凌辱カキコ

島村春穂

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極彩色情狂

一/四

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 充は一度眼前の佇まいに眼をおおきく見開いたが、いま手に持った抜き取ったばかりのどぎつい刺繍が施された黒い紐パンにも興味があるようであった。並々ならぬ思いは両手で捧げ持つようにさせた手つきに現れ、未熟女がたったいままで秘所を覆い隠していた物を繁々と観察している。よくよくその下着を見てみれば、どぎついばかりか、けばけばしくさえある。


 クロッチを裏返した時、アッ、と荒川のほうから慌てたような声が上がったが、夢中になっている充の耳までは届かなかったようで、「濡れてる……」と、呟いたことに紐パンの持ち主が赤面していることなどまったく気がつかず、青年童貞は、そのまま裏返ったクロッチを鼻さきまで持っていき、匂いを二、三注意深く嗅いだあと、舌腹でぞろっと舐めあげた。


 荒川は胸に宛てて握り合っていた手がほどけ、やめてぇ、と充のほうに伸びかけたが、さも美味しそうにクロッチを舐めあげている充を見ているうちに、どことなく酔っ払ったかのように目もとが潤み、そして妖しく輝きだした。


「これくださいッス」
 あまりにも強い眼差しで、こう下から見上げられてしまうと、やだ、とは言えない荒川であった。充は、やった! と途端に顔色をパーっと明るくさせて、嬉しそうに戦利品をデニムのポケットに忍ばせた。


 それから、パンフスのさきから足首、ふくらはぎ、膝っ小僧、そして太腿から鼠径部と舐めるような眼つきで順番にたどっていった。


「ああぁ……」
 そうやって視線を這われたところが強張っている。


 好きでもない男から性的な目的で狙われるというのは女にとって一体どんな気分なのだろうか。イメージし易いところで言えば、動物が捕食される恐怖ともしかしたら似ているのかもしれないし、もしかしたらそれは、標的にされたいじめられっ子が遊ばれながら狩られていく焦燥とでも言えば想像がし易いのかもしれない。ただし、そこには他者から強制されたおよそ自分の力ではどうすることもできない恐怖だけではなく、もはや諦めるしか選択肢がないのだ、という風に自己が決めつけて塞いでできた恍惚のような何かがある。


 充が、ふうふうと百メートルを全力疾走したあとのように鼻腔を詰まらせながら、鼠径部へと両の手が触れた時には、荒川はすでに酩酊していた。


 汗ばんだような手をパンティストッキングで拭うかのような手つきで股ぐらがどんどんこじ開けられていった。ちょうど頭一つ分くらい入りそうなすき間が出来上がったあと、そこに下から顔を埋める恰好で、漆黒の叢へと充が口づけをやった。


 クロッチがああも濡れていたのだから、淫らがましい源泉のほうが湧いていないはずがない。だから、口づけをしているところから、すぐに小気味よい音がくちゅくちゅという具合で鳴った。舐めても吸ってもしゃぶってもパンティストッキングからとめどなく愛液が滴ってきている。粘度の度合からみてもどのくらい荒川の奴が高まってきているのかが窺い知れた。太腿の内側にツーっと筋状に引いていく透明なものが蛍光灯からの弱い明りを反射させて暗がりのなかで美しく煌めいている。


 充のめいいっぱいに突き出した舌腹から挑発的でひどく下卑た呻き声があがる。パンティストッキングから滴り引いていまにも垂れ落ちそうな愛液がぷつりと切れてくるのを股ぐらの下から待ち構え、いまかいまかと受け止めようとするのをこうやって見せつけられているうちに、いやだあ! と荒川のほうがひどく狼狽え、ふくらはぎなんかは筋張って艶めくくらいにまで盛り上がった。そのうちに、ぷつん、と切れた愛液は下で待ち構えていた舌腹の真ん中ら辺に落ち、パンティストッキングから垂れて残った愛液が上に引っぱられたあと、また漆黒の叢から新たに透明なものが垂れてきてさきがたゆみ、これをこんどは青年童貞の唇が啜りながらたどっていって再び叢で飾られた媚肉の丘へと口づけた。


「アアっ……」と充は、口づけた場所でそのまま深呼吸をさせてから、鼻さきでこそばゆそうな愛撫をさせた。どうやら、あの様子からだとハイゲージなパンティストッキングの網目から突き出してきている叢の毛さきの感触を味わっているらしかった。勿論女の道具から立ち昇ってきているだろう甘酸っぱそうな匂いもだ。


 昨今、ネット回線が繋がってさえいれば、女の裸体にアクセスするのに一分も掛からない。非合法の網を潜り抜けて一秒さえ惜しむかのように日夜投稿され続けている児童ポルノから、隣人の熟年夫婦がやるSMごっこに至るまで、それに人種だって多様だ。黄色いのから白いの、褐色や黒いのという括りだけではなく、どことどこのハーフであるとか、さらにもっと遡っていって、どことどことどことどこのクォーターであるとかまで微細な検索をすることさえできる。


 島国の日本ではまだそういったフェチは少ないだろうが、陸続きの国々では間違いなく混血フェチが存在しているし、その逆に純血フェチが存在している。日本では方言フェチのほうがより馴染みがあるのかもしれないが、海の向こうでは訛りを遡ればそこには血がある訳だ。がしかしだ、二十一世紀にだいぶ小慣れてきた現在であってさえも、いまだに匂いというものだけはネット上でも共有ができない。だから、匂いフェチというものがおそらくは先天性のものであったとしても、あそこまで充が執拗に匂いを貪るのは、いくら青年になるまで童貞であったとしても、寧ろ自然なことといったほうがよかった。



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