私のお父様とパパ様

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連載―私はお父様とパパ様がいれば幸せです―

ミカエリスの宣言

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 姿見の前で最終確認を終え、呼びに来た侍女に連れられ玄関ホールで待っていたアタナシウスとティミトリスの前に姿を現したメアリー。今日は皇太子ミカエリスの成人を迎える誕生日パーティー。帝国中の貴族が集まる日でもあり、新たな婚約者であるマーガレットのお披露目も意味する。
 この間の城での一件以降、ホワイトゲート公爵がティミトリスを訪ねて何度か屋敷を訪問している。何を話しているかアタナシウスは知っているのだろうがメアリーには内緒、と人差し指を唇に当てて微笑むだけ。絶世の美女ですら惚れ惚れする圧倒的美を誇るアタナシウスだから似合うものでもあった。

 アタナシウスに差し出された手を取り、外に待機させていた馬車に乗り込む。向かいに父達が乗ると馬車は動き出した。


「とても似合ってるよメアリー」
「ありがとうございます」
「今日はこの前城で着ていたドレスと同じにしなかったのか」
「お父様知ってるでしょう。夜会やパーティーでは、私は青いドレスを着ると決めてるって」
「知ってるよ」


 愉しそうに笑うティミトリス。笑うツボがよく分からない。もう婚約者ではなくなってもシルバニア家の一員なのはずっと変わらない。深い青と銀色を基調としたドレスは露出を控え目にし、薔薇の髪飾りはブルーサファイアと呼ばれる特別な宝石を使って作られた。
 ドレスに銀色を使おうと提案したのはメアリー。ミカエリスの髪と同じ色。父達は不思議がっていたがメアリー自身もよく分かってない。近く……と言い難いが皇太子としてのミカエリスを見てきた、最後くらいは、と抱いただけなのかもしれない。また、銀は皇族の色であり、帝国の象徴でもある。未来の皇帝が成人を迎える事への祝い……違う気がする。
 無理に理解しなくてもいいとアタナシウスに苦笑され、もうすぐ着くと零される。
 公式の場に赴く際は転移魔法は使わず、正式な手段を用いて登城する。毎回転移魔法を使う方が楽だと父達は言う。


「マーガレット様と皇太子殿下は仲直りしてますでしょうか?」
「どうだかな。あの手の女は、そう簡単には変わらない。やらかして破滅するのがオチだろうな」
「そうなってしまっては」
「皇太子妃候補は探せばいる。後は帝国側の問題だ。シルバニア俺達は静観してるだけだ」


 政には関わらない。それがシルバニア家。

 若干不安を抱きながらも馬車は何事もなく城に到着。誘導された停車場に馬車を停め、馭者が扉を開けるとメアリー達は降りた。周りには既に大勢の貴族達が来ていた。シルバニア家の家紋が入った馬車から三人が降りると視線が一斉に向けられた。
 小さい頃は多数の目が此方に向く事が何よりも怖かったメアリーも、堂々と立っていられるくらいに成長した。皇后や周囲からされた嫌がらせと比べれば、好奇の視線に晒されるのはなんともない。彼等は見るだけで直接手を出してこない。稀に猛者がいるが父達が撃退する。
 中でもメアリーへの視線が今日は多い。
 良好とは難しくても、メアリーは毎回ミカエリスのエスコートを受けていた。
 大事な今日、エスコートがないので貴族達はひそひそと話をしているつもりが声量は抑える気がないのでメアリー達には丸聞こえ。メイ、とティミトリスの手を取って会場へ向かう。今日のエスコート役はティミトリス。アタナシウスは最初拗ねていたが秒で直している。気分の切り替えが早い。

 受付を済ませ、大きな扉を開けてもらうとアナウンスがされた。


「シルバニア公爵家、ティミトリス=フォン=シルバニア様、アタナシウス=フォン=シルバニア様、メアリー=シルバニア様、ご入場です!」


 外で同じで会場中の視線がシルバニア家に向けられる。最奥に位置する上座には皇帝アーレントと本日の主役ミカエリス、新たな婚約者となったマーガレットが立っていた。


「……こりゃ、駄目だな」
「?」


 ティミトリスが上座を見ながら呟くも周囲の声に消されメアリーは聞けなかった。何を言ったか聞こうにもアタナシウスに促され前へ進んだ。
 上座の前に着き、皇帝と皇太子にそれぞれ決まった挨拶と祝いの言葉を述べた。
 思い切り棒読みだったティミトリスに「こらティッティ」とアタナシウスが小言を飛ばすも欠伸をされてスルーされるだけだった。


「お父様」
「ふあ……眠いんだよ最近。どっかの奴が連日押し掛けて昼寝が出来てねえ」


 ホワイトゲート公爵を指しているのだろうか。何を話しているかは不明でも、マーガレットやミカエリスに関係があるとは予想している。
 ……にしても、である。
 前から視線を感じる。痛いくらい感じる。見なくても分かる。最初、上座に到着した際マーガレットが見せ付けるようにミカエリスの腕に自分の腕を絡ませ、見下すようにメアリーを見てきた。ティミトリスは小さく噴き出し、アタナシウスの反応はなく。
 他人を下に見ないと自分の気持ちが満足されないマーガレットを哀れに思ってきた。口にしたら噴火されるので言わない。


「少しくらいは真面目にしてもらいたいな、ティミトリス」


 どんな時でも自己を崩さないティミトリスへアーレントは呆れる。


「チビの頃から知ってるだろう」
「ああ、魔法を習いにシルバニア邸に毎朝通っていると執事にお前を起こしてくれと頼まれるようになるまで時間は掛からなかった。お前を起こすのは苦労するんだと語っていた」
「ほっとけ」
「ティッティってば、寝付きが良いし並大抵じゃ起きないから僕も起こすのは大変だからね」
「お前のはただ暇だからだろう」


 因みに、お父様の寝付きの良さはメアリーも同じである。すぐに寝れて中々起きない。
 他愛ない話も程々に。上座から離れようとした時、ミカエリスにくっ付いていたマーガレットが「メアリー様」と近付いて来る。
 ミカエリスが止めようとしたがアーレントに手で制され足を上げられなかった。
 下に降りても人を見下す視線は消えない。何を言われるか待つと――


「未練がましいですわよメアリー様。もうお役御免のくせに、ミカを意識したドレスを着るなんて」


 予想通りの絡まれ方をした。シン……と静まる会場。アタナシウスもティミトリスも声を発しない。マーガレットがミカエリスの隣にいる時点で察していた貴族も多くいる。二人の婚約に反対していた貴族も多数いた。シルバニアに恩があるのは、皇族だけじゃない。メアリーの発言を皆待つ。

 マーガレットを怒らせない言葉……何を言っても導火線に触れるのなら、とメアリーは決めた。


「マーガレット様。このドレスのどこが皇太子殿下を意識していると思うのか、教えてください」
「どこって、銀色よ!  そんな事も分からないの!?」
「確かに殿下の髪は銀色なので勘違いをされても仕方ありません。ですが銀は皇族が受け継ぐ色、帝国の象徴です。シルバニア家の青と帝国の銀を纏うのは、マーガレット様にとっては見下す要因なのでしょうか?」


 付け足すとミカエリスを意識するなら銀よりも瞳の色と同じ黄金を身に付ける。淡々と言い返せばマーガレットの顔が赤くなり、可憐な相貌が崩れ去る。マーガレットのドレスには銀も金もない。最高級品だろうがミカエリスを意識する色はなく。
 その事も指摘するとマーガレットが何か喚く。
 そこへ、ミカエリスが前に出て会場中に聞こえるよう声を上げた。

 礼儀上の口頭を述べミカエリスはメアリーとの婚約は解消され、新たにマーガレットとの婚約が結ばれたと発表した。
 ざわめきが大きくなり、感情を乱していたマーガレットも機嫌を直しミカエリスの元へ行くが──


「……先程のマーガレットの行いは、皇太子妃になる者として相応しいとは言えない。よってマーガレット=ホワイトゲート公爵令嬢との婚約は一旦白紙にさせてもらう」
「ミカ!!?」
「良いですよね?  陛下」
「……ああ。お前が決めたのなら、私からとやかく言うつもりはない」



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