凌辱カキコ

島村春穂

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凌辱カキコ

二/十

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 変態っぽくというか、変態そのものの口ぶりでああやって恵美と呼ばれていると、名前すら凌辱されている感じさえある。名前を一つ呼ばれては、荒川は歯を剥いて憐れなほど下唇を歪めたし、名前を二つ呼ばれれば、いまにもせり上がってきてしまいそうな悲鳴を喉奥でやっと押しとどめ、名前を三つ呼ばれては、こんどは眉尻をたわめ、名前を四つ呼ばれては、到頭白い頤を押し上げていきあえぎ声をしゃくりあげた。


 美人妻がつと洩らした迫力ある低いあえぎに、充は一瞬慄き、愛撫をとめ、蒼甫のほうでも甘美な忘我が生じて固唾を呑んだ。だがしかし、もっともたじろいだのは言うまでもなくあの荒川のほうであり、どうもというのは他人様に聞かれてはマズい女の本気だったようで、羞恥の沙汰に堪えきれず下半身の動きが如実にせわしくなっていく。


 頑なに閉じ合わせていた股ぐらには美しいY字ができている。内股のパンプスから覗く足首から、肌に張りつくようにタイトな七分丈のふくろはぎがたまらなく男の情欲を次から次へと掻き立ててくる。


「……ゆるしてぇ……」
 という訴えとともに、荒川のまん丸いでか尻が、ぐわん、とおおきな円を描く。そのあと、ややへっぴり腰にもなれば、高級肉まんのように惜しみなく中身が詰まったでか尻が後ろに突き出ていく。


「……もぅゆるしてよぉ…ォ……」
 荒川の下半身が振るえだしたらとまらない。電流を帯びたかのように不律動にビクビクさしている。


「もうたまんねえ!」
 充が、腋窩から顔を放した。


「なっなになに!?」
 充の奴が、ジタバタさせた荒川の太腿を己の股ぐらに深くまで挟み込み、腰を前後に振り始めた。「いやだあ!」と、荒川のほうが必死で抗うから、充はがに股になってグッと腰を落とし、下から上、下から上へと突きあげる要領でピストン運動を送っていく。


「うほっ。きん玉まで擦れるッスぅ!」
 奴の抽送がどんどん早くなる。これによろめく荒川が、充からようやく両腕を下ろすことを許され、だがしかし、下ろしたその両腕ごとこんどはきつく抱き寄せられてしまい、情欲を込めたピストンを鼠径部に喰らう。


 まるで発情した猿のようだ。如何せんあの充が荒川よりも小柄な為、どことなく下克上といったような光景にさえ映る。確か、猿の群れでは、ナンバー2やナンバー3がボスを追い出したり、或いは他の群れがまた別の群れのボスを追い出した場合には、まず手始めに下位階層の雄猿に至るまで牝猿を犯しまくるのだという。牝猿が子猿をおぶっていてもお構いなしで、バックから犯しまくる。蒼甫がいま見ているこの光景もある種、動物の本能なのだろうか、あの充も丸っこいでか尻へとまわり、これまた痛烈なピストン運動で荒川の豊満な躰を前後に揺らし始めた。


 もはや一度、下腹部にせり上がってきた欲望をとめられる青年童貞ではなかった。鼻息を詰まらせ、がに股にひらいた膝が振るえようと気張り続ける。立ちバックで女の腕を抱えてやったり、おっぱいを掴んで躰をひき寄せてやったりできるほど、いまのあの充にはそんな余裕があるはずがない。


 荒川が支えを求めてまるで溺れたように両手で虚空を掻く。その間にも丸っこいでか尻がことごとく性的に取り扱われ、トイレ内には手籠めにされていく女の悲鳴が木霊した。まん丸いでか尻が次第に突き上がる。倒れまいと、懸命に頑張ればそれだけ恰好が露骨に、また破廉恥にもなる。あれだけ必死に閉じ合わせていた股ぐらがいまはひらき、外向きになった膝との空間にはなんともスケベな菱形が出来上がっていた。


「イアァアアァアアアァ…ッ……」
 諦めにも似た声音を荒川が引きずる。と同時に、ピンと伸びきった両手が下に突き、髪という髪が垂れさがっていき床を刷いた。こうなると、女体は弓なりに撓り、丸っこいでか尻を益益、あの充に差し出す格好となった。こう突き易くなったことで、充が俄然遮二無二なった。


「えみぃさぁんぅ……えみぃさぁんぅ……えみぃさぁんぅ……えみぃさぁんぅ…ぅっ……」
 と、充がきつく歯を食いしばる。鼻頭に溝の深い縦皺を刻み込むと、頬辺が瘤のように盛り上がっていき、眉がとげとげしく引き攣れば、何者かにどこか似ている。不動明王だ。男にこうまで化けられてしまっては女の経験値など蜃気楼のようなものだ。事実、いまといういま、あの荒川は茫々と色情夢を彷徨っていたのかもしれない。引きずる声音が次々と闇に呑み込まれていく。


 充はいまこの瞬間も変わらずに、荒川の下の名前を呼び続けている。もう幾たび呼び続けていることだろう。百回か、それとも二百回か、三百回か。ここまで熱烈に名前を呼ばれたことは、あの荒川だっておそらく初めてのことだろう。そして充が、荒川の名前を呼び続けて何度目のことだろうか。充が、突然息を詰まらせた。矢継ぎ早だった抽送が突として大振りになった。


 ドン! ドン! と、おおきく後ろから突かれ、七分丈のパンツの上からでも、丸っこいでか尻が波打ったのがよく分かった。次の瞬間、充の尻がぶるぶるっと振るえたのとほとんど一緒に、まん丸いでか尻も不律動にビクついた。


 あのでか尻から、充の股ぐらがようやく放れた。やっと解放された荒川は、そのままその場に崩れ落ち、俯いたまま顔を上げられなかった。充はそうした荒川をずっと見ていて、一歩、二歩と後じさった。口もとがなにかを言いかけている。その間にも、また一歩、二歩と後じさっていく。


 女坐りで双の肩さきで息を吐く荒川を見ている。いまや髪の毛は乱れきっていて顔中に垂れさがっている。そんな荒川が、ぎごぎご、という感じでゆっくりと首を回して充のほうへといく。その刹那、充から小さく悲鳴がでた。慌ててドアノブを回してトイレから出ていく。


 トイレ内には、充の残した悲鳴だけが残り、木霊したまま暫く消えることがなかった。



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