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第百十八話 天翔けるマーライオン
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「物凄く大きいな、3、4メートルはあるんじゃない?」
「ハルストル公国の主君は巨人族だからね、巨人と普通の人間が共存してるのが特徴的な国かな。ククク、まぁ我のエクスカリバールにかかれば一捻りだがな!」
じゃあお前がどうにかしてくれよ……
「空の上で暴れるなって、落ちても助けないよ?」
「ひっ! ま、まぁ今回は我の崇高なる佇まいを拝めれなかった事を生涯悔やみ続けるがよい!」
相変わらず前から俺に抱きついて空の上でも奇妙なポーズを取ろうとジタバタ暴れるジルと俺は文字通り高みの見物を決め込むつもりだ。
左肩にはハリネズミ型の魔物、シトリンが乗っていて隣にはオニキス。
柘榴とセレナ、スピナは地上にて待機。
やはりメザイヌ王国の一件で皆疲れていたし、俺もロイとの戦いで消費した魔力が完全回復していないのでオニキス達の提案は助かるんだが……
ロイ達四人は休ませ、エメも俺の中で熟睡、ジルは野次馬根性でついてきただけだ。
実際約4000に4人だけって大丈夫なのか?
「キュウ、キュイキュイ!」
俺の心配を感じ取ったのか、二本の足で立ち上がり腰に手を当て胸をトンと叩いて、まるで大船に乗った気で居て! と言わんばかりの可愛い振る舞いに、思わず笑みを零してシトリンの頭を人差し指で撫でた
「そうだね、シトリンも居るから安心だね。さてそろそろか……」
現在ハルストル公国軍はペネアノに進行している途中であり、陣形も機動力重視の移動用の物なので側面や後方は防御が薄く、叩くにはこれほどいいタイミングはないだろう。
無駄だとは思うけど一応引いてくれないか空から声を掛けてみる事とした
「ここは既にペネアノ領土内、直ちに兵を引いてくれればこちらとしては何もしません。そちらはハルストルス公国軍とお見受けしますが、ペネアノに何用ですか?」
俺の声に歩みを止めた兵達が、お互いの顔を見合わせるとその場がどっと沸き、先行部隊を仕切っている隊長らしき巨人が腹を抱えながら俺達に応答をする
「ぎゃはは、何だお前達は、たった三人で何が出来るってんだ? それに女を抱えながらと来た、お、その女今日は縞々のパンツだな」
ジルは縞パン派か……ってかよくよく考えればだいしゅきホールドで空に居るんだから下から丸見えじゃないか!
クソ、だいしゅきホールドは自体は役得なのに何故か負けた気がする!!
ジルは恥ずかしかったのかパーカーのフードを被りミニスカートを黙って抑さえて息を大きく吸い込んで言葉を発する
「なに人のパンツみとんじゃいこのデカブツが! 戦争じゃい! お前ら覚悟しろよ! 皆殺しにしてやるんだからね、このショウ君が!」
えー?! 止めろこのクズ野郎が!! せめて自分でやれ!
丸投げとかマジで人間のゴミだと思うし、そんな事言える神経が全く理解できん!
「ほーん、てめぇがここに居るハルストルス公国軍全員を相手するって? 上等じゃねぇーか! 兄者からの命令だ、俺達は引く気はねぇ! たった三人でも容赦なく叩き潰す!」
完全にやる気になっちゃったじゃないか! まぁどっちにしても引く気はないか……それなら……
「おうおうおう舐めてもらっちゃ困るぜハルストルス公国軍の皆々様よぉ! お前逃げるタイミングをうしなったぜぇ? ジルのパンツなんてどうでも良いけどよぉ、俺達にケンカを売った罪で皆殺しにしてやんよ! このオニキスさんがなっ!」
笹山翔という人間の性格は基本的にゴミである、やりたくない事からは人を売ってでも逃げる男なのだ。
俺のは丸投げじゃない、業務委託だ。
「我が君、皆殺しという事でよろしいのですね?」
こいつだけマジだ……冗談通じないタイプ?! 完全に殺る気満々の目をしてんじゃん!
「いやあれはただのノリだから、退けるだけでいいから……やっておしまいオニキスさん!」
「畏まりました、退く前に殲滅すればよいのですね?」
全然違う!! っていうかなんか怒ってる?!
「ぶわーはっはっ! 俺達を皆殺しとか何言って……」
巨人の笑い声が消え、そして巨人も消えていた、いや消し炭になっていたのだ。
残された兵達は目の前で起こった事に理解が追い付かずただただその場に立ち尽くす
「我が君のお言葉を遮るという愚かな事は出来ないので我慢していたがもう限界だ。我が君の崇高なる言葉を拝聴出来たのにも関わらず、その有難さも理解せず愚弄した貴様達、全員生かしておかんぞ!」
どこに崇高な言葉なんてございましたでしょうか?
自分の小ささを改めて確認させる新しいタイプのいじめですか?
オニキスが黒翼を羽ばたかせ、500人程集まっている場所の上空へと移動し、手の平を広げ右手を天に掲げる
「愚かなお前達に数秒やる、その間に今日、偉大な我が君に出会えた事に感謝し、そして死を有難く受け入れるが良い!【黒暗電霆】」
すみませんもうやめて下さい……
君はやればできる子! みたいに褒める所がないから無理くり褒められてる様で複雑な気分になるんです……
掲げられたオニキスの右手に黒い魔力が集まり、球体を形取っていく。
直径十メートル程の大きさになった所で一気に手の平サイズに凝縮されたと思ったら、無数の黒い閃光となって地上に降り注いだ!
雷鳴が轟き、俺の耳に届いた時には跡形もなく500人全てが消し炭と化してしまっていて残されたのは焼け焦げた嫌な臭いだけだった。
オニキスの能力は雷系か、純粋な雷って訳じゃなく、アンデッドの特有の力が混じっているから黒い雷なんだろうか?
にしても広範囲な上にあの威力は反則的だな……
「貴様! 卑怯者め! 地上に降りて戦え!」
「下らん。だが我が君に力を見て貰うにもその方が良いかもしれんな。いいだろう挑発に乗ってやろう、かかって来るがいい【漆黒雷轟剣】」
オニキスが地上に降り立ち、胸の前でパンッと合掌した後ゆっくり両手を広げると二メートル程もある黒い稲妻が迸った雷で出来た大剣が生まれ、その禍々しさに辺りが騒然とするが本人は全く気にしていない。
「一斉にかかれ!」
増援に来た大群に向かってオニキスが行ったのはただの薙ぎ払い。
しかし敵の防具などは意味をなさずに易々と切り裂き、今度は消し炭になることなく一瞬で何もかも蒸発させてしまった。
先程とは違い威力を分散させず、雷を剣という形で顕現させた事で、破壊力がさっきよりも高いのか、【闘気】を纏えない者はそりゃ即死だわな……
ここは大丈夫だろう、セレナとスピナの所をへ行ってみよっと
俺が去っていくのを悲しそうな顔で見るオニキスを視界の端に捉えながら軍勢の中央側面へと移動する。
「お嬢ちゃん達こんな所に居たら危ないよ、手枷を付けられているけど何処かから逃げて来たのかい?」
俺がセレナとスピナがいる所に着くと、心優しき巨人族の兵が、小さな二人の前に屈んで、平原に不自然に佇む手枷を嵌められた少女達の身を案じて声を掛けていた所で、セレナとスピナはお互いに顔を見合わせてクスクスと笑った
「オニキスがゴロゴロ鳴らして楽しそうなのよう」
「ネェネ、スピナ達もパパに良い所見せて後で褒めて貰うのよう」
二人とも【ステルス】をかかっているにも関わらず俺がいるのが分かっているみたいで、敵陣真っただ中だというのにこちらへと手を振っている
「何かいるのかい? そんな事よりも危ないから早くお逃げ、ここに居たら巻き込まれるから」
「おじさんはとても優しくて良い人なのよう、でもごめんね」
「おじさんの事は好きだけど、スピナとネェネはパパが一番なのよう!」
「「ねー」」
「何を言ってるんだい? パパ?」
首を傾げる巨人をよそに二人は手を繋いで手枷の鎖をじゃらじゃらと鳴らした
「「月影魔法【幻月】」」
あれは……分身か!!
二人の両脇に分身が現れ、計六人となり、その只ならぬ雰囲気に巨人はやっと目の前にいる幼女が自分達の敵だという事を認識したようだ
「敵襲!! うっ! なんなんだ?! 俺の腕ー!!」
ブチブチッという音と共に、巨人の腕が地に落ち、気付かない内に巨人の肘から先が何かに引っ張られた様に引き千切られていた
「ネェネ、昼間は力が出ないのよう、大丈夫かな? パパにがっかりされないかな?」
「今日は満月じゃないから夜でも本当の力は出せないのよう。でもパパは優しいから大丈夫なのよう、それに……」
「ぐげっ!」
間抜けな声と共に心優しい巨人の首が引き千切れ、血を噴き出しながら前方へと倒れ込んだ
「弱いから全力を出せなくても大丈夫なのよう」
噴き出す血を顔に浴びても全く動じる事なく、ニコニコと無邪気に笑う二人には言い知れぬ怖さがあり、敵襲の声を聞いて集まって来た他の兵も近づけない様子だった
何倍も大きな体を持つ巨人が幼女にたじろいでいる姿は少し滑稽でもある
「じゃあネェネ、沢山殺すのよう! そしたらパパ喜んでくれるのよう!」
「うんうん、お父様の為に頑張るのよう! それじゃあおじさん達、行くのよう!」
双子の宣言に、一瞬で始末された巨人を見ていた兵達の顔は青ざめた。
そして三組のセレナとスピナが敵陣を駆け巡る。
彼女が通った場所に居た兵は全て頭部を引き千切られ、そこら中に千切られた頭部と胴体が散乱していた。
オニキスは死体が消し炭になるか蒸発していたのであんまり感じなかったけど、この二人の戦いは大量に死体を生み出すのでSAN値がガリガリと削れていく……
首が引き千切れる瞬間は結構えぐい、人間の皮は思ったよりも伸びるし、背骨までの一緒に抜けてくることがある……
頭を引力で引っ張り、胴体を斥力で引き離して首を引き千切るって感じなのかな?
可愛いのに結構えぐい能力の使い方をするなこの二人……
そして攻撃を体に受けてもまるで実態じゃないみたいにどの個体にもダメージが全く見受けられないし、今は全力を出せないとも言っていたので二人にはまだまだ秘密がありそうだな。
断末魔と共に生み出される首なし死体に、不快感が胃から込み上げてくるが、巨乳でビンタされる妄想をして何とか抑えた。
そろそろブチブチと首を引きちぎって行くのを見るのが辛くなってきたので柘榴の方へと移動する。
柘榴を探して移動していると、彼女は最後方にいた。
前方にはオニキス、中央側面にはセレナとスピナ、後方に柘榴とかお前ら逃がす気ないよな……
別に殲滅じゃなくて、退けるだけで良いんだけど……
彼女は何やら4000の軍を率いてる一番偉い人と話をしている様だ
「報告します、我がハルストルス軍の被害は甚大! 先行隊は黒翼の雷使いに殲滅、中央の部隊も、謎の双子に手も足も出ず壊滅的状況です!」
「ほら、わっち の言った通りになりんしたでしょ? 軍を率いる身としてはここで引くのが得策だと思いんす。あの方は優しいので、退却する者に手を出す事はないでありんすぇ。この軍は実力者も少ないですし、大方本国からの援軍も期待出来ない決死隊といった所でありんすかね?」
「確かにそうだ、全滅なんて通常、戦では起こりえない。なぜならある程度の兵を失えば体勢を立て直す為にも退却をする必要があるからだ。だが俺は引かん。全軍に伝えろ、逃げたい者は逃げろと!」
「素晴らしい覚悟でありんすね 。命を賭けるに値する主人といわす事でありんすか?」
「巨人族の盃は絶対だ。兄者に死ねと言われれば死ぬが弟分の役目。そして今回受けた命はペネアノを取って来るまで戻って来るなという物だ」
巨人族は中々の縦社会の様だ、常にスクールカースト最下位に居た俺の一番苦手なやつ……
彼の覚悟に感嘆した柘榴は、赤く塗られた爪が美しい華奢な手で小さく拍手をして彼の覚悟を受け取る
「わかりんした。わっちも愛するあの方の為ならこなたの命を捨てる事など造作もない事なのでぬしの気持ちは良くわかりんす」
柘榴も俺とジルの存在に即気付いた様で小く飛ばしたウインクにドキッとさせられた
「ならばその覚悟に応えてお相手しんしょう。他の方も逃げるなら今の内でありんす。でないと……みーんな死んでしまうでありんすから……【蛇骨煙管・鬱煙・陰陰滅滅】」
開けた着物から覗く豊満な胸元から蛇骨で出来た煙管を取り出し、煙を潜らせ吐き出されたのは黒い煙で、彼女を中心にして広範囲に展開された煙は、逃げ出さずに残った役50人全てを飲み込んだ。
「今日はあの方名前を頂いただけではなく、何度も名を呼ばれたので 気分がいいでありんすぇ。でありんすから効果はそんなにないはずなんでありんすが、皆さん物凄く弱くなってんせんか? あらわっちったら、お馬鹿さん、弱いのは最初からでありんすね 、お許しなんし」
黒い煙に触れてみると力が一気に抜けるような感覚があり、これがデバフ効果のある煙だという事が理解出来ただけではなく、結界の役割も果たしていて中にいる者が逃げられないようになっていた。
話の内容的に気分が滅入れば滅入る程この煙の効果が増すって事なんだろうなきっと。
「これ程の相手と戦えるとは兄者に感謝だな。お前達大丈夫だ、必ずお前達を生きて国に返す!」
人数的に有利なはずなのに全く勝てる気がしない相手にも巨人達は全く怯む事がなく、その姿は勇ましい。
みなこの男の言葉が強がりだとわかっているのにも関わらず、鼓舞させられたようで一気に士気が上昇したようだ。
「まずは数を減らさせてもらうでありんす【蛇骨笄】」
柘榴に巻き付いている百足のような蛇骨が、鋭利な骨で出来た箸型の髪飾りを無数に飛ばすと、彼の鼓舞も虚しく、大隊を率いるトップの巨人以外が全員即刻地に伏せることになった
直撃した者はの体は機関銃で撃たれた様にぐちゃぐちゃで臓物は飛び出し、脳髄が漏れ出していて、またもやSAN値が削られる事となる。
「毒か……」
直撃を避け避けれた者もいたが、全てとはいかず僅かにかすり傷を負ったりしていた。
かすった場所は不自然に変色していき、物凄い速さで全身を侵食していく。
「その通り、これはそんな に強くない毒なんでありんすが、わっちの陰陰滅滅で弱くなりんした 皆さんには少々辛かったでありんすか? でもぬしは意外と俊敏でありんすね 、そんなに大きい体なのにみな避けるなんて……」
「これでもそこそこ出来る方だと自負してるよ。巨人族の能力上昇は十八番なんでね!【豪腕】」
巨人の力が爆発的に高まり、彼の持つ大剣が何度も柘榴に振り下ろされるが、絡みついた蛇骨が火花を散らしながら全て受け止める。
「兄者! 今だ!」
巨人の大剣を蛇骨が受け止める度に起こる風に髪を靡かせ涼しそうにしている柘榴の後ろから気配を消していた2人の巨人が現れ、柘榴を守る蛇骨を掴んで動き封じた。
「この子に触れたら毒が回りんすよ?」
どうやら柘榴に蜷局を巻いている蛇骨は猛毒を持っているらしく、2人の巨人の体が物凄い勢いで壊死して行き、やがて立ったまま生き絶えて行く。
「弟達よ、感謝する! このチャンス無駄にはしない!【豪腕脳天殺】」
身体強化で何倍にも太くなった両腕でしっかり握られた大剣は【闘気】を纏っており、一撃でも貰えば骨も残らず吹き飛ぶ程の威力がある事は容易に想像がつくが、柘榴は避けるでも受けるそぶりをするでもなく、ただ立ち尽くしていた。
そんな高火力の攻撃が柘榴の頭にヒットするが、濡羽色の髪と、鮮やかな彼岸花が描かれた黒地の着物を揺らしただけで彼女にはまるでダメージがない。
「これがわっち達の【初会】、わっちにダメージを与えるには【裏】を経て【馴染み】にならないと、ぬしからの攻撃は一切受け付けいたしんせん」
あれか、最高峰の遊女って最低でも三回以上会わないと何もさせてくれないんだよな確か、それと同じ様に攻撃を何回か重ねないとダメな訳ね。
てかそれって普通にチートじゃね?
切り札である必殺技も全く効果がなかった事が相当ショックだったのか、巨人は目を見開きその場から動けずにいた。
「そろそろわっちも飽きて来たでありんす。ゆーびきりげんまん嘘吐いたら針千本飲-ます、指切った……えい!」
突然歌い出した柘榴は、自分に巻き着いている蛇骨に生えた笄で己自身の指を切って流れた血を巨人の脚に押し付けると、血が蛇の刺青となって巨人の体に巻き付いて行く。
「ぬしは先程言いんした。お前達を生きて国に返すと。兄様も大事だけれど、ぬしは部下も大事にしていんす。ぬしは本心から兄様に命令に従おうと思っていたんでありんすかぇ? もっと的確に命令してもらえていれば部下は死なずに済んだ。力の差は歴然、ぬし、本当は退却したかったんではないでありんすか? 」
「巨人族の盃は絶対だ! 俺は本心から兄者の命令に従っている、その為なら部下を失うのも致し方ない!」
そんな彼の言葉を聞いて柘榴はニヤリと笑ったその顔に俺の背筋は凍てつく
「……うーそついた……わっちの【指切り】が発動するでありんす……」
彼に蜷局を巻いていた刺青が本物の蛇骨へと具現化、蛇骨の頭部と向かい合う様に彼の顔を無理やり上に向けさせ、閉じられていた口を強引にこじ開ける
「わっちは言いんしたよ? 嘘ついたら針千本飲ますと。本当は部下を死なせない為に引きたかったんでありんしょう? 高潔で勇ましいぬしを殺すのは心苦しいですありんすけど、約束を破ったのはぬしでありんすぇ? それでは……死んでおくんなまし【飽満蛇骨針】」
向かい合った蛇骨の頭部の口が開き、大量の骨針が巨人の口に向かって飛んで行くが、勿論全てがそのまま胃に届く訳などはなく、喉を裂きながら胃や肺などの内臓を貫通し、腹を突き破って大量の血塗れの骨針が臓物と共に辺りに転がり落ちた。
俺はあまりに目を背けたく光景に固形物が上がってきたのだが、湯気が立っている脱ぎたてほやほやの下着を妄想して何とか耐える……
柘榴の能力はトリッキーなのが多いな
あの【指切り】っていうのも嘘を吐いた相手に強制的に攻撃を食らわせる感じかな?
恐らくではあるが、あれは魔法という感じもしないし、呪術に近いのではないだろうか?
多分柘榴が嘘を吐いた場合、あの針の餌食になるのは柘榴自身。
とは言え彼女に勝つのは難しいだろう。他の面々の中でも、一番敵だったら戦いにくいのは間違いなく柘榴だな
「んきゅ!!」
シトリンの声にハッとして周りと見ると、逃げずに残っていた100人程の魔術士の部隊が【ステルス】を見破り、地上から魔術を放って俺達を撃ち落とさんと迫っている所だったので、俺は慌てて障壁を展開しようとするが、既に結界が展開されたらしく、着弾するかなり前で魔術が消滅。
「シトリンがやってくれたの?」
「キュイ? キュイキュイ!」
どう凄いでしょ? もっと褒めて、と言わんばかり俺の頬に顔を擦り付けてくる姿がとても可愛い。
もっと褒めて欲しいシトリンはそれだけでは終わらないようで、額にある小さい角が輝き出すと、魔術師達の頭上に黄色い半透明の大きな立方体が現れる
俺の【シーリングボックス】みたいな中に何かを閉じ込める箱だと思っていたのだが、考えが余りにも甘かったらしい……
現れた立方体が魔術士達目掛けて落ちて行く…… 下敷きになった魔術士達は……全員何から何までぐちゃりと潰れていて、接合された立方体と地面の隙間から、強い力で磨り潰され事によってもはや人体とは呼べなくなった赤い何かがぐちゅりと滲み出てきていた。
立方体が消えるとそこには漫画でよくあるペラペラになった人間がいる訳などはなく、リアルは凄惨な物だ……
ダメだ、冷静になれ! エロイ妄想をしろ!
我が最愛の人にしてリールモルト王国第一王女であり、リールモルの至宝と呼ばれる程の美しさを持つルーメリア・レネ・リールモルトの胸を思い出せ!!
そして感じろ、あの感触を!!
「おえー」
俺は空の上から地上に向かってキラキラ光る何かを大量に散布した……
ルー……違うんだ……俺は決して君の起伏の無い胸を考えてしまったから吐いた訳じゃないんだ……
ただ……揉んだ感触を思い出せなくて、エロが不快感を凌駕できなかっただけなんだ……
もし、俺の身内で一番の巨乳、エメの胸の感触の事を考えていたら……
いや、止めておこう、これ以上考えるには命を捨てる覚悟が必要だ。
シトリンの能力は恐らく結界や封印、結晶に関する物だろう。
ハルストルス公国との防衛戦は、敵戦力に実力者が少な過ぎるという不可解な点はあったが、俺達の勝利に終わった。
4000の内、500名程は逃げて行ったが、それを追う様な事はしない。
今回の目的はあくまで防衛なのだから。
にしても……空から見下ろしたこの光景は常軌を逸している……
大量の消し炭に、首と胴体が離れた死体、機関銃に撃たれたが如くぐちゃぐちゃになった死体や、強い力で圧殺され、原形を留められず最早死体とすら呼べない何か散乱しているこの状況……
辺りはオニキスの雷で蒸発させた人間達の不快な匂いと、セレナとスピナが量産した首なし死体から溢れ出す大量の血の匂いが混ざり合い、この世の物とは思えない程不愉快な匂いが蔓延していた。
俺がやった事と言えば、みんなが死体を量産している時に、高みの見物を決め込んで、もんじゃ焼きを量産するという事。 簡単なお仕事だろう?
背中をさすってくれているのはジルだと言うのに、今回ばかりは天使かと勘違いしてしまいそうだった……
ジルの見た目はとても可愛いが、内面があれなのでなしなのだ。
「ありがとうジル、でもさ…… 最終的には結局こうなっていたかもしれないけど、ジルが俺に丸投げした事一生根に持つからね!」
「ちっさ! うわっちっさ! ショウ君だってオニキスに丸投げした癖に!」
それはそれ、これはこれだ。
そうして俺の胃が空になった所で次の戦場へと向かうのであった……
「ハルストル公国の主君は巨人族だからね、巨人と普通の人間が共存してるのが特徴的な国かな。ククク、まぁ我のエクスカリバールにかかれば一捻りだがな!」
じゃあお前がどうにかしてくれよ……
「空の上で暴れるなって、落ちても助けないよ?」
「ひっ! ま、まぁ今回は我の崇高なる佇まいを拝めれなかった事を生涯悔やみ続けるがよい!」
相変わらず前から俺に抱きついて空の上でも奇妙なポーズを取ろうとジタバタ暴れるジルと俺は文字通り高みの見物を決め込むつもりだ。
左肩にはハリネズミ型の魔物、シトリンが乗っていて隣にはオニキス。
柘榴とセレナ、スピナは地上にて待機。
やはりメザイヌ王国の一件で皆疲れていたし、俺もロイとの戦いで消費した魔力が完全回復していないのでオニキス達の提案は助かるんだが……
ロイ達四人は休ませ、エメも俺の中で熟睡、ジルは野次馬根性でついてきただけだ。
実際約4000に4人だけって大丈夫なのか?
「キュウ、キュイキュイ!」
俺の心配を感じ取ったのか、二本の足で立ち上がり腰に手を当て胸をトンと叩いて、まるで大船に乗った気で居て! と言わんばかりの可愛い振る舞いに、思わず笑みを零してシトリンの頭を人差し指で撫でた
「そうだね、シトリンも居るから安心だね。さてそろそろか……」
現在ハルストル公国軍はペネアノに進行している途中であり、陣形も機動力重視の移動用の物なので側面や後方は防御が薄く、叩くにはこれほどいいタイミングはないだろう。
無駄だとは思うけど一応引いてくれないか空から声を掛けてみる事とした
「ここは既にペネアノ領土内、直ちに兵を引いてくれればこちらとしては何もしません。そちらはハルストルス公国軍とお見受けしますが、ペネアノに何用ですか?」
俺の声に歩みを止めた兵達が、お互いの顔を見合わせるとその場がどっと沸き、先行部隊を仕切っている隊長らしき巨人が腹を抱えながら俺達に応答をする
「ぎゃはは、何だお前達は、たった三人で何が出来るってんだ? それに女を抱えながらと来た、お、その女今日は縞々のパンツだな」
ジルは縞パン派か……ってかよくよく考えればだいしゅきホールドで空に居るんだから下から丸見えじゃないか!
クソ、だいしゅきホールドは自体は役得なのに何故か負けた気がする!!
ジルは恥ずかしかったのかパーカーのフードを被りミニスカートを黙って抑さえて息を大きく吸い込んで言葉を発する
「なに人のパンツみとんじゃいこのデカブツが! 戦争じゃい! お前ら覚悟しろよ! 皆殺しにしてやるんだからね、このショウ君が!」
えー?! 止めろこのクズ野郎が!! せめて自分でやれ!
丸投げとかマジで人間のゴミだと思うし、そんな事言える神経が全く理解できん!
「ほーん、てめぇがここに居るハルストルス公国軍全員を相手するって? 上等じゃねぇーか! 兄者からの命令だ、俺達は引く気はねぇ! たった三人でも容赦なく叩き潰す!」
完全にやる気になっちゃったじゃないか! まぁどっちにしても引く気はないか……それなら……
「おうおうおう舐めてもらっちゃ困るぜハルストルス公国軍の皆々様よぉ! お前逃げるタイミングをうしなったぜぇ? ジルのパンツなんてどうでも良いけどよぉ、俺達にケンカを売った罪で皆殺しにしてやんよ! このオニキスさんがなっ!」
笹山翔という人間の性格は基本的にゴミである、やりたくない事からは人を売ってでも逃げる男なのだ。
俺のは丸投げじゃない、業務委託だ。
「我が君、皆殺しという事でよろしいのですね?」
こいつだけマジだ……冗談通じないタイプ?! 完全に殺る気満々の目をしてんじゃん!
「いやあれはただのノリだから、退けるだけでいいから……やっておしまいオニキスさん!」
「畏まりました、退く前に殲滅すればよいのですね?」
全然違う!! っていうかなんか怒ってる?!
「ぶわーはっはっ! 俺達を皆殺しとか何言って……」
巨人の笑い声が消え、そして巨人も消えていた、いや消し炭になっていたのだ。
残された兵達は目の前で起こった事に理解が追い付かずただただその場に立ち尽くす
「我が君のお言葉を遮るという愚かな事は出来ないので我慢していたがもう限界だ。我が君の崇高なる言葉を拝聴出来たのにも関わらず、その有難さも理解せず愚弄した貴様達、全員生かしておかんぞ!」
どこに崇高な言葉なんてございましたでしょうか?
自分の小ささを改めて確認させる新しいタイプのいじめですか?
オニキスが黒翼を羽ばたかせ、500人程集まっている場所の上空へと移動し、手の平を広げ右手を天に掲げる
「愚かなお前達に数秒やる、その間に今日、偉大な我が君に出会えた事に感謝し、そして死を有難く受け入れるが良い!【黒暗電霆】」
すみませんもうやめて下さい……
君はやればできる子! みたいに褒める所がないから無理くり褒められてる様で複雑な気分になるんです……
掲げられたオニキスの右手に黒い魔力が集まり、球体を形取っていく。
直径十メートル程の大きさになった所で一気に手の平サイズに凝縮されたと思ったら、無数の黒い閃光となって地上に降り注いだ!
雷鳴が轟き、俺の耳に届いた時には跡形もなく500人全てが消し炭と化してしまっていて残されたのは焼け焦げた嫌な臭いだけだった。
オニキスの能力は雷系か、純粋な雷って訳じゃなく、アンデッドの特有の力が混じっているから黒い雷なんだろうか?
にしても広範囲な上にあの威力は反則的だな……
「貴様! 卑怯者め! 地上に降りて戦え!」
「下らん。だが我が君に力を見て貰うにもその方が良いかもしれんな。いいだろう挑発に乗ってやろう、かかって来るがいい【漆黒雷轟剣】」
オニキスが地上に降り立ち、胸の前でパンッと合掌した後ゆっくり両手を広げると二メートル程もある黒い稲妻が迸った雷で出来た大剣が生まれ、その禍々しさに辺りが騒然とするが本人は全く気にしていない。
「一斉にかかれ!」
増援に来た大群に向かってオニキスが行ったのはただの薙ぎ払い。
しかし敵の防具などは意味をなさずに易々と切り裂き、今度は消し炭になることなく一瞬で何もかも蒸発させてしまった。
先程とは違い威力を分散させず、雷を剣という形で顕現させた事で、破壊力がさっきよりも高いのか、【闘気】を纏えない者はそりゃ即死だわな……
ここは大丈夫だろう、セレナとスピナの所をへ行ってみよっと
俺が去っていくのを悲しそうな顔で見るオニキスを視界の端に捉えながら軍勢の中央側面へと移動する。
「お嬢ちゃん達こんな所に居たら危ないよ、手枷を付けられているけど何処かから逃げて来たのかい?」
俺がセレナとスピナがいる所に着くと、心優しき巨人族の兵が、小さな二人の前に屈んで、平原に不自然に佇む手枷を嵌められた少女達の身を案じて声を掛けていた所で、セレナとスピナはお互いに顔を見合わせてクスクスと笑った
「オニキスがゴロゴロ鳴らして楽しそうなのよう」
「ネェネ、スピナ達もパパに良い所見せて後で褒めて貰うのよう」
二人とも【ステルス】をかかっているにも関わらず俺がいるのが分かっているみたいで、敵陣真っただ中だというのにこちらへと手を振っている
「何かいるのかい? そんな事よりも危ないから早くお逃げ、ここに居たら巻き込まれるから」
「おじさんはとても優しくて良い人なのよう、でもごめんね」
「おじさんの事は好きだけど、スピナとネェネはパパが一番なのよう!」
「「ねー」」
「何を言ってるんだい? パパ?」
首を傾げる巨人をよそに二人は手を繋いで手枷の鎖をじゃらじゃらと鳴らした
「「月影魔法【幻月】」」
あれは……分身か!!
二人の両脇に分身が現れ、計六人となり、その只ならぬ雰囲気に巨人はやっと目の前にいる幼女が自分達の敵だという事を認識したようだ
「敵襲!! うっ! なんなんだ?! 俺の腕ー!!」
ブチブチッという音と共に、巨人の腕が地に落ち、気付かない内に巨人の肘から先が何かに引っ張られた様に引き千切られていた
「ネェネ、昼間は力が出ないのよう、大丈夫かな? パパにがっかりされないかな?」
「今日は満月じゃないから夜でも本当の力は出せないのよう。でもパパは優しいから大丈夫なのよう、それに……」
「ぐげっ!」
間抜けな声と共に心優しい巨人の首が引き千切れ、血を噴き出しながら前方へと倒れ込んだ
「弱いから全力を出せなくても大丈夫なのよう」
噴き出す血を顔に浴びても全く動じる事なく、ニコニコと無邪気に笑う二人には言い知れぬ怖さがあり、敵襲の声を聞いて集まって来た他の兵も近づけない様子だった
何倍も大きな体を持つ巨人が幼女にたじろいでいる姿は少し滑稽でもある
「じゃあネェネ、沢山殺すのよう! そしたらパパ喜んでくれるのよう!」
「うんうん、お父様の為に頑張るのよう! それじゃあおじさん達、行くのよう!」
双子の宣言に、一瞬で始末された巨人を見ていた兵達の顔は青ざめた。
そして三組のセレナとスピナが敵陣を駆け巡る。
彼女が通った場所に居た兵は全て頭部を引き千切られ、そこら中に千切られた頭部と胴体が散乱していた。
オニキスは死体が消し炭になるか蒸発していたのであんまり感じなかったけど、この二人の戦いは大量に死体を生み出すのでSAN値がガリガリと削れていく……
首が引き千切れる瞬間は結構えぐい、人間の皮は思ったよりも伸びるし、背骨までの一緒に抜けてくることがある……
頭を引力で引っ張り、胴体を斥力で引き離して首を引き千切るって感じなのかな?
可愛いのに結構えぐい能力の使い方をするなこの二人……
そして攻撃を体に受けてもまるで実態じゃないみたいにどの個体にもダメージが全く見受けられないし、今は全力を出せないとも言っていたので二人にはまだまだ秘密がありそうだな。
断末魔と共に生み出される首なし死体に、不快感が胃から込み上げてくるが、巨乳でビンタされる妄想をして何とか抑えた。
そろそろブチブチと首を引きちぎって行くのを見るのが辛くなってきたので柘榴の方へと移動する。
柘榴を探して移動していると、彼女は最後方にいた。
前方にはオニキス、中央側面にはセレナとスピナ、後方に柘榴とかお前ら逃がす気ないよな……
別に殲滅じゃなくて、退けるだけで良いんだけど……
彼女は何やら4000の軍を率いてる一番偉い人と話をしている様だ
「報告します、我がハルストルス軍の被害は甚大! 先行隊は黒翼の雷使いに殲滅、中央の部隊も、謎の双子に手も足も出ず壊滅的状況です!」
「ほら、わっち の言った通りになりんしたでしょ? 軍を率いる身としてはここで引くのが得策だと思いんす。あの方は優しいので、退却する者に手を出す事はないでありんすぇ。この軍は実力者も少ないですし、大方本国からの援軍も期待出来ない決死隊といった所でありんすかね?」
「確かにそうだ、全滅なんて通常、戦では起こりえない。なぜならある程度の兵を失えば体勢を立て直す為にも退却をする必要があるからだ。だが俺は引かん。全軍に伝えろ、逃げたい者は逃げろと!」
「素晴らしい覚悟でありんすね 。命を賭けるに値する主人といわす事でありんすか?」
「巨人族の盃は絶対だ。兄者に死ねと言われれば死ぬが弟分の役目。そして今回受けた命はペネアノを取って来るまで戻って来るなという物だ」
巨人族は中々の縦社会の様だ、常にスクールカースト最下位に居た俺の一番苦手なやつ……
彼の覚悟に感嘆した柘榴は、赤く塗られた爪が美しい華奢な手で小さく拍手をして彼の覚悟を受け取る
「わかりんした。わっちも愛するあの方の為ならこなたの命を捨てる事など造作もない事なのでぬしの気持ちは良くわかりんす」
柘榴も俺とジルの存在に即気付いた様で小く飛ばしたウインクにドキッとさせられた
「ならばその覚悟に応えてお相手しんしょう。他の方も逃げるなら今の内でありんす。でないと……みーんな死んでしまうでありんすから……【蛇骨煙管・鬱煙・陰陰滅滅】」
開けた着物から覗く豊満な胸元から蛇骨で出来た煙管を取り出し、煙を潜らせ吐き出されたのは黒い煙で、彼女を中心にして広範囲に展開された煙は、逃げ出さずに残った役50人全てを飲み込んだ。
「今日はあの方名前を頂いただけではなく、何度も名を呼ばれたので 気分がいいでありんすぇ。でありんすから効果はそんなにないはずなんでありんすが、皆さん物凄く弱くなってんせんか? あらわっちったら、お馬鹿さん、弱いのは最初からでありんすね 、お許しなんし」
黒い煙に触れてみると力が一気に抜けるような感覚があり、これがデバフ効果のある煙だという事が理解出来ただけではなく、結界の役割も果たしていて中にいる者が逃げられないようになっていた。
話の内容的に気分が滅入れば滅入る程この煙の効果が増すって事なんだろうなきっと。
「これ程の相手と戦えるとは兄者に感謝だな。お前達大丈夫だ、必ずお前達を生きて国に返す!」
人数的に有利なはずなのに全く勝てる気がしない相手にも巨人達は全く怯む事がなく、その姿は勇ましい。
みなこの男の言葉が強がりだとわかっているのにも関わらず、鼓舞させられたようで一気に士気が上昇したようだ。
「まずは数を減らさせてもらうでありんす【蛇骨笄】」
柘榴に巻き付いている百足のような蛇骨が、鋭利な骨で出来た箸型の髪飾りを無数に飛ばすと、彼の鼓舞も虚しく、大隊を率いるトップの巨人以外が全員即刻地に伏せることになった
直撃した者はの体は機関銃で撃たれた様にぐちゃぐちゃで臓物は飛び出し、脳髄が漏れ出していて、またもやSAN値が削られる事となる。
「毒か……」
直撃を避け避けれた者もいたが、全てとはいかず僅かにかすり傷を負ったりしていた。
かすった場所は不自然に変色していき、物凄い速さで全身を侵食していく。
「その通り、これはそんな に強くない毒なんでありんすが、わっちの陰陰滅滅で弱くなりんした 皆さんには少々辛かったでありんすか? でもぬしは意外と俊敏でありんすね 、そんなに大きい体なのにみな避けるなんて……」
「これでもそこそこ出来る方だと自負してるよ。巨人族の能力上昇は十八番なんでね!【豪腕】」
巨人の力が爆発的に高まり、彼の持つ大剣が何度も柘榴に振り下ろされるが、絡みついた蛇骨が火花を散らしながら全て受け止める。
「兄者! 今だ!」
巨人の大剣を蛇骨が受け止める度に起こる風に髪を靡かせ涼しそうにしている柘榴の後ろから気配を消していた2人の巨人が現れ、柘榴を守る蛇骨を掴んで動き封じた。
「この子に触れたら毒が回りんすよ?」
どうやら柘榴に蜷局を巻いている蛇骨は猛毒を持っているらしく、2人の巨人の体が物凄い勢いで壊死して行き、やがて立ったまま生き絶えて行く。
「弟達よ、感謝する! このチャンス無駄にはしない!【豪腕脳天殺】」
身体強化で何倍にも太くなった両腕でしっかり握られた大剣は【闘気】を纏っており、一撃でも貰えば骨も残らず吹き飛ぶ程の威力がある事は容易に想像がつくが、柘榴は避けるでも受けるそぶりをするでもなく、ただ立ち尽くしていた。
そんな高火力の攻撃が柘榴の頭にヒットするが、濡羽色の髪と、鮮やかな彼岸花が描かれた黒地の着物を揺らしただけで彼女にはまるでダメージがない。
「これがわっち達の【初会】、わっちにダメージを与えるには【裏】を経て【馴染み】にならないと、ぬしからの攻撃は一切受け付けいたしんせん」
あれか、最高峰の遊女って最低でも三回以上会わないと何もさせてくれないんだよな確か、それと同じ様に攻撃を何回か重ねないとダメな訳ね。
てかそれって普通にチートじゃね?
切り札である必殺技も全く効果がなかった事が相当ショックだったのか、巨人は目を見開きその場から動けずにいた。
「そろそろわっちも飽きて来たでありんす。ゆーびきりげんまん嘘吐いたら針千本飲-ます、指切った……えい!」
突然歌い出した柘榴は、自分に巻き着いている蛇骨に生えた笄で己自身の指を切って流れた血を巨人の脚に押し付けると、血が蛇の刺青となって巨人の体に巻き付いて行く。
「ぬしは先程言いんした。お前達を生きて国に返すと。兄様も大事だけれど、ぬしは部下も大事にしていんす。ぬしは本心から兄様に命令に従おうと思っていたんでありんすかぇ? もっと的確に命令してもらえていれば部下は死なずに済んだ。力の差は歴然、ぬし、本当は退却したかったんではないでありんすか? 」
「巨人族の盃は絶対だ! 俺は本心から兄者の命令に従っている、その為なら部下を失うのも致し方ない!」
そんな彼の言葉を聞いて柘榴はニヤリと笑ったその顔に俺の背筋は凍てつく
「……うーそついた……わっちの【指切り】が発動するでありんす……」
彼に蜷局を巻いていた刺青が本物の蛇骨へと具現化、蛇骨の頭部と向かい合う様に彼の顔を無理やり上に向けさせ、閉じられていた口を強引にこじ開ける
「わっちは言いんしたよ? 嘘ついたら針千本飲ますと。本当は部下を死なせない為に引きたかったんでありんしょう? 高潔で勇ましいぬしを殺すのは心苦しいですありんすけど、約束を破ったのはぬしでありんすぇ? それでは……死んでおくんなまし【飽満蛇骨針】」
向かい合った蛇骨の頭部の口が開き、大量の骨針が巨人の口に向かって飛んで行くが、勿論全てがそのまま胃に届く訳などはなく、喉を裂きながら胃や肺などの内臓を貫通し、腹を突き破って大量の血塗れの骨針が臓物と共に辺りに転がり落ちた。
俺はあまりに目を背けたく光景に固形物が上がってきたのだが、湯気が立っている脱ぎたてほやほやの下着を妄想して何とか耐える……
柘榴の能力はトリッキーなのが多いな
あの【指切り】っていうのも嘘を吐いた相手に強制的に攻撃を食らわせる感じかな?
恐らくではあるが、あれは魔法という感じもしないし、呪術に近いのではないだろうか?
多分柘榴が嘘を吐いた場合、あの針の餌食になるのは柘榴自身。
とは言え彼女に勝つのは難しいだろう。他の面々の中でも、一番敵だったら戦いにくいのは間違いなく柘榴だな
「んきゅ!!」
シトリンの声にハッとして周りと見ると、逃げずに残っていた100人程の魔術士の部隊が【ステルス】を見破り、地上から魔術を放って俺達を撃ち落とさんと迫っている所だったので、俺は慌てて障壁を展開しようとするが、既に結界が展開されたらしく、着弾するかなり前で魔術が消滅。
「シトリンがやってくれたの?」
「キュイ? キュイキュイ!」
どう凄いでしょ? もっと褒めて、と言わんばかり俺の頬に顔を擦り付けてくる姿がとても可愛い。
もっと褒めて欲しいシトリンはそれだけでは終わらないようで、額にある小さい角が輝き出すと、魔術師達の頭上に黄色い半透明の大きな立方体が現れる
俺の【シーリングボックス】みたいな中に何かを閉じ込める箱だと思っていたのだが、考えが余りにも甘かったらしい……
現れた立方体が魔術士達目掛けて落ちて行く…… 下敷きになった魔術士達は……全員何から何までぐちゃりと潰れていて、接合された立方体と地面の隙間から、強い力で磨り潰され事によってもはや人体とは呼べなくなった赤い何かがぐちゅりと滲み出てきていた。
立方体が消えるとそこには漫画でよくあるペラペラになった人間がいる訳などはなく、リアルは凄惨な物だ……
ダメだ、冷静になれ! エロイ妄想をしろ!
我が最愛の人にしてリールモルト王国第一王女であり、リールモルの至宝と呼ばれる程の美しさを持つルーメリア・レネ・リールモルトの胸を思い出せ!!
そして感じろ、あの感触を!!
「おえー」
俺は空の上から地上に向かってキラキラ光る何かを大量に散布した……
ルー……違うんだ……俺は決して君の起伏の無い胸を考えてしまったから吐いた訳じゃないんだ……
ただ……揉んだ感触を思い出せなくて、エロが不快感を凌駕できなかっただけなんだ……
もし、俺の身内で一番の巨乳、エメの胸の感触の事を考えていたら……
いや、止めておこう、これ以上考えるには命を捨てる覚悟が必要だ。
シトリンの能力は恐らく結界や封印、結晶に関する物だろう。
ハルストルス公国との防衛戦は、敵戦力に実力者が少な過ぎるという不可解な点はあったが、俺達の勝利に終わった。
4000の内、500名程は逃げて行ったが、それを追う様な事はしない。
今回の目的はあくまで防衛なのだから。
にしても……空から見下ろしたこの光景は常軌を逸している……
大量の消し炭に、首と胴体が離れた死体、機関銃に撃たれたが如くぐちゃぐちゃになった死体や、強い力で圧殺され、原形を留められず最早死体とすら呼べない何か散乱しているこの状況……
辺りはオニキスの雷で蒸発させた人間達の不快な匂いと、セレナとスピナが量産した首なし死体から溢れ出す大量の血の匂いが混ざり合い、この世の物とは思えない程不愉快な匂いが蔓延していた。
俺がやった事と言えば、みんなが死体を量産している時に、高みの見物を決め込んで、もんじゃ焼きを量産するという事。 簡単なお仕事だろう?
背中をさすってくれているのはジルだと言うのに、今回ばかりは天使かと勘違いしてしまいそうだった……
ジルの見た目はとても可愛いが、内面があれなのでなしなのだ。
「ありがとうジル、でもさ…… 最終的には結局こうなっていたかもしれないけど、ジルが俺に丸投げした事一生根に持つからね!」
「ちっさ! うわっちっさ! ショウ君だってオニキスに丸投げした癖に!」
それはそれ、これはこれだ。
そうして俺の胃が空になった所で次の戦場へと向かうのであった……
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