蒼炎の魔法使い

山野

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第百三十話 サンドイッチのブルジョワ感は半端ない

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 声の主はフォーセルとイクセと2人の取り巻き達だ。

 悲鳴が聞こえた少し後に、幾つかの小さい爆発音と閃光。
 誰かの破裂したお腹から勢い良く飛び出した腸が、俺の頬をペチンと叩いてハッとさせた。

 どうやら手榴弾に近い物を投げ込まれたらしい。
 焚き火が消され、暗闇に包まれて周囲がどうなってるかわからないので光魔法【ライト】で辺りを照らすと足元に何かがあるのを視界に捉えた。

「うわっ!!  あ、すみません……」
 足元にごろっと転がっているフォーセルの頭部に驚き、無意識に勢い良く蹴り飛ばしてしまった事に、お辞儀をして謝罪の言葉が口を衝いて出てしまうのは、日本人の習性かな?

 お山の大将の2人の近くには、多くのリア充気取りが集まっていたので、被害が大きくそこらかしこに、リア充どもの残骸が転がっていた。

 頭部が吹き飛び、首からドクドク鮮血が溢れ、大の字に欠損した手足を投げ出し仰向けに転がるフォーセルの裸体。
 爆発で衣服が燃え、片足片腕となったムチリとした体は焦がされ、豊満だと思われていた胸には溶けたパットが虚しく張り付いている。

 お前のあのボリューミーな胸の正体はたくさん詰められたパットだったんだ……
 最愛の人も最近やたら胸を気にするので変な親近感が沸いちゃうなぁ……

 男って好きな人の胸なら結構何でもいいから自信持っていいと思うよ!

 そんな事よりも……そりゃリア充爆発しろって思ってたよ?!
 でもこれは酷いでしょ……死屍累々でどれが誰の体の一部かわからん。

 マジで爆発すると結構グロいから軽い気持ちで言うもんじゃないよ?!  毎度ながら吐きそう……

 ウルは攻撃されなかったようで無傷、ベンノは直撃こそ避けた物の、左肩から先を喪失して大火傷を負い皮膚が爛れていた。

 べラルアも生きてはいるが、粉々にされた従者2人の肉片や血液を大量に浴びているのでどの位のダメージを負っているかはわからない。

 セレナとスピナも死ぬ事はないと判断して出なかったようだ。
 彼女達に取って優先順位的に、命を脅かす攻撃でないと助ける事はないらしい。

 何者かの襲撃、それもかなり手慣れた奴等だ。
 俺やウルに被害が及んでない状況からいって、標的は多分あの4人、他は巻きこみ事故だろう。

 となるとこちらの動き知った現国王側の者の仕業で間違い無いと思う。彼、彼女達の親の目が届かない校外授業はうってつけって訳だ

 だが何処から情報が漏れた?   一番怪しいのは今ここに居ないチビデブハゲの教員だが……

「キュウ? キュイ?」
 どうする?  生き返らせる?  と首を傾げてつぶらな瞳で俺見上げるシトリンに軽く頷いて肯定の意を示して間も無く、バラバラに飛び散った肉片や血液が逆再生され人の形を取り戻して行く。

 シトリンの【選命結界】は結界内にいる者全てを蘇らせれる事が出来る。けど、この魔術の本質を知った時はぶるっと震えた。

「ちょ、ちょっと何見てんのー? 不愉快なんですけどー。てか何で私もあんた達も裸なの?!」
 蘇ったフォーセルは自分が一度死んだ等ととはつゆしらず、貧弱な胸を隠しながら一緒に蘇ったイクセ達の舐め回すような視線に悪態を付いてた。

 死んでいなかった者も、欠損した部位が元通りになった事が理解出来ないといった様子だったが説明してやる必要はない。

 頭上には炎属性の獣型の中位精霊が何体か飛び回っていて、再度爆破攻撃を仕掛けて来た。

 それにいち早く気付いたのはイクセ、続いてフォーセルだ。一応実力は嘘ではないらしい。

 彼らの指揮の下、【使役】しているリスやウサギに似た小型の低位精霊を呼び出し、霊力の結界を頭上に張って身を守る。

 頭上から降ってくる手榴弾に似た攻撃を、苦しいながらも力を合わせて何とか凌いでいた。

 学生達は頭上の攻撃を防ぐので手一杯で、不可視化して姿を消して忍び寄る者達の気配にまで気が回っていない。

 俺達が守ってやるしかないか……いささか不本意ではあるが行動しないわけにもいかない。

 精霊も呼べないし魔術も使えないウルには【シーリングボックス】と【輝結界】をかけて身を守るよう言って、気配を消して近づいてくる奴らを、対象に接触する前に撲滅させる腹積もりだ。

 イクセ、フォーセルの下へと忍び寄る影3人を俺が、ベラルアに向かう3人はジル、ベンノに向かう3人をアンジェに、セレナとスピナには頭の精霊達を操る敵へと割り振り、其々散る。

 視認出来ない3人の前に立ち塞がると、俺が気付いている事に気付いた者が声を掛けてきた。

「ほう、学生の分際で我々の気配に気付くとは只者ではないな?」
 彼らの気配の消し方も確かに凄いが、まだ甘い。
 剣術の師であるジョレーナが本気を出せば、目の前に居るのにまるで存在していないかのように認識できないだろう。

「いい師に巡り会えましてね。それで何用ですか?  場合によっては手加減しませんよ?」
 俺は亜空間から刀を二本取り出し、視認出来ない敵に向かって勇ましく戦う意志を示した。

 何てイキってみたけどしんどいんだろうなぁ……まぁなんとかやるか……

「良いでしょう、姿を隠していては力を出し切れません。短い付き合いになるかと思いますがお見知りおきを」
 そう言って黒装束に身を包んだ鋭利な鉤爪がキラリと光る者達が優美に頭を下げた途端、一気に威圧感が高まった。

 もしかして全員ルーと同じ様に【威圧】のスキル持ちか? ルー程の威圧感はないけど、行動が一拍送らされるこのスキルはかなり厄介だ。

「あークソ、やっぱりか!」
 鋭利な鉤爪が俺の皮膚を裂く。指輪で力が制限されているからだけではなく明らかに反応が一拍遅い。いつもなら紙一重で避けて反撃するところだが、一泊遅れるのでかすり傷を負うし反撃がままならない。

 ルチルを取り合って争ったカーティムさんにも散々苦労させられた【威圧】。カーティムさん程扱いはうまくないけど動きが一瞬制限されるというのは戦闘では命取りになる。

 指輪を外すか? 

「キュイ? キュウ?」
 俺がどうしようか少し考えていると、シトリンが大丈夫? 手伝おうか? と言わんばかりにこちらを見上げて頬をつついて来たので、頼むという意味も込めて頬を指先で撫でると嬉しそうに指を小さい両手で抱えて頬ずりした。

 刹那

 矢鱈素早い攻撃を避ける事が出来ず、 鉤爪を受けた長刀が火花を散らし、すかさず追撃を加えて来たもう一方の手を小太刀で受けると少しだけと両足が地面に埋まる。
 能力が低下している今、バフをかけても受けるのはかなり辛い。

 そんな時シトリンは、敵に背を向け腰に手を当てお尻を振った後右手を上げると、背中にびっしり生えた色取り取りの宝石で出来た針が輝きそして……

 一瞬にして無数に伸びた細い針が黒い布で覆われた顔を串刺した。

 後頭部から飛び出した大量の針にはべっとりと血が付着、先端からポタポタと滴っている。

 鍔迫り合いしていた腕の力が抜け、膝から崩れ落ちた際に黒い布がひらりと捲れた。

 あんな愛くるしい動きからどうしてそうなった?!
 もうこんなの人間の顔面とは言わないぞ!!

 皮膚は千切れ、無数に開けられた穴から鮮血が溢れている顔面とは呼べない何かに、胃から不快感がこみ上げくる。

 色取り取りの宝石を、血に染まったルビーに変えたシトリンが褒めて欲しそうにつぶらな瞳で見上げて来たが、敵2人の同時攻撃がそれを遮った。

 響き渡る金属の衝突音、擦れた摩擦で発せられる焼けた匂い、戦いの匂いだ。
 この音と香りは否応なしに緊張感を高まらせる。

 先程ので少し慣れたので反撃が間に合い、2人の胸元を刀の切っ先が僅かに捉え、肉を切った感触が伝わってきた。

 ただ、胸元を切った事で隠されていた豊満な胸が溢れ出したのは予想外で、思わず顔を背けてしまった所を2人は見逃さず、攻撃を繰り出そうとしていたのだが動きが止まった、いや止められたのだ。

 敵2人の背面に現れた半透明の黄色い結界に両手足を結晶の杭で深々と打ち付けられ、身動きを取れなくされていた。動く度に手足に打ち付けられた杭から血が滲んでいるしかなり痛そうだ……

「おい貴様! こんな格好にして何をするつもりだ! 辱める気か! 顔だけじゃなく心まで醜い男め!」
 まぁそうだよなぁ……ボロン胸を出した状態で張りつけとか、そういう事を思われても仕方ないか……でも最後のは結構ダメージうけたよ……

 犯人は勿論シトリン。先程褒めて貰える所だったのに邪魔された事が大層ご立腹らしく、全ての針が逆立ち2人を俺の肩から威嚇していた。

 そして彼女達を挟み込むような形でもう一つ半透明な結界が展開されている。
 何だか凄く嫌な予感がするんだが……

 シトリンが両足を投げ出してペタリと座り込み、可愛く手拍子すると前方の結界がジワリと近づいて行く……

 張りつけになっている二人は逃げる事が出来ず、迫りくる結界に悪態を付いているが、シトリンは楽しそうに手拍子を速めた。

 逃げ出そうともがき、叫び声をあげるが、杭が刺された手足から痛々しく血が流れるだけで、彼女達の運命は変わらない。

 最初に接触したのは胸だ。衣類を切り裂いて零れ出た胸の突起が結界に触れ、徐々に体の方へと豊満な胸が押し込まれていく。
 半透明な結界に汗をかいた胸が、吸い付いて張り付いているのは正直エロイし罪深いと思う。

 何てバカな事を言ってられるのも最初だけ……

 どんどん結界と結界の距離が狭まって行き、メリメリと体が圧迫される痛みに苦しむ悲痛な叫びが結界の隙間から漏れる。
 
 夜はまだ少し肌寒いせいで息は白く、息を吐く度に口元の結界部分の内側が曇っては晴れてを繰り返していた。

 胸の次に接触したのは頬だ。両隣に並ぶ二人が顔を突き合わせる感じに横を向いていた。
 これからお互いの潰れていく様を最後の瞬間として目に焼き付けていくのだ。

 そしてついに……絶叫と共にバキバキっと骨が砕けて行く音が聞こえ始めた。
 どんどん潰されていく頭部は、目や鼻や口から大量に血を流し、余りの痛みに絶叫が絶えず俺の耳に届く。

 勿論その間もシトリンはノリノリで体を揺らして手を叩いている。

 頭部から出た血が露出した胸に流れ落ち、白くて吸い付く柔肌を赤く染めていく。
 豊満な胸に血と汗と涎が交じり合ったことで、動く度に押し潰された胸が結界で擦れ、キュッキュッっと窓を拭いた時になる音が絶叫に紛れて聞こえていた。
谷間には特に血液が多く溜まっているのでチャプチャプと音が聞こえてきそうでもある。

 余りの痛みにジタバタするも打ち付けられた手足から血が出るだけで迫りくる死からは逃れることが出来ない。もがく度結界の内側に、胸の動いた軌跡を己の体内から出た体液で描いて行く。

 両足を投げ出して座るシトリンは嬉しそうにさらに手拍子を速めた。
 こっちの勝ちは確定だしもう良いといったのだが、こうなるとシトリン本人にも止める事は出来ないらしく、助ける事は不可能な様だ……

 結界が更に押し込まれ、頭蓋骨は粉砕、割れた間から脳髄が漏れ出し、下半身からは排泄物が垂れ流しとなり、下に垂れた血液と混ざり合う。肋骨も折れ、折れた勢いで内側で弾けて、勢い良く皮を突き破った所が多くあり血が滲む。

 結界が更に進んで行くと目玉がぐちょりと飛び出し、視神経にブランと繋がった目玉がぶらぶらと宙を舞い、目玉が収まっていた所からは、割れた頭蓋骨から漏れた脳味噌がどろりと溢れた。

 最後にシトリンが強くパンと叩くと勢いよく結界同士が合わさり、半透明な黄色だった結界が真っ赤に染まった。トマトサンドイッチの完成である。

 僅かな隙間から磨り潰された内臓と血液がぐちゅりと飛び出し、漏れ出た彼女達の残骸が地面を赤黒く汚す。結界が消えて残ったのは、薄く延ばされた皮だけ……

 何でサンドイッチておにぎりに比べて高いんだろう、周りがおにぎりを食べている中サンドイッチを食べてると意味不明な優越感を得られるんだよなぁ……そんな学生時代に密かにしていたランチマウントで現実逃避をしながら必死に込み上げてくる不快感を誤魔化す。
 
 いやーしかし世界からまた2人の巨乳が消えてしまった……世界の大事な財産が……

 猛烈な吐き気を堪えながら、褒めて欲しそうに見上げるシトリンを指で撫でてやると「きゅ~」っと甘えた声で満足げに目を細めた。

 こんな愛くるしいハリネズミの見た目に惑わされてはいけない。この子は人の命なんて平気で奪う上位の魔物なんだから……

 一息ついてアンジェを見るとガンブレードで攻撃を受け魔工銃で華麗に応戦して腕や脚を吹き飛ばしたり、銃撃で敵の動きを誘導し、動きを先読みして斬撃を与える戦い方は敵にしたらかなりやりにくいだろう。こっちはもうじき決着がつきそうな状態だ。

銃術と剣術、アクロバティックな動きを組み合わせた独自の戦い方はちょっと憧れる。

 ジルの方も酔っ払いみたいに千鳥足になった最後の一人を、バールの様な物で力いっぱい殴って勝利を収めた所だった。あんまり力が強い方ではないので、本当に倒せたか不安なのか何度も顔面に向かってバールの様な物を振り下ろし、顔面を陥没させていく……もうやめてあげて……

 シトリンもえぐかったけど、顔面を鈍器で叩き割るって言うのも結構グロイと思うんだよ……この世界に来てからというもの血生臭い事ばかりだ……勿論良い事も沢山あったんだけど。

 情報を引き出したいし一人位は俺の方で生かしておくつもりだったんだけどやってしまったものは仕方がない。

 セレナとスピナにいって一人位生け捕りにしてもらえば……

「お父様見て欲しいのよう!」「パパ! ネェネと頑張ったのよう!」
 舌を出して白目を向いた生首の髪を掴んでいる右手、左手をそれぞれ上げて手を振りこちらに声を掛けて来た2人組。
 聞き慣れた口調だけど、声質もセレナとスピナとは違う

「っていうか誰?!」
 月明かりが照らしたのは二人の15歳位の美少女二人。
 1人は洗剤も驚く、驚きの白さで髪から睫毛から肌も色素が抜け落ちた様に白い。所謂アルビノで間違いなく、何処か儚い神秘的な美しさはガラスケースに入れて大事にしまっておきたいと思う程だ。

 もう一人は対照的に小麦色の肌に黒髪黒目、その健康的な美しさには安心感があり、躍動する彼女を誰よりも一番近い場所で見ていたいと思わせられる力強さがあった。

 顔は瓜二つだけど、受ける印象が全く違う二人。
 そんな似ている様で似ていない相反する手枷で繋がれた二人。

「ネェネ! パパはスピナ達の事忘れちゃったの? もうスピナ生きて行けないのよう……」

「違うのよう、この姿であうのが初めてだから、お父様も混乱しているのよう」
うるうるとした心配そうな二人の瞳が俺を射抜く。

「……セレナとスピナなの?」

「そうなのようお父様。今日は半月、セレナ達は満月に近づく程力が高まって行くのよう。だから夜になると力が引き出せる年齢迄自然に成長するのよう」

「満月になるともっと大人になるのよう。次はスピナ達の事忘れないで欲しいのよう……パパに忘れられたら……泣いてしまうのよう……」

 そう言って二人はいつもの様に俺に抱き着いて来たけど、幼女の時とは違って女性らしい香りもするし余りよろしい気はしないが、元々娘みたいに思っていたので全く欲情はしないのが救いだ。

 落ち込ませてしまった二人を慰める為に頭をなでなでしていると足元に何か違和感を感じたので見てみると、8つの引きちぎられた頭部が転がっていて、俺は驚きの声と共に思わず本日二度目の頭部蹴りを行ってしまう。

 遅かったか……散っていた術者を探し出して殲滅するまでの時間があまりにも早い。
 半月の夜で力がかなり引き出せるからなのかな? 

 俺の慌てた姿を見てセレナとスピナはクスっと笑って再度抱き着いて甘えて声を出して俺を見上げる。

「スピナはお父様に褒めて欲しくて頑張ったのよう、だからスピナを沢山褒めて欲しいのよう」

「ううん、スピナよりもネェネの方が沢山頑張ってたのよう、だからネェネを沢山褒めてほしいのよう」
 妹想いの姉想いが微笑ましいけど、見た目の違いに気を取られて今の今まで忘れていたがこいつら両手に生首持ってたんだよなぁ……

 嬉しそうに手振ってる時、千切れた首から滴ってる血がめっちゃ顔についてたし……

 SAN値が削られて今にも発狂してしまいそうだよお父さんは……

 こうして襲撃は生徒達にバレる事なく処理する事が出来て一先ず一段落。
 
「おい一体何があったんだ?」
 全てが終わった時、チビデブハゲの教員がやっと戻ってきて声を荒げた。

 そして事情を説明して、生徒一同が戻るように提案したのだが…

「ダメだ。スライム退治を続行する。異論は許さん。お前達も親に悪い報告をされたくないだろう?」
 ニタっと笑う教員に誰もが何も言えずに俯く。弱みでも握られてるのか?

 そして夜が明け、狩りに出た6人が帰ってこない事に業を煮やした皆が捜索に出ると、少し行ったところで四肢をノコギリの様な切れ味の悪い物で切り落とされ、汚物を垂れ流しにした6人の男女が、首を吊った状態で見つかったのだった…
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