2 / 5
冬旅
しおりを挟む冬の寒さは厳しく、家を失くしたオレは暖かい寝床を求め長年住むこの村を出ようとしていた。そんな俺に一匹の猫が近寄り声を掛けてくる。
「本当に出て行くのか?」
丸くふっくら太ったその猫は、口に咥えていた魚をオレの前に投げつけた。こんな魚一匹、情けのつもりか?
「コレは?」
「持ってけよ。婆さんはもう居ないし、新しい家族を見つけるまで食事も必要だろ」
たった1匹だが、確かに無いよりマシだ。オレは魚を咥えてその場を出発する事にした。
村の境目まで来た時、オレは橋の手前で不思議な光景を目にした。半透明に透き通った年寄りの人間がオレを見て立っているのだ。
どこか見覚えのある顔だ…。
オレは毛を逆立て警戒しながらゆっくり半透明な人間に近寄れば、流れる様に記憶が脳内を巡り婆さんとの生活を思い出した。
「団子、元気しとったかい?」
戸惑う俺に駆け寄る婆さんは笑顔でオレの周りをグルグル観察し始める。「少し痩せたか?」「食事は取ってるかい?」など…相変わらず煩くて仕方ない。
「どっか行ったと思えば…ジロジロ見んな」
オレは以前の様に伝わりもしない言葉で伝えると、婆さんは驚いた顔をして俺を見下ろしていた。
ん?婆さんが見えてる事に驚いてるのか?
婆さんの方から現れたくせに?
だが婆さんは、オレの考えと違う答えを口する。
「団子、お前さん話せるのかい?」
……は?
いや…人間はオレの言葉なんて
「にゃー」しか聞こえないんじゃないか?
どういう事だ?
「婆さん、オレの言葉わかるのか?」
オレが改めて聞いてみると、婆さんはクスクスと笑いそれに答える。
「そうみたいじゃ。にしても、こんなに言葉遣いの悪い坊主じゃったとは…」
「…言葉が悪いのは元からだッ婆さんが今まで知らなかっただけだろ。さっさと天国行っちまえよ、オレは今から旅に出るんだ」
そう言って橋を渡ろうとしたが、婆さんはしつこくオレに付き纏う。
「団子よ…わしは心配なんじゃ、着いて行って良いじゃろ?」
「来んな。前から思ってが婆さんのそゆトコ、ウザってぇんだよ」
「そうなのか?なら黙って着いてくから気にしないでおくれ」
ニコニコ笑顔で後ろを着いて歩く婆さん。
何故そうなるんだ?
何で俺…こんな婆さんを
ずっと待っていたんだ…?
ーーーーーーー
婆さんと合流して
どのくらい歩いただろうか?
村を出たのは初めてだが、隣町も中々落ち着く雰囲気が出ている。何か食べ物は無いかとノソノソ住宅街を歩いていると、白く冷たい何かがオレの鼻に触れた。オレは驚いて飛び跳ねると、背後から婆さんの陽気な声が聞こえる。
「ほほっ雪じゃな、ほれ雪じゃ」
婆さんの言葉に空を見上げると、沢山の粉の様な物が降ってきていた。
「団子、早く暖かい場所を探さないと」
「うるせぇな、分かってんだよ」
「わしが探してきてあげよう!」
「幽霊に何が出来るんだよ」
「分からんが…このままでは団子が凍え死んでしまうよ。それに腹も減ったろ?」
「減ってない」
そう言い返したオレだったが、タイミング悪く腹の虫が鳴き婆さんは笑って見ている。
……胸糞悪いぜ
オレはすぐ近くの家の前へ行けば「にゃー」と声を掛けてみる。直ぐに人間は出て来てくれたが、泥だらけな上やせ細ったオレを見て「野良猫かッ!!あっち行けッ!!」とドアを閉めてしまった。
「何だいありゃッ団子が何したって言うんだいッ!!」
人間の態度に怒りだす婆さんは、ドアに向かって大声を放つ。しかし幽霊の婆さんがいくら声を上げても、中の人間に聞こえるわけが無い。オレは諦めて家に背を向け歩き出した。
「行こうぜ、人間なんてそんな物さ。婆さんが変わり者なんだよ」
オレは仕方なく近くのゴミ捨て場を漁る事にしが、此処でも婆さんはオレに声を掛けてくる。
「そんなのおよしよッ腹でも壊したらどうするんだいッ!!」
「でも食わなきゃ死ぬんだ。オレは死ぬのゴメンだぜ」
ゴソゴソとゴミ袋を破り漁っていると、食べかけの食材が零れ落ちてきた。
今日はツイてる
魚も肉も出てきた!
オレが魚にかぶりついてると、ふと違和感に気づいた。いつもならガーガーと止めてくる婆さんの声が聞こえないのだ…。
まぁいっか飯が先だ。
食事が終わり寝床を探しに公園へ向かうと、何やら人集りが出来ていた。
「あの人1人で何を騒いでるのかしら」
「こんな寒い中、草むらに向かって怒鳴るなんて頭がおかしいぜ」
オレは人混みを抜け様子を見ると、目の前で1人の人間が幽霊の婆さんに向かって叫び声を上げていた。
「返せッ俺の飯だ!布団を返せッ!!」
婆さんの近くにはダンボールと1個のパンが置かれている。
「ヤダねッそもそも、何でわしが見えるんだいッ!?コレはウチの団子にやるんだッ!!」
野次馬達に幽霊婆さんは見えてないらしい。
まったく…盗みはダメだと
自分が言っていたくせに
幽霊ならいいのかよ。
オレが婆さんに近寄ると人間を無視し、直ぐにパン1個を差し出してくれた婆さん。
「ほれ、団子~コレなら腹を壊さんぞ」
「盗みはダメなんだろ?あの人に返してやれ」
「じゃが、それでは団子がっ」
「余計なお世話なんだよ、人に迷惑かける婆さんなんか見たくもねぇよ」
「…そうじゃな、わしが悪かったのだ」
婆さんは素直にパンとダンボールを人間へと返し、怒鳴っていた人間はそれらを抱えどこかへ走って逃げてしまった。するとその場に居た野次馬達も、それぞれの家へと帰って行くのだった。
まったく、世話のかかる婆さんだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません
詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。
苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。
ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。
周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。
見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。
脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。
「マリーローズ?」
そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。
目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。
だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。
日本で私は社畜だった。
暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。
「ふざけんな___!!!」
と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
カッコ―の卵~反出生主義(多分)の底辺男子がカーストトップの一軍女子と子供をつくれるのか?~
涼紀龍太朗
青春
磯淵公平は朝早く、大学の同級生・西崎優菜を助手席に乗せ、一路湖を目指していた。
しかし、そこは湖とは名ばかりの山奥にある溜池で、周囲をバラ線に囲まれた訪れる人もいない池だった。
二人にとっては都合が良い。なぜなら磯淵は優菜の入水を見届けるのだから。
人間は出産をしない方がいい、と考える公平と、その子を身籠った優菜。二人の旅路の辿り着く先は……?
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
遥かなる光の旅人
しょこら
ファンタジー
光の民と闇の民が同居する混沌の大地アスファーダには予言があった。
世界のバランスが崩れる時、光と闇を持つ少女が現れ、世界を救うだろうという救世主の誕生を示した『ティアリス・エル・クルトの予言』とよばれる秘密の予言が。
学び舎で学ぶエリスはまさしく光と闇を持つ少女だった。
エリスを巡って、様々な思惑が彼女を巻き込んでいく。
地方都市カイユが闇に沈み、従兄のリヴァまでもが消息を絶った。
世界のバランスが崩れようとしていた。
ホームズvs李書文
梧桐彰
歴史・時代
「砲撃ではないよワトソン君。これは素手の一撃だ」
謎の穴を壁に残して、ロンドンで2人の清国人が絶命した。
折しも清国山東省で、同じく2人のドイツ人が殺される。
体の癒えたホームズを訪れた謎の女性とは?
シベリアを駆けるドイツの諜報の目的は?
そして神槍と呼ばれた伝説の武術家、李書文とは?
国家を揺るがす新兵器をめぐり、東西の天才がユーラシアを駆ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる