41 / 102
機嫌を損ねてしまった
しおりを挟む心配が尽きないのでエルミナを教室まで送った後、3年生のフロアに続く階段の1段目に足を乗せるとリアン様に呼ばれ止まった。気遣う色を濃く宿す青い瞳はどんな時も綺麗。
「またリグレットに絡まれたとアウムルから聞いた」
「王太子殿下が助けて下さったので何もありませんでしたよ。王女殿下は生徒会への出入りを禁止されたのですか?」
入室禁止と王太子殿下が言っていたのは事実だった。私の疑問に頷いたリアン様が経緯を話してくれた。
除籍されてからは毎日王太子殿下の元へ通われ、心を入れ替えると宣言していたそうだが学院内での振る舞いや行動を全て把握され、更に特待生として入学した平民の生徒に難癖をつけたのを知られていた王女殿下は全く信用されず。何度目かの訴えを退けられると逆ギレを起こし、出入り禁止を食らったのだとか。
「そうだったのですか……」
「ムルはエルミナ嬢に手を出すかリグレットを注視していたが……フィオーレ嬢を標的にするなんて」
「リアン様。これは私からのお願いなのですがどうかエルミナを守ってあげてはくれませんか?」
今の標的が私でも、何れリアン様と恋仲にエルミナがなってしまえば王女殿下の嫉妬の矛先は変わる。私はどうせ家を出るつもりだ。1年くらいなら耐えられる自信がある。
「だが……」
「私は大丈夫です。いざという時はアウテリート様を頼ります」
「……」
一瞬顔を歪ませたリアン様だったがすぐに戻った。そうか、とだけ発し、無言のまま先を行かれたリアン様の後に続いて階段を上がった。
さっきのリアン様のご様子……ひょっとして何度も私がエルミナを勧めるから、逆に不審がられている? 2人の想いは自分だけの秘密。他人に悟られないよう今まで過ごしてきたのに『予知夢』を視て知った私が安易に踏み込んでいい領域ではなかった。機嫌が悪いリアン様の背に呼び掛けた。足を止め、顔だけ振り向いてくれた。
「先程のあれは、その、表立って守ってあげてほしい訳ではなく、陰ながらでいいので見守ってほしいのです。エルミナにもあまり1人にならないよう私からも言ってありますが何があるか分からないので……」
「…………そうだな」
「……」
長い沈黙の後に告げられた短い言葉は、低く荒々しい感情を無理矢理抑えた無理があった。無意識に、無神経に、彼の領域に土足に踏み込んだ私は拒絶されている。身長差から歩幅が違う。今はリアン様の歩く早さが違う。あっという間に距離が空いていく。
愚かな真似をしなくても――リアン様の心が私に傾くことはないのだと改めて突き付けられた。
重い気持ちを抱えたまま教室に入った。まだアウテリート様が来ていなかった。席に座っても話し相手がいないと退屈。こういう時は本があると時間潰しになるが生憎と手持ちがない。図書室で借りるか、屋敷から持ってくるか、どちらにしよう。
昼休憩はエルミナと昼食を食べるから図書室へは行けない。なら放課後にしよう。今の気分だとオーリー様に会いに行っても相談だけで終わってしまう。可能なら美味しいお菓子を食べながら楽しい会話をしたい。次の授業にある小テスト対策をしようと鞄の中に入れてあった教科書を机に広げた。
「あ……」
あの視線が体に刺さった。3年生になってから感じる謎の視線。鋭く突き刺さる視線を感じ、主を探しても――誰も私を見ていない。最初の頃は気のせいかと気にしないようにしていたが何度も何度も味わえば絶対に見ている人がいると確信を持った。誰か不明なだけ。人が少ないと言えど、皆思い思いの時間を過ごしている。リアン様もそう。席に座り、頬杖をついて瞼を閉じられている。毎日眠そうなのは王太子殿下の手伝いやロードクロサイト公爵家の跡取りとしての勉強で忙しいせいだろう。
視線を貰うだけで害意はない。不安だが下手に騒ぎを起こすより、別の変化が起きてから調査すればいいと決めているから、私は教科書に目を通していった。
アウテリート様が来たのは予鈴の鐘が鳴る直前だった。
77
お気に入りに追加
4,990
あなたにおすすめの小説
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
まあ、いいか
棗
恋愛
ポンコツ令嬢ジューリアがそう思えるのは尊き人外である彼のお陰。
彼がいれば毎日は楽しく過ごせる。
※「殿下が好きなのは私だった」「強い祝福が原因だった」と同じ世界観です。
※なろうさんにも公開しています。
※2023/5/27連載版開始します。短編とはかなり内容が異なります。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。
棗
恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。
そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。
前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。
私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります
せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。
読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。
「私は君を愛することはないだろう。
しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。
これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」
結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。
この人は何を言っているのかしら?
そんなことは言われなくても分かっている。
私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。
私も貴方を愛さない……
侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。
そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。
記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。
この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。
それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。
そんな私は初夜を迎えることになる。
その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……
よくある記憶喪失の話です。
誤字脱字、申し訳ありません。
ご都合主義です。
【本編完結】番って便利な言葉ね
朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。
召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。
しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・
本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。
ぜひ読んで下さい。
「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます
短編から長編へ変更しました。
62話で完結しました。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる