凌辱カキコ

島村春穂

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極彩色情狂

三/五

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 充がいま犯しているのはまぎれもなく自分自身であったはずだ。つまりトラウマを抱えた自分自身。そのために自分を守る術として道化を演じ続けているうちに無意識に押し込んでしまった本当の自分自身。被虐的だと言ったのはそういうことだ。自分自身を犯すのに手加減などする馬鹿はどこにもいないだろう。それを思わせる容赦のない突きだった。三百六十度エネルギーを放出するかのように体ぜんぶを使って結合部を一心に掘りまくっていった。


「アアッ」
 荒川の肌が目に見えて張り詰めていった。脂肪ののった背中や腰や丸っこいでか尻が、職掌柄一日中立ちっぱなしで鍛えられた、アスリートとはまた別物の実用美に充ちた筋肉が太腿やふくらはぎで盛り上がって艶っぽい光沢を帯びた。のけ反る、よがる、そして悶える。豊満な女体がぐるぐる回っていた。


 結合部はみるみる泡立ってきた。男根や皺袋に波の花のようなものが付着しだした。


 充のやる被虐的な抽送にあえいでいた荒川がやがて子ども返りしていった。ほとんど訳のわからないことを喚いている訴えは、およそ、おっぱいちょうだい、のおねだりのようであった。母乳を求めて朱い唇が酸っぱそうに尖っている。


 充のリズミカルだった抽送が結合部を引き離すような乱暴なものに変わっていった。一打一打が振り幅のおおきなものになって、腰を十分に引いたあとに勢いよく突き上げていくピストン運動であった。しかも、ドスン、と重い。


 一際幼児性の高い声音で荒川があえいだ。もはやリスニング不能な卑猥の数々がふやけて出てきていた。


 もしかすると、荒川の旦那は甘えん坊なのかもしれないな、と蒼甫は思った。夫婦がそれぞれ対等な精神年齢で結婚生活を過ごせることがまずあり得ないからだ。どちらか一方が母親か、或いは父親の役目を押し付けられることになる。そして、それは交際期間に気づくことはほとんどなく、結婚後から始まる。母親役、乃至父親役になるのと、子ども役をやるのとでは誰がどう考えても子ども役をやりたがるに決まっている。おそらくだが、荒川だって子ども役をやりたくてセックス以外の場面でも旦那に甘えたはずである。だが結果的に荒川は母親役をやらざるを得なくなった。そして旦那は子ども役で甘えるようになった。ここで一つの推測ができる。旦那のほうが荒川よりも相手に対してより心を開いていたと言い換えることができる。だから、もし旦那が荒川のこの痴態を知ったら、青天の霹靂だったろう。まさかどんなわがままも聞いてくれたあの母親のような嫁が浮気するなどとは思いもしなかったはずだ。


 それがどうだ。いまバックから突き上げられるたびに蛸のように尖らせた口から、おっぱいちょうだい、のおねだりをひどく幼児性の高い声音で喚きながら、旦那がおよそ聞いたことがないような本音を素性もよく知らない年下の男の前でここまで爆発させているのだ。


 よくよく考えてもみれば、あの検診センターの一件だってそうだ。売春でいくら破格な金額を蒼甫が提示したからといって、普通子持ちの人妻がああも簡単に落ちる訳がないし、見知らぬ男からレイプまがいのことをやられたあとで、同じ条件、それも忌まわしい同じ場所に後日またのこのこと来るなんてよほどのことだ。


「イクぅ、イクぅ、イクぅ、イぃクぅーッ!」
 かん高い声は一直線に暗がりを切り裂いて振るえさした。と同時に荒川がその場に膝から崩れ落ちた。


 だが充には待てしばしがなく、荒川のてっぺんの髪が乱暴に手繰られていった。女体が弾むように正対させられて充の足もとに屈した。荒川の目もとにはもはや生気がほとんどなく、黒目がちな瞳の芯だけが鈍い光を宿していた。


 異形な物体が荒川の眼前にある。普通であれば剥けた包皮というのは肉冠下の溝に幾重にも皺を寄せる形で納まっているものなのだが、充のはそれとは様子がだいぶ違う。包皮がカブトムシの幼虫のようにぶよぶよと腫れぼったいのだ。よく見るとひどく血色が悪そうだった。内出血を起こしたみたいな暗紫色をしていたのである。



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