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連載―私はお父様とパパ様がいれば幸せです―
メアリーとミカエリス1
しおりを挟む「え!? 昨日婚約が解消された!?」
「そうだよ」
やっと大好きなお父様とパパ様と朝出会えたメアリーに待っていた第一声が、皇太子ミカエリスとの婚約解消の成立だった。
毎朝の習慣のキスをしたら、メアリーに言わないといけないと、とアタナシウスが切り出した。ミカエリスとの婚約解消を願ったのはメアリーの意思。もともと、メアリーが嫌になったら即解消、時が来ても何れ解消のこの婚約。
メアリー、そしてアタナシウスとティミトリスを嫌うミカエリスをシルバニアという枷から解放し愛しいマーガレットと婚約させたかった。
次期皇帝とシルバニアが不仲では、帝国の防衛と存続に絶大な効果を齎す。小さな綻びを狙って周辺国が攻め入る隙を突いてくる可能性だってある。
現在は平和だが、何百年か前は帝国の豊富な資源と力を狙って侵略をしてきた国もある。
地図からは既に消滅しているとはいえ、無意味な犠牲を強いられるのは何時だって罪もない一般市民。戦争が起きて真っ先に巻き込まれるのは、戦場となり地に住む市民である。
父達が婚約解消の為毎日奔走していたのは承知の事。ただ、婚約解消にはもう少し掛かると言われていたからメアリーは黙っていた。
いたのに、実際には昨日知らない間に解消され、更にマーガレットとの婚約も成立したとか。
天使の微笑みらしい、極上の笑みを見せるアタナシウスに嘆息した。最後くらい、メアリーは自分からミカエリスに婚約解消を伝えたかった。ミカエリスとしては過去に淡い気持ちを抱いたが今はもうない。皇太子ミカエリスとしては今も尊敬しているから、自分の我儘で解消となるのだとしたかった。
ミカエリスに非がないようにしたかった。婚約者として、過去皇后やその周囲に散々な目に遭わされてきたがミカエリスからは攻撃されていない。婚約者としての義務を果たさない代わりに、皇后達と何もしてこなかったのはメアリーの中では大きい。
「もう」
「怒らないで。場には皇太子だけじゃない、ホワイトゲート家や皇后もいたんだ。とてもじゃないが大事なメアリーを同席させられなかった」
「私はパパ様が心配する程弱くないわ」
「メイ」
パパ様がどれだけ愛してくれているか毎日愛を注がれるメアリーは骨身に染みているから知ってる。が、話は別。メアリーとしてはケジメをつけたかった。
「決してメイの気持ちを軽く見ていない。ただ、メイがあの場にいて皇后が罵声を浴びせてきたら即行殺さない自信がなかったんだ」
「パパ様は我慢強いのだから、そんなわけ」
「あるの」
怒っている姿を見たかと聞かれたら最も困るのがアタナシウス。常に微笑を崩さないパパ様のキレた姿……捻り出そうとしても、真っ先に浮かぶのはお父様ことティミトリスの姿。感情表現豊かなのは、パパ様よりお父様なのだ。
不満げに見上げても「どんな顔でもメイは可愛いね」と惚気られるだけ。ポンポン頭を撫でられ嬉しくない訳じゃないが、不満は消えてくれない。苦笑したアタナシウスの後ろ、手にコーヒーカップを持って飲んでいたティミトリスが「メアリー」と呼ぶ。
「そんなに不満なら、俺と今日城へ行くか?」
「ティッティ」
「どうせ自分で言いたいって暫く駄々を捏ねられるより、今行って気持ちをすっきりさせてやればいい」
「私は嬉しいけどお父様はどんな用事で行くの?」
「用事というより、気になるだけだ」
皇太子妃宮がどんな風なのか気になるのだとティミトリスは言う。ミカエリスや皇后側は、時が来たらメアリーが住むようにしていたらしいが、実際はマーガレット仕様にしていたとアーレントやホワイトゲート公爵は語った。
ミカエリスのお気に入りが娘のマーガレットで、時期に皇太子妃としての教育が必要になるから高度な教養を身に着けさせていたのだ。これらはアーレントや双子の指示。ミカエリスがマーガレット以外にも、他の令嬢を気に掛けていたら話は別だった。
いたのかもしれないが、ミカエリスに対して独占欲と執着心が人一倍強かったマーガレットが許さないだろう。
「私も見てみたい」
「やれやれ。じゃあ、行ってらっしゃい。メイ、気を付けて行くんだよ?」
「お城なんだから何も起きないよ。それにもう皇后様もいないんでしょう?」
「念には念を、だよ」
皇后は既に辺境に飛ばされた皇弟の元へ行かされた。皇后付きの侍女と共に。皇后側の貴族は、シルバニアを敵に回したままでは自分達の首が飛んでいくと今更になって怖気づき、掌を返しだした。嗤ってやりたいがしても面白くないからしない。
アタナシウスに意味ありげに視線を投げられたティミトリスは肩を竦めた。
あれからミカエリスはずっと部屋に籠っている。メアリーに会わせろと手紙ではなく、魔法で作られた伝書鳩が飛ばされるも丁寧に送り返した。
「本当に、やれやれだ」
ミカエリスがメアリーを好いている気持ちが本物でも、メアリーを渡す気は更々ない。
アタナシウスにも、ティミトリスにも。
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