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冬旅
しおりを挟む冬の寒さは厳しく、家を失くしたオレは暖かい寝床を求め長年住むこの村を出ようとしていた。そんな俺に一匹の猫が近寄り声を掛けてくる。
「本当に出て行くのか?」
丸くふっくら太ったその猫は、口に咥えていた魚をオレの前に投げつけた。こんな魚一匹、情けのつもりか?
「コレは?」
「持ってけよ。婆さんはもう居ないし、新しい家族を見つけるまで食事も必要だろ」
たった1匹だが、確かに無いよりマシだ。オレは魚を咥えてその場を出発する事にした。
村の境目まで来た時、オレは橋の手前で不思議な光景を目にした。半透明に透き通った年寄りの人間がオレを見て立っているのだ。
どこか見覚えのある顔だ…。
オレは毛を逆立て警戒しながらゆっくり半透明な人間に近寄れば、流れる様に記憶が脳内を巡り婆さんとの生活を思い出した。
「団子、元気しとったかい?」
戸惑う俺に駆け寄る婆さんは笑顔でオレの周りをグルグル観察し始める。「少し痩せたか?」「食事は取ってるかい?」など…相変わらず煩くて仕方ない。
「どっか行ったと思えば…ジロジロ見んな」
オレは以前の様に伝わりもしない言葉で伝えると、婆さんは驚いた顔をして俺を見下ろしていた。
ん?婆さんが見えてる事に驚いてるのか?
婆さんの方から現れたくせに?
だが婆さんは、オレの考えと違う答えを口する。
「団子、お前さん話せるのかい?」
……は?
いや…人間はオレの言葉なんて
「にゃー」しか聞こえないんじゃないか?
どういう事だ?
「婆さん、オレの言葉わかるのか?」
オレが改めて聞いてみると、婆さんはクスクスと笑いそれに答える。
「そうみたいじゃ。にしても、こんなに言葉遣いの悪い坊主じゃったとは…」
「…言葉が悪いのは元からだッ婆さんが今まで知らなかっただけだろ。さっさと天国行っちまえよ、オレは今から旅に出るんだ」
そう言って橋を渡ろうとしたが、婆さんはしつこくオレに付き纏う。
「団子よ…わしは心配なんじゃ、着いて行って良いじゃろ?」
「来んな。前から思ってが婆さんのそゆトコ、ウザってぇんだよ」
「そうなのか?なら黙って着いてくから気にしないでおくれ」
ニコニコ笑顔で後ろを着いて歩く婆さん。
何故そうなるんだ?
何で俺…こんな婆さんを
ずっと待っていたんだ…?
ーーーーーーー
婆さんと合流して
どのくらい歩いただろうか?
村を出たのは初めてだが、隣町も中々落ち着く雰囲気が出ている。何か食べ物は無いかとノソノソ住宅街を歩いていると、白く冷たい何かがオレの鼻に触れた。オレは驚いて飛び跳ねると、背後から婆さんの陽気な声が聞こえる。
「ほほっ雪じゃな、ほれ雪じゃ」
婆さんの言葉に空を見上げると、沢山の粉の様な物が降ってきていた。
「団子、早く暖かい場所を探さないと」
「うるせぇな、分かってんだよ」
「わしが探してきてあげよう!」
「幽霊に何が出来るんだよ」
「分からんが…このままでは団子が凍え死んでしまうよ。それに腹も減ったろ?」
「減ってない」
そう言い返したオレだったが、タイミング悪く腹の虫が鳴き婆さんは笑って見ている。
……胸糞悪いぜ
オレはすぐ近くの家の前へ行けば「にゃー」と声を掛けてみる。直ぐに人間は出て来てくれたが、泥だらけな上やせ細ったオレを見て「野良猫かッ!!あっち行けッ!!」とドアを閉めてしまった。
「何だいありゃッ団子が何したって言うんだいッ!!」
人間の態度に怒りだす婆さんは、ドアに向かって大声を放つ。しかし幽霊の婆さんがいくら声を上げても、中の人間に聞こえるわけが無い。オレは諦めて家に背を向け歩き出した。
「行こうぜ、人間なんてそんな物さ。婆さんが変わり者なんだよ」
オレは仕方なく近くのゴミ捨て場を漁る事にしが、此処でも婆さんはオレに声を掛けてくる。
「そんなのおよしよッ腹でも壊したらどうするんだいッ!!」
「でも食わなきゃ死ぬんだ。オレは死ぬのゴメンだぜ」
ゴソゴソとゴミ袋を破り漁っていると、食べかけの食材が零れ落ちてきた。
今日はツイてる
魚も肉も出てきた!
オレが魚にかぶりついてると、ふと違和感に気づいた。いつもならガーガーと止めてくる婆さんの声が聞こえないのだ…。
まぁいっか飯が先だ。
食事が終わり寝床を探しに公園へ向かうと、何やら人集りが出来ていた。
「あの人1人で何を騒いでるのかしら」
「こんな寒い中、草むらに向かって怒鳴るなんて頭がおかしいぜ」
オレは人混みを抜け様子を見ると、目の前で1人の人間が幽霊の婆さんに向かって叫び声を上げていた。
「返せッ俺の飯だ!布団を返せッ!!」
婆さんの近くにはダンボールと1個のパンが置かれている。
「ヤダねッそもそも、何でわしが見えるんだいッ!?コレはウチの団子にやるんだッ!!」
野次馬達に幽霊婆さんは見えてないらしい。
まったく…盗みはダメだと
自分が言っていたくせに
幽霊ならいいのかよ。
オレが婆さんに近寄ると人間を無視し、直ぐにパン1個を差し出してくれた婆さん。
「ほれ、団子~コレなら腹を壊さんぞ」
「盗みはダメなんだろ?あの人に返してやれ」
「じゃが、それでは団子がっ」
「余計なお世話なんだよ、人に迷惑かける婆さんなんか見たくもねぇよ」
「…そうじゃな、わしが悪かったのだ」
婆さんは素直にパンとダンボールを人間へと返し、怒鳴っていた人間はそれらを抱えどこかへ走って逃げてしまった。するとその場に居た野次馬達も、それぞれの家へと帰って行くのだった。
まったく、世話のかかる婆さんだ。
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