まあ、いいか

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好きなように過ごして

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 お茶もスイーツも満喫し、一先ず宿に戻ろうとなりジューリア達が行くと部屋には誰もいない。よくよく気配を辿るとそもそも近くにもいない。


「案外、魔界に戻っていたりしてね。まさか、すぐに熾天使が来るとは誰も思わないよ」
「確かに」


 予想以上に早くガブリエルが現れるとはヴィルでさえ予想しておらず。アンドリュー直々の命令だったから、張り切って駆け付けたというのがオチだろうとヴィルは溜め息を吐く。


「ヴィルのお兄さん、あの熾天使にすごく怒りそうな気がする」
「かもね。俺にはどうでもいいけど」
「魔王さん戻るまでお邪魔してよっか」
「それよりちょっと眠い」


 神経を研ぎ澄ませて見つけ出す神力の波。体力の方も多量に消費する。欠伸を噛み殺したヴィルは室内に足を踏み入れ、遠慮なくソファーに寝転んだ。数秒もしない内に寝息を立て始めたヴィルの寝つきの良さにジューリアは少し呆れた。ヨハネスも朝食をお腹一杯食べて毎回寝ているので、寝つきの良さは血筋かもしれない。となるとヴィルの他の兄弟はどうなのかと思うも今聞く事じゃないかと自分を納得させ。
 呆れているビアンカに「この後どうしますか?」と訊ねた。


「どうするもこうするも。魔王陛下がお戻りになるまで待つしかない。わたくしは自分の部屋に戻るから、貴女達は好きにしなさい」


 そう言うと隣の部屋に行ってしまった。ヴィルは寝ている、ヨハネスは……と見るとテーブルに突っ伏して早速寝ていた。やはり寝つきの良さは血筋だろう。


「私はどうしよう……」


 眠気はあまりなく、一人で外を出ようとも思えず、少々退屈だ。


「魔法の練習でもするか」


 ないなら見つけるのみ。此処にはフローラリア家も神官もジュ—リオもいない。ジューリアが魔法の練習をしようと誰も驚かない。ヴィルの隣に座って早速練習に取り掛かった。スカートのポケットに入れていたハンカチを取り出して膝に乗せた。両掌に魔力を集中させ、ふわりとハンカチを浮かせた。これを長時間、一定の魔力量で同じ高さで浮かばせる。魔法を使うには何よりも魔力操作が重要。種類によっては緻密な操作性を求められる魔法もある。集中、集中、と自分に言い聞かせハンカチを浮かせるべく魔力を注いだ。
 もしも、魔法を使えるようになったとフローラリア家やジューリオが知ったら、どんな反応をするだろう。ビアンカが言っていたように見返してやりたい気持ちはない訳じゃない。散々魔力しか取り柄のない無能だと、欠陥だと馬鹿にしてきた相手がいざ魔法を使えるようになったジューリアをどんな目で見るか見て見たい。
 が、やっぱり面倒なだけ。面倒のレベルが格段に上がる。膨大な魔力を持っているのもあり、いざ魔法が使えるようになると今度は帝国の為、フローラリア家の為だからと利用する方へいく。
 ジューリア程の魔力量を持つ者は帝国にも滅多にいない。皇族であろうと、だ。ジューリオはジューリアと違って魔力量も多く魔法が使える。兄である皇太子に劣等感を持っているなら、鬱憤をジューリアに晴らすのではなく努力をする方へ向ければいいものを。

 今度のお茶会、憂鬱でしかない。ヨハネスが行く気満々な為、ジューリアも行かないとならない。そういえば、天使様の出席について皇后に確認するとジューリオは言っていたがちゃんと許可は取ってくれただろうか。


「まあ、ヴィルや甥っ子さんは天使って設定だから、断る筈ないか」


 帝国に祝福を齎す天使の出席を断る等、皇后がする筈がない。心配するだけ杞憂か、とジューリアは練習に意識を集中させた。

 ——それから数時間後。魔法の練習に疲れジューリアも寝てしまった。意識が段々と浮上すると声が聞こえてくる。明確に聞こえるようになると声色の主がヴィルと魔王だと知る。


「随分と早い到着だったんだね」
「眼鏡に命令されて張り切ったんだろう。俺や末っ子が命じてもこうはならない」
「ネルヴァくんは?」
「兄者は、熾天使を嫌っているから抑々命令しない。熾天使も兄者を恐れているから近寄りたがらない」
「そうなんだね。君の言っていた熾天使を天界に押し込めたのなら、暫くは大丈夫なのかな?」
「どうだか。さっき、ミカエル君から面倒な報せが来た」


 人間界への扉を閉ざされても連絡だけは取れるらしく、ヴィルに届けたミカエルの報せというのがまた度肝を抜かれるものだった。現神たるヨハネスが神の役目を続行するのは困難と上層部に判断させ、己が神の代理に就くとガブリエルに宣言したようだ。ヨハネスが聞いたら喜だろうし、アンドリューも神になりたがっていたからwin-winな事態。とならない。寝た振りをして話を聞いているジューリアでも不安になり、その予感はヴィルの言葉により的中していたと知る。


「眼鏡じゃ代理すら務まらないのに」


 魔界を統べる魔王になるのに最も重要視されるのが魔力。魔界を覆う強大な結界は魔王の魔力の強さで変わる。魔力の弱い魔族が魔王になれば、当然結界も弱まり天使の襲撃を許してしまう。それは天界も同じ。神力の強い神族が神の座に就く事で悪魔の侵入や天使にとって害になる汚れを防ぐ結界を貼る。


「彼の父親では神力不足だと?」
「ああ。だから、早くに兄者の補佐になるよう育てられたんだ。一番早く結婚したのも、次の神族を作る為さ」
「何時の時だったかネルヴァくんに聞いたんだけど、熾天使も結界の展開には力を差し出すと言っていたけれど」
「最高位の天使だろうが所詮は天使。神族とは、神力の純度が違う。結界を展開するには核となる神族が絶対に必要なんだ。その核が弱いと当然結界も弱まる」


 事態は良い方向に行ったと見えて全然良くない方向に行っている。


「ヨハネスを連れ戻す事はまだ諦めないだろうけど、今までほど積極的にはしないだろうね」
「うーん……天界の結界が弱まると悪魔にとったら好都合だけど、こうして人間界に来る分としては不都合だね」
「だろうね」


 人間が悪魔の脅威に晒されないよう守るのが天使の役割。天界の結界が弱まり、天使が衰弱してしまえば人間界が悪魔によって荒らされる。


「ふあ……眠いから俺はまた寝るよ。起こさないでね」
「なら、ぼくは外に出ているから好きに過ごして」
「はいはい」


 扉が開き、閉まる音がすると頬に冷たいものが当たってジューリアは思わず目を開けた。ヴィルの手が頬に触れていた。


「起きてたの?」
「う、うん。盗み聞きをするつもりはなかったんだけど……」
「いいよ。ジューリアに聞かれてまずい話でもなかったから」
「そっか」


 良かったと微笑んだジューリアはよしよしとヴィルに頭を撫でられる。その手付きが優しく、再び眠気に襲われ眠ってしまった。
 すぐに眠ったジューリアを呆れて見下ろすヴィル。


「寝つき良いんだね」



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