蒼炎の魔法使い

山野

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第五十八話 悪い方の予想は大体当たる

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時はショウたちがイスブロンに出立して少し経った頃に遡る

空に最も近い塔にある一室で耳に四つのピアスを付けたエグバートと特殊な白いローブに赤いラインが入った四つのピアスを付けた男がテーブルを挟んで密談を行なっていた。

赤いラインが入るローブは教皇しか着ることが許されない特殊な法衣だ

神妙な面持ちのエグバートが口を開く

「あの一行がイスブロンに向かいました」

「そうか… 」
教皇がワインを口に含む

「知略にも長けるあの男ならイスブロンで得るであろう情報を組み立て、我々が何者かも掴むでしょう」
エグバードは顎に手を置き、いつもの癖で何度か頷く 全くの偶然なのだが未然に計画を防がれた事によりショウの評価は爆上がりしていた

「ブライケルの危惧した通りだな、後少しだというのにどうしてこう邪魔がはいるのやら」
白いローブの男が苦笑いを浮かべた

「タイミングが悪いですね、後もう少しだというのに…」
エグバードが血が出てしまいそうな程の強さでこぶしを握り締めた

「このままではブライケルや、お前の家族に申し訳がたたん」
男は眉間に皺を寄せた

「良いのです。 みなも覚悟も上でした」
エグバードは無表情で告げた

「だからと言ってあいつらを許容などできるか!!」
男は突然声を荒げながらテーブルの上に置いてあったグラスを拳で叩き割った。 グラスには叩き割った際に傷つ男の血が付着し、グラスの底はエグバートの元へと転がっていく

男の荒げた声には怒りや悲しみや恨み辛みといった様々な感情が入り交じり、対象に対する憎しみの強さが伺えた

「血を流したのは我々だけではありません。 王子もではないですか」
エグバードが転がって来た血の付いた壊れたグラスの底を拾いながら物悲しそうな顔で滴る血を見ていた

「今の私はただのランレンスだ… 祖国を救う為に非道な事をしてまでダルシエルで上り詰めたのだ… もう王子などと呼ばれる資格はない」
ランレンスは天井を見上げながら自嘲した

「ですが私からしたら貴方様は王子です。 そうであって貰わないとみなも浮かばれません…」
エグバードは笑っていたが、その笑いはどういう感情を含んでいるのかわからない。 彼の笑顔はとうの昔に感情など抜け落ちているのだから

「ふ、そうだな…ピンゲラの民は今も血を流している、私達がこうしている間にも!」
己の手から滴る血があの地獄の様な日々を思い起こさせ感情を高ぶらせる

そう、彼はショウが予想した通り、侵略されたピンゲラから様々な者の助けを借りダルシエルに命かながら逃げた王子だった。
最も当たってほしくない予想が当たってしまっていたのだ

三国は長い間戦争をしていたが、豊富な資源を持つピンゲラが邪魔なので先に落とさんと二国が密かに同盟を結んでピンゲラに攻め入った。

彼の国は攻めて来た両国の同盟軍に完全降伏したのだが、攻め入って来た両国の王子は無慈悲に国王を殺し、母や姉、妹や妻をランレンスの目の前で見せつける様に下種な笑いと共に、大勢の兵士と犯し続けた。 
ランレンスは捕虜として生かされてはいたが、目の前で自分の愛する者達が凌辱されるという地獄は何日も続き、攻めて来た両国の王子達が、心が壊れ無反応になって来たおもちゃ達に飽きた頃、ランレンスの妻が一番最初に彼の目の前で殺さる。 

彼の妻のお腹の中には二人の愛の結晶が宿っていた。 妻が死ぬ前にランレンスに言ったのは もうやめて と一言だけ 
彼女の精神はもう壊れており愛しい夫でさえも、いやらしい笑いを浮かべて凌辱する男にしかみえていなかったのだ。

ランレンスはあまりに辛さに耐えきれず死のうとしたのだが、何人かの家臣がいずれ国を救って欲しいという願いを王子と側近に託し体を張り彼を逃がした。 その時に命を落としたのがブライケルが降臨術で降ろした三人だ。 逃亡を助けた物の家族の末路も悲惨な物であった。 男達は痛めつけられながら強制労働させられた挙句に処刑され晒し首、女は兵士達に食事も与えられず死ぬまで慰み者として散々弄ばれた挙句、死ねば埋めても貰えず、ゴミを道端に捨てるかのように街中に捨てられ肉食の鳥に死肉を貪られた。

逆らえばこんなひどい目に遭うと民は考え、逆らう者はもういなくなったのだが、それこそが両国の狙いでもあった。
それからランレンスとブライケル、エグバードと薬売りの男は名と顔を変えダルシエルに救いを求めて入国したのだが…

それから数年が経ちランレンスは時には汚い手も使いダルシエルの教皇にまで登りつめ、ピンゲラを取り戻す準備を着々と進めていた
全く関係のない人々も巻き込んで、ただ己の祖国の救う為だけに手を汚して来たのだ

四つのピアスをつけているのはランレンスとブライケル、エグバードと薬売りの男だけで、互いの犯した罪を認め、共に背負うという血よりも濃い契りだ。 彼らはとうの昔に地獄に落ちる事などわかっていた

「私の命は皆に生かされたものだ。 私の一存で死ぬわけにはいかん。 必ず… 必ずピンゲラを取り戻す。 どんな血塗られようとも…」

「時期に彼らがここに来るでしょう、そして…」

「あぁその時は…」

「「血の制裁を…」」

ダルシエルの塔の最上階の一室で彼らはいずれくるであろう黒髪の男に血の制裁をと確認し合った。


◇  ◇  ◇  ◇


あー何か柔らかくて幸せだなぁ… そろそろ朝かなぁ… でも俺はこの寝心地を手放したくない… 例えこのまま寝ている事によって日々の活力がなくなり、冒険者としても活動できず、無駄に消費するだけの自堕落な毎日でお金も底をつき、金を稼ごうと冒険者活動を再開するが魔法も使えなくなっており、それに気づかず魔物に殺されるが、突如白い空間に飛ばされ女神に会い、社交性チートを貰い元の世界に戻って意識高系として転生し、起業するやいなや大儲けの順風満帆な時にトラックに引かれ再度女神に会ったは良いが、次はないからと冷たくあしらわれ何もできないただのゴミとしてこの世界に帰ってくることになったとしても、俺はこの寝心地を手放したくない…

「…旦那様… 前にもそのような妄想があった上に非常に長いです…」
あー昔フララの膝の上でも思った事あったな…

「エメおはよう」
この柔らかさの正体はエメの豊満な胸だったか… 彼女の緑色の髪が俺の顔にかかった事により俺は目を覚ましたようだ
ちなみに胸の大きさはエメ>イレスティ>多分ストリンデ>レデリ>>フララ=ルーの順だ。 巨乳好きの俺の最愛の二人が貧乳という矛盾。 そもそも最愛の二人という言葉の矛盾。 だがそれは俺の不純。 イエーイ!

「くすぐったかったですか? すみません」
エメラルドグリーンの綺麗な髪をかき上げて耳にかける仕草がとても綺麗で女神の様だ。 大精霊だけどね

「それにしても昨日も凄かったですね… なんというかイケナイ事してる気持ちになってしまいました…」
エメはシーツで赤くなった顔の半分を隠した。 愛しい…

俺は昨日ついに禁忌を破ってしまった。 言葉の通り破ったのだ。 タイツを。 タイツを破るという背徳感がかなり二人を燃え上がらせてしまった…
被害は? 被る物だ! ボッチは? 引きこもる物だ!! じゃあタイツは? 破る物だ!!!

「でもいつもよりエメもノリノリだったね」

「もうやめてください… 恥ずかしいです…」
彼女は半分だけ被ってたシーツを全部かぶってしまった

俺は余りに愛しいのでシーツの中に潜り込む

「これなら暗くて見えないよ」

「旦那様はエメとイレスティさんには強引なんですね」
エメがおでこをくっつけてクスっと笑うように言った
げ、バレてる

「二人共なんて言うか従順でしょ? だから何か欲求に素直になれるというか…」
俺は強気に出る相手にはガンガン強気に出るタイプなのだ! まぁでも言い返されたりしたらすぐ謝りますけどね…

「だから今も素直なんですか?」
密着していることにより反応してしまったようだ

「その通りです…」
俺は頬を掻いた

「知ってますよ、エメは旦那様のしたい事全部… 次は…何しましょうか?」
ゴクリ… この子は何でも夢を叶えてくれる女神だ… だから大精霊なんだけどね!

「じゃあ…」
その後晩秋の朝の肌寒さを感じない程にシーツを汗で湿らせながら二人は体を重ねて温め合った。

◇  ◇  ◇  ◇

昼前にエメと仲良く部屋を出ていくとみんなが思い思いに過ごしていた

「あーお腹すいたー。 お兄ちゃんすごいんだもん…」

「じゃあここのホテルのご飯を食べに行こうか、新鮮な魚介を使った料理らしいし」

「いいねぇ! そうしよ!」

俺達が仲良く話して居るとストリンデの顔が赤い

「ストリンデ、顔赤いけどどうかしたの? 俺に惚れたの?」

「あんたバカァ?!」
リアルで言う人いるんですね…

「あんたと…エメの声が… 一晩中聞こえてたのよ…」
ストリンデが恥ずかしそうに下を向く 美人のこういう姿は結構来る物がある

そういえば隣の部屋だったか… これは恥ずかしい…

「え? リンデおねーちゃん聞いてたの? えっちー!」

「ち、違う! 聞こえて来たんだったば!」
エメがストリンデをからかうと顔を真っ赤にした

「大体貴方達も聞こえてたでしょ? 何とも思わなかったの?」
ストリンデが他の女性陣に顔を向ける

「…いいなって思ってた」

「次は何して攻めようか考えていたわ」

「わ、私は別に…」「イレスティ、あなた昨日ゴソゴソしてたわよね?」「………」

「まぁ割といつもの事だからねー 兄さんは妹に卑猥な声を聞かせて興奮するような変態だから仕方ないよ」

「ん? 昨日何かあったのかの? わらわは寝ておって知らんのじゃ」

「はぁ… このパーティーの唯一の常識人イレスティさんさえも…」
ストリンデは深ーい溜息をついた

「そんな事いったってしかたないじゃないか、渡る世間は嫁ばかりなんだから」

「お兄ちゃんそのネタわかるのエメだけだよ?」

「エメにだけ伝わればいいよ」

「お兄ちゃん…」

「オホン! イチャイチャしてるとこ悪いけど今後の方針を決めない?」
ちっ 嫁との大事な時間を邪魔しやがって

「じゃあ折角だからここのホテルで昼食を取ろうりながら話そうか」

「良いわね! ダルシエルじゃ海鮮料理ってあんまりなかったから楽しみだわ!」
砂漠の国だもんな、王都で食べた時も嬉しそうにしてたっけ

そうして俺達は一回の綺麗なレストランへと向かった

そこは大理石の様に綺麗に加工された岩のテーブルが並べられていて、テーブルとテーブルの仕切りには少し透ける白い布が高い天井から吊るされており、飾られてる綺麗な花々やエスニックなインテリアと非常にマッチしている
耳に自然と入ってくるピアノの様な鍵盤楽器と弦楽器が軽やかなリズムで奏でる音は、秋色深まり切った外の物悲しい雰囲気を軽やかにしまう様な聞き心地のいい音色だった

地球に居たなら一生縁のない店だ。 俺がよく行くおしゃれなお店と言えば赤い看板に黄色い文字でMと書かれたあそこだ。 スマイルをお願いしたのにゴミを見るような冷たい目を向けられたのは俺の注文の仕方が悪かったのだろうか?

席に着くと強面のウエイターが注文を取りに来たので本日のおすすめをサラダとメインとデザートを人数分頼んだ。

暫くすると前菜の新鮮な魚を使ったサラダが何かのフルーツの果汁を使ったであろうドレッシングと共に出て来た

「うまいなこれ」
ホタテの様な貝とエビのようなぷりぷりとした食感の甲殻類と野菜、それにグレープフルーツの様な爽やかな酸味が口の中に広がる事によって生臭さが消え味わい深い物となっていた

次に出て来たのは白身魚をハーブと共に煮込んだ物にカリカリに焼いたガーリックトーストが添えられていた

「…美味しい… 淡白な魚にハーブの香りが付くことによって複雑な味わいを作ってる。 これは…隠し味に…」
分析する客って店的にどうなんだ? 確かにうまいけどな

しかしテーブルマナーがなれない、盗賊の国だから別に誰も気にしてないとは思うが流石にルーとフララは食べ方が美しい、気品の化け物だ。 勿論イレスティも完璧な所作だ。 レデリとストリンデも知識はあるようでそつなくこなしている。 エメとルチルは…

「お兄ちゃんこれめっちゃおいしいよ! ねぇねぇもっと!」

「なんなのじゃこれは! 常闇の森の魔物なんて比べ物にならんぞ!」
はぁ…行儀が良いとか悪いの問題じゃない… 俺はルーとフララをまねながらなんとか食べた

最後に出て来たデザートはフルーツを使ったタルトだ、熱々でサクサクのタルト生地の上には甘酸っぱいフルーツがふんだんに使われ、口いっぱいに幸せを運んでくれた

料理は芸術だ。 食べれば消えてしまう、儚い舌先三寸の芸術

「さて、今後の方針だけど…」
デザートも食べ終わり、各自に紅茶が行きわたった所で方針を決める事にする

「一先ずダルシエルに行く必要があると思う」

「…それは仕方がないわね。 あんたの言ってる事が正しいとは思わないけど、しっくりいく部分も多いしね」
ストリンデは俺の言葉を完全に信じているというわけではないが、辻褄があっているのでしぶしぶという感じだ

「それでさ… ストリンデはもし俺の予想が正しかった場合どうするつもりなんだ?」
これが一番気になっていた。 今まで信じていた教皇がそんな事をしていたと知ったら…

「どうもこうもないわ、教皇が悪いだけでヒエル様がおかしくなったわけじゃないから、その時は力づくでも止めるわよ」
芯が強いな、確かにトップがおかしいだけで宗教自体はおかしいわけじゃない

「まぁ流石に全部都合よく繋がりすぎだしないと思うよ、俺の人生で予想ってそんな当たんないし」
ちょっとくじの当たりを引ける程度の勘の良さしかない

というより本当は当たってほしくないという想いが強い、もしそうなら俺は…

「よしじゃあもうちょっと観光したらいくか! 砂漠の宗教国家ダルシエルへ!」

「…おー」
やる気ねぇー ルーがやる気満々の時ってあんまりないよな、故に一緒に居る時脱力出来て心地いいんだけど

「砂は少し嫌ね」
どれだけ暑くても長袖なんだろうなぁ… 俺のあげた日傘を気に入っていつも使ってくれてるのが割と嬉しい

「ダルシエルでもメイド神の教えは広まるでしょうか?」
一神教に変な神ねじ込もうとすんな! つうかそんなメイド神の婚約者兼メイドってイレスティこそメイド神なんじゃないの?

「樹沢山生やして砂漠無くしちゃう?」
やめろ、世界を地形を変えるのは流石にまずいでしょ…

「私の共鳴があれば多分核のない魔物も見つけれると思うから、ダメな兄さんの為に協力をする妹に感謝することね! こんな事誰にでもするわけじゃないんだからね」
抑揚が全くない… お前のキャラが最近ブレブレすぎて兄ちゃん困ってるよ、エメからの情報を信用するな!

「また新しい所へ行くのかえ? 楽しみじゃの! ワクワクするのじゃ!」
嬉しそうに尻尾をゆらゆらしてるお前は本当に愛らしい… 部屋に戻ったら抱き枕にして昼寝しよ

「大司祭様にも一応聞いてみようと思うわ、まぁあんたの妄言だと思うけどね。」
俺もそれを願ってるよ

こうして俺達は次の行き先は宗教国家ダルシエルへと決まったのだが…
俺はこの時安易に考えていた。 ダルシエルで迎える俺達とアラトラスの決着は予想もしていなかった形で幕を下ろすことになる。

あの時の俺は… 俺なのだろうか?
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