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最終章 愛しい人
再会
しおりを挟む私は今、人通りの多い飲み屋街の様な所に来ていた。街中に置かれた時計は22時を示し、真っ暗な空と煌びやかな街並みの中を歩く酔っ払いや上機嫌な外国の人たち。
どうしよ…ここ何処?
結局テレビ局見つける事は出来ず、気付けば全く関係の無い場所に迷い込んでいた私。数時間歩きっぱなしで足は棒だし、ドルなんてのも無いから飲み物も食べ物も口に出来てない。それに泊まるとこもない…なんとも危機的状況だ。
それでも私はレオを見付けないと、何の為にアメリカに来たのか分からない。私が当てもなく飲み屋街を進めば、前から歩いて来た二人組の男性が「Hey you」と声を掛けてきた。
「えッそ、ソーリー」
いかにも酔っ払いに見える男二人。私は咄嗟に“絡まれたらヤバいかも?”なんて思って断って逃げる事に決めた。だけど、背を向けた私は腕を捕まれ危機感は恐怖に変わる。
私はその手を振り払えば、何も言わず無我夢中で走った。走って走って男性達から逃げた私だけど、流石に数時間飲まず食わずだと体力にも限界はあるようで、角を曲がった私は息を切らして立ち止まった。
「ハッハァッハッ…」
追い付かれて無いよね?
恐る恐る振り向こうとしたその時、背後から腕を捕まれ再び恐怖感に襲われる。
「嫌っ!!離してっ!!!」
そう声を上げ腕を振り払おうとしたが、今回は相手の方が力強く振り払う事が出来ない。恐怖からパニックを起こしかけた時、私の耳に入ったのは「莉緒ッ俺だ」という大好きな声だった。
拒むのを中断し顔を上げると、そこには何時間も駆け回って探したレオが私の腕を掴んで驚いた顔をしていた。
「大丈夫か?お前が何で居んだよッ」
「レオッ!?何でここにッ!?」
「それを聞いてんのは俺だろバカ。何でここに居るッ?そもそも、どうやって来た?」
「どうやってって…」
何でって…レオの方こそバカだ。連絡も寄越さず勝手にアメリカ…しかも教師辞めて日本に帰らないなんて、お別れも無しに勝手に決めて…“何で”なんてよく言えたもんだ。
私がレオの問に答えようと口を開たが、レオの背後に立つ数人の男性は日本語で彼に話し掛け始めた。
「レオ、この子が例の子か?」
「アメリカまで来ちゃうのすげぇw」
「まだ子供に見えるなw」
例の子…?
レオ、私の話してたの?
そんな疑問を頭の中で浮かばせていると、彼は男達に「俺、先帰るわ」とだけ言って私の手を繋ぎ歩き出した。
「…どこ行くの?」
「向こうに車停めてるからな、ホテルまで送ってやる」
「…無い」
「ん?」
「泊まるとこもお金も無い」
「はぁ?ならどうやって来たんだよ、飯は?」
「食べてない」
「…なら家来るか、ミアも居るし」
レオと話していると、目の前に一台の高級アメ車と思われる車が止まる駐車場にやって来ていた。
これ、一台で何千万とかのやつ?
レオはその高級車の助手席に私を乗せれば、自分も乗り込み運転士始める。
「酒飲んで運転とかこっちでは有りなの?」
「俺は飲んでねぇよ。それよりちゃんと説明しろ。何で…どうやって来た?」
「…説明すんのはレオが先でしょ」
「何怒ってんだよ」
「怒ってないッ」
「怒ってんだろ。そういや電話掛けてきてたろ、何だったんだ?お前がここに居る理由と関係ありそうだな」
この男は何を言ってるの?
アンタが黙って居なくなるから…
あぁぁも、なんか嫌
「おい、莉緒泣いてんのか?」
「うっさい。クソ教師」
「んだよッ」
「レオが先に説明してよ、何で急に決めたの?もう日本に戻る気は本当に無いの?そもそも、私はどうしたらいいの…私たちって別れるの?」
私の言葉に思わず急ブレーキを踏んだレオは、車を端に寄せ深く深呼吸をして見せた。
「…何で別れ話になんだよ」
「だってそうしたいから、日本離れたんでしょ?俳優に戻るのは勝手だけど…せめてちゃんと話してくれたって良かったじゃん…」
「な、泣くなって…莉緒、携帯は?」
「はぁ…?」
「俺、メッセージで言ったろ?アメリカに来た理由。それに倫太郎からも何も聞いてないのか?」
メッセージ?
そういえば、携帯は使えないと思ってカバンにしまったままだった。金木先生はレオがアメリカに向かうの知ってたの?
私はとりあえず涙が流れる両目を擦り、カバンの中にし舞い込んだ携帯を取り出しメッセージを確認する事にした。
『電話が入ってたが大丈夫か?今、俺はアメリカに居る。恩師である義父が倒れたらしく急いで日本を発ったから報告が遅れて申し訳ない。義父の体調次第で直ぐに日本戻るから、安心してくれ』
と書いてあった
「え?ッえ!?!?」
「はぁ、携帯くらい見ろよ」
「だッだって海外じゃ使えないと思ってたから…お父さんは大丈夫なの?レオは俳優に戻らないの?」
「あぁ、俳優なんか戻る気もねぇし親父も一命は取り留めた」
「で、でも松居さんはレオが復活するって!」
「…松居?何でお前がアイツを知ってんだよ」
誤解が生じていた事を理解した私は安心したものの、今度はレオの方が眉間に皺を寄せて私の話を聞いていた。
全てを話終えるとレオの表情は更に険しくなり、一度家に向かってミアに話す事にとなった。
「着いたぞ」
そう素っ気ない言葉でシャッター付きのガレージに車を停めたレオ。豪邸とは行かないがかなり大きな家に私が驚いていると、レオは親父さんの家だと教えてくれた。
彼に着いて歩きリビングへ向かうと、私を見たミアが持っていた携帯を落として駆け寄ってくる。
「莉緒ッ!?どうしてここにッ!?」
「飲み屋街で拾った」
「飲み屋街って…何でそんな所に」
「松居のせいだとよ、あのクソ野郎。莉緒ッ腹減ってんだろ。なんか作ってやるから待ってろ」
「はーい」
レオの手料理っていつぶりだろ?
私はミアと話しながら
大好きな彼の手料理を待つ事にした。
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