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親族会1
しおりを挟む屋敷へは私が先に戻った。お父様やお義母様は気にせず帰っても良いと言うので。2人が話し込んでいたのはイースター伯爵夫人とカンデラリア公爵とだった。きっと、ガルロ殿やトロントおじ様、お義祖母様のこれからについて話し合っているんだろう。
馬車が伯爵邸に到着した。馭者が扉を開けて、外に降りた私は出迎えた執事と邸内に入った。
「お父様やお義母様は後から戻るわ」
「存じ上げております。本日は遅くなると」
「ええ」
エルミナが戻るまでまだ時間はある。その間、私はどうしよう。
1人屋敷にいるのもいいが出掛ける選択肢もある。
……。
……ちょっとだけ、眠りたいな。
「お嬢様はどうされますか?」
「ちょっとだけ眠るわ。疲れてるみたい」
飲み物を、と提案されるが起きてから頼むと執事と分かれ私室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
リアン様に『予知夢』の件を知られてしまった……。口外する人じゃないから、エーデルシュタイン家の誰かに知られる事はないけれど……。
自分が思う以上に疲れていたようで、重い瞼を閉じるとあっさりと意識は落ちていった。
これは『予知夢』なんだろうか。
そして、続きなんだろう。
北の修道院へ向かう私を乗せた馬車が急停止し、車内にいる私や見張りの騎士達の体勢が崩れた。私を罵倒していた騎士が様子を見に外へ出ると――野太い悲鳴が上がった。
『なんだ!?』
もう1人の騎士が震える私に『絶対に出るんじゃないぞ』と言い残し外の様子を探りに行った。怒声と金属音が響く中、車内に残された自分はただただ恐怖に震えていた。死んで解放されたいと願っていたくせに、目前に死が迫ると怖くなったのだ。
……やっぱり、私は死ぬんだ。でも、それでいいのかもしれない。何の落ち度もない人達を不幸にして、自分だけの幸せを願った私への罰なのだ。
震える口で紡がれたのはリアン様の名前だった。最後の言葉があんなでも、『予知夢』の中の私もリアン様が好きなのだ。
この時のリアン様はもうエルミナとの婚約を進め、あの子の卒業を待って結婚だろう……。
『予知夢』の中の私がどうなるのか、どんなに怖い未来があっても視ないといけない。強い緊張を持って見ていれば、扉が乱暴に開かれた。いよいよだと固く目を閉じ、体を強張らせれば全身に布を被され、入って来た人に抱き上げられた。
客観的に視ている私でさえ、その人が誰なのか分からない。髪は帽子で隠し、顔を覆う仮面のせいで素顔が知れない。
『……』
その人は抱き上げた私を暫し見つめた後、恐らく配下であろう人に駆け寄られ何事かを耳打ちされ。頷くと馬車を離れた。私に付けられた見張りの騎士達は2人共……死んでいた。
悲鳴を上げそうになるも、グッと堪えた。これはまだ『予知夢』の段階で現実には起きていない。
別の馬車に私を抱いた人が乗り込む。当たり前だが家紋も何もない。どこの誰なのか全く分からない。
私を膝に乗せ、震えが止まらない私の頭を愛おしむように撫でている。この人は一体……誰。
心の中でこの人がリアン様だったら……と願う私はどれだけ愚かなんだろう……。
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