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連載―私はお父様とパパ様がいれば幸せです―
メアリーとミカエリス2
しおりを挟む夜会やパーティーといった公式の場に参加する際は、必ず気合の入った青を基調としたドレスで臨む。何度か可愛らしいピンク色を基調としたドレスと、どちらが良いと選ばされたがメアリーは青を選んだ。祖父母へ会いに行く時はピンク色のドレスを着ている。着る場面を考えているだけでそのドレスが嫌なのじゃない。デザインはさすがお父様やパパ様が選んだだけはあり、メアリーによく似合っていた。
リボンやフリルが些か多いがドレスの可愛らしさをより強調するので可愛い物好きなメアリーは大好きだ。
城には、メアリーをシルバニアを操る道具としか思っていない皇后もその皇后お付きの侍女達も、もういない。
皇太子妃教育の為、登城していた最初の頃は苦痛だった。
まず、初めて皇后と会った時温くなった紅茶を頭から掛けられた。
屋敷で蝶よ花よと大切に大切に育てられたメアリーは、思いもしなかった仕打ちに固まった。皇后達は美しさと程遠い笑いを上げた。侍女の中には涙目になっていた者もいた。
『シルバニア家のお姫様は、相手に粗相を受けた時の対処法も知らないのかしら?』
固まっていただけのメアリーにとっとと動けと暗に言ったのだ。人の悪意を受けた事がないメアリーは、考えられる精一杯の対処をするも彼女達は、メアリーが何かをする度に大袈裟に反応して見せ嘲笑った。
皇太子妃教育とは名ばかりの、皇后とその侍女達による虐めは初日だけで終わる筈がなく。アタナシウスとティミトリスがメアリーの異変に気付き、皇帝アーレントの耳に入るまで続けられた。月日としては半月。父親達は半月も気付けなかった事を痛く後悔しており、皇后達の生家や周囲を脅しまくった。
侍女の中には恋人に振られた者や家を勘当された者がおり、残りも大体家族からは腫物扱いをされ職を辞した者が多かった。
「久しぶりね、お城に来るのは」
皇太子妃宮がどんなのかを見に来たメアリーとティミトリス。気合を入れる必要性もなく、ピンク色の可愛いドレスを着用したメアリーと春の花が咲き誇る庭園は相性ピッタリで。花畑に花の妖精が舞い込んだ風景を彷彿とさせた。
ティミトリスは途中アーレントに呼ばれ、メアリー一人で皇太子妃宮を目指していたものの、途中目にした庭園が気になって寄り道をした。多少は大丈夫。ティミトリスも来るのに時間が掛かりそう。
此処にいると思い出すのは、月一の皇太子とのお茶の時間。メアリーが城へ赴き、皇太子が待つサロンへ行くのだ。時たま、外で行われる事もあった。
が、その時は大体皇后がいた。何回かするといなくなったものの、いた頃は苦痛が二重に襲い掛かって紅茶もお菓子も味がしなかった。
「よく思い出すと殿下って本当に私が嫌いだったのね……」
皇后に口撃され俯いて喋れない自分を助けもしなかった。皇后と一緒になって責めてはこなかったが、終始メアリーを睨んでいた。それをメアリーを嫌っていると取った皇后の口調はよりキツイものとなっていった。
ミカエリスとメアリーの婚約を最も願ったのは皇后なのに、何が気に食わなかったのか。友人の娘マーガレットを皇太子妃にしたかったのなら、メアリーではなくマーガレットを選べばよかったものを。と、普通なら考えるだろうがシルバニアの力を思い通りにしたかった皇后はメアリーそのものを否定し続ける事で自信を無くさせ、弱り切ったところへ飴を与えメアリーを傀儡にしようと企んだのだ。
酷い仕打ちがアーレントの耳に入るのに時間は掛からなかった。数回目で皇后はお茶の場に来なくなった。ミカエリスだけは変わらない態度だった。皇后がいてもいなくても口数は少なく、常にメアリーを睨んでいた。
一度、ミカエリスの態度があんまりなので話を大袈裟にしないティミトリスにお茶の時間を月一から二か月に一回がいいと申し出た。半年に一回でいいと言われ、月一のお茶の日になって登城しなかったメアリーの元へミカエリスが訪れた。
何をしに来たかと思えば、メアリーが来なかったからだと睨んだまま言われた。
「……ちょっとだけ、期待した私が馬鹿だったのかな」
彼が訪れたのは一回きり。自分の思い通りにならないと動くのだと悟ると虚しさを覚えた。
小さな花弁に触れ、悲しげに笑んだメアリーは次の婚約(家と父親コンビを考えると無いに等しいが)があったら、ミカエリスとの二の舞にならないよう気を付けようと決める。
ミカエリスの態度はきっと自分にも理由があったのだ。マーガレットを見て思うのは、積極性が無かったから? と過った。
「好きになってもらえるように、私も努力しなきゃ!」
次の婚約が本当にあるのならの話。
──一人意気込んだメアリーは気付かない。独り言をマーガレットの侍女が聞き、即マーガレットへ報告をしに走ったのを。
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