思い込み、勘違いも、程々に。

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隣国の怖い人3

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 母上に背を押されて謁見の間を退室した。次にやって来たのは他国の来賓をもてなす客室。一級品の調度品や家具が置かれたそこに、紫がかった銀髪の男性がソファーに座ってのんびりと紅茶を嗜んでいた。此方を向いた瑠璃色の瞳は柔らかく温かいが、最奥に閉じ込められた真の感情があっという間に他人を地獄へ突き落とす圧倒的冷酷者だと知るのは母や祖父の教えから。


「お久しぶりですわオルトリウス様」
「やあ王妃殿下、王太子殿下。お邪魔しているよ」
「お久しぶりです、オルトリウス様」


 隣国の前王弟オルトリウス=アイ=ガルシア様。現在は隠居貴族と身分を偽って我が国に滞在している理由は2つ。
 1つは先王妃を大伯母に持つアウテリート嬢を気に掛けて。
 もう1つは我が国の先王、つまりおれの祖父の頼みがあって。

 おれと母上でオルトリウス様と向かい合うように座った。


「王太子殿下とは、あまり久しぶりでもないかな。つい最近会ったからね」
「オルトリウス様には相談に乗っていただいて感謝しております。殆どが相談に値しないかもしれませんが」
「いやいや。若者の悩みを聞くのも年寄りの仕事だよ。助言アドバイスがあれば、してあげられる。リグレット王女殿下も中々の困ったちゃんだね。君や王妃殿下も苦労しているだろう」
「いえ、私は特に。だって、関わりがないので」


 寵愛深い娘の不始末は親が責任を持ってしろ。これが母上の言葉。
 過去にリグレットが何度もやらかしているが母上は何もしない。時に愛人の男爵令嬢に泣きを入れられるが華麗にスルーを決め込み、父上にも同じ。


「はは。君が王妃で良かったと思うよ。時に、今日僕が来たのは理由があってね」


 紅茶を飲み干したティーカップをテーブルに置くと、オルトリウス様は眉尻を下げられた。


「知っての通り、僕はこの国の先王とは旧知の仲だ。今の国王が王太子だった頃から、色々と相談を受けていた」
「存じております」
「彼が国王になっても変わらない場合は、王妃殿下との間に王子、又は王女がいた場合、学院を卒業と同時に彼を退位させるよう頼まれているんだ。
 君に問おう、アウムル王太子殿下。君は父君のような国王にならないと誓えるかい?」
「はい」


 おれは絶対に父上の様にはならない。
 寧ろ、なりたくない。
 未だ愛する女性がいないおれではあるが、生涯を共にすると誓ったのなら、必ず大事にしてみせる。仮に異性としての愛情を抱けなくても、家族としての親愛は抱けるだろう。
 愛する女性を見つけたとしても、必ずしも結ばれるとは限らない。


「そう。良かった」
「今日はその事を確認しに?」
「いや。これはついで。本題に入ろう。これは僕からの相談なんだ」
「まあ、オルトリウス様からの相談なんて珍しいですね」
「まあね。実は――」


 語られた相談内容におれは頭を抱えたくなった。
 リアン……さっさと気持ちを伝えないとフィオーレ嬢がこの国から出て行ってしまうぞ……。



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