殿下が好きなのは私だった

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ケーキで遊べばいい2

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「ベルンシュタイン卿!!」
「なんだ騒々しい」


 二人の周囲を舞う通信蝶がノアールの声により遠ざかっていく。一体なんなのだと言いたげな金色の瞳に睨まれてもノアールの怒りは勢いが止まらない。リゼルの前に立つとビアンカ達のいる四阿を示した。


「今すぐに結界を解きビアンカ達を解放しろ!」
「え? ビアンカ?」


 エルネストが四阿を見ても首を傾げるだけ。溜め息を吐いたのはリゼル。不可視の魔法と音を遮断させていると説明すれば、エルネストの顔が青くなっていく。


「リ、リゼルくん!? ビアンカに何をしてるの!? お願いだ、ビアンカを出してあげて!」
「お前達が大事にしているあの娘、俺のリシェルを笑い者にする算段をつけていたようでな。娘を思う気持ちはお前も分かるだろう? エルネスト」
「そ、それは……」


 ほら、とリゼルは手紙をエルネストの前に開いた。ノアールから内容は見えないが青い顔のまま、厳しい顔付になったのを見る限りあまり良い物じゃないのは明白。手紙を燃やしたリゼルはもう一度溜め息を吐いた。
 静かな庭園から突如、数人の女性の悲鳴が響いた。

「不可視の魔法が掛かっていたのにノアールが最初に助けられたのは……」と言い掛けてエルネストはハッとする。態と、態とリゼルはノアールには姿が見えるよう魔法に細工をした。
 更に細工をしたのは不可視だけじゃない。
 ケーキ塗れになって無残な姿になったビアンカは泣きながらノアールに抱き付きに来た。そのせいでノアールにもケーキが付着するも、気にしないらしく抱き返し慰めている。
 未だ、リゼルを睨み続けるノアール。次期魔王候補と言えど、リゼルにしたら子供に睨まれているようなもの。恐怖も何も感じない。


「どうした? 早く洗ってやれ。大事なお前の恋人なんだろう?」
「ビアンカ達がリシェルに何をしようとしたかは大体分かった。だが程度というものがあるだろう!」
「面白い戯言を抜かすな、王子。リシェルの心を踏み躙ったお前が」
「っ、最初に裏切ったのはリシェルの方だ!」
「間違えるな。裏切ったのはお前だ。リシェルはずっと一途にお前を想い続けた」


 言い返そうと口を開き掛けたノアールを圧倒的魔力を放って口を閉ざさせたリゼルは、泣いているビアンカへ目をやった。


「その娘達に投げたケーキだがな。あれに即効性の媚薬を混ぜておいた」
「は!?」


 驚愕の声を上げたノアールと声は出なくても表情からどんな感情を抱いているか丸わかりなビアンカ。エルネストも「リゼルくん!?」と仰天した。


「体の関係があるんだろう? 抱いて鎮めてやれ」
「何の話だ! おれはビアンカとは体の関係など」
「なんだ、ならその娘がリシェルに自慢げに語ったのは嘘だったのか。随分とはしたない娘だ」


 信じられないものを見る目でビアンカを見るノアールだが、リゼルには一切関係がない。ビアンカの嘘だろうがノアールの嘘だろうがどうでもいい。


「もうそろそろ効果が現れる時間だ。関係がなくても、これを機に肉体関係を持てばいいさ。……リシェルの前で散々口付けを見せ付けたんだ。出来ないとは言わせんぞ」
「ま、待ってくれベルンシュタイン卿! 本当にビアンカとは肉体関係なんて――」
「うるさい、とっとと失せろ」


 口付けは置き、肉体関係はないと尚も叫ぶノアールをビアンカ毎転移魔法で何処かへ飛ばしたリゼルはついでに他の娘達も飛ばした。
 口にしないが場所は王太子の部屋。男一人と女数人。仲良く楽しめばいいと短く息を吐いた。


「リゼルくん……」


 暗く、小さな声で呼ばれたリゼルは落ち込むエルネストの頭を思い切り殴った。涙目で頭を擦るエルネストの襟を引っ張って城内へ戻って行く。


「今は早急に対応をするぞ。落ち込む暇があるなら働け」
「頭を冷やさせて……! めちゃくちゃ痛い!」
「知るか。人間界にいる悪魔達に連絡が行き、次第辺境へ飛ぶ」
「リゼルくんリシェルちゃんを人間界に置いて来たというけど大丈夫なの? 確かにネルヴァくんがいるなら安心だろうけど……」


 エルネストの言いたいことは分かる。
 ネルヴァは天界側の者。それも、聞いたら誰もが腰を抜かす地位に就く。

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