蒼炎の魔法使い

山野

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第百十三話 メザイヌ王国王都へ潜入

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「ショウ君! 装置破壊完了だよ! 我を称えよ! 我に口付けする事を許可するぞ! ってあれ? 今まずかった?」

 ルーメリア達の戦いが終わった頃、ショウ達の居る鉱山内では、ジルがピリつく空気を粉々に粉砕していた

「ジル様、未だ交戦中でございますので、お戯れでしたら後程ソレが居ない時になさって下さいませ」
 アンジェはロイの後頭部に魔工銃を突き付けながら、ジルの方を向く事なく冷たく言い放つ

「アンジー冷たすぎない?! 我をもっと敬わなければいずれ地獄の業火に焼かれ今日という日を後悔することになる!」
 まだ一度も話してないのにアンジーとかいうあだ名付けたりするからなんじゃないかな……

「いえ、ソレは誰が相手でも対応は変わりません。  ただ難解な言い回しをしているにも関わらず、中身のない内容なのでただの雑音と大差なく、聞かなくても良いと判断しただけでございます」

 ジルはアンジェの心無い言葉にダメージを受けその場に四つん這いになり、苦しそうに胸を押さえてアンジェに答える

「はぁ……はぁ……  おのれアンジーめ、私が滅んでもやがて第2、第3のジルが……」

 完全にトドメを刺しに来てる……
 きっとアンジェさん本人はそんなつもりないんだろうけど

「あーなんか気が抜けたわ、もういいからさっさと俺のドタマ撃ち抜いてメイサと同じ所に送ってくれよ」

「覚悟決めた所申し訳ないんですが、メイサさんはまだ死んでませんよ。  よく見てください」
 何とか体を起こして指差した先には、粘り気のあるひき肉と化した人体の上にゴロンとメイサの引き千切られた生首が転がっていた

「どうして殺さなかった?」

「やっぱり死ぬ時は愛する者の腕の中で死にたいじゃないですか」

「いい事風に言っているけどよ、お前さん、完全に俺を殺しに来てたよな?」

「…………」
 バレてる?!
 確かにメイサさんが咄嗟に魔法の範囲外からロイさんを弾かなければ、メイサさんの首から下同様ミンチになってたのは間違いない

「大体読めたよ、お前さんの魂胆。 メイサを生かしたのは交渉の材料にする為だろ? お前さん達はどっちにしてもメザイヌ王国にある装置本体を破壊しなきゃいけない。 それに俺を利用しようってわけだ違うかい? 意外と食えないねー少年」

「全てお見通しということですか……」
 俺は背中越しに聞こえるロイさんの名推理に震えた。

 いや本当は全く違うんだが?! ただ何となく気が引けただけなんだが?! なんならアンジェさんに俺の見えない所で頭ぶち抜いて貰おうなんてクズい事考えてましたからね?!

 完全に早合点だけど、勝手に勘違いしてくれるならそれはそれで助かる

「そこまでわかってるなら話は早いです」
 引きつったドヤ顔で未だ魔工銃を後頭部に突き付けられているロイさんの方に向き直ると、ため息混じりに口を開いた。

「ったく、元人間の女一人の為に国を、軍を裏切って人生棒に振れってか? 酷な事言うね少年。 まぁでもメイサとの約束もあるし、お前さんに協力してやるよ。 これで俺も無職か……」
 戦意は完全に無くした様で、額に手を当て深いため息と共にその場に倒れこむ
 アンジェさんも敵意なしと判断したのか、警戒はしているが魔工銃は降ろしている

「愛する者の為に……  国を裏切るには十分な理由でしょ? 就職先なら斡旋するんで安心して下さい、働き甲斐のある素敵な環境ですよ」

「言ってくれるねー。 それに妙にニコニコしているのが引っかかるがまぁいい。 お前さん達には協力してやるが、俺達もメザイヌ王国で最後にやりたい事があるから、装置の場所を教えた後別行動でもいいかー?」

「ええそれは構いませんが…… やりたい事とは何ですか?」

「それは……」 

 ◇  ◇  ◇  ◇
 その後、少し魔力が回復した所で首だけになったメイサさんの身体を再生魔法で再生し、オートマタ達への命令権を持つロイと一緒にオートマタを破壊して回り、街の外のテントで転がっている兵士達については、自分はどうなってもいいので、帰りを待つ家族や恋人が居る彼らは見逃して欲しいと、部下の為に容易く頭を下げるロイの漢気に心打たれて見逃す事とした

 本国で何かあれば帰還するようお達しがきて、ここから全員引き上げる事になるのでペネアノについても大丈夫だろうとの事だ

 メザイヌ王国へ向かう途中、ルー達の作戦成功の報告を聞いて緊張の糸が切れたのか俺はベリルの背中で爆睡、朝にはメザイヌ王国へ着いており、密入国した
「少年一体何者だ? あんな神々しい鳥見た事ないぞ、あの距離を一夜で移動するとか今でも信じられないなー。 あれと戦えなんて言われたらゾッとするね。 まぁ何はともあれ、始まりの街メザイヌ王国王都へようこそ」

「始まりの街?」

『お兄ちゃんよくあるやつだよ、ここの酒場で仲間を集めて世界へと旅立ち、魔王から世界の半分を貰って成り上がるやつ! 装備しないと意味がないぞとか、ポーションもらえたりするけど、二週目以降は有難迷惑なお節介野郎ばかりが集まる街だよ!』

『なんて事言うんだ! 多分そういう意味の始まりの街じゃねぇーから! ポーションとか他のシリーズ混ざっちゃってるから!』
 樹大精霊のエメは何万年も生きてるくせに俗世間に興味がなかったからか全くと言っていい程この世界の事を知らない。

 俺の目に映る街並みは凡そエメの言う始まりの街という物とは程遠かった。
 今まで見て来た街並みとは一線を概していて、何処の街よりも何倍か高い城壁で小さく囲ってしまっているせいで敷地面積は狭いが人口が多いため、建物は極端に縦に長い。
 住居の殆どは金属で出来ており、雨風に晒されている表層は茶色く錆び付き廃工場を思わせた
 外壁の傷んだ所を補修工事する際に発せられる騒音があちらこちらから聞こえている

 至る所の窓から洗濯物が沢山干されているが、高い建物が多いせいで、ちゃんと乾くのかといらぬ心配をしてしまう程日当たりが悪く、数日前に降った雨で出来た水溜まりが未だに残っている程だ

「ショウ君、メザイヌ王国は錬金術の歴史が長くて、新しい技術はメザイヌで生まれるって言われる位錬金術が盛んな国なの。 ここから新しい何かが始まって行く、だから始まりの街って呼ばれるようになったんだよ。 最初は小さな村だったらしいんだけど、どんどん人が増えて国になり、それらも人口が爆破的に増えた結果こんな感じの街並みになってしまったみたい」
 ジルが得意げに補足してくれるのだが、変な中二病患者の真似事なんてしないで、普段からこうならいいのになんて思う

「それでロイ様、今回の目的は装置本体の破壊ですが、どちらにあるのかご存知なのですよね?」

「そりゃ勿論俺だってそれなりにお偉いさんだったからねー。 あの城の近くにある西の塔の上っていやぁ、お前さんだってわかるだろ?」

「……彼の所でしたか、でもそうすると結界をまず破壊しないといけないですね……となると……」
 何やらアンジェさんとロイさんは事情に詳しいらしく2人で話がどんどん進んでいて俺やジルは置いてけぼりだ

「勝手に話を進めてしまい申し訳ありませんショウ様。 謝罪致しますのでそんなに冴えない顔をするのは止めてくださいませ」
 顔が冴えないのは元からじゃ!! 深々と頭が下げられてて顔が良く見えないけど笑ってるだろ絶対!!

「装置本体があるのはそこに見える西の塔の最上階の一室でございます。 ですが先程ロイ様が仰られた西の塔には強力な結界魔術が施されており、塔の内部にある二つの人工輝人の核、通称輝核と呼ばれる特殊な結晶体を同時に破壊する必要がございます。 誤差数秒以内に破壊しなければ結界は解除されないどころか、爆発術式が起動して部屋にいる者が木っ端みじんとなります」
 輝人の核、物凄く質のいい魔道具になるって言ってたな確か。 恋人に輝人が居るだけに少し複雑だな。
 にしても中々難易度が高い、二手に分かれてどうにか同じタイミングで壊さないといけないなんてどうやれば……

 いや待てよ、あれならもしかして……

「どっちにしても西の塔の守りが固い、陽動は俺達がやる。 ここで済まさないといけない事もあるしな」

「ロイ…… 痛いの…… やっと約束守ってくれるんだね…… 早く終わりにして……」
 ロイさんに寄り添っているメイサさんは元人間のオートマタ、脳に埋め込まれた人工ルドスガイトから神経に送られる命令伝達で動かされる体は、動くたびに全身に激痛が走り、その痛みは普通の人間なら自ら死を選ぶ程らしい。

 それでもロイさんが楽にしてあげないのには理由がある、本当は一番楽にしてあげたいのはロイさんのはずなのに、メイサさんが感じる痛みと同じくらいの痛みをロイさんも感じているはずなのに。

「あぁ、やっと終わりに出来るよ。 少年、城の地下に三人捕らえられている、俺と同じ理由で城に侵入した奴らだ。 そいつらなら今回の事に間違いなく協力してくれるはずだからまずはそいつらの解放して、それからそいつらと一緒に輝核を破壊してくれれば一見落着って事で」

「わかりました、それじゃあ急ぎましょう」

 そうして俺達は城の地下へと【ステルス】をかけて侵入していく。
 装置本体を守る事に重きを置いている様で、城の警備が若干手薄で侵入は大して難しくもなくすぐに目的地へと着き牢の中にいる三人に声をかける

「あ、あのぉ……ちょっと協力してほしいんですが……」
 そう俺が声をかけて暗がりの中から出来てのは、頭や腕などに包帯を巻いた女で、包帯の巻かれた所のあちらこちらで血が滲んでいるのが確認できた。

 左目は包帯で隠されており、そこも血で滲んでいる。
 拷問でもされたのだろうか…… そう思うと少し気が重くなった

 右目の下には深いクマがありニタニタと笑っている口元は非常に不気味だ
「協力して欲しいと申したのは其方か? 余を何者かと知っていての言葉なのだろうな? して其方は余にどんな対価を払うつもりなのだ?」
 あーガチ系の人か…… 
 ジル…… こういうのが本物だぞ…… お前のファッション中二とは年季が違う

 俺は多大な不安を抱えながら対話を試みるのだった……
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