私の担任は元世界的スター

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初恋

大人な異性

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ずぶ濡れでレグリーさんの家に来た私はシャワーの後、服を借りて深呼吸してみる。柔軟剤の香りとタバコの匂い。父の様な酒臭さは感じずとても良い香りがする…先程もレグリーさんは私を安心させようと、大きな手で私の頭を撫でてくれた。

綾城もよく頭を撫でてくれるけど…
あれをされると不思議と心が落ち着くんだ。

私は服を着てリビングに戻ると、金木先生の隣に座り彼らの晩酌を共に過ごしたんだけど、金木先生が居る事ですっかり安心しきっていた私は、次第に緊張が解れていた。

「それ、何飲んでるんですか?」
「ん~?お酒だよ♡君も飲むかい?」
「未成年に酒を勧めるなバカ」

酒の種類を聞いたつもりだったが、金木先生と仲良く話していたチャラそうな男性は上機嫌で金木先生の注意を笑い飛ばした。

どこか綾城と似てる雰囲気の男性と陽気な男性…どちらも堅くて真面目な金木先生とは真逆のタイプ。学校でも皆と距離取ってるから友達なんて居ないと思ってた。

「金木先生って友達居たんですね」
「ぷッ倫太郎言われてやんのっ」
「失礼な…私にも友人の1人や2人居ますよ?それより山本さん?何故、傘も持たずに外に?」

金木先生のその言葉に、私はコップを取ろうと伸ばした手が止まる。意地悪な事言ったからその仕返し?いや、金木先生は真面目過ぎるだけかもしれない…。

「おいおい倫太郎。今それ聞くのはタブーだろ」
「何故だ?私は彼女の学校に務める教師だ。聞くのは当然だろ?」
「だからってタイミング考えてみろって、倫太郎は生真面目過ぎんぞぉ?」

金木先生を止めようとしてくれた陽気な男性。名前は確か“リヒト”って呼ばれてたっけ?金木先生とは何でも言い合える仲なのかな?

そんな事を考えながらコップに注がれたジュースを飲み込むと、キチンと話すべきと私は口を開いた。

「良いんです、話します。その…今日の予定だった遊ぶ約束がドタキャンされて、家に帰るにも早いなって思ったから時間潰しにランニングを…そしたら雨が降ってきて、コンビニで傘買うにも店の場所分からなくて」
「そうでしたか。服が乾き次第、家に送りますね」
「あ、いえ1人で帰れます」

私の少し嘘を混ぜた話を受け入れた金木先生。しかし、ここまで世話になって送って貰うのも申し訳無くなっていると、ずっと黙ってお茶を飲んでいたレグリーさんが口を挟んだ。

「俺が拾ったんだし、俺が送るわ」
「え?あ、でもここまでして貰ったので…」
「山本ちゃんは良い子だなぁ!」
「気にすんな。大人として責任を果たすだけだ」
「…ありがとうございます」

だからお酒飲まなかったの?金木先生の友人だけあって凄く優しい人だなぁ。金木先生もそうだけど、責任感のある男性って何かカッコイイかも?

再びジュースを口にすると、突然グゥゥっと鳴り始めるお腹。そう言えばお昼休みのパンから何も食べてないのを思い出したが、今の私はそれどころでは無い。

超どストライクなイケメン顔が目の前に降臨してるのに、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃんかッ!!

「ッ!!///」
「ふふっお腹空きましたね」

ムリムリ!言わないでよ金木先生っ!
恥ずかし過ぎる!!!

「もう20時過ぎてんじゃん、何か作ってやれば?」
「それは構わねぇけど何食うんだ?」
「はーい!俺はオムライス!」
「お前じゃねぇよっ、自分で作れ」
「んだよケチー」
「山本さんは何か食べたい物有りますか?」

あ、私の食べたいものか。
こういう時どうしたらいいんだろ…?

「何でも作ってやる、好きなもんは?」
「えっと…じゃあハンバーグを…」
「ハンバーグ?OK少し待ってろ」
「レグリー、私も手伝うよ。山本さんはそこで少し休んでて下さい」

そう言ってレグリーさんと金木先生は、直ぐに立ち上がって仲良くキッチンへ歩いて行く。ハンバーグって確か時間かかるよね?我儘言っちゃたけど、2人とも気にしてないのかな?

私がキッチンを眺めていると、陽気に酒を飲んでいた“リヒト”さんは詰まらないと言いたげにお酒の缶を見つめた。

「あぁお酒切れた…倫太郎~お酒~!」
「自分で取りに来てください」
「ちぇッ山本ちゃん、あんなのが教師で大変じゃない?融通きかないでしょっ」
「あ、いえっ金木先生は優しくて、授業も分かりやすいですし…」
「凛仁?山本さんに文句垂れてないで酒取りに来なさい」
「へいへーいっ」

金木先生に怒られ、頬を膨らませながらキッチンへ向かう“リヒト”さん。それでも冷蔵庫の前に立てば次の酒を手に取り、笑顔でレグリーさんや金木先生と話しを始めた。

キッチンに並ぶ三人の男性の背中は、和気あいあいとして凄く絵になる。みんな180は超えているだろう…本当に仲が良いんだなぁ。

「大人の男性…」

何となく口に出た言葉…そんな言葉に酒を持って戻って来た“リヒト”さんが反応する。

「ん?山本ちゃん何か言った?」
「いえ。三人とも絵になるなって…」
「ホント!?やったなレグリー!」

再びキッチンへ戻ると料理をするレグリーさんの背中にちょっかいを出す“リヒト”さん。案の定、今度はレグリーさんに怒られてしまう。

「邪魔すんなら向こう座ってろアホ」
「へいへーい。山本ちゃんアイツってかなり短気だよなぁ」

リビングへ戻り床に腰を下ろせば文句をつけながら酒を口にする彼に、私は思わず微笑ましくなってしまった。

「分かります、身近にも似た様な人居るので」
「おいそこ、聞こえてるぞ」

レグリーさんのツッコミに再び笑う“リヒト”さんは、本当に陽気な人だ。ご飯が出来るまでトランプで遊んだり謎解きをしたり、沢山の遊びで私を楽しませてくれた。

そしてようやく聞けた彼の名前は“須屋 凛仁”

撮影現場で仕事をしていて、金木先生やレグリーさんもそこの手伝いをしているそうだ。

暫くし食事の用意が出来ると、レグリーさんはリビングのテーブルに出来たての煮込みハンバーグを置いてくれる。「自分で作れ」なんて文句を言っていたのに、しっかり人数分用意されてる。

彩りも良く、お店に出せそうなお洒落な盛り付けに感動した私は「頂きます」と1口食べてみた。

「ッ!!」

1口、口に入れただけで美味しいと思えた料理は初めてだった。むしろ美味しいのレベルを超えてる気もする…柔らかなお肉にジューシーな肉汁。なのに油っぽさも無くて、しっかりした味付けの中にも品を感じる。

気付けば夢中になって食べていた。




「ーーーさん、山本さん」
「ッ…?」
「大丈夫ですか?」
「え?」
「山本ちゃん泣く程、料理美味かったの?」


あ、あれ?私…泣いてる?

凛仁さんに言われて初めて、自分が泣きながら食事している事に気が付いた。

この数年1度も泣いた事が無いのに…

「ご、ごめんなさい」

こんなのご飯不味いとか思われちゃう…
凄く良くしてくれるのに泣いちゃダメだ。

必死に目を擦って居ると、レグリーさんは大きな掌をそっと頭に乗せて撫でてくれた。

「お前は謝り過ぎだ」

やっぱり綾城と同じだ…
大きな手って凄く落ち着く…

「美味かったか?」
「ッグスッ…はぃ。とっても」
「なら良い」

ニコリと笑うその表情はやっぱり綾城を思い出させる。そんな彼の顔を見てると、何故か泣き止む事は出来なかった。私自身が何で泣いてるのかも分からないのに、レグリーさんは私が泣き止むまで黙って撫でて居てくれた。



その後、食事を終え21時半まで沢山遊んだ私達は、四人でゲームをしたり罰ゲームをして大笑いした。

声を出して笑ったのなんて何時ぶりだろ?
お互いの事を深く聞く事は無くて、ただその場の雰囲気を楽しむ…そんな楽しい時間はあっという間に終わってしまう。

「そろそろ解散しましょうか」
「俺、泊まるー!」
「はぁ?帰れ帰れ」
「えぇイイじゃんか」
「近寄んな酒くせぇ」
「倫太郎ぉまた振られたぁ!」
「ハイハイ。凛仁は俺と帰りますよ」
「えぇ、残念」
「では山本さんを頼みましたよ」
「あぁ」

金木先生が凛仁さんを引きずって帰ると、私も自分の服に着替え帰る支度を始めた。

「あの。今日はありがとうございました」
「良いよ。俺らも楽しかった」

そう言って外に出ればすっかり雨も止み、私はレグリーさんの車に乗り込んだ。初めて乗った時は緊張で気付けなかったが、高級車までは行かなくとも高そうな車なのは素人でも分かる。

車内の爽かな香りが漂い私の心を癒すと同時に、もう帰るんだと実感が湧き始めた。

後部座席から見えるレグリーさんの運転する姿は凄くかっこよくて、離れたくないという気持ちが溢れそうになれば思わず「帰りたくない」と呟いてしまった。

別に何かを求めてた訳じゃない。
単に思った事が口に出ただけ…それだけなのに、レグリーさんは予想外の事を口にした。

「…泊まってくか?」
「え?」

空耳だった?
レグリーさんの顔はミラー越しに見えたが、顔色一つ変えずに運転している。

…うん。きっと空耳だ

だって私は今日会ったばかりで、友人が務める学校の生徒で…何歳も年下なのだから…






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