蒼炎の魔法使い

山野

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第二十七話 女心は三分の一も理解できない

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「こんなん俺の思ってた異世界の旅立ちと違う!!」



ベリルの背中に乗って俺達は北部の森の出口の所で降ろしてもらった。

そのまま街近くまで乗せてもらってもいいのだが、旅気分を味わいたかったのだ



「旅立ちっていうのは馬車に揺られながら次の街を目指すもんじゃないの? 何で走ってんだよ!」

ショウは今驚異的な速さで街道を駆けて居た。



「馬車に乗るより、走った方が早いからに決まってるじゃないの、貴方の頭は中のジュースを抜いたココナッツの様に中身が詰まってないのかしら?」



ココナッツあるのか。 フララよ、その程度俺にはご褒美だ



フララが日傘をさし、大きな虎型のアンデッド、ニコレーナに横乗りになりながら呆れた様子だった



「くっ!強くなろうと努力した弊害がこんな所に…」



「…ショウ、私もお姉様もアイテムボックスを持っている。 ショウも亜空間に荷物を入れれる。 馬車の必要性が全くない」



「わかってるよ! わかってはいるんだがなんか旅立ち感が… やった事ないゲームをいきなり強くてニューゲームする感」



「…何言ってるの。」



「ショウ様は何故自分から不自由な旅を選ぶのでしょうか? 私は理解しかねますが」

イレスティも俺の気持ちを理解してくれないようだ



「それじゃあイレスティさん、例えばだが、メイドの仕事って全部を完璧にこなすのって難しいですよね? それを何の努力もなしに出来るようになるのってどう思いますか? 仕事を覚える過程で感じる楽しみや、苦労した経験を味わえないんですよ? それって勿体なくないですか?」



「…そうでしょうか? 私としましては即戦力の方がいいと思いますが。 教育している間も賃金を払うわけですから出来ない期間は短い方がいいのでは?」



「…全くその通りでございます」

ぐうの根も出ない程の正論だ。 メイドで例えたのは失敗だったかクソっ



「エメは旦那様と皆で旅するの楽しいよー!」

今日も元気溌剌だ、癒される



「んでさ、何で四人でニコレーナに乗ってんの? 一人乗りだよね?」



「…ショウ、このニコレーナ四人用なの。」

お前も空き地にドカンが置いてある雰囲気でいうのな



「え? それ本当なのルー? フララに前に聞いた時は一人用って言ってたけど」



「女心は変わるのよ」



「女心で乗車人数も変わるってどういう仕組みですか…」



「ショウ様、細かい事ばかりを気にしていると二人から愛想尽かされますよ?」



「それも女心ってやつ?」



「貴方がどんなに愚鈍で情けなくて、冴えない顔のよくわからない拘りを持った人でも、私達は愛想尽かさないわよ」

嬉しい事言われてるはずなのにHPは0よ!



「…それも女心」

ルーはいつでも真っすぐなのだ



「全部は理解できそうにないな」

壊れる程愛しているが三分の一も理解できない。



「女は全てを理解されたら女じゃいられなくなるからいいのよ」

それでも全部を理解したいってのも男ってもんだけどね



「旦那様大好きー!」

うん伝わってるよ完全に三分の一以上伝わってる



「俺もエメが大好きだよー」

妹的な意味で。 そんないつもの日常会話を凄まじい速度で駆けながらしていると、魔物に囲まれ今にも襲われそうな馬車を見つける。



「異世界イベントきたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

テンプレイベント来た来た、待ってましたよこういうの! 大体襲われるのって王女様とか王家に連なる物なんだよぁ!

ふふふ俺の異世界ライフはここからだ! 



「…またやってる。 成長したと思ってたのに。 あれはオーク?」

ルーが呆れた顔でこっちを見ている そんなのいいもん、だってべたべたのイベントだもん! 最初のチュートリアルみたいなもんじゃん! ワクワクするじゃん!



「助けるつもり? 面倒事になるかもしれないわよ?」

少し面倒くさそうだ、絶対に手伝ってくれないだろう。 私関係ないといった感じで黒い日傘をくるくる回している。



「それでも俺はテンプレ展開を外せない! みんなは待ってていいから」

キメ顔で告げる!



速度を上げて少し離れた場所にいるオークを長刀月華と小太刀月影で切る。 するとバターを切るようにスッと切れてしまった



「切れ味凄いな!」

引っかかりをまるで感じない。 固い物でも俺の技量によっては真っ二つに出来るかもしれない。



「よしこの調子で行くぞ」

そう意気込んだ所だった…



馬車から金髪の10人いれば間違いなく全員がイケメンと言うであろう目鼻立ちが整った男が飛び出してきて、囲んでいたオークを特に困った様子もなく倒してしまった。



「………」

俺がテンプレ展開を裏切られたに驚いていると、そのイケメンがこちらの方へ向かってきた。



「先程はご助力頂いてありがとうございました。 僕はブレシーナで冒険者やってるテオドナです!」

しかも物腰柔らかくて非の打ちどころがない!



「お、おう」

イケメン圧倒的存在感にに圧倒された。 無意識に負けを認めてしまった自分が悔しい。

馬車に乗っていたのは商人と冒険者の様だった。 冒険者達がオーク達を解体し始めている。



冒険者の馬車かよ! 期待させんじゃねぇーよ! どんだけこの世界は俺を裏切るんだよ!



「…ショウ大丈夫だった?」



ルーが長い髪を揺らし後を追ってきたみたいだ、後ろを見ると他の三人もニコタクシーを降りてゆっくりと歩いている。 ニコレーナは結構目立つから帰したんだろう



レオナルドがルーを見つけるなりさっと前に出て跪いた。



「なんと美しい… その美しさはまるで女神。 貴方に出会う為に私は生まれて来たと言っても過言ではない」

なんかこの光景つい最近みた気がするな



レオナルドがルーの左手を取ろうとする



「…やめて。」



ルーが一歩下がった。 はははざまぁ! イケメンなのに避けれるのってどんなきもちぃ?!

レオナルドが困惑したような顔をしていた。 拒まれるとうい経験がないんだろう。 俺の学生時代を是非経験して欲しい



気のせいかもしれないけど、隣の席の女子との距離が無駄に空いてたり、気のせいかもしれないけど、俺が歩くと女子はさっとみんなどいてくれたり、気のせいかもしれないけど、美化委員の仕事で教室の掃除をする時一緒になった女子との距離が異様に遠かったり… 何故だろう、チクチクした痛みが迸るよ…



「私に触っていいのはショウだけ。」

俺をしっかりと見つめていた



「ショウってもしかしてあのさえない男か?!」

レオナルドの困惑顔が心底驚いたという様な顔に変わる



「そうよ、その冴えない男が私とその子の婚約者。」

フララが追い付いてきた。 追撃やめーや。 一応婚約者ってくくりになるのかそういえば



「それにエメの旦那様だよ!」

メンバー認定待ったなし



「私の神です」

ん? 神って何?! 何の?!



「何?こ んな男が女神の様な美しさを持つ二人と婚約だと?! あんな可愛い子も囲って、それに美人メイドだと?!… ハーレムかよ…」

…あ、忘れてたけどいつの間にかハーレムパーティーになってる! 認識すると恥ずかしいな…



レオナルドが羨ましそうにこっちを睨む。



まさかイケメンにこんな顔をしてもらえる日が来るとはな! 俺が毎日イケメンにしていた顔だ! でも怖い…



「そ、それじゃあ俺達行きますね」



「まて、お前そのオークはいいのか? それにここから徒歩だと後二日はかかるぞ」



「あー別にいらないんで好きにしてください」

亜空間に森で倒した魔物沢山入ってるからね、金にはしばらく困らんだろ



「それに僕らなら一日も掛からずに着くので。 じゃあみんな行くよ、イレスティさんちょっと我慢してね」

イレスティさんをお姫様抱っこする



「きゃっ!」

イレスティさんのふと出る可愛らしさにやられそうになる



「ショ、ショウ様何を?」

とても驚いた顔で恥ずかしいのか、すこし頬に紅を差したようになっていた。 



こういう所好きなんだよなぁ 実は俺、イレスティさんがめっちゃタイプだったりする。 全く手の届かなそうなルーやフララと違って顔立ちはきつめなのに親しみやすい感じがツボなのだ。 おっと背筋に寒気を感じるな…



「ニコレーナ出して乗るわけにはいかないでしょ、ここは我慢して」

耳元で囁くように言う



「ひぃやぁんっ!…は、はい」

イレスティさんくすぐったかったかな? 耳も少し赤い



「…イレスティなら許す」



「お世話になってるし仕方ないわね」



「エメも今度やってやって!」



イケメン君みってるぅ~? これがハーレムというものだ!



イケメンレオナルドの視線を感じながらそのまま街に向かった。



◇  ◇  ◇  ◇



「見えて来たわね、あの壁の中にある街がブレシーナよ」



フララが指さした方をみると、リールモルトに比べると簡素だがこの辺りの魔物を入れないという意味では十分だろう



ここでの目的は主に、裏組織アラトラスとブライケルの情報収集、大精霊の情報、そして大事な大事なアタッ…ではなく大事な大事な冒険者登録!



ついに冒険者ですよ! こっち着てやっとこさ冒険者! 普通の主人公なら即冒険者ルートなのに何故か俺は即騎士ルート入ったからな…



リールモルトの国王でもアラトラスの情報はほとんど持ってなかった。 だが俺の魔法を使えばこの町で何かわかるかもしれない



「待ってろよブライケル、取り合ずお前からだ」



街に近づくと何人かが街に入るために並んでいたので俺達も並ぶのだが… 物凄い視線を感じる。



原因は明白。 連れだ。 そこら中からいやらしい視線を感じているであろう四人は特になんでもないように涼しい顔をして談笑していた。



慣れてるんだろうなぁ、それとも他人興味がないのか…



すると大剣を背負った巨漢の男。 俺の連れを見てニヤニヤとした気持ち悪い笑いを浮かべながら、こっちに近づいてくる。

あーわかっているさ、どうせ俺のにその女寄こせよとかいうテンプレ展開だろ? そういう事だろ? 待ってないって言ったらウソになるよな?! 



「おい兄ちゃん!」

来た! やってやんよ! かかってこいや!



「街に入る列はあっちだぜ、盗み聞きみたいで悪いけど聞こえちまったんでな。 それじゃあな」



「…ただの良いやつじゃねぇかよ!」

ごめんなさい俺の心が腐ってました… あのニヤニヤした笑いも嫌らしい意味じゃなかったんですね…



「貴方一体この世界はどんな野蛮な世界だと思っているの?」



「世紀末位野蛮だと思ってます」



「ヒャッハー! な世界ですよね? 旦那様?」



「…ショウの頭の中はどうなっているのかわからない」



「エメ知ってるよ、あのねー」



「わーわーわーやめろやめろ!」

俺は慌ててエメの口をふさぐ



「もごもgもごもg」



「お楽しみの所申し訳ありませんが、ショウ様あちらに並びなおした方がいいのではないでしょうか?」



「…はい」



並び直して待っていると俺達の番が来た



「はい次の方どうぞー」

兵士が深夜のコンビニの店員の様なテンションで促した



「ショウステータスカード出しといて。」

あ、こういう時にも使うのか、それは異世界っぽいな



「はい、えーっと五人ですね?おー凄い別嬪さんぞろいですね、目的は?」



「ハーレムです」

女性陣からの視線が痛い。ネタじゃん



「そっちじゃなくて」



「あ、冒険者になりに。それと観光ですね」



「あーはいはい、じゃあ入国は一人銀貨一枚ね。 それとステータスカードだしてー」



こちらまでだるくなるようなテンションで提示を求められたので見せる



「えーっとショウさん…人間ね、はいはい。イレスティさん…ヴァンパイア、珍しいね。ルーメリアさん…ヴァンパイアプリンセス…?! フラミレッラ…グールエンペラー?! 」

兵士が突然腰に差した剣を抜いて俺達に構えた



「お、お、お前達何をしに来た?! この町を滅ぼす気か?!」

何かに怯えるように大声をだす、周りも何事かと集まって来た



「え、え?! いや観光とかしに来ただけなんですけど!」



「嘘つけ! お前が連れてるのはヴァンパイアプリンセスとグールエンペラーじゃないか!」

そういうと周りの人たちも驚き中には悲鳴を上げて逃げ出す者までいた



「あら? 最初からグールエンペラーって公言してれば並ばないで済んだわね?」



「お姉様の見た目誰も信じない。」



「何騒いでるの?! 何か楽しそう! わー!」



「ショウ様伝え忘れましたが、ヴァンパイアは人間社会にも溶け込んでますが、ヴァンパイアプリンセスやグールエンペラーは人の街をいくつも滅ぼして来た種族なので怖れられてるんですよ」



「…はよ言えやーーーーーーーーー」

俺の絶叫が木霊した



「何の騒ぎだ?!」



「ジェレマンさん! この二人がヴァンパイアプリンセスとグールエンペラーなんですよ! その緑の子はまだ見てないので知りませんがこの町の脅威になりえます!」

さっきのだるそうな態度はどこへやらで、きちんと仕事している。



「何だと?! それは本当か?!」

ジェレマンと呼ばれた男がこちら顔を向け話しかける



「えぇまぁ本当です、ただ町を滅ぼすとかそういう気はないんですが…」



「そうか… それを信じれるかはまた別だ。 一応私にもカードを見せてもらえるか?」



「構いませんよ、みんなカードもっかい見せて」



みんながもう一度見せる



「?!これは…本当に…」

ジェレマンと呼ばれた男はカードを持つ手が震えていた



そして目の前に跪いた。



「大変失礼いたしました、数々のご無礼お許し下さい」

ジェレマンの声が震えている



「ジェレマンさん何してるんですか?! こいつら危険ですよ!早く下がって下さい!」



「バカモノ!こ のお方達はそんな方々ではない! 貴様の首を今すぐ差し出しても足りん無礼を働いているのだぞ!」

え? そうなの?



「それに… そちらのエメと呼ばれるお方は… その… 本当なのでしょうか?」

あ、そっか!大精霊って神として信仰してる所もあるっていてったな! こりゃ次から町入る時は俺の魔法で隠さないとなー



「仕事ちゃんとしてるだけですし別にいいですよ。 エメは見たままですよ、偽造はできないでしょ?」



「そうですか。 まさかこの目で拝見できるとは…」

涙が今にも零れそうだった。 ごめんねお子様精霊で… 大人バージョンのちゃんとしたのを見せてあげたい…



「失礼いたしました。そしてショウ様、貴方はこちらの方々の従者か何かでしょうか?」



「そうです、僕は」



「…彼は私の婚約者。」



「私の婚約者でもあるわね」



「エメの伴侶だよー」



「神ですね」



ジェレマンが卒倒しそうだったのを何とか堪えた



もうやだこいつら! 話をややこしくしないでよ! 従者でいいじゃん!



「それで、ジェレマンと言ったかしら? この騒ぎどう収めるの? 私の婚約者は良いって言ったけど、私は言ってないわよ? そこのギャーギャー騒いでた坊やの首でも切り落とす?」

恐怖! なんという鬼畜! 本当は何とも思ってないくせに!



「そ…それは… ご容赦願えないでしょうか?」



「あらどうして?」



「彼は地方の出身でこちらに配属されたばかりで何もしらないのですなので」



「それと私達と何の関係があるというの?」



「……ありません」



「そうよね? まぁ貴方達と話してても埒が明かない領主の所まで連れて行きなさい。 今は誰だったかしら? 前に挨拶に来たけど興味ないから忘れたわ」



「…ウスターレだったと思うお姉様」



「ルーメリア様に何度も求婚された脂ぎった豚のような男でしたね確か。」



「気持ち悪そう! エメ会いたくない!」



「まぁそう言わないの、ちょっと話があるだけだから」

黒い笑顔だ、確実に何かたくらんでやがる!



「それとジェレマン、本当は別に気にしてないわ、ただからかいたくなっただけよ。 うふふふふ」



「…そうでしたか。」

ジェレマンは明らかに安心していた。 この何回かのやり取りで一気に老け込んだように思えるが



「それではこちらになります」

立ち上がり俺達を案内する。



先程大声をあげていた兵士は状況がわからず困惑しているようだった。



俺達一行は無事?に入ることが出来、そのまま領主に会う事になった。

確実になるかあるという不安を抱えながら…
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