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第五十三話 画像でイメージを固め過ぎると、大体実物にがっかりする
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「神はいらっしゃいます、いつも我々を優しく見守ってくれていますよ」
ストリンデは胸の前で手を組み、祈るようなポーズを取った。 聖女モードかな?
「直接見た事あるの?」
「…見た事はありません。 ですがヒエル様は常に人と共にあり、信じる物に優しく手を差し伸べ救ってくださいます」
「神って沢山いるの?」
「大精霊を信仰している所や、別の物を崇めている所もありますが、この世界の神はヒエル様だけです」
一神教なのね。 異世界だから普通に神が降臨してたりするのかと思ったけど地球とほぼ変わらないな。
皆もあまりこの話題には興味がないのか話に入ってくる様子はない。
「…あんた神を信じてないの?」
はい聖女モード終了
「信じてないというか… 直接見た事ないから実感がないんだよね」
「それは信仰心が足りないのよ、いい機会だからこの本を…」
ストリンデがカバンから一冊の簡易的な聖書らしき物を取り出した
「いや大丈夫です… 俺はもっと素晴らしい神々が書いた薄い本を知ってますから」
俺が欲しい薄い本はそれじゃない。 こちとら某同人誌即売会で様々な神が書いた聖書を沢山持ってるからな!
「何よ、サルラリよりもよっぽど価値がある物よ?」
ストリンデは眉間に皺を寄せる
「信仰で腹は満たせんだろうに」
「全く… あんた地獄に落ちるわよ」
どっかの占い師かな?
「俺はリアリストなの、ヒエル様には申し訳ないけど、信じろっていうなら身近な嫁を信仰するね」
俺はおやつでお腹いっぱいになり眠くなったのか、今にも寝落ちしてしまいそうにウトウトしているエメを見た
「エメちゃんが本当に大精霊っていうのは驚いたわ…」
ステータスカードで確認した時ストリンデは目が飛び出しそうな位見開き、卒倒しそうな自分を何とか堪えていた。 別の宗教の神が目の前にいるのだそりゃ驚いて当然だ
「まぁこの姿じゃな… 元の姿の時は知的で大精霊っぽいんだけど」
俺は元の知的でお淑やかな大精霊のエメと今の可愛い元気なエメの違いに思わずちょっと笑ってしまう
「何笑ってんのよ」
「嫁の顔見て笑って悪いかよ」
「はぁ… 嫁ってのも聞いた時驚いたわ。 あんた要するに非公式の神様と結婚したようなもんなのよ?」
なんやその有名人のニセアカみたいな言い方。 まぁ一神教だからヒエル様が本アカって事なんだろうが。 うちのエメだってフォロワー数なら負けてないぞ多分! ちょっと呟くだけで良いねがめっちゃつくんだから! 俺? おかんからしか良いね貰った事ないよ…
「まぁそういう事なんだろうけど…」
ついにテーブルに伏せて可愛く眠ってしまったエメをみる。
これでも一応信仰される対象なんだよなぁ、この前王都ですれ違った植人達がいきなり地にひれ伏してたし。 どうやら植人には樹の大精霊というのがすぐわかるらしい
「腕輪を持ってるから何かあるとは思ってたけど、全く信じられないわ」
頬杖を付いて呆れていた、態度は気に入らないが顔はキレイなので絵になってる
「俺は意外と一神教なのに押しつけがましくなくて驚いたよ」
「何を信じるかは人それだからね、まぁ私の神はヒエル様だけよ」
ストリンデの顔はまるで恋する乙女の様な顔になっていた
「そっか」
俺は大司祭でストリンデの父であるドウガに、神の存在を問うた時見せた苦々しい顔を思い出す
「そういやドウガさん元気?」
「…わからないわ。 最後に会ったのは結構前だし、その時も何か雰囲気違ってたわね」
「元気だといいけど…」
あの時のドウガさんの別れ際の悲しそうな顔はなんだったんだろう
「まぁとにかくこれからよろしくストリンデ」
「ええこちらこそよろしくね」
俺達は握手すると、みんなが小さく拍手していた
息子の成長を見守る親みたいなのやめてくんない?!
◇ ◇ ◇ ◇
ストリンデがうちに来てから9日目の朝俺達はイスブロンに向かう事になった
彼女は9日間毎日スラムや街に出てはケガを診たりやジプタレン中毒者を癒して回っていた
その間俺は自堕落な生活を送っていたのだがそれを見ていたストリンデが3日目位に痺れを切らし時間が勿体ないと思わないのかと意識高い系呟きみたいな事を俺に毎日いうようになる… 魔法の構想ねったりしてるっつーの。 こいつ絶対母親だったらゲームしてる横で掃除機かけて電源抜くタイプだわ、しかも意図的に。 掃除機アタックがいかに罪深い行為か自覚すべきだ世の母親共!
そしても今も…
「ねぇあんた朝の特訓終わってからずっとベッドに居ない? 時間勿体ないと思わないの?」
俺は今馬車の中の大きなベッドで、お昼寝してるエメとルチルとだらだらしていた。 うるさいなー 初めてこの馬車の荷台の空間をみた時や、このどでかいベッドで顔を赤くしたあのしおらしさは何処へ行った
「別に…」
何処かの高飛車女優の様な物言いにストリンデが食って掛かる
「時間は有限なのよ?」
はいはい意識高いですねー 成長したい方はご勝手にどうぞー 俺はなぁ… 金があるうちは仕事もせず毎日だらだら全力で暮らしたいんだよ! オス!おらニート!
「と思うじゃん? 寿命はないので有限ではありませんー、残念でしたー」
腹立つ言い方でストリンデをあえてピキらせる、いつも言われてばかりだと思うなよ?!
「そういう事じゃないの!」
ストリンデが握り拳を作り吠える その格好は日本で一番有名な婿がえぇ~!っと驚く姿を連想させた
「海産物一家の婿か! お前は彼位心を豊かに持て! しょっちゅう財布忘れる嫁に、いちいち癇癪起こす義理の父、興味ない振りしてそこそこの年齢で子供を産んでしまう程お盛んな性欲モンスターの義母、やんちゃというかただのアホの義弟に、年がら年中もこもこパンツを涼しい顔で見せびらかす露出変態義妹という特殊な環境下で尚あの常識人だぞ?」
「誰よそれ! 本当にそんな家族のいる環境下で常識人として振舞えるならその人が一番異常よ!」
はい論破ーじゃねぇーんだよ! 確かにそうだな言い返せねぇーわ!
パンパン
「はいはい仲良しなのは結構だけど、そろそろ終わりにしなさい」
「「仲良しじゃない!」」
「…二人は天邪鬼」
毎度ケンカの様になりフララが手を叩いて止めに入るというのが恒例行事となっていた。
今ではただのじゃれ合いみたいに思われてる。
「私のクラリーヌ・レ・フレリールレ・ミオ・バージミアンが敵を感知したわ」
どうしてもフルネーム言いたいのね…
「兄さん倒して来たら? そしたらストリンデさんも満足なんじゃない?」
「嫌だけど行くよ」
「私も行くわ! 怠け者のあんただけじゃちょっと不安だしね。」
「はいはいお好きにどうぞ、聖女様は聖女様らしく後ろで下がってみてて下さいな」
「ご主人様行ってらっしゃいませ」
イレスティが刀を二本俺に手渡し頭を下げて見送った
「…気を付けて、ショウが頑張ってる間、貴方の分も私がダラダラする。」
「私も貴方が一生懸命私達の為に働いている間存分にだらついてあげるから安心しなさい」
仕事に向かう夫にかける言葉として最低だぞお前ら… ちょっとストリンデの気持ちがわかってしまった
そして俺とストリンデは荷台から降りて敵を迎え撃つ
「んー大きいのが一体だな」
「見えて来たわね」
「あれは… ロックリザードだAランクの魔物って所だな、この辺りじゃ珍しい」
「詳しいわね」
「大図書館で知識詰め込んだからな」
「はぁ…勤勉なのかグータラなのかどっちなのよ」
美人のため息ってのは良いもんだね。 小うるさいが顔はやっぱり綺麗なのだ
「来るよ、下がって」
「嫌よ」
「何でだよ下がれよ」
「嫌って言ってるでしょ!」
「お前聖女だろ?! ヒーラーポジだろ!」
彼女が持っているのは錫杖の様な作りのヒールロッドらしき物だ
「もう!大きい声出さないでよ!」
キュエーーーーーー!
俺達が小競り合いしている間に三メート程のトカゲが現れた
岩のように固い装甲を持つことからロックリザードと呼ばれている
剣の技術も上がったし月華と月影なら問題なく切れるだろう、よし一発で…
「でぇーーーーやぁぁぁああああ!!」
ドガーーーーン!
突然起こった突風が俺の髪を靡かせた
「ふぅ、楽勝ね」
シャラン
「………俺の知ってる聖女じゃなーーーーーい!!」
彼女は気合を入れる声と共に高く飛び、錫杖のような物で固い頭を叩き割り、勢いそのままに地面にへこみが出来る程の威力の攻撃をロックリザードにぶつけ、涼し顔で錫杖のような物をシャランと鳴らして立っていた
「な、何よあんたの聖女に知り合いでもいたの?」
居るよ! 無数の聖女が俺の中にな!
「いや違うだろ?! 聖女って普通後方支援担当じゃないのかよ?! お前めっちゃ肉体派じゃん! めっちゃ強いじゃん! お前一人で魔王倒せるじゃん! もう勇者兼聖女やっちまえよ!」
力説するあまり思わず顔が近づいてしまっていた
「ちょっと近い近い! っていうか後方支援しかできない聖女ってどんだけ無能なのよ… 私は後方支援も出来るし、棒術も得意なの」
腰に手を置きシャランと錫杖で地面を叩く
「ドヤ顔してんじゃねぇーよ! お前はどんだけ俺の聖女像を壊すんだ! この武装聖女!」
「そんなに褒めなくてもいいじゃない… あんたも褒めたり出来るのね」
ストリンデの顔が赤くなる
「褒めてねぇーんだよ!」
パンパン
「はいはい、ストリンデ、これはショウの持病みたいな物だから気にしないでいいわ。 それともう暗くなる頃だから、ここで野営にしましょう」
「フララさんの婚約者は相当重い病気を患っているのね」
フララが神妙に頷いた
「…これは不治の病。 治る見込みは今後もない。」
君達最近取り合ってくれなくなったよね…
ぞろぞろと荷台からエメとルチル意外が野営の準備の為に出てくる。
「ねぇ、兄さん。 荷台の中で食事取れば良いと思うんだけど、何でワザワザ外で食べるの?」
「ふふふレデリよく聞いてくれた、流石俺の妹」
「それは侮辱の言葉だからやめて欲しい」
俺の存在って何?! てか俺に腕組んどいてそんな事いうの?!
「お、おう… ワザワザ外で食べるのはなぁ… 今からカレーを作るからだ!」
「カレーですか? それはどういう物なのですか?」
イレスティが唇に指を置き首を傾げる この癖可愛いんだよなぁ
「料理に詳しいイレスティでも知らないだろう、カレーっていうのはな複数のスパイスをブレンドし、小麦粉でとろみをつけた物に肉や野菜を入れて煮込み、サルラリにかけて食べる料理の事だ!」
「…あードイアの事ですね、丁度スパイスもありますし私が作りますよ、ご主人様はゆっくりしててください」
あんの?! カレーあんの?! 俺の異世界カレー無双が… 俺がorzしてる間にイレスティは荷台に戻ってしまった
「なんだ兄さんじゃなくても作れるんじゃん、ならワザワザ外で食べる必要もないね、私エメとるっちーのとこ行く」
「…私も戻る。」
「まだ本が途中だし貴方が作る必要がないなら戻るわ」
三人も荷台へと消えた…
「みんな待ってよ!」
伸ばした手は… 届かなかった…
「あんたってかなり愛されてるのはわかるけど、こういう時みんな冷たいわよね」
ストリンデはしゃがんでorz状態の俺に優しく止めを刺した
「いいんだよグスン…」
「はぁ… ほらぐずぐずしてないで木集めるわよ、それでサルラリ炊くんでしょ?」
溜息をつきながら俺の持ってる鍋と米を指さした
「でも…」
「まぁそれぐらいなら付き合ってあげるわ」
「…お前… いいやつだったんだな」
「聖女ですから」
ドヤ顔は腹立つけどな
そうして俺とストリンデは二人で枯れ木を集め火を起こし米を炊く
炊けた頃にはイレスティの方も出来上がり、みんなが何故かイレスティに無理やり引っ張られながら現れて、カレーを夜空の下で楽しく食べた。
そして今日は俺が率先して片づけを行っていた、片付けまでがキャンプでしょうが!
「それにしても何でそんなにあれやりたかったの?」
ストリンデも自主的に片づけの手伝いを申し出てくれていたので、俺が魔法で水を出し、ストリンデが食器を洗っている最中だ
「俺の故郷じゃ野営の時の食べ物はあれが定番なんだよ」
林間学校と言えばカレーだよね
「へぇ変わってるのね、普通あんな手間のかかる物野営で食べる?」
「まぁ野営が娯楽みたいなものだったからね。 子供の時にみんなで野営するイベントがあるんだけど、俺それに参加できなくてさ」
本当はああいう団体行動の中で一人ぼっちになるのが嫌で仮病使って休んだだけの悲しい過去だ… 危うく親に魔法で治されかけた時はどうしようかと思ったが…
「だから大きくなったら友達とか大事な人とやってみたいなって憧れてたんだ、ストリンデのおかげで夢が一つ叶ったよ」
「な、何よ調子狂うわね。」
ストリンデの顔がほころびそうになるが耐えたようだ
「ま、まぁ少し位なら付き合ってあげてもいいからそういう事があれば言いなさい」
ツンデレ?! おいその枠はレデリの物だぞ! いや待てよ、あいつは行動はデレデレで可愛いが言動は昔のホストの髪型の様にツンツンして痛い…
「流石聖女様」
「調子いいんだから」
聖女と言われるだけあって根が良い人なのはわかってる。 学校にいたら俺みたいなゴミ野郎でも分け隔てなく話しかけてくれるだろう。
だがそれはぼっちに対して美人が行ってはいけない事の一つ!! ガチのボッチはなぁ優しくされるとかそんなんじゃなく、話しかけられるだけで好きになるからな! ルーやフララのおかげである程度耐性ついたが、こっちに来たばかりの俺ならこんな美人に話しかけられた時点で速攻恋に落ちてる
「惚れた?」
「それはないわね」
「だろうね」
そういってお互いに顔を見合わせてプッと噴き出して笑い合う
星々が煌めく澄んだ夜空の下で他愛もない話をしながらの後片付けがすごく楽しい。 こっちに来てから俺は成長した、恋人が出来て、嫁も出来て、親友も出来て、女友達も…
「何空なんて見上げて浸ってんの、みんなの所戻るわよ」
何だかんだ彼女にも救われてるんだな、流石は聖女様
「おう!」
「何人の顔見てニヤニヤしてんのよ気持ち悪い」
ありがとう
「うるせーよ」
ストリンデは胸の前で手を組み、祈るようなポーズを取った。 聖女モードかな?
「直接見た事あるの?」
「…見た事はありません。 ですがヒエル様は常に人と共にあり、信じる物に優しく手を差し伸べ救ってくださいます」
「神って沢山いるの?」
「大精霊を信仰している所や、別の物を崇めている所もありますが、この世界の神はヒエル様だけです」
一神教なのね。 異世界だから普通に神が降臨してたりするのかと思ったけど地球とほぼ変わらないな。
皆もあまりこの話題には興味がないのか話に入ってくる様子はない。
「…あんた神を信じてないの?」
はい聖女モード終了
「信じてないというか… 直接見た事ないから実感がないんだよね」
「それは信仰心が足りないのよ、いい機会だからこの本を…」
ストリンデがカバンから一冊の簡易的な聖書らしき物を取り出した
「いや大丈夫です… 俺はもっと素晴らしい神々が書いた薄い本を知ってますから」
俺が欲しい薄い本はそれじゃない。 こちとら某同人誌即売会で様々な神が書いた聖書を沢山持ってるからな!
「何よ、サルラリよりもよっぽど価値がある物よ?」
ストリンデは眉間に皺を寄せる
「信仰で腹は満たせんだろうに」
「全く… あんた地獄に落ちるわよ」
どっかの占い師かな?
「俺はリアリストなの、ヒエル様には申し訳ないけど、信じろっていうなら身近な嫁を信仰するね」
俺はおやつでお腹いっぱいになり眠くなったのか、今にも寝落ちしてしまいそうにウトウトしているエメを見た
「エメちゃんが本当に大精霊っていうのは驚いたわ…」
ステータスカードで確認した時ストリンデは目が飛び出しそうな位見開き、卒倒しそうな自分を何とか堪えていた。 別の宗教の神が目の前にいるのだそりゃ驚いて当然だ
「まぁこの姿じゃな… 元の姿の時は知的で大精霊っぽいんだけど」
俺は元の知的でお淑やかな大精霊のエメと今の可愛い元気なエメの違いに思わずちょっと笑ってしまう
「何笑ってんのよ」
「嫁の顔見て笑って悪いかよ」
「はぁ… 嫁ってのも聞いた時驚いたわ。 あんた要するに非公式の神様と結婚したようなもんなのよ?」
なんやその有名人のニセアカみたいな言い方。 まぁ一神教だからヒエル様が本アカって事なんだろうが。 うちのエメだってフォロワー数なら負けてないぞ多分! ちょっと呟くだけで良いねがめっちゃつくんだから! 俺? おかんからしか良いね貰った事ないよ…
「まぁそういう事なんだろうけど…」
ついにテーブルに伏せて可愛く眠ってしまったエメをみる。
これでも一応信仰される対象なんだよなぁ、この前王都ですれ違った植人達がいきなり地にひれ伏してたし。 どうやら植人には樹の大精霊というのがすぐわかるらしい
「腕輪を持ってるから何かあるとは思ってたけど、全く信じられないわ」
頬杖を付いて呆れていた、態度は気に入らないが顔はキレイなので絵になってる
「俺は意外と一神教なのに押しつけがましくなくて驚いたよ」
「何を信じるかは人それだからね、まぁ私の神はヒエル様だけよ」
ストリンデの顔はまるで恋する乙女の様な顔になっていた
「そっか」
俺は大司祭でストリンデの父であるドウガに、神の存在を問うた時見せた苦々しい顔を思い出す
「そういやドウガさん元気?」
「…わからないわ。 最後に会ったのは結構前だし、その時も何か雰囲気違ってたわね」
「元気だといいけど…」
あの時のドウガさんの別れ際の悲しそうな顔はなんだったんだろう
「まぁとにかくこれからよろしくストリンデ」
「ええこちらこそよろしくね」
俺達は握手すると、みんなが小さく拍手していた
息子の成長を見守る親みたいなのやめてくんない?!
◇ ◇ ◇ ◇
ストリンデがうちに来てから9日目の朝俺達はイスブロンに向かう事になった
彼女は9日間毎日スラムや街に出てはケガを診たりやジプタレン中毒者を癒して回っていた
その間俺は自堕落な生活を送っていたのだがそれを見ていたストリンデが3日目位に痺れを切らし時間が勿体ないと思わないのかと意識高い系呟きみたいな事を俺に毎日いうようになる… 魔法の構想ねったりしてるっつーの。 こいつ絶対母親だったらゲームしてる横で掃除機かけて電源抜くタイプだわ、しかも意図的に。 掃除機アタックがいかに罪深い行為か自覚すべきだ世の母親共!
そしても今も…
「ねぇあんた朝の特訓終わってからずっとベッドに居ない? 時間勿体ないと思わないの?」
俺は今馬車の中の大きなベッドで、お昼寝してるエメとルチルとだらだらしていた。 うるさいなー 初めてこの馬車の荷台の空間をみた時や、このどでかいベッドで顔を赤くしたあのしおらしさは何処へ行った
「別に…」
何処かの高飛車女優の様な物言いにストリンデが食って掛かる
「時間は有限なのよ?」
はいはい意識高いですねー 成長したい方はご勝手にどうぞー 俺はなぁ… 金があるうちは仕事もせず毎日だらだら全力で暮らしたいんだよ! オス!おらニート!
「と思うじゃん? 寿命はないので有限ではありませんー、残念でしたー」
腹立つ言い方でストリンデをあえてピキらせる、いつも言われてばかりだと思うなよ?!
「そういう事じゃないの!」
ストリンデが握り拳を作り吠える その格好は日本で一番有名な婿がえぇ~!っと驚く姿を連想させた
「海産物一家の婿か! お前は彼位心を豊かに持て! しょっちゅう財布忘れる嫁に、いちいち癇癪起こす義理の父、興味ない振りしてそこそこの年齢で子供を産んでしまう程お盛んな性欲モンスターの義母、やんちゃというかただのアホの義弟に、年がら年中もこもこパンツを涼しい顔で見せびらかす露出変態義妹という特殊な環境下で尚あの常識人だぞ?」
「誰よそれ! 本当にそんな家族のいる環境下で常識人として振舞えるならその人が一番異常よ!」
はい論破ーじゃねぇーんだよ! 確かにそうだな言い返せねぇーわ!
パンパン
「はいはい仲良しなのは結構だけど、そろそろ終わりにしなさい」
「「仲良しじゃない!」」
「…二人は天邪鬼」
毎度ケンカの様になりフララが手を叩いて止めに入るというのが恒例行事となっていた。
今ではただのじゃれ合いみたいに思われてる。
「私のクラリーヌ・レ・フレリールレ・ミオ・バージミアンが敵を感知したわ」
どうしてもフルネーム言いたいのね…
「兄さん倒して来たら? そしたらストリンデさんも満足なんじゃない?」
「嫌だけど行くよ」
「私も行くわ! 怠け者のあんただけじゃちょっと不安だしね。」
「はいはいお好きにどうぞ、聖女様は聖女様らしく後ろで下がってみてて下さいな」
「ご主人様行ってらっしゃいませ」
イレスティが刀を二本俺に手渡し頭を下げて見送った
「…気を付けて、ショウが頑張ってる間、貴方の分も私がダラダラする。」
「私も貴方が一生懸命私達の為に働いている間存分にだらついてあげるから安心しなさい」
仕事に向かう夫にかける言葉として最低だぞお前ら… ちょっとストリンデの気持ちがわかってしまった
そして俺とストリンデは荷台から降りて敵を迎え撃つ
「んー大きいのが一体だな」
「見えて来たわね」
「あれは… ロックリザードだAランクの魔物って所だな、この辺りじゃ珍しい」
「詳しいわね」
「大図書館で知識詰め込んだからな」
「はぁ…勤勉なのかグータラなのかどっちなのよ」
美人のため息ってのは良いもんだね。 小うるさいが顔はやっぱり綺麗なのだ
「来るよ、下がって」
「嫌よ」
「何でだよ下がれよ」
「嫌って言ってるでしょ!」
「お前聖女だろ?! ヒーラーポジだろ!」
彼女が持っているのは錫杖の様な作りのヒールロッドらしき物だ
「もう!大きい声出さないでよ!」
キュエーーーーーー!
俺達が小競り合いしている間に三メート程のトカゲが現れた
岩のように固い装甲を持つことからロックリザードと呼ばれている
剣の技術も上がったし月華と月影なら問題なく切れるだろう、よし一発で…
「でぇーーーーやぁぁぁああああ!!」
ドガーーーーン!
突然起こった突風が俺の髪を靡かせた
「ふぅ、楽勝ね」
シャラン
「………俺の知ってる聖女じゃなーーーーーい!!」
彼女は気合を入れる声と共に高く飛び、錫杖のような物で固い頭を叩き割り、勢いそのままに地面にへこみが出来る程の威力の攻撃をロックリザードにぶつけ、涼し顔で錫杖のような物をシャランと鳴らして立っていた
「な、何よあんたの聖女に知り合いでもいたの?」
居るよ! 無数の聖女が俺の中にな!
「いや違うだろ?! 聖女って普通後方支援担当じゃないのかよ?! お前めっちゃ肉体派じゃん! めっちゃ強いじゃん! お前一人で魔王倒せるじゃん! もう勇者兼聖女やっちまえよ!」
力説するあまり思わず顔が近づいてしまっていた
「ちょっと近い近い! っていうか後方支援しかできない聖女ってどんだけ無能なのよ… 私は後方支援も出来るし、棒術も得意なの」
腰に手を置きシャランと錫杖で地面を叩く
「ドヤ顔してんじゃねぇーよ! お前はどんだけ俺の聖女像を壊すんだ! この武装聖女!」
「そんなに褒めなくてもいいじゃない… あんたも褒めたり出来るのね」
ストリンデの顔が赤くなる
「褒めてねぇーんだよ!」
パンパン
「はいはい、ストリンデ、これはショウの持病みたいな物だから気にしないでいいわ。 それともう暗くなる頃だから、ここで野営にしましょう」
「フララさんの婚約者は相当重い病気を患っているのね」
フララが神妙に頷いた
「…これは不治の病。 治る見込みは今後もない。」
君達最近取り合ってくれなくなったよね…
ぞろぞろと荷台からエメとルチル意外が野営の準備の為に出てくる。
「ねぇ、兄さん。 荷台の中で食事取れば良いと思うんだけど、何でワザワザ外で食べるの?」
「ふふふレデリよく聞いてくれた、流石俺の妹」
「それは侮辱の言葉だからやめて欲しい」
俺の存在って何?! てか俺に腕組んどいてそんな事いうの?!
「お、おう… ワザワザ外で食べるのはなぁ… 今からカレーを作るからだ!」
「カレーですか? それはどういう物なのですか?」
イレスティが唇に指を置き首を傾げる この癖可愛いんだよなぁ
「料理に詳しいイレスティでも知らないだろう、カレーっていうのはな複数のスパイスをブレンドし、小麦粉でとろみをつけた物に肉や野菜を入れて煮込み、サルラリにかけて食べる料理の事だ!」
「…あードイアの事ですね、丁度スパイスもありますし私が作りますよ、ご主人様はゆっくりしててください」
あんの?! カレーあんの?! 俺の異世界カレー無双が… 俺がorzしてる間にイレスティは荷台に戻ってしまった
「なんだ兄さんじゃなくても作れるんじゃん、ならワザワザ外で食べる必要もないね、私エメとるっちーのとこ行く」
「…私も戻る。」
「まだ本が途中だし貴方が作る必要がないなら戻るわ」
三人も荷台へと消えた…
「みんな待ってよ!」
伸ばした手は… 届かなかった…
「あんたってかなり愛されてるのはわかるけど、こういう時みんな冷たいわよね」
ストリンデはしゃがんでorz状態の俺に優しく止めを刺した
「いいんだよグスン…」
「はぁ… ほらぐずぐずしてないで木集めるわよ、それでサルラリ炊くんでしょ?」
溜息をつきながら俺の持ってる鍋と米を指さした
「でも…」
「まぁそれぐらいなら付き合ってあげるわ」
「…お前… いいやつだったんだな」
「聖女ですから」
ドヤ顔は腹立つけどな
そうして俺とストリンデは二人で枯れ木を集め火を起こし米を炊く
炊けた頃にはイレスティの方も出来上がり、みんなが何故かイレスティに無理やり引っ張られながら現れて、カレーを夜空の下で楽しく食べた。
そして今日は俺が率先して片づけを行っていた、片付けまでがキャンプでしょうが!
「それにしても何でそんなにあれやりたかったの?」
ストリンデも自主的に片づけの手伝いを申し出てくれていたので、俺が魔法で水を出し、ストリンデが食器を洗っている最中だ
「俺の故郷じゃ野営の時の食べ物はあれが定番なんだよ」
林間学校と言えばカレーだよね
「へぇ変わってるのね、普通あんな手間のかかる物野営で食べる?」
「まぁ野営が娯楽みたいなものだったからね。 子供の時にみんなで野営するイベントがあるんだけど、俺それに参加できなくてさ」
本当はああいう団体行動の中で一人ぼっちになるのが嫌で仮病使って休んだだけの悲しい過去だ… 危うく親に魔法で治されかけた時はどうしようかと思ったが…
「だから大きくなったら友達とか大事な人とやってみたいなって憧れてたんだ、ストリンデのおかげで夢が一つ叶ったよ」
「な、何よ調子狂うわね。」
ストリンデの顔がほころびそうになるが耐えたようだ
「ま、まぁ少し位なら付き合ってあげてもいいからそういう事があれば言いなさい」
ツンデレ?! おいその枠はレデリの物だぞ! いや待てよ、あいつは行動はデレデレで可愛いが言動は昔のホストの髪型の様にツンツンして痛い…
「流石聖女様」
「調子いいんだから」
聖女と言われるだけあって根が良い人なのはわかってる。 学校にいたら俺みたいなゴミ野郎でも分け隔てなく話しかけてくれるだろう。
だがそれはぼっちに対して美人が行ってはいけない事の一つ!! ガチのボッチはなぁ優しくされるとかそんなんじゃなく、話しかけられるだけで好きになるからな! ルーやフララのおかげである程度耐性ついたが、こっちに来たばかりの俺ならこんな美人に話しかけられた時点で速攻恋に落ちてる
「惚れた?」
「それはないわね」
「だろうね」
そういってお互いに顔を見合わせてプッと噴き出して笑い合う
星々が煌めく澄んだ夜空の下で他愛もない話をしながらの後片付けがすごく楽しい。 こっちに来てから俺は成長した、恋人が出来て、嫁も出来て、親友も出来て、女友達も…
「何空なんて見上げて浸ってんの、みんなの所戻るわよ」
何だかんだ彼女にも救われてるんだな、流石は聖女様
「おう!」
「何人の顔見てニヤニヤしてんのよ気持ち悪い」
ありがとう
「うるせーよ」
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記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
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ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
俺の性癖は間違っていない!~巨乳エルフに挟まれて俺はもう我慢の限界です!~
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少ないらしく(主人公は大好物)彼女達はコンプレックスを抱えている様子だった。
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※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写などが苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
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だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
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この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
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