮すると言う。王妃を愛していた王は四六時中監視を付けていた。こっそり浮気をしようにも、王妃の行動は全て王に筒抜けであった。
王妃は不貞を働いてない。よって、真実二人の子である。
却って問題を大きくした。
「で、出された結論が――悪魔に憑りつかれた呪いの子、って烙印。王子様は生まれて間もなく森に捨てられたのさ」
「そんな……」
「私が知っているのはここまで。王子様を捨てるよう指示したのは、大天使だ。人間達が神に助けを求め、大天使に伝えさせたのさ」
「それじゃあ、殿下と陛下は他人……。どうして陛下は殿下を……」
「さて。そこまでは」
「けど、意外。天使なら、悪魔を即殺すように命じるのに」
実際に悪魔という確証がなかったからだとネロは言う。膨大な魔力を秘めてはいたが魔族の魔力を感じられなかった。
エルネストがノアールを拾い、王子として育てた経緯が気になる。気になる事があると知りたくなってしまう。
「お待たせしました」
給仕が二人分の紅茶を運んで来た。お代わり用のティーポットも忘れず。
「リシェル嬢、ケーキは何が食べたい?」
「あ、私が取ってくる。ネロさんの分も選んであげるね」
レディファーストだと毎回リゼル任せだったが、ネロには自分で選んであげたい。ネロの反応を待つより先にケーキのあるガラスケースの前へ来た。
苺ケーキ、苺タルト、チョコレートケーキ、チーズケーキ、フルーツケーキ、フルーツタルト、ロールケーキ等……。多種類のケーキが陳列され、どれにしようか非常に悩む。
「……よし!」
リシェルはケーキが大好きで今はネロがいるんだ。きっといける。
トレーを取り、トングを使い一面がケーキで埋め尽くされる量を載せた。
「戻ろっと」
全種類は載せられなかったが食べきったらまた来たらいい。
席に戻ったらビックリされた。
「え? その量を食べるの?」
「ケーキは美味しいもん。ネロさんもいるから、大丈夫かなって」
「……そうなんだ」
53
お気に入りに追加
4,194
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?
バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。
カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。
そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。
ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。
意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。
「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」
意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。
そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。
これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。
全10話
※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。
※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる