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進級
電話のお相手
しおりを挟む私が新居に移ってから早1ヶ月…年度の終わりが近づいてるのもあって、レオは最近すこし忙しそうだ。電話やメールはしてくれてるけど金木先生と学校に残る事も増えたし、三月に慌てない為に今から頑張ってるらしいけど、話す機会も減って少し寂しい。
「はぁ…」
「莉緒また溜息?」
「幸せ逃げんぞ」
「もう逃げてる。家離れてから1度も休みに会えてないし」
「え?誕生日にあったのが最後?」
「うん」
学校での休み時間もこうして葵や健人と話すだけ。それは前と変わらないけど、私が親父から離れてからの1ヶ月…ずっと一緒に住んで顔を合わせてたからやっぱり何か物足りない。
「前はこれが普通だったのにさ、慣れって怖いよねぇ」
「どストライクなお顔と過ごせた方が奇跡だったんだって、諦めて現実戻れぇ?」
「健人の鬼」
「何でだよッ!?」
そんなこんなで更に数日が流れていき、寂しい日々もバイト先のレオに会えた日は少しは紛れた気がした。バイトが上手くいった日は「スゲェじゃん」って撫でてくれるから、周りからは「あのレオさんが溺愛してる弟子」なんて噂まで出来てる。
そんなある日、バイトの休憩中に飲み物を買おうと廊下に出たら自販機が置かれたラウンジからレオの声が聞こえてきた。
「何度も言ってんだろ、これは俺が決めた事だ。俺が戻る事は無い」
誰かと話してる?
だが相手の声が聞こえない。
電話かな?戻るって何の事?
考えながら耳を済ましていると、レオ声でペラペラ英語が聞こえる。生まれも海外らしい彼の英会話は本当に本場の人の様で、英語の成績が悪い私には何話してるのかなんて全く分からなかった。
「莉緒、盗み聞きか?」
「へッ!?なんでバレたの?」
「そんな落ち着き無くフラフラしてりゃ嫌でも目に付くだろ」
「フラっ…じっとしてたもん」
「ふっそうかよ」
ハハッと笑うレオ。
久しぶりに彼の笑う顔を見た気がする。学校ではニコニコ愛想が良いって訳でも無いし会話の流れでヘラヘラする事は有るけど、ちゃんと笑うなんてあまり無い。
「休憩中なら何か飲むか?」
「奢り?」
「おう」
「じゃあコーラー!」
「ん」
レオは自分の珈琲とコーラを自販機から取り出し、私に渡してくれた。場所と立場を割り切るタイプの彼は、こういった現場で学校の話はしない。どんなにテストが点数悪くても授業中寝てても基本はメールや電話が多い。
なのに今日は珍しく「お前、最近勉強してねぇだろ」なんて学校での話題をふってくる。
「ここでそれ言うの珍しい」
「あぁ今夜は時間取れなそうだからな」
「また金木先生と持ち帰りの仕事?」
「おう、今月中に纏めときゃ来月が楽だからな。それよりお前の点数だ、せっかく赤点ギリギリまで引き上げてやったのに英語と化学、大丈夫なのか?」
「無理、記憶教科苦手」
「暗記教科な?」
「言い直さなくて良いっての」
「あんま時間も作ってやれねぇし、ちゃんと復習しとけよ?どうせ授業中は聞いてねぇんだろうし」
そう言って頭に手を置きクシャクシャ撫でるレオ。こんな短い時間でも、こうして触れてくれるだけで寂しさなんて一気に吹き飛んでしまう。照れた顔を誤魔化すようにコーラを口に含めると、背後から数人のスタッフがラウンジへと顔を見せる。
「あ、レオさんお疲れ様です!」
「おう」
「山本さんもお疲れ様」
「お疲れ様です」
「山本さん、最近色々と覚えて仕事に正確さが出てきたよね」
「そうですか?」
「まぁレオさんのお弟子さんだからねぇ、バッチリ鍛えられてるんだろ?」
「あぁ?俺は口出ししてねぇよ」
「そうなんですかっ?」
「ん。全部コイツの実力だ」
「凄いなぁ山本さん!レオさんにここまで言われる人は居ないよ!」
「いえっ、ありがとうございます」
確かにレオは私のバイトの効率や行動に口出し所か、アドバイスも怒りもしない。仕事を見てれば分かるが、他のスタッフにはとても厳しい彼はいつも誰かのサポートを先回りして、失敗した人には容赦なく「邪魔だ出ていけ」なんて言ってしまう。私にも何かしら言われそうなところはある気がするんだけどなぁ…
「そう言えばレオさん、先日ミアさんに会いに松島さんが現場に来てましたよ。レオさんを連れ戻して欲しいとか」
「ミアが日本に居んのか?」
「はい、先週から取材とドラマ撮影の為に」
「そうか」
ミアって妹さんの名前?
松島さんって誰だろ?
戻るとか戻らないとか
さっきの電話の人かな?
「レオさん、ずっと裏方なんて勿体ないっすよ。俺ずっとファンでいつも新作楽しみにしてたんすから」
「やりたくねぇんだから仕方ねぇだろ。また松島が来たら追い出しとけ」
「下っ端の俺らじゃ無理っすっ」
ケラケラ笑うスタッフ。レオも微笑みはするが、さっきみたいな本当の笑顔には到底及ばない。そんな彼の小さな違いに今日も目の保養になったと満足すれば「じゃ私は先に戻ります」と撮影現場に戻る事にした。
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