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時の流るるはあなたと共に
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いくつもの季節が私達の間を通り抜けたのだろう?
『畝宗(せしゅう)…今年で何回目の桜になるかしら?』
『この桜だけは本当にあの日と変わらず綺麗に咲いているね。』
目を細め見上げた視線から舞い散る花びらは柔らかな光と共に爾杏(じあん)と手元の小さな茶碗を優しく包んでゆく。
50年前…
小さな田舎町で私と幼馴染みの畝宗(せしゅう)は暮らしていた。家が隣同士で年も近かったため私達は兄妹の様に育ちいつも一緒で夜寝るくらいがバラバラで一緒にいることが当たり前になっていた。
お互い思春期になっても一緒にいることは変わらなかった。特に気も遣わないし、お互い言葉にしなくても長年の勘で大体何を考えているのかが分かってしまい、下手に同姓といるよりも、とても楽だった。余りにも一緒にいるのでよく周りから、からかわれるが、特に恋愛感情があるとかどうとかで見たことは一度もない。聞いてみたことはないがきっと向こうも同じ気持ちだろう?
私の町は裕福ではなく、自然と町の子供達は16歳位になるとみんな仕事をして生計に貢献していた。
私は、町に1つしかない診療所で雑用の仕事をしていた。カルテを整理したり、待合いで待っている人に簡単な問診をしたり、非力ながらも先生に尽力を尽くしていた。
畝宗は、背が高く体が大きい割に手先が器用で細かい作業が好きな事から陶器の食器や花瓶やらを作っては少し大きな隣町に行き商売をしていた。
私も自分の仕事が休みの時には、畝宗にくっついて行き遊びがてら手伝いをしていた。
少なからず常連もいるらしい。私は陶器の事はよくわからないが畝宗が作る陶器はとても優しくツルツルしていて何より筆付けの上手さは文句のつけようがないほど繊細で綺麗だった。中でも特にお気に入りだったのが小さい茶碗でそれで飲むお茶は格別だった。
そんな畝宗を私は陰ながら誇らし気に思っていた。
そんな平和な毎日を送る私たちの町に隣国が領土拡大の為、侵略してくるのではないか?と言う変な噂話が流れた。町中少しざわついたが、どうせただの噂話だろうとすぐ収まってしまった。例え戦争が起きたとしてもこんな小さな町に迄、戦火の影響などあるはずがないと他人事の様に聞いていた。そんな噂話の事などすっかり忘れたある日の夜、畝宗が『今日、12年に1度の流星群が空に現れるから行ってみないか?』と私を誘ってきた。私は流星群を見るのが初めてだったので喜んでその誘いを受け入れ2人で家をこっそり抜け出し、小さな丘までドキドキしながら見に行った。
丘につき見上げた瞬間私は息をすることを忘れてしまった。目の前に広がる幻想的な光景は今まで見てきた星空なんか比ではない程、空一面が無数の流れる星達で埋め尽くされていた。見ているこっちまで今にも飲み混まれていきそうな迫力にただただ目を奪われるばかりだった。今思い出して見てもあれ以上の光景を見ることはなかった。
連れて来てくれた畝宗に心の中で『ありがとう!』と叫びながら感謝していると、
『爾杏。』
と、畝宗に呼ばれた。まさか心の声が聞こえてしまったのか?とビクッとしながら振り向いた。
すると畝宗は私に検討外れの質問を投げかけてきた。
『爾杏はさ、将来の夢とかある?』
『何よ、急に。いきなり聞かれても考えた事ないからわかんないよ。』と、少し動揺を隠しながら月並みな返事で返した。
『畝宗はあるの?将来の夢。』
『俺?あるよ。』
『えっ?なになに?』
『今はまだ教えない。』と、薄っすら笑みを零しながら答える畝宗の横顔を睨みつけながら
『はっ?何それ。最初に聞いておきながら自分は答えないとかどうなの?』
と、膨れっ面になる私を見てまた涼しい笑みを浮かべる畝宗。それを見てさらに腹を立てるが何故だろう?すぐにその気持ちは消え去り何処か憎めない自分がいた。
最近少し前からよく起こる感情だ。小さい頃とは少し違う畝宗への思い。小さく灯し始めた感情が初めて経験する恋だとも気付かずに過ゆく日常生活の中に埋もれていった。
そんな鈍感な爾杏に対して、先に自分の思いに気付いていた畝宗は鈍感で無邪気な爾杏の顔を見てはいつ思いを打ち明けようか様子を伺っては慌てなくてもいいかと自分を甘やかしその淡い思いを隠していた。
2人で流星群を見てから程なくして、町中の皆の記憶から薄れ始めたあの噂話が現実のものになってしまった。時間がそうかからなく本格的に戦争が始まるらしい。爾杏の胸はざわついた。今はまだでも戦争が長く続いてしまったら、きっと町の男の人達は駆り出されてしまう。そしたらもちろん、畝宗も行ってしまうに違いない。そう思った爾杏は居ても立ってもいられなくなり、夢中で畝宗の許に駆け出していた。
『畝宗。畝宗。』
畝宗を見つけると大声で名前を叫びながら畝宗の許に駆け寄り戦争が始まってしまう事を告げた。
息を切らせ必死に話をする私を、普段の世間話を聞くみたいに『うん。そうみたいだな。』と、落ち着いた返答が返ってきた。
『何で、そんなに落ち着いていられるの?もしかしたら、畝宗だって駆り出されるかもしれないんだよ!』
『落ち着けって。今からそんな心配したってしょうがないよ。今行け!って言われた訳でもないのにこの先どうなるのかなんてわかんないぞ。』
『そりゃあ、そうだけど、もし、戦争に駆り出される事になったらどうするのよ!』
『そうだな。俺だったら・・・逃げるかな。』と笑いながら答える畝宗を見て、拍子抜けてしまった私は心配したことが馬鹿馬鹿しくなり、その場からまた走り出してしまった。
『バカ、畝宗。本当に心配したのに。何であんなに能天気なの!そんな奴は戦争でも何でも行ってしまえ!』と叫びながら走っていた。
今思えば、あの時の畝宗が言ったことは私を心配させない為のやさしさだったといことを後から気付かされる。
あの事がきっかけで私達はあまり一緒にいなくなっていた。正確には私が一方的に避けていたのだ。畝宗はいつもと変わらず接してくれるのにそんな畝宗のやさしさに素直になれないでいた。それから一か月程たったある日、爾杏は母親から畝宗が戦争に行くことを告げられた。
私は頭の中が真っ白になりまだ何かを話している母親の言うことも聞かず家から飛び出した。
あの日と同じように爾杏は夢中で走った。またあの日と同じ、ただ唯一あの時と違うのは、『畝宗が行くかもしれない。』が『行ってしまう。』に変わってしまったことだった。
『私があんな事言わなければ、言わなければ、畝宗は行かなくて済んだのかもしれない。何であんな事思ってしまったのだろう?私のバカ。』走りながら自分を責め倒し夢中で走った。
何故だろう?今日はどこを探しても畝宗を見つけられなかった。いつもは何もしなくてもすぐ会えていたのにどこを探してもどこにもいない。爾杏の目から溢れる涙が止まらない。ようやく、畝宗を見つけると両腕を掴み、息を切らしながら訪ねた。
『ハァ、ハァ…ハァ…畝宗。畝宗。』
『どうした、爾杏、落ち着けよ。どうしたんだよ。』
『……どうした…じゃ…ないわよ。どうしたじゃ。戦争に行くって本当?嘘だよね?行くなんて冗談だよね?』
『………お前、耳に入れるの早いな。本当だよ。俺、戦争に行ってくる。自分から志願した。』
『えっ?今なんて言ったの?……戦争に行ってくる?自分から志願?何言ってるの?何でそんな大事な事相談してくれないの?』
『お前、ずっと俺の事避けてたクセによく言うよ。それにお前に言ったら、絶対行くな!っていうだろう。』
『言うわよ!行くな!って、絶対言うに決まってるでしょう!』
『爾杏。とにかく落ち着け。爾杏には自分の口から言うつもりだった。
あのな、俺が行かなかったら他の誰かが行かなきゃならない。そしたら今の爾杏みたいに泣く奴がいる。そんな事俺はしたくない。それに自分から志願すれば自分の家族の生活の保障がされるんだ。何にもない俺が唯一出来る親孝行だと思うんだ。爾杏だってもし反対の立場なら同じ事しただろう?』
余りにも真っ直ぐな思いを前に『それでも他の誰かが行って畝宗が行かなくて済むならそれがいい。』とは言葉に出せずただ泣き崩れるしかなかった。
『爾杏?まだ戦争に行っても死ぬと決まった訳じゃない。死なない保証は確かにないけど俺は死ぬつもりはないよ!必ず生きて帰ってくる。』
畝宗を掴む私の両腕を優しく掴み返す畝宗の温もりはより一層言葉の重みを伝えてくれた。
『……行かないで。私の為に行かないで。』と心の中で叫びながら、『……いつ行くの?』と正反対な言葉が口から零れる。
『……一週間後。』
『……一週間後?そんなすぐに行くの?』
あまりにも短い時間に驚き今までうつむいていた顔を上げて畝宗の顔を見つめた。
真っ赤な眼をしている私の顔を見て、流れる涙をやさしく拭いながら畝宗はゆっくりと頷いた。
『……どうしてそんなすぐに行ってしまうの……。』
『……早く行ってさ、俺が戦争をさっさと終わらせてくるよ。』とくしゃくしゃないつもの笑顔を見せた。
その笑顔はいつも不思議と本当にそうなってしまうから、だから今回もきっとそうなるに違いないとその時の私は思っていられた。
畝宗がどんな思いでこの決断をしたのか私なりに分かっているつもりだ。だからせめて今の私に出来る唯一の事をして送り出そうと私も精一杯の笑顔で誓った。
畝宗が旅立つ前夜、私はなかなか寝つけるわけもなく一人、前に畝宗と一緒に星空を見に行った丘へ行くとそこに一人誰かが座っていた。
『……畝宗?』
『爾杏?どうした?眠れないのか?』
『うん。何となくね。畝宗も眠れないの?』
と分かり切った返事を返しながら隣に座った。
何も言葉を交わさず2人は夜空を眺め2人でいる時間を噛み締めていた。
いつも何気なく過ぎる時間がこの時ばかりは時計の針が止まったようにゆっくりと時を刻んでいった。
『爾杏?前に将来の夢聞いてきたことあったろう?』
『うん。』
『あの時、照れくさくて答えられなかったんだけど、俺の夢さ。小さくてもいいから自分の店を持つことなんだ。』
『へぇ~。でも何となくそんな気はしていたよ。だって物作るの好きだし、作ってる時の顔いい顔してるもん。楽しいんだろうな~って思ってたよ。』
『そっか、バレてたか。じゃあさ、ずっと、俺の店手伝ってくれないか?』
『え~、私、お給料高くないと働きませんよ~。』
『……そういう意味じゃなくて、俺の奥さんとして一緒に店やりませんか?』
突然の畝宗の言葉に頭が真っ白になり上手く反応できなかった。すると畝宗は急に私を自分の方に向かせ、私の手を取り指に何かをはめながら真っ直ぐな眼差しでこう続けた。
『爾杏。贅沢はさせてあげられないけど一生笑顔にさせることは出来るから俺のお嫁さんになってくれないか?』と、強い思いと共に薬指に綺麗に赤く輝いた指輪がはめられていた。
その手を見ながら爾杏はようやく、自分に起きている事の重要性を理解し、もう一度畝宗の顔を見つめた。
何か話そうとするが、驚きと嬉しさで口からは言葉が出ずに目から涙が溢れ出ていた。
『泣くなよ。泣いてちゃ答え分かんないだろう?』と顔を覗き込む畝宗の顔を見てさらに涙は止まらなく
『はい。畝宗の奥さんにしてください。』と言おうとするのに上手く話せないでいると
『爾杏?返事はさ、帰ってきてから聞いてもいいかな?俺必ず生きて帰って来るから。その時まで返事は取っておきたい。』
と話し終えると私を力強く抱き寄せ畝宗の心臓の音が私の耳になり響いた。こんなにも緊張していたのかと思うと、急に愛おしさが溢れ出したまらなく私も力強く抱きしめた。戦争と言う物さえなければこの幸せを命一杯噛み締める事が出来るのに、明日の朝には自分の元からこの愛おしさが離れてしまう現実に胸が苦しくなった。今まで時間を意識する事はなかったのにほんの一瞬畝宗への愛おしさに気付いてしまってからこれ程時間が止まって欲しいと強く願うことはなかった。
次の朝、畝宗は家族と私に見送られ帰れる保障のない旅路へと旅立っていった。
畝宗を見送ってからどれだけ待つことの苦しみが私の気を狂わせる日々に変えただろう?
元気でやっているのか?ケガはしていないか?ちゃんと食べられているのか?辛い目に遭わされているはずの彼を近くで寄り添ってあげることも出来ない。次第に膨れ上がるもどかしさが心を満たしてゆく。出来るだけマメに手紙を書いてみたり、戦地の状況を集めてみたり微力ながらも戦地に行って途中で帰ってきた人や戦火の影響で逃げてきた人たちの介抱の手伝いをして今私なりにできる事をやる事が少しでも遠くで頑張っている畝宗の心と共にいてあげられるような気になっていた。
畝宗が旅立ってから1年の月日が流れていた。最初は送った手紙にマメに返事が返ってきていたが次第にそれも減り1年経った今では全く返ってこなくなり戦火の激しさを物語っていた。
それでも畝宗についての悪い知らせがない事が唯一の私の救いだった。それから、半年ほどたったある日、2年近く続いた戦争は両方の和睦という結論で幕を閉じた。話し合いで解決したのなら初めからあんな戦争なんてする必要などどこにもなかったと私の怒りはどこにぶつける場もなく心の奥底で煮えたぐっていた。その思いは私だけではなく戦地へ家族を送り出した皆が同じく思う事でもあった。
でもこれでようやく戦争が終わった。畝宗が帰ってくる?畝宗に会える?私の思いはようやく会える愛しい人への思いで溢れていた。
戦争が終わり2ヶ月ほどたった時、戦地に駆り出された人達が帰ってくるという報告がされ私は畝宗の家族と一緒に港まで畝宗を迎えに行った。港は家族が無事に帰ってきてくれた喜びの声で賑わっていた。今まで見たこともないほどの人で溢れかえりその中で畝宗を探すのは一苦労だったが見失わないように一生懸命彼を探した。高鳴る思いは増すばかりで初めに何と言って声をかけようか?あの時の私の返事をどんな風に聞いてくれるのだろうか?などいろんな事が頭の中を巡らせていた。しかしどれだけ探し回っただろう。時間が経つほど人の数は減りいくら探しても畝宗の姿を見つけることが出来なかった。私は同じく戦地へ行って帰ってきた人たちに畝宗の事を聞いて回るが誰も畝宗の行方を知る人はいなかった。きっと何かの手続きの不備で遅れているだけだろう?とその時の私は少しずつ不安になる気持ちを紛らわしていた。それから次の日もまたその次の日も港へ畝宗を迎
えに行ったが彼が現れる事はなかった。
あれから1年の歳月が経っていた。
いつもの様に私は港へ畝宗を迎えに行くと、最後の便の船から1人の男の人が下りてきた。私は胸が高鳴った!畝宗だ!畝宗が帰ってきた!溢れる思いはその彼の許へと走り出していた。『畝宗!畝宗お帰り!お帰りなさい!』そう言って駆け寄るがその青年は畝宗ではなかった。同じような背格好ではあるが少し畝宗よりも小柄で人違いだった落胆から私は急いで足を止めた。
『……。この街に爾杏さんという方はいらっしゃいますか?』とその人はよわよわしい声で話てきた。
『………。爾杏は私です……が。』と私は答えた。
『あっ……。初めまして、私は、彗蓮(すいれん)と言います。畝宗さんとは同じ戦地にいました。あなたにどうしてもお伝えしたいことがありまして……。ご迷惑とは思いましたが会いに来ました。』
『……。私に伝えたい事…。ですか?』
『……。はい。………。すいませんでした!』と彼は突然頭を下げ謝ってきた。
『えっ?……。どうしてあなたが謝るんですか?.』と私は不安な気持ちで彼に問いかけた。
『………。僕のせいで畝宗さんは、亡くなってしまったからです。』
『え?………。今なんていったんですか?彼が亡くなった?』私は突然の言葉に思考は止ってしまった。
『彼が……。亡くなった?一体何があったんですか?何でそうなったんですか?』と私は冷静を装うつもりが気付いたら彼に詰め寄っていた。そんな私を受け止めながら彼は淡々と話しだした。
『あの日、僕が戦地に行くはずだったんです。…それなのに僕は高熱を出してしまい…寝込んでしまってその身代わりに畝宗さんが戦地に行ってしまいました。』
『…………。』私は言葉が出せずに黙って現実を聞き入れていた。
『畝宗さんは、年も近い僕の事を本当の弟の様に気遣ってくれました。いろんな話もいっぱいしてくれました。その中でも爾杏さん。あなたの話をよくしてくれました。爾杏さんは畝宗さんの婚約者だったんですよね?』
『…………婚約者?彼は私の事をそんな風に言っていたんですか?』
『………あっ、ハイ。正確にはまだ返事は聞いていないけど。とは言っていましたが。』
その言葉を聞いた瞬間、堰き止められていた私の想いは一気に溢れ出し涙が次から次と零れ出ていった。
『……………すいません。ごめんなさい。あなたの前で泣いたらあなたが困ってしまいますよね?ごめんなさい。』と溢れる涙を堪えようとするが自分ではその涙をどうすることも出来なかった。
『いいんです。いいです。僕が悪いんです。僕が悪いんですから。僕はあなたに責められるべき人間なんです。だからいいんです。』と彼は肩を震わせ私に言った。そんな彼を見て私はこの人は本当に気の優しい人なのだと思い何故畝宗が可愛がっていたのかもわかったように気がした。
『だから僕の事を責めてください。何なら好きなだけ殴ってくれても構いません。そのつもりでやってきました。』と真っ直ぐな目はどれほどの覚悟を決めてきたのかを物語っていた。
『……………。責めるなんて。そんな事私には出来ません。あなただって行きたくて行ったわけじゃないじゃないですか?私は戦地になど行ったことがないからよくわかりませんが。きっとそこは何が良くて何が悪いかなどよくわからなくなってしまうような場所だと思うんです。唯一信じて望む事は、『自分の大事な人を守りたい。』その一心だけで戦っているような気がするんです。だからそんな過酷な場所で人の命の重きを選別することは出来ないんです。あなたは生かされた人。ただそれだけの事です。生きる事を導かれた人なんです。それに畝宗もその覚悟はして行きました。あなたにも私が畝宗の帰りを待つようにあなたの帰りを待つ人はいたはずです。だからあなたは生かされたことを胸張っていてください。そして本当責められるべき場所はあなたなんかじゃない。もっと違うところにあると思います。もしも、ここに彼がいたのならきっと同じような事をあなたに言った
と思います。』と私は彗蓮さんをまっすぐ見ながら応えた。黙って私の話しを聞き終えると彼はその場に泣き崩れていった。
『……………。ありがとうございます。……。ありがとうございます。』と言葉にならない謝罪を繰り返し言った。
それから、彗蓮さんは私に他にある戦地での畝宗の様子をたくさん聞かせてくれた。どの話の中にも畝宗は畝宗らしく過酷な場所にいながらも私の知っている彼でいてくれた事に心からホッとしていた。そして同時にどうしてもまだ彼が死んだという事が信じられなかった。ここで彼の話を聞いているだけなのにこんなにも彼の存在を近くに感じていられるのに、彼が死んだなんて信じられなかった。ただそんな風に思いたかっただけなのかもしれない。そんな私の顔を見ながら彗蓮さんはあるものを手渡してきた。差し出されたものを見た時、私の中で止まっていたものが一気に溢れ出した。彼はそれを形見離さず持っていたらしく、とてもくしゃくしゃでとても汚れていた。
それがあったから彼は自分を取り戻していたし生きようと思えていたらしい。彼が生きる糧としていたものは『私の写真』だった。彼はこっそり私の写真と一緒に戦地に行きいつも私を近くで感じていたらしい。私と思いは一緒だった。すると彗蓮さんは私に『爾杏さん、裏を見てください。』と言われ私は裏を返してみるとそこには、『いつも思いは一緒だよ。必ず帰るから待っていて欲しい。』と私の想いに答える畝宗の言葉があった。『……。やっぱり、やっぱり、彼は生きている。生きているんだ。』と込み上げる思いは私に1つの希望を与えてくれた。
『えっ?畝宗さんは生きているんですか?生きているんですか?』と問いながらさらに
『これ。僕が目を覚ました時にただこれだけが枕元に置いてあったんです。僕はそれを必ずあなたの許に届けようと。畝宗さんの思いと一緒にどんなことがあっても届けてあげようと思ったんです。これくらいしか僕が畝宗さんと爾杏さんにしてあげられないから。』と彗蓮さんは話し続け私に彼の思いを届けてくれた。
『……。ありがとう。ありがとう。彗蓮さん。私待ちます。待っています。これからどれだけかかっても彼を待ち続けます。』と彼に話すように自分自身に感謝と希望を胸に誓った。
それから、彼も私と一緒に畝宗の帰りを待つようになり私の様子を見に度々会いに来てくれるようになっていた。畝宗が私の許に帰ってくるのを見届ける事が彼にとって私に対する罪滅ぼしになると思っているのかもしれない。
待ち続ける事3年の歳月が流れていた。あれから未だに畝宗からの連絡はなくどんな些細な情報も入らなかった。いくらでも周りに気を遣わせないようにと思い明るく振舞ってはいたがやっぱり不安な気持ちはいつまでも私の中に根付き潜んでいた。そんな私を彗蓮さんはずっと変わらず私に会いに来ては、生活に困らないようにいろんなものをもって来てくれたり、新しい情報の報告をし励まし一緒に彼の帰りを待っていてくれた。最初は罪滅ぼしから会いに来てくれていた人だったのにいつしかそんな彼の存在は私の中で少しずつ形を変え始めてきた。正直ここまで気持ちを持っていられるのも彼無しでは出来なかった事でそんな彼の存在にこのまま甘えていいものかと思い始めてきた。彼にも人生がある。ここまで本当に充分すぎるほどしてもらえた。だからこれからは彼の人生を歩んで欲しくて彼にその思いを伝えることにした。
いつもの様に会いに来てくれたある日、『彗蓮さん、もう今まで本当に良くしていただきました。でもこれからはもうここには来ないでください。あなたの人生を歩んでください。』と
私は彗蓮さんに告げた。すると彼は『えっ?……。畝宗さんが帰ってくるんですか?その知らせが入ったんですか?』と私に質問し返してきた。
『その知らせはまだ入ってきていないけど、これから先は私1人で待っていられるから大丈夫。本当ここまで気持ちを持っていられたのはあなたのおかげです。本当に感謝してもしつくせません。だからこそ、あなたには幸せになって欲しいんです。』『……。そうなら、一緒に待たせてください。正直最初は、罪の意識から来ていました。でも今は違う。いつからかあなたに会いに来ることが楽しくてあなたに会いたくて来ていました。だからこれからもあなたに会いに来てはダメですか?こんなこと言える資格ないのは充分わかっているしあなたの思いは畝宗さんにあるのも知っています。でもそれでも僕じゃ畝宗さんの変わりにはなれませんか?』と彼の真っ直ぐな眼差しを逸らすことは出来なかった。
その申し出に私は揺れた。このまま彼が帰ってこなかったら。私はずっとこの不安と一緒にいることになる。彗蓮さんはとてもいい人だしそばにいてくれる。それでも『ハイ。』と2つ返事できない理由は何?そんな疑問の答えなどとっくに出ていたのに私は気付かないフリをするという卑怯な真似をしていた。初めてあの写真を手渡された時から私の心は決まっていたのだ。あの言葉は私に確信と言う約束をしてくれた事。私には畝宗しかいない。畝宗以外にずっと一緒にいたくない。揺れ動いた心は私の弱さがそうさせただけの幻想。『……。彗蓮さん…。ありがとう。そんな風に私を思ってくれて本当にありがとう。私は今まで本当にあなたの存在にどれだけ助けられたか分かりません。どれだけ感謝してもしきれない。だけど、私には畝宗しかいないんです。畝宗のそばにいたいんです。彼を待ちたいんです。これから先……。どれだけの時が経うとも彼を待ち続けたいんです。彼
と約束したから。だから…。私はあなたの気持ちに答える事はできません。』と私は自分の指に光輝く指輪を強く握りしめながら睡蓮の気持ちに精一杯答えた。『……。思った通りの答えでした。あなたの心は今までもそしてこれからも畝宗さんにあると思っていました。その真っ直ぐな気持ちが好きだったのかもしれません。いや、羨ましかったのかもしれません。誰かにそんなに思ってもらえることに。それがあなただったらなぁ。と夢を見ていたのかもしれません。だから、1つ約束させてくれませんか?僕はやっぱりあなたと畝宗さんを待ち続けたい。そして、僕の気が済むまでこのままあなたを思っていてもいいですか?もちろん、あなたには迷惑をかけるつもりもありません。だから、嫌だったらいいんです。やっぱり、見届けたいんです。きっと、その時が僕の気持ちのケジメの時にもなるんです。だから、お願いします!あなたのそばで一緒に見届けさせてください。』と彗蓮の強い思いと共に彼の腕の中に引き寄せられた。
『ありがとう。彗蓮さん。そんな風に思ってくれて本当にありがとう。でもね、あなたはもうここへ来るべきではない。ここに来ちゃいけない。ここから離れることが今のあなたのケジメになるんです。あなたの為に。あなたの人生を今から動かし始めなくてはダメなんです。だからもう、私達の事を気に掛ける事はないんです。気に掛けちゃだめなんです。だから、あなたは前に進んで。歩き出してください。もう充分あなたの思いは受け止めたから、だから…それだけで……。もう充分。』と私は溢れる涙と共に彗蓮の腕の中から離れた。その思いに彗蓮も充分すぎるほどの爾杏の思いを受け止め静かに頷いた。
『……。ありがとう。本当にありがとう。畝宗があなたの様な人と出会えて本当によかった。彗蓮さん、ありがとう、お元気で。必ず幸せになってくださいね。』と私は今出来る精一杯の笑顔で彼を送り出した。
彗蓮が私の元に来なくなって1年の歳月が流れた。あれから彗蓮は私の元へは来ないけれど定期的に手紙をくれていた。そして畝宗は未だに私の許へ帰って来てはいなかった。
終わってしまえば時が経つのは早く終戦から3年の歳月が経とうとしていた。私も街の診療所と家との往復する日常を送っていた。そして、そこに新しく習慣を増やしていた。それは器を作る勉強だ。いつ畝宗が帰ってきてお店を開いてもいいようにそのお手伝いができるように習い始めた。習い始めて思う事だが本当に畝宗は手先が器用なのだと思い知らされた。ただ見ている時は軽々器を作っていたので自分がやり始めてこんなに繊細で奥深いものだとは思ってもみなかった。まだまだ畝宗みたいには遠く及ばず下手でとてもお手伝いになるレベルなんかじゃないけれどとても充実を感じ楽しかった。自分が丹精込めて作り上げたものが焼きあがった時の風合いや形の変化に私はどんどん陶器に魅せられていった。畝宗があんなに夢中になって楽しそうな顔になるのも分かるように気がした。私は見様見真似で畝宗に作ってもらったあの小さな茶碗を作っている。まだまだあんな綺麗な
茶碗ではないけれど私の記憶にある畝宗の茶碗を真似して作る日々。そして彼が帰ってきたときにプレゼントして驚かせる事を考えていた。その時間はとても楽しく待ち遠しいものへと感じていた。季節は流れ春に入ったばかりのある日、彗蓮さんから1通の手紙が届いた。
内容は今度彗蓮さんが結婚をすることになったらしく、さらにこの秋には新しい命が産まれるという幸せな報告だった。私はとても嬉しくて彗蓮さんにすぐ返事の手紙を書いた。
やっと自分の人生を歩き幸せに向かう彼を思うと本当に良かったなぁと胸をなでおろしていた。そして私は久しぶりに彗蓮さんに会いに行くことにした。私の作った茶碗を持って。
どんなものを作ろうか?どんな大きさがいいだろうか?生まれてくる子はどっちだろう?自分の事の様に嬉しくてたまらなかった。そんな事を考えて爾杏は彗蓮夫婦と生まれてくる子供へのプレゼントを心を込めて作った。いろいろこだわり何回も作り直し1番自分が納得のいく物を仕上げ時間と手間費やし一生懸命作った。ようやく完成し彗蓮の元に届けに向かった。向かう道の途中には桜並木の花が咲き誇りまさに見頃で風に吹かれ花びらが舞い散り幻想的な空間を創り上げていた。ふいにいつかの畝宗と一緒に見に行った星空の事を思い出した。あの星空は本当に私の視線を掴み離さぬほどの迫力があった。だが、相反するものではあるが今目の前の舞い散る桜の幻想的な光景もまた違って私の全てを包み込み安らぎという空間に誘いこの光景を『畝宗にも見せたいな』と思った。少しの時間この安らぎの時間の中で思いに浸りまた彗蓮の元へ歩き始めると微かな声が耳に入った。
気のせいだろうか?と足を止めて耳を澄ます。やっぱり聞こえない。また歩き出すと私を呼ぶ声がした。この声はとても聞き覚えがありこの世で1番聞きたい声だった。
急いで後ろを振り抜くと舞い散る桜の花びらの中に1人の人影があった。
私は気付いた瞬間、その人の許へと走り出していた。
『お帰り。お帰りなさい。……。畝宗。無事に帰って来てくれて本当に良かった。本当に良かった。』と久しぶりに感じる畝宗の温もりに私は溢れ出す涙と共に埋もれていた。
『本当に良かった。本当に生きてて良かった。』とそれ以外の言葉が見つからず繰り返す言葉と共に生きて帰ってきたことの感謝の思いで満たされていた。2人はそのまま抱き合いお互いの長かった再会を噛み締めていた。
『ただいま。爾杏。長い事待たせてしまってごめんな。約束通りちゃんと生きて帰ってきたろう。俺が約束破ったことなんかなかっただろう?』と少し痩せた畝宗の顔はいつもの笑顔を見せてくれた。
しかし、私は畝宗との再会から少し違和感を感じていた。『畝宗?………。腕。』と私は畝宗の顔を見上げた。
『……。うん、戦争の時に深い傷をおってしまって命か腕かの選択だった。俺は生きる方を選んだ。爾杏との約束があったから何としてでも生きて帰ろう。と思った。だから腕の1本位なくなるくらいどうってことないよ。』と笑って見せた。今まで帰ってこられなかった理由はこれだったのかと思うと私は今までどんな思いで畝宗がいたのかを思い胸が張り裂けそうだった。それなのにそんな辛い思いをしたというのにあんなあどけない顔を見せて私を安心させる畝宗の想いに言葉が出ず泣いてしまった。腕を無くしてしまって本当にいろんな事を思ったと思う。ここに帰ってくるまでの道のりは本当に並大抵ではなく彼の精神力のたくましさが彼をここまで導いてくれたのだと感じた。
1番辛い思いをした畝宗が泣いていないのにちゃんとしなくちゃいけない私がいつまでも泣いていてはだめだと思い畝宗の胸の中にうずめていた顔をあげ『畝宗?聞いて?』と畝宗の顔を見上げた。『うん?』『畝宗?あの夜の答え。今答えてもいいかな?』と話すと『その事なんだけど。爾杏?答えを言う前に1つ聞いて欲しい事があるんだ。』と問いかけてきた。『えっ?何?』『爾杏。俺はお前に会うために。あの約束の答えを聞くために生きようと思ってきた。だけど、爾杏も分かるように俺は右腕を無くしてしまった。だから普通の生活は難しいと思う。だから、お前は違う誰かと一緒になっ…………っ。』とまだ話している畝宗の口を私の口で塞いだ。もうそれ以上の言葉なんか聞きたくなかったし、どんな事を畝宗に言われたって私の気持ちは決まっていた。もうこれ以上聞く必要がなかった。
2人は今までの時間を埋めるように長く深い口づけをした。
甘い時間を名残惜しみながら口を離し『私は畝宗の奥さんになりたいの。畝宗じゃなきゃ嫌なの。畝宗の奥さんに私をしてくれませんか?』と私は真っ直ぐな目で畝宗に語り掛けた。それを聞いた畝宗はもう1度深く甘い口づけを私にしてくれた。本当に心が繋がるという事はこういう事なんだ。お互いの体さえ邪魔な位彼をもっと自分の中で感じていたいと思った。あの時どう思ったのかは聞いたことはないがきっと畝宗も同じ気持ちだっただろう。
それから私達は花びら舞い散る桜並木を2人で手を繋いで彗蓮さんのもとに向かった。向かう途中お互いが今まであったことを夢中で話しながら。2人で彗蓮さんの許へ行くと畝宗の顔を見るなり抱きしめ大声で泣き無事に生還したことを喜んでくれた。そんな光景をとても穏やかな気持ちで見られるのもそこにいた1人1人がそれぞれ精一杯自分の信念を貫いてきたからだと私は思った。これが1つでも誰かのバランスが崩れる事があったのならこの光景は決してみることもなかっただろう。
町に戻り畝宗の無事をみんなに報告しそれからしばらく慌ただしい時間が流れた。
それから、間もなくして私達は結婚をした。
畝宗のいない間に私が陶器の勉強をしていた事を畝宗は物凄く喜んでくれその甲斐あって念願のお店を開くことにした。私がいれば腕が不自由で畝宗がやりにくい所は畝宗なんかよりもまだまだ下手くそな私が補っていければ大した問題ではないし最初は畝宗の夢だったものがいつしか2人の夢になったからどうしても叶えてあげたかった。その為に私も勉強してきた。畝宗にも諦めて欲しくなかったし物を作ることを取り上げたくはなかった。お店を出すことでますますお互いが支え合い本当の意味で一心同体になれた気がする。これからの人生この人さえいてくれたら乗り越えられないモノなんて1つもない。この人と一緒に紡ぐ人生が私の喜びに変わった。
あの時の1枚の写真は今でも大事に取っている。私が持っていることを彼は知らない。でもそれでいい。どんな状況に陥り迎えようとも私達ならお互いを求め合い信じあえる。こんな素晴らしい愛しき日々に今は感謝でいっぱいだ。これから先何年経ってもこの気持ちは失われることはない。もう2度と会えなくなると思った苦しみを知ったあの日、本当に私の心は深い闇の中に突き落とされた。でもそんな時に救ってくれたのはやっぱり畝宗(かれ)だった。私はこれから先もあの桜を見るたびに思い出すだろう。決してこの手を強く握り締めこの人を失わず守っていく。『いつも彼が隣にいてくれる幸せ』を私は生涯忘れることなく噛み締めて生きていくのだろう。
目を細め見上げた視線から舞い散る花びらは柔らかな光と共に爾杏(じあん)と手元の小さな茶碗を優しく包んでゆく。
そして、爾杏の隣には優しく寄り添う畝宗がいつもいた。
≪終≫
『畝宗(せしゅう)…今年で何回目の桜になるかしら?』
『この桜だけは本当にあの日と変わらず綺麗に咲いているね。』
目を細め見上げた視線から舞い散る花びらは柔らかな光と共に爾杏(じあん)と手元の小さな茶碗を優しく包んでゆく。
50年前…
小さな田舎町で私と幼馴染みの畝宗(せしゅう)は暮らしていた。家が隣同士で年も近かったため私達は兄妹の様に育ちいつも一緒で夜寝るくらいがバラバラで一緒にいることが当たり前になっていた。
お互い思春期になっても一緒にいることは変わらなかった。特に気も遣わないし、お互い言葉にしなくても長年の勘で大体何を考えているのかが分かってしまい、下手に同姓といるよりも、とても楽だった。余りにも一緒にいるのでよく周りから、からかわれるが、特に恋愛感情があるとかどうとかで見たことは一度もない。聞いてみたことはないがきっと向こうも同じ気持ちだろう?
私の町は裕福ではなく、自然と町の子供達は16歳位になるとみんな仕事をして生計に貢献していた。
私は、町に1つしかない診療所で雑用の仕事をしていた。カルテを整理したり、待合いで待っている人に簡単な問診をしたり、非力ながらも先生に尽力を尽くしていた。
畝宗は、背が高く体が大きい割に手先が器用で細かい作業が好きな事から陶器の食器や花瓶やらを作っては少し大きな隣町に行き商売をしていた。
私も自分の仕事が休みの時には、畝宗にくっついて行き遊びがてら手伝いをしていた。
少なからず常連もいるらしい。私は陶器の事はよくわからないが畝宗が作る陶器はとても優しくツルツルしていて何より筆付けの上手さは文句のつけようがないほど繊細で綺麗だった。中でも特にお気に入りだったのが小さい茶碗でそれで飲むお茶は格別だった。
そんな畝宗を私は陰ながら誇らし気に思っていた。
そんな平和な毎日を送る私たちの町に隣国が領土拡大の為、侵略してくるのではないか?と言う変な噂話が流れた。町中少しざわついたが、どうせただの噂話だろうとすぐ収まってしまった。例え戦争が起きたとしてもこんな小さな町に迄、戦火の影響などあるはずがないと他人事の様に聞いていた。そんな噂話の事などすっかり忘れたある日の夜、畝宗が『今日、12年に1度の流星群が空に現れるから行ってみないか?』と私を誘ってきた。私は流星群を見るのが初めてだったので喜んでその誘いを受け入れ2人で家をこっそり抜け出し、小さな丘までドキドキしながら見に行った。
丘につき見上げた瞬間私は息をすることを忘れてしまった。目の前に広がる幻想的な光景は今まで見てきた星空なんか比ではない程、空一面が無数の流れる星達で埋め尽くされていた。見ているこっちまで今にも飲み混まれていきそうな迫力にただただ目を奪われるばかりだった。今思い出して見てもあれ以上の光景を見ることはなかった。
連れて来てくれた畝宗に心の中で『ありがとう!』と叫びながら感謝していると、
『爾杏。』
と、畝宗に呼ばれた。まさか心の声が聞こえてしまったのか?とビクッとしながら振り向いた。
すると畝宗は私に検討外れの質問を投げかけてきた。
『爾杏はさ、将来の夢とかある?』
『何よ、急に。いきなり聞かれても考えた事ないからわかんないよ。』と、少し動揺を隠しながら月並みな返事で返した。
『畝宗はあるの?将来の夢。』
『俺?あるよ。』
『えっ?なになに?』
『今はまだ教えない。』と、薄っすら笑みを零しながら答える畝宗の横顔を睨みつけながら
『はっ?何それ。最初に聞いておきながら自分は答えないとかどうなの?』
と、膨れっ面になる私を見てまた涼しい笑みを浮かべる畝宗。それを見てさらに腹を立てるが何故だろう?すぐにその気持ちは消え去り何処か憎めない自分がいた。
最近少し前からよく起こる感情だ。小さい頃とは少し違う畝宗への思い。小さく灯し始めた感情が初めて経験する恋だとも気付かずに過ゆく日常生活の中に埋もれていった。
そんな鈍感な爾杏に対して、先に自分の思いに気付いていた畝宗は鈍感で無邪気な爾杏の顔を見てはいつ思いを打ち明けようか様子を伺っては慌てなくてもいいかと自分を甘やかしその淡い思いを隠していた。
2人で流星群を見てから程なくして、町中の皆の記憶から薄れ始めたあの噂話が現実のものになってしまった。時間がそうかからなく本格的に戦争が始まるらしい。爾杏の胸はざわついた。今はまだでも戦争が長く続いてしまったら、きっと町の男の人達は駆り出されてしまう。そしたらもちろん、畝宗も行ってしまうに違いない。そう思った爾杏は居ても立ってもいられなくなり、夢中で畝宗の許に駆け出していた。
『畝宗。畝宗。』
畝宗を見つけると大声で名前を叫びながら畝宗の許に駆け寄り戦争が始まってしまう事を告げた。
息を切らせ必死に話をする私を、普段の世間話を聞くみたいに『うん。そうみたいだな。』と、落ち着いた返答が返ってきた。
『何で、そんなに落ち着いていられるの?もしかしたら、畝宗だって駆り出されるかもしれないんだよ!』
『落ち着けって。今からそんな心配したってしょうがないよ。今行け!って言われた訳でもないのにこの先どうなるのかなんてわかんないぞ。』
『そりゃあ、そうだけど、もし、戦争に駆り出される事になったらどうするのよ!』
『そうだな。俺だったら・・・逃げるかな。』と笑いながら答える畝宗を見て、拍子抜けてしまった私は心配したことが馬鹿馬鹿しくなり、その場からまた走り出してしまった。
『バカ、畝宗。本当に心配したのに。何であんなに能天気なの!そんな奴は戦争でも何でも行ってしまえ!』と叫びながら走っていた。
今思えば、あの時の畝宗が言ったことは私を心配させない為のやさしさだったといことを後から気付かされる。
あの事がきっかけで私達はあまり一緒にいなくなっていた。正確には私が一方的に避けていたのだ。畝宗はいつもと変わらず接してくれるのにそんな畝宗のやさしさに素直になれないでいた。それから一か月程たったある日、爾杏は母親から畝宗が戦争に行くことを告げられた。
私は頭の中が真っ白になりまだ何かを話している母親の言うことも聞かず家から飛び出した。
あの日と同じように爾杏は夢中で走った。またあの日と同じ、ただ唯一あの時と違うのは、『畝宗が行くかもしれない。』が『行ってしまう。』に変わってしまったことだった。
『私があんな事言わなければ、言わなければ、畝宗は行かなくて済んだのかもしれない。何であんな事思ってしまったのだろう?私のバカ。』走りながら自分を責め倒し夢中で走った。
何故だろう?今日はどこを探しても畝宗を見つけられなかった。いつもは何もしなくてもすぐ会えていたのにどこを探してもどこにもいない。爾杏の目から溢れる涙が止まらない。ようやく、畝宗を見つけると両腕を掴み、息を切らしながら訪ねた。
『ハァ、ハァ…ハァ…畝宗。畝宗。』
『どうした、爾杏、落ち着けよ。どうしたんだよ。』
『……どうした…じゃ…ないわよ。どうしたじゃ。戦争に行くって本当?嘘だよね?行くなんて冗談だよね?』
『………お前、耳に入れるの早いな。本当だよ。俺、戦争に行ってくる。自分から志願した。』
『えっ?今なんて言ったの?……戦争に行ってくる?自分から志願?何言ってるの?何でそんな大事な事相談してくれないの?』
『お前、ずっと俺の事避けてたクセによく言うよ。それにお前に言ったら、絶対行くな!っていうだろう。』
『言うわよ!行くな!って、絶対言うに決まってるでしょう!』
『爾杏。とにかく落ち着け。爾杏には自分の口から言うつもりだった。
あのな、俺が行かなかったら他の誰かが行かなきゃならない。そしたら今の爾杏みたいに泣く奴がいる。そんな事俺はしたくない。それに自分から志願すれば自分の家族の生活の保障がされるんだ。何にもない俺が唯一出来る親孝行だと思うんだ。爾杏だってもし反対の立場なら同じ事しただろう?』
余りにも真っ直ぐな思いを前に『それでも他の誰かが行って畝宗が行かなくて済むならそれがいい。』とは言葉に出せずただ泣き崩れるしかなかった。
『爾杏?まだ戦争に行っても死ぬと決まった訳じゃない。死なない保証は確かにないけど俺は死ぬつもりはないよ!必ず生きて帰ってくる。』
畝宗を掴む私の両腕を優しく掴み返す畝宗の温もりはより一層言葉の重みを伝えてくれた。
『……行かないで。私の為に行かないで。』と心の中で叫びながら、『……いつ行くの?』と正反対な言葉が口から零れる。
『……一週間後。』
『……一週間後?そんなすぐに行くの?』
あまりにも短い時間に驚き今までうつむいていた顔を上げて畝宗の顔を見つめた。
真っ赤な眼をしている私の顔を見て、流れる涙をやさしく拭いながら畝宗はゆっくりと頷いた。
『……どうしてそんなすぐに行ってしまうの……。』
『……早く行ってさ、俺が戦争をさっさと終わらせてくるよ。』とくしゃくしゃないつもの笑顔を見せた。
その笑顔はいつも不思議と本当にそうなってしまうから、だから今回もきっとそうなるに違いないとその時の私は思っていられた。
畝宗がどんな思いでこの決断をしたのか私なりに分かっているつもりだ。だからせめて今の私に出来る唯一の事をして送り出そうと私も精一杯の笑顔で誓った。
畝宗が旅立つ前夜、私はなかなか寝つけるわけもなく一人、前に畝宗と一緒に星空を見に行った丘へ行くとそこに一人誰かが座っていた。
『……畝宗?』
『爾杏?どうした?眠れないのか?』
『うん。何となくね。畝宗も眠れないの?』
と分かり切った返事を返しながら隣に座った。
何も言葉を交わさず2人は夜空を眺め2人でいる時間を噛み締めていた。
いつも何気なく過ぎる時間がこの時ばかりは時計の針が止まったようにゆっくりと時を刻んでいった。
『爾杏?前に将来の夢聞いてきたことあったろう?』
『うん。』
『あの時、照れくさくて答えられなかったんだけど、俺の夢さ。小さくてもいいから自分の店を持つことなんだ。』
『へぇ~。でも何となくそんな気はしていたよ。だって物作るの好きだし、作ってる時の顔いい顔してるもん。楽しいんだろうな~って思ってたよ。』
『そっか、バレてたか。じゃあさ、ずっと、俺の店手伝ってくれないか?』
『え~、私、お給料高くないと働きませんよ~。』
『……そういう意味じゃなくて、俺の奥さんとして一緒に店やりませんか?』
突然の畝宗の言葉に頭が真っ白になり上手く反応できなかった。すると畝宗は急に私を自分の方に向かせ、私の手を取り指に何かをはめながら真っ直ぐな眼差しでこう続けた。
『爾杏。贅沢はさせてあげられないけど一生笑顔にさせることは出来るから俺のお嫁さんになってくれないか?』と、強い思いと共に薬指に綺麗に赤く輝いた指輪がはめられていた。
その手を見ながら爾杏はようやく、自分に起きている事の重要性を理解し、もう一度畝宗の顔を見つめた。
何か話そうとするが、驚きと嬉しさで口からは言葉が出ずに目から涙が溢れ出ていた。
『泣くなよ。泣いてちゃ答え分かんないだろう?』と顔を覗き込む畝宗の顔を見てさらに涙は止まらなく
『はい。畝宗の奥さんにしてください。』と言おうとするのに上手く話せないでいると
『爾杏?返事はさ、帰ってきてから聞いてもいいかな?俺必ず生きて帰って来るから。その時まで返事は取っておきたい。』
と話し終えると私を力強く抱き寄せ畝宗の心臓の音が私の耳になり響いた。こんなにも緊張していたのかと思うと、急に愛おしさが溢れ出したまらなく私も力強く抱きしめた。戦争と言う物さえなければこの幸せを命一杯噛み締める事が出来るのに、明日の朝には自分の元からこの愛おしさが離れてしまう現実に胸が苦しくなった。今まで時間を意識する事はなかったのにほんの一瞬畝宗への愛おしさに気付いてしまってからこれ程時間が止まって欲しいと強く願うことはなかった。
次の朝、畝宗は家族と私に見送られ帰れる保障のない旅路へと旅立っていった。
畝宗を見送ってからどれだけ待つことの苦しみが私の気を狂わせる日々に変えただろう?
元気でやっているのか?ケガはしていないか?ちゃんと食べられているのか?辛い目に遭わされているはずの彼を近くで寄り添ってあげることも出来ない。次第に膨れ上がるもどかしさが心を満たしてゆく。出来るだけマメに手紙を書いてみたり、戦地の状況を集めてみたり微力ながらも戦地に行って途中で帰ってきた人や戦火の影響で逃げてきた人たちの介抱の手伝いをして今私なりにできる事をやる事が少しでも遠くで頑張っている畝宗の心と共にいてあげられるような気になっていた。
畝宗が旅立ってから1年の月日が流れていた。最初は送った手紙にマメに返事が返ってきていたが次第にそれも減り1年経った今では全く返ってこなくなり戦火の激しさを物語っていた。
それでも畝宗についての悪い知らせがない事が唯一の私の救いだった。それから、半年ほどたったある日、2年近く続いた戦争は両方の和睦という結論で幕を閉じた。話し合いで解決したのなら初めからあんな戦争なんてする必要などどこにもなかったと私の怒りはどこにぶつける場もなく心の奥底で煮えたぐっていた。その思いは私だけではなく戦地へ家族を送り出した皆が同じく思う事でもあった。
でもこれでようやく戦争が終わった。畝宗が帰ってくる?畝宗に会える?私の思いはようやく会える愛しい人への思いで溢れていた。
戦争が終わり2ヶ月ほどたった時、戦地に駆り出された人達が帰ってくるという報告がされ私は畝宗の家族と一緒に港まで畝宗を迎えに行った。港は家族が無事に帰ってきてくれた喜びの声で賑わっていた。今まで見たこともないほどの人で溢れかえりその中で畝宗を探すのは一苦労だったが見失わないように一生懸命彼を探した。高鳴る思いは増すばかりで初めに何と言って声をかけようか?あの時の私の返事をどんな風に聞いてくれるのだろうか?などいろんな事が頭の中を巡らせていた。しかしどれだけ探し回っただろう。時間が経つほど人の数は減りいくら探しても畝宗の姿を見つけることが出来なかった。私は同じく戦地へ行って帰ってきた人たちに畝宗の事を聞いて回るが誰も畝宗の行方を知る人はいなかった。きっと何かの手続きの不備で遅れているだけだろう?とその時の私は少しずつ不安になる気持ちを紛らわしていた。それから次の日もまたその次の日も港へ畝宗を迎
えに行ったが彼が現れる事はなかった。
あれから1年の歳月が経っていた。
いつもの様に私は港へ畝宗を迎えに行くと、最後の便の船から1人の男の人が下りてきた。私は胸が高鳴った!畝宗だ!畝宗が帰ってきた!溢れる思いはその彼の許へと走り出していた。『畝宗!畝宗お帰り!お帰りなさい!』そう言って駆け寄るがその青年は畝宗ではなかった。同じような背格好ではあるが少し畝宗よりも小柄で人違いだった落胆から私は急いで足を止めた。
『……。この街に爾杏さんという方はいらっしゃいますか?』とその人はよわよわしい声で話てきた。
『………。爾杏は私です……が。』と私は答えた。
『あっ……。初めまして、私は、彗蓮(すいれん)と言います。畝宗さんとは同じ戦地にいました。あなたにどうしてもお伝えしたいことがありまして……。ご迷惑とは思いましたが会いに来ました。』
『……。私に伝えたい事…。ですか?』
『……。はい。………。すいませんでした!』と彼は突然頭を下げ謝ってきた。
『えっ?……。どうしてあなたが謝るんですか?.』と私は不安な気持ちで彼に問いかけた。
『………。僕のせいで畝宗さんは、亡くなってしまったからです。』
『え?………。今なんていったんですか?彼が亡くなった?』私は突然の言葉に思考は止ってしまった。
『彼が……。亡くなった?一体何があったんですか?何でそうなったんですか?』と私は冷静を装うつもりが気付いたら彼に詰め寄っていた。そんな私を受け止めながら彼は淡々と話しだした。
『あの日、僕が戦地に行くはずだったんです。…それなのに僕は高熱を出してしまい…寝込んでしまってその身代わりに畝宗さんが戦地に行ってしまいました。』
『…………。』私は言葉が出せずに黙って現実を聞き入れていた。
『畝宗さんは、年も近い僕の事を本当の弟の様に気遣ってくれました。いろんな話もいっぱいしてくれました。その中でも爾杏さん。あなたの話をよくしてくれました。爾杏さんは畝宗さんの婚約者だったんですよね?』
『…………婚約者?彼は私の事をそんな風に言っていたんですか?』
『………あっ、ハイ。正確にはまだ返事は聞いていないけど。とは言っていましたが。』
その言葉を聞いた瞬間、堰き止められていた私の想いは一気に溢れ出し涙が次から次と零れ出ていった。
『……………すいません。ごめんなさい。あなたの前で泣いたらあなたが困ってしまいますよね?ごめんなさい。』と溢れる涙を堪えようとするが自分ではその涙をどうすることも出来なかった。
『いいんです。いいです。僕が悪いんです。僕が悪いんですから。僕はあなたに責められるべき人間なんです。だからいいんです。』と彼は肩を震わせ私に言った。そんな彼を見て私はこの人は本当に気の優しい人なのだと思い何故畝宗が可愛がっていたのかもわかったように気がした。
『だから僕の事を責めてください。何なら好きなだけ殴ってくれても構いません。そのつもりでやってきました。』と真っ直ぐな目はどれほどの覚悟を決めてきたのかを物語っていた。
『……………。責めるなんて。そんな事私には出来ません。あなただって行きたくて行ったわけじゃないじゃないですか?私は戦地になど行ったことがないからよくわかりませんが。きっとそこは何が良くて何が悪いかなどよくわからなくなってしまうような場所だと思うんです。唯一信じて望む事は、『自分の大事な人を守りたい。』その一心だけで戦っているような気がするんです。だからそんな過酷な場所で人の命の重きを選別することは出来ないんです。あなたは生かされた人。ただそれだけの事です。生きる事を導かれた人なんです。それに畝宗もその覚悟はして行きました。あなたにも私が畝宗の帰りを待つようにあなたの帰りを待つ人はいたはずです。だからあなたは生かされたことを胸張っていてください。そして本当責められるべき場所はあなたなんかじゃない。もっと違うところにあると思います。もしも、ここに彼がいたのならきっと同じような事をあなたに言った
と思います。』と私は彗蓮さんをまっすぐ見ながら応えた。黙って私の話しを聞き終えると彼はその場に泣き崩れていった。
『……………。ありがとうございます。……。ありがとうございます。』と言葉にならない謝罪を繰り返し言った。
それから、彗蓮さんは私に他にある戦地での畝宗の様子をたくさん聞かせてくれた。どの話の中にも畝宗は畝宗らしく過酷な場所にいながらも私の知っている彼でいてくれた事に心からホッとしていた。そして同時にどうしてもまだ彼が死んだという事が信じられなかった。ここで彼の話を聞いているだけなのにこんなにも彼の存在を近くに感じていられるのに、彼が死んだなんて信じられなかった。ただそんな風に思いたかっただけなのかもしれない。そんな私の顔を見ながら彗蓮さんはあるものを手渡してきた。差し出されたものを見た時、私の中で止まっていたものが一気に溢れ出した。彼はそれを形見離さず持っていたらしく、とてもくしゃくしゃでとても汚れていた。
それがあったから彼は自分を取り戻していたし生きようと思えていたらしい。彼が生きる糧としていたものは『私の写真』だった。彼はこっそり私の写真と一緒に戦地に行きいつも私を近くで感じていたらしい。私と思いは一緒だった。すると彗蓮さんは私に『爾杏さん、裏を見てください。』と言われ私は裏を返してみるとそこには、『いつも思いは一緒だよ。必ず帰るから待っていて欲しい。』と私の想いに答える畝宗の言葉があった。『……。やっぱり、やっぱり、彼は生きている。生きているんだ。』と込み上げる思いは私に1つの希望を与えてくれた。
『えっ?畝宗さんは生きているんですか?生きているんですか?』と問いながらさらに
『これ。僕が目を覚ました時にただこれだけが枕元に置いてあったんです。僕はそれを必ずあなたの許に届けようと。畝宗さんの思いと一緒にどんなことがあっても届けてあげようと思ったんです。これくらいしか僕が畝宗さんと爾杏さんにしてあげられないから。』と彗蓮さんは話し続け私に彼の思いを届けてくれた。
『……。ありがとう。ありがとう。彗蓮さん。私待ちます。待っています。これからどれだけかかっても彼を待ち続けます。』と彼に話すように自分自身に感謝と希望を胸に誓った。
それから、彼も私と一緒に畝宗の帰りを待つようになり私の様子を見に度々会いに来てくれるようになっていた。畝宗が私の許に帰ってくるのを見届ける事が彼にとって私に対する罪滅ぼしになると思っているのかもしれない。
待ち続ける事3年の歳月が流れていた。あれから未だに畝宗からの連絡はなくどんな些細な情報も入らなかった。いくらでも周りに気を遣わせないようにと思い明るく振舞ってはいたがやっぱり不安な気持ちはいつまでも私の中に根付き潜んでいた。そんな私を彗蓮さんはずっと変わらず私に会いに来ては、生活に困らないようにいろんなものをもって来てくれたり、新しい情報の報告をし励まし一緒に彼の帰りを待っていてくれた。最初は罪滅ぼしから会いに来てくれていた人だったのにいつしかそんな彼の存在は私の中で少しずつ形を変え始めてきた。正直ここまで気持ちを持っていられるのも彼無しでは出来なかった事でそんな彼の存在にこのまま甘えていいものかと思い始めてきた。彼にも人生がある。ここまで本当に充分すぎるほどしてもらえた。だからこれからは彼の人生を歩んで欲しくて彼にその思いを伝えることにした。
いつもの様に会いに来てくれたある日、『彗蓮さん、もう今まで本当に良くしていただきました。でもこれからはもうここには来ないでください。あなたの人生を歩んでください。』と
私は彗蓮さんに告げた。すると彼は『えっ?……。畝宗さんが帰ってくるんですか?その知らせが入ったんですか?』と私に質問し返してきた。
『その知らせはまだ入ってきていないけど、これから先は私1人で待っていられるから大丈夫。本当ここまで気持ちを持っていられたのはあなたのおかげです。本当に感謝してもしつくせません。だからこそ、あなたには幸せになって欲しいんです。』『……。そうなら、一緒に待たせてください。正直最初は、罪の意識から来ていました。でも今は違う。いつからかあなたに会いに来ることが楽しくてあなたに会いたくて来ていました。だからこれからもあなたに会いに来てはダメですか?こんなこと言える資格ないのは充分わかっているしあなたの思いは畝宗さんにあるのも知っています。でもそれでも僕じゃ畝宗さんの変わりにはなれませんか?』と彼の真っ直ぐな眼差しを逸らすことは出来なかった。
その申し出に私は揺れた。このまま彼が帰ってこなかったら。私はずっとこの不安と一緒にいることになる。彗蓮さんはとてもいい人だしそばにいてくれる。それでも『ハイ。』と2つ返事できない理由は何?そんな疑問の答えなどとっくに出ていたのに私は気付かないフリをするという卑怯な真似をしていた。初めてあの写真を手渡された時から私の心は決まっていたのだ。あの言葉は私に確信と言う約束をしてくれた事。私には畝宗しかいない。畝宗以外にずっと一緒にいたくない。揺れ動いた心は私の弱さがそうさせただけの幻想。『……。彗蓮さん…。ありがとう。そんな風に私を思ってくれて本当にありがとう。私は今まで本当にあなたの存在にどれだけ助けられたか分かりません。どれだけ感謝してもしきれない。だけど、私には畝宗しかいないんです。畝宗のそばにいたいんです。彼を待ちたいんです。これから先……。どれだけの時が経うとも彼を待ち続けたいんです。彼
と約束したから。だから…。私はあなたの気持ちに答える事はできません。』と私は自分の指に光輝く指輪を強く握りしめながら睡蓮の気持ちに精一杯答えた。『……。思った通りの答えでした。あなたの心は今までもそしてこれからも畝宗さんにあると思っていました。その真っ直ぐな気持ちが好きだったのかもしれません。いや、羨ましかったのかもしれません。誰かにそんなに思ってもらえることに。それがあなただったらなぁ。と夢を見ていたのかもしれません。だから、1つ約束させてくれませんか?僕はやっぱりあなたと畝宗さんを待ち続けたい。そして、僕の気が済むまでこのままあなたを思っていてもいいですか?もちろん、あなたには迷惑をかけるつもりもありません。だから、嫌だったらいいんです。やっぱり、見届けたいんです。きっと、その時が僕の気持ちのケジメの時にもなるんです。だから、お願いします!あなたのそばで一緒に見届けさせてください。』と彗蓮の強い思いと共に彼の腕の中に引き寄せられた。
『ありがとう。彗蓮さん。そんな風に思ってくれて本当にありがとう。でもね、あなたはもうここへ来るべきではない。ここに来ちゃいけない。ここから離れることが今のあなたのケジメになるんです。あなたの為に。あなたの人生を今から動かし始めなくてはダメなんです。だからもう、私達の事を気に掛ける事はないんです。気に掛けちゃだめなんです。だから、あなたは前に進んで。歩き出してください。もう充分あなたの思いは受け止めたから、だから…それだけで……。もう充分。』と私は溢れる涙と共に彗蓮の腕の中から離れた。その思いに彗蓮も充分すぎるほどの爾杏の思いを受け止め静かに頷いた。
『……。ありがとう。本当にありがとう。畝宗があなたの様な人と出会えて本当によかった。彗蓮さん、ありがとう、お元気で。必ず幸せになってくださいね。』と私は今出来る精一杯の笑顔で彼を送り出した。
彗蓮が私の元に来なくなって1年の歳月が流れた。あれから彗蓮は私の元へは来ないけれど定期的に手紙をくれていた。そして畝宗は未だに私の許へ帰って来てはいなかった。
終わってしまえば時が経つのは早く終戦から3年の歳月が経とうとしていた。私も街の診療所と家との往復する日常を送っていた。そして、そこに新しく習慣を増やしていた。それは器を作る勉強だ。いつ畝宗が帰ってきてお店を開いてもいいようにそのお手伝いができるように習い始めた。習い始めて思う事だが本当に畝宗は手先が器用なのだと思い知らされた。ただ見ている時は軽々器を作っていたので自分がやり始めてこんなに繊細で奥深いものだとは思ってもみなかった。まだまだ畝宗みたいには遠く及ばず下手でとてもお手伝いになるレベルなんかじゃないけれどとても充実を感じ楽しかった。自分が丹精込めて作り上げたものが焼きあがった時の風合いや形の変化に私はどんどん陶器に魅せられていった。畝宗があんなに夢中になって楽しそうな顔になるのも分かるように気がした。私は見様見真似で畝宗に作ってもらったあの小さな茶碗を作っている。まだまだあんな綺麗な
茶碗ではないけれど私の記憶にある畝宗の茶碗を真似して作る日々。そして彼が帰ってきたときにプレゼントして驚かせる事を考えていた。その時間はとても楽しく待ち遠しいものへと感じていた。季節は流れ春に入ったばかりのある日、彗蓮さんから1通の手紙が届いた。
内容は今度彗蓮さんが結婚をすることになったらしく、さらにこの秋には新しい命が産まれるという幸せな報告だった。私はとても嬉しくて彗蓮さんにすぐ返事の手紙を書いた。
やっと自分の人生を歩き幸せに向かう彼を思うと本当に良かったなぁと胸をなでおろしていた。そして私は久しぶりに彗蓮さんに会いに行くことにした。私の作った茶碗を持って。
どんなものを作ろうか?どんな大きさがいいだろうか?生まれてくる子はどっちだろう?自分の事の様に嬉しくてたまらなかった。そんな事を考えて爾杏は彗蓮夫婦と生まれてくる子供へのプレゼントを心を込めて作った。いろいろこだわり何回も作り直し1番自分が納得のいく物を仕上げ時間と手間費やし一生懸命作った。ようやく完成し彗蓮の元に届けに向かった。向かう道の途中には桜並木の花が咲き誇りまさに見頃で風に吹かれ花びらが舞い散り幻想的な空間を創り上げていた。ふいにいつかの畝宗と一緒に見に行った星空の事を思い出した。あの星空は本当に私の視線を掴み離さぬほどの迫力があった。だが、相反するものではあるが今目の前の舞い散る桜の幻想的な光景もまた違って私の全てを包み込み安らぎという空間に誘いこの光景を『畝宗にも見せたいな』と思った。少しの時間この安らぎの時間の中で思いに浸りまた彗蓮の元へ歩き始めると微かな声が耳に入った。
気のせいだろうか?と足を止めて耳を澄ます。やっぱり聞こえない。また歩き出すと私を呼ぶ声がした。この声はとても聞き覚えがありこの世で1番聞きたい声だった。
急いで後ろを振り抜くと舞い散る桜の花びらの中に1人の人影があった。
私は気付いた瞬間、その人の許へと走り出していた。
『お帰り。お帰りなさい。……。畝宗。無事に帰って来てくれて本当に良かった。本当に良かった。』と久しぶりに感じる畝宗の温もりに私は溢れ出す涙と共に埋もれていた。
『本当に良かった。本当に生きてて良かった。』とそれ以外の言葉が見つからず繰り返す言葉と共に生きて帰ってきたことの感謝の思いで満たされていた。2人はそのまま抱き合いお互いの長かった再会を噛み締めていた。
『ただいま。爾杏。長い事待たせてしまってごめんな。約束通りちゃんと生きて帰ってきたろう。俺が約束破ったことなんかなかっただろう?』と少し痩せた畝宗の顔はいつもの笑顔を見せてくれた。
しかし、私は畝宗との再会から少し違和感を感じていた。『畝宗?………。腕。』と私は畝宗の顔を見上げた。
『……。うん、戦争の時に深い傷をおってしまって命か腕かの選択だった。俺は生きる方を選んだ。爾杏との約束があったから何としてでも生きて帰ろう。と思った。だから腕の1本位なくなるくらいどうってことないよ。』と笑って見せた。今まで帰ってこられなかった理由はこれだったのかと思うと私は今までどんな思いで畝宗がいたのかを思い胸が張り裂けそうだった。それなのにそんな辛い思いをしたというのにあんなあどけない顔を見せて私を安心させる畝宗の想いに言葉が出ず泣いてしまった。腕を無くしてしまって本当にいろんな事を思ったと思う。ここに帰ってくるまでの道のりは本当に並大抵ではなく彼の精神力のたくましさが彼をここまで導いてくれたのだと感じた。
1番辛い思いをした畝宗が泣いていないのにちゃんとしなくちゃいけない私がいつまでも泣いていてはだめだと思い畝宗の胸の中にうずめていた顔をあげ『畝宗?聞いて?』と畝宗の顔を見上げた。『うん?』『畝宗?あの夜の答え。今答えてもいいかな?』と話すと『その事なんだけど。爾杏?答えを言う前に1つ聞いて欲しい事があるんだ。』と問いかけてきた。『えっ?何?』『爾杏。俺はお前に会うために。あの約束の答えを聞くために生きようと思ってきた。だけど、爾杏も分かるように俺は右腕を無くしてしまった。だから普通の生活は難しいと思う。だから、お前は違う誰かと一緒になっ…………っ。』とまだ話している畝宗の口を私の口で塞いだ。もうそれ以上の言葉なんか聞きたくなかったし、どんな事を畝宗に言われたって私の気持ちは決まっていた。もうこれ以上聞く必要がなかった。
2人は今までの時間を埋めるように長く深い口づけをした。
甘い時間を名残惜しみながら口を離し『私は畝宗の奥さんになりたいの。畝宗じゃなきゃ嫌なの。畝宗の奥さんに私をしてくれませんか?』と私は真っ直ぐな目で畝宗に語り掛けた。それを聞いた畝宗はもう1度深く甘い口づけを私にしてくれた。本当に心が繋がるという事はこういう事なんだ。お互いの体さえ邪魔な位彼をもっと自分の中で感じていたいと思った。あの時どう思ったのかは聞いたことはないがきっと畝宗も同じ気持ちだっただろう。
それから私達は花びら舞い散る桜並木を2人で手を繋いで彗蓮さんのもとに向かった。向かう途中お互いが今まであったことを夢中で話しながら。2人で彗蓮さんの許へ行くと畝宗の顔を見るなり抱きしめ大声で泣き無事に生還したことを喜んでくれた。そんな光景をとても穏やかな気持ちで見られるのもそこにいた1人1人がそれぞれ精一杯自分の信念を貫いてきたからだと私は思った。これが1つでも誰かのバランスが崩れる事があったのならこの光景は決してみることもなかっただろう。
町に戻り畝宗の無事をみんなに報告しそれからしばらく慌ただしい時間が流れた。
それから、間もなくして私達は結婚をした。
畝宗のいない間に私が陶器の勉強をしていた事を畝宗は物凄く喜んでくれその甲斐あって念願のお店を開くことにした。私がいれば腕が不自由で畝宗がやりにくい所は畝宗なんかよりもまだまだ下手くそな私が補っていければ大した問題ではないし最初は畝宗の夢だったものがいつしか2人の夢になったからどうしても叶えてあげたかった。その為に私も勉強してきた。畝宗にも諦めて欲しくなかったし物を作ることを取り上げたくはなかった。お店を出すことでますますお互いが支え合い本当の意味で一心同体になれた気がする。これからの人生この人さえいてくれたら乗り越えられないモノなんて1つもない。この人と一緒に紡ぐ人生が私の喜びに変わった。
あの時の1枚の写真は今でも大事に取っている。私が持っていることを彼は知らない。でもそれでいい。どんな状況に陥り迎えようとも私達ならお互いを求め合い信じあえる。こんな素晴らしい愛しき日々に今は感謝でいっぱいだ。これから先何年経ってもこの気持ちは失われることはない。もう2度と会えなくなると思った苦しみを知ったあの日、本当に私の心は深い闇の中に突き落とされた。でもそんな時に救ってくれたのはやっぱり畝宗(かれ)だった。私はこれから先もあの桜を見るたびに思い出すだろう。決してこの手を強く握り締めこの人を失わず守っていく。『いつも彼が隣にいてくれる幸せ』を私は生涯忘れることなく噛み締めて生きていくのだろう。
目を細め見上げた視線から舞い散る花びらは柔らかな光と共に爾杏(じあん)と手元の小さな茶碗を優しく包んでゆく。
そして、爾杏の隣には優しく寄り添う畝宗がいつもいた。
≪終≫
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