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悪意は苗床を発見
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夕食の時間は二人追加とあり、普段よりかは賑やかなのだろう。時折、フランシスが話題を振ったり、両親やグラースが話し掛けたら対応する以外では黙々と食事をするジューリア。会話の中心にいるのは主に両親かメイリンである。
「そうだわ、お母様! 以前、マリエッタ様がお茶会で身に着けていた髪飾りがとても素敵だったの。わたしも新しい髪飾りが欲しいです」
「そうね、私も新しい髪飾りや首飾りが欲しいと思っていたから、一緒に選びましょう」
「わーい!」
宝石や価値ある鉱石で造られた髪飾りや首飾りは高値で売買される。フローラリア家ともなればあらゆる商品が選び放題だ。レタスにドレッシングをたっぷりと掛けてもらうと控え目な声がジューリアを呼ぶ。視線を上げるとマリアージュを見た。
「ジューリアも新しい髪飾りが欲しいでしょう……? 商人を呼ぶから、一緒に選びましょう」
「困ってはいませんからお気遣いなく」
「……」
おしゃれをして出掛ける予定もなければ、今後も出来るとは思えない。お茶会の招待状が届こうがフローラリア家の無能が参加する事をシメオンもマリアージュも許さない。
拒否したら案の定落ち込まれるも、今回はしつこくなく、あっさりと引き下がった。ジョナサンやフランシスがいる手前、無様な姿を見せられないのだ。
「ジューリアは欲しい物はないのか?」とシメオンに問われるもこれといって浮かぶ物はない。ありません、と首を振れば此方にも落ち込まれた。
何でも良いから切っ掛けが欲しいように見える。それをネタにしてジューリアと関わりたいのだと。
メインの肉料理も食べ終え、サラダも完食した。残るはデザート。
ジューリアの食事の皿が空になったのを見計らい、使用人がデザートを運んだ。今夜は旬のフルーツの盛り合わせ。どれも一口サイズに切られておりフォークで刺し食べやすい。
最初はどれにしよう。定番の苺にしよう。苺を選びフォークで刺した時、隣のフランシスが話し掛けた。
「ジューリアは本を読む?」
「ええ」
「魔法の本を読んでみたくない?」
「魔法が使えない私が読んでも意味ないでしょう」
嘘。本当はとても興味がある、が、魔法を使えるようになったと知られたくないので使えない振りをする。
「そんな事ないよ。いつか、使える日が来るかもしれない。その時に魔法書の読み方を知らなかったら大変だよ。魔法の基礎が分かりやすく書かれた本があるんだ、今度ジューリア宛に送るから読んでみて」
「……ありがとう」
ジューリアとしては有難い。フランシスの親切は本心からだと伝わる。何時かに備えて準備をする。たとえ、無駄になってしまう可能性が高くても何処かで役立つ。
空気が微妙に重くなった気がして周囲を見るとシメオンとマリアージュはどこか気まずげで、グラースは何か言いたげな視線をフランシスに送り。メイリンに至ってはどうでも良さそうにして食事を楽しんでいる。
さっさと食べ終わってさっさと戻ろう。
フルーツを素早く食べ終えたジューリアは食堂を出た。付いて来る侍女に振り向いた。
「湯浴みの準備をしておいて」
「何時頃はお入りになりますか?」
「そう遅くはならないけど、お湯は熱々で」
「分かりましたお嬢様」
温くなっても温めればいい。今のジューリアなら可能だ。
部屋に戻り、ふと、本棚に目を向けた。
「魔法書、か」
必要ないからと今まで魔法書の類は読んでこなかった。
「さてと」
ベッドに腰掛け、魔力操作の練習を再開しようとハンカチを膝に乗せた。ヴィル曰く、やり過ぎ注意との事。長時間の魔力の使用は術者の体に負担を掛ける。つい最近、魔法が使えるようになったジューリアはまだまだ未熟者。魔力操作の練習は三十分を一日三回するのを限度とした。今日は夕食前に約一時間した。後三十分をすれば一日三回の練習となれる。
深呼吸をして気分を落ち着かせ、ハンカチへ魔力を当てた。膝から少し浮いた状態を長く保ち続けるのがコツ。
早く色んな魔法を使えるようになってフローラリア家を出るのが目標だ。ヴィルが子供姿になってしまったので、大教会に移り住みたい気持ちが強い。ジューリアにとってシメオンもマリアージュもグラースも今更過ぎて家族として見れない。血の繋がった赤の他人。メイリンに関しては姉妹仲はよろしくないものの、一番話しているのが彼女なので他三人よりは印象が濃い。
逸る気持ちを抑え、基礎を磨こうと自分に言い聞かせるジューリアは「ジューリア、入っていい?」とノックの後に続いたフランシスの声に練習を中断した。
ハンカチをポケットに仕舞い、声を掛けた。
「いいよ」
「ありがとう」
入室したフランシスに座ってと隣を叩いた。
隣に座ったフランシスに何をしていたか訊ねられるもジッとしていたと嘘を話した。
「する事が思いつかないから」
「なら、僕の話を聞いてくれる?」
「いいけど、悩みでもあるの?」
「うん……メイリンとの婚約なんだけど……僕、好きな人がいるからあまり気が進まないんだ」
「フランシス……」
貴族の婚姻の殆どは政略的要素を多分に含む。ジューリアとジューリオもそう。
「好きな人って?」
「帝国と友好協定を結んでる王国の第七王女殿下。去年の皇帝陛下の誕生日に貴賓として招待されていてね、偶然話す機会があったんだ」
記憶の引出しを探り、王国の第七王女はフランシスより二歳年上だと思い出した。王子が二人、王女が七人で全員が国王と王妃との子。大陸一の鴛鴦夫婦で有名な王族でもある。
「第一王女から第四王女が他国へ既に嫁ぎ済で、第五王女と第六王女が自国の貴族に降嫁しているのよね」
「うん。第七王女は唯一の未成年だから、まだお城で暮らしてる」
「婚約者がいるとは聞いてないの?」
「まだ聞いていない。婚約者候補もいないって噂だよ」
王女が上に六人もいれば、政略結婚の駒にもあまりならないのかもしれない。王国は帝国と並ぶ豊かさを誇る。他国と必要以上に繋がりを持たずとも強い力を有する。
「二歳年上とは思えないくらい凛々しくて綺麗な女性で……一目惚れってやつをしたんだ」
「侯爵様達には?」
「ううん。僕が自覚する前に、メイリンとの婚約の話が浮上したんだ」
切なげに、諦めた様子のフランシス。相手は昔からよく知る相手で家同士の付き合いも濃い。初恋を諦めて親が決めた婚約者と結婚するのは普通だからとフランシスは胸の内に秘めたままにしておこうとしている。幾分か悩んだ末、ジューリアはメイリンにも想い人がいて、その相手が第二皇子ジューリオだと語った。
「第二皇子殿下はジューリアの婚約者じゃないか」
「まあ、いいと思うわよ。向こうは無能の私が嫌いだし。はっきり言われてるから」
「ええっ」
ドン引きするフランシスの気持ちが解る。嫌いだろうが最低限の振る舞いはするべきだ、特にジューリオは皇族。感情の操作方法は叩き込まれる筈。
「魔法や癒しの能力が使えないのはジューリアのせいじゃないのに……」
「フランシスが言ってくれたように、何時か使える日が来るのを願うわ」
「その為にも、魔法書の読み方を知っておかないとね」
「フランシスが教えてくれるの?」
「僕が教えられる範囲でなら」
恋の悩みから魔法書の読み方の話に変わり、湯浴みの準備が出来たと侍女が報せに来るまで二人の会話が途切れる事はなかった。
——ぼんやりとした橙色の灯りが照らす室内にて、体を無理矢理押さえ付けられ泣き叫ぶ女性がいた。生まれてからずっと伯爵令嬢として育てられた女性は大貴族の娘でありながら無能判定された令嬢が両親から見放されているのを良いことに虐げてきた。周りは見て見ぬ振りをしている。何をしても良いと驕ったのが運の尽き。最後は今までの所業が知られて生家を追放、娼館に身を落とし毎日客を取らされる日々を送る。好きでもない男に処女を散らされた時は絶望のあまり絶叫し、気を失った。館主にぐちぐち文句を言われ、それからは気絶しないよう厳重注意を受け、毎日毎日体で男の相手をさせられた。
悔しい、全部あの小娘のせいで。
心の中に増長するジューリアへの憎しみがある存在を引き寄せた。
『ああ、分かる、分かるぞ、お前の憎しみ。その恨み、私が晴らしてやろう』
「そうだわ、お母様! 以前、マリエッタ様がお茶会で身に着けていた髪飾りがとても素敵だったの。わたしも新しい髪飾りが欲しいです」
「そうね、私も新しい髪飾りや首飾りが欲しいと思っていたから、一緒に選びましょう」
「わーい!」
宝石や価値ある鉱石で造られた髪飾りや首飾りは高値で売買される。フローラリア家ともなればあらゆる商品が選び放題だ。レタスにドレッシングをたっぷりと掛けてもらうと控え目な声がジューリアを呼ぶ。視線を上げるとマリアージュを見た。
「ジューリアも新しい髪飾りが欲しいでしょう……? 商人を呼ぶから、一緒に選びましょう」
「困ってはいませんからお気遣いなく」
「……」
おしゃれをして出掛ける予定もなければ、今後も出来るとは思えない。お茶会の招待状が届こうがフローラリア家の無能が参加する事をシメオンもマリアージュも許さない。
拒否したら案の定落ち込まれるも、今回はしつこくなく、あっさりと引き下がった。ジョナサンやフランシスがいる手前、無様な姿を見せられないのだ。
「ジューリアは欲しい物はないのか?」とシメオンに問われるもこれといって浮かぶ物はない。ありません、と首を振れば此方にも落ち込まれた。
何でも良いから切っ掛けが欲しいように見える。それをネタにしてジューリアと関わりたいのだと。
メインの肉料理も食べ終え、サラダも完食した。残るはデザート。
ジューリアの食事の皿が空になったのを見計らい、使用人がデザートを運んだ。今夜は旬のフルーツの盛り合わせ。どれも一口サイズに切られておりフォークで刺し食べやすい。
最初はどれにしよう。定番の苺にしよう。苺を選びフォークで刺した時、隣のフランシスが話し掛けた。
「ジューリアは本を読む?」
「ええ」
「魔法の本を読んでみたくない?」
「魔法が使えない私が読んでも意味ないでしょう」
嘘。本当はとても興味がある、が、魔法を使えるようになったと知られたくないので使えない振りをする。
「そんな事ないよ。いつか、使える日が来るかもしれない。その時に魔法書の読み方を知らなかったら大変だよ。魔法の基礎が分かりやすく書かれた本があるんだ、今度ジューリア宛に送るから読んでみて」
「……ありがとう」
ジューリアとしては有難い。フランシスの親切は本心からだと伝わる。何時かに備えて準備をする。たとえ、無駄になってしまう可能性が高くても何処かで役立つ。
空気が微妙に重くなった気がして周囲を見るとシメオンとマリアージュはどこか気まずげで、グラースは何か言いたげな視線をフランシスに送り。メイリンに至ってはどうでも良さそうにして食事を楽しんでいる。
さっさと食べ終わってさっさと戻ろう。
フルーツを素早く食べ終えたジューリアは食堂を出た。付いて来る侍女に振り向いた。
「湯浴みの準備をしておいて」
「何時頃はお入りになりますか?」
「そう遅くはならないけど、お湯は熱々で」
「分かりましたお嬢様」
温くなっても温めればいい。今のジューリアなら可能だ。
部屋に戻り、ふと、本棚に目を向けた。
「魔法書、か」
必要ないからと今まで魔法書の類は読んでこなかった。
「さてと」
ベッドに腰掛け、魔力操作の練習を再開しようとハンカチを膝に乗せた。ヴィル曰く、やり過ぎ注意との事。長時間の魔力の使用は術者の体に負担を掛ける。つい最近、魔法が使えるようになったジューリアはまだまだ未熟者。魔力操作の練習は三十分を一日三回するのを限度とした。今日は夕食前に約一時間した。後三十分をすれば一日三回の練習となれる。
深呼吸をして気分を落ち着かせ、ハンカチへ魔力を当てた。膝から少し浮いた状態を長く保ち続けるのがコツ。
早く色んな魔法を使えるようになってフローラリア家を出るのが目標だ。ヴィルが子供姿になってしまったので、大教会に移り住みたい気持ちが強い。ジューリアにとってシメオンもマリアージュもグラースも今更過ぎて家族として見れない。血の繋がった赤の他人。メイリンに関しては姉妹仲はよろしくないものの、一番話しているのが彼女なので他三人よりは印象が濃い。
逸る気持ちを抑え、基礎を磨こうと自分に言い聞かせるジューリアは「ジューリア、入っていい?」とノックの後に続いたフランシスの声に練習を中断した。
ハンカチをポケットに仕舞い、声を掛けた。
「いいよ」
「ありがとう」
入室したフランシスに座ってと隣を叩いた。
隣に座ったフランシスに何をしていたか訊ねられるもジッとしていたと嘘を話した。
「する事が思いつかないから」
「なら、僕の話を聞いてくれる?」
「いいけど、悩みでもあるの?」
「うん……メイリンとの婚約なんだけど……僕、好きな人がいるからあまり気が進まないんだ」
「フランシス……」
貴族の婚姻の殆どは政略的要素を多分に含む。ジューリアとジューリオもそう。
「好きな人って?」
「帝国と友好協定を結んでる王国の第七王女殿下。去年の皇帝陛下の誕生日に貴賓として招待されていてね、偶然話す機会があったんだ」
記憶の引出しを探り、王国の第七王女はフランシスより二歳年上だと思い出した。王子が二人、王女が七人で全員が国王と王妃との子。大陸一の鴛鴦夫婦で有名な王族でもある。
「第一王女から第四王女が他国へ既に嫁ぎ済で、第五王女と第六王女が自国の貴族に降嫁しているのよね」
「うん。第七王女は唯一の未成年だから、まだお城で暮らしてる」
「婚約者がいるとは聞いてないの?」
「まだ聞いていない。婚約者候補もいないって噂だよ」
王女が上に六人もいれば、政略結婚の駒にもあまりならないのかもしれない。王国は帝国と並ぶ豊かさを誇る。他国と必要以上に繋がりを持たずとも強い力を有する。
「二歳年上とは思えないくらい凛々しくて綺麗な女性で……一目惚れってやつをしたんだ」
「侯爵様達には?」
「ううん。僕が自覚する前に、メイリンとの婚約の話が浮上したんだ」
切なげに、諦めた様子のフランシス。相手は昔からよく知る相手で家同士の付き合いも濃い。初恋を諦めて親が決めた婚約者と結婚するのは普通だからとフランシスは胸の内に秘めたままにしておこうとしている。幾分か悩んだ末、ジューリアはメイリンにも想い人がいて、その相手が第二皇子ジューリオだと語った。
「第二皇子殿下はジューリアの婚約者じゃないか」
「まあ、いいと思うわよ。向こうは無能の私が嫌いだし。はっきり言われてるから」
「ええっ」
ドン引きするフランシスの気持ちが解る。嫌いだろうが最低限の振る舞いはするべきだ、特にジューリオは皇族。感情の操作方法は叩き込まれる筈。
「魔法や癒しの能力が使えないのはジューリアのせいじゃないのに……」
「フランシスが言ってくれたように、何時か使える日が来るのを願うわ」
「その為にも、魔法書の読み方を知っておかないとね」
「フランシスが教えてくれるの?」
「僕が教えられる範囲でなら」
恋の悩みから魔法書の読み方の話に変わり、湯浴みの準備が出来たと侍女が報せに来るまで二人の会話が途切れる事はなかった。
——ぼんやりとした橙色の灯りが照らす室内にて、体を無理矢理押さえ付けられ泣き叫ぶ女性がいた。生まれてからずっと伯爵令嬢として育てられた女性は大貴族の娘でありながら無能判定された令嬢が両親から見放されているのを良いことに虐げてきた。周りは見て見ぬ振りをしている。何をしても良いと驕ったのが運の尽き。最後は今までの所業が知られて生家を追放、娼館に身を落とし毎日客を取らされる日々を送る。好きでもない男に処女を散らされた時は絶望のあまり絶叫し、気を失った。館主にぐちぐち文句を言われ、それからは気絶しないよう厳重注意を受け、毎日毎日体で男の相手をさせられた。
悔しい、全部あの小娘のせいで。
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2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
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