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第3話 恐怖の会食

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 湯浴みを終えた私を待っていたのは妃候補と王子が集まり、私を歓迎するという名目の会食だった。

 まあもう分かるだろうが私を歓迎する気など更々ないのだろう。

「えー、ルリア。これ絶対に行かなきゃいけないの? 」

「はい、これはセレスティア王国の伝統でございます」

 伝統と言ってもね……。私は人間じゃないですし。
 ま、郷に入れば郷に従えというやつか。

「しょうがない、お腹は空いてるしさっさと食べてさっさと帰ってこよっと」

「シキ様、ドレスやメイクなどは……」

 私はふふっと噴き出した。

「いらないいらない、私が身支度したって何か文句言われるに決まってるもん」

「そう……ですか」

 押し黙るルリア。否定はしないんだなと私は苦笑を浮かべる。
 こうして私は女たちの戦場へと連れていかれたのである!

◇◇◇

 ルリアに案内されて着いたのは大きな会場。お城って広いんだなと改めて感心する。全ての部屋を見て回るのに一日かかりそうだ。

 私がその中に入ると、すぐに目に飛び込んできたのは色とりどりに着飾った美しい女性たち。年齢は様々で五人は軽くいる。

 その中にはさっき出会ったシャルロッテの姿もあった。

「凄いねルリア。あの着てるドレスだけでもいくらするんだろ……」

 女性たちは私を頭の先から爪先までジロジロと眺めると、勝ち誇ったように口元を歪ませた。

「あら、ここは召し使いが入って良い場所ではなくてよ」

 早速攻撃を仕掛けてきたのはシャルロッテだった。彼女の言葉を合図に周りの人たちがくすりと笑う。

「こちらがシキ=クレアシオン様。新たに加わったお妃候補でございます」

 ルリアが淡々と言葉を返す。

 すると、まぁと別の女性が声をあげた。黒髪でショートカットのこれまた美人さんだ。

「こんなみずぼらしい格好をした人が獣人族の姫君なの? お可哀想に……身なりも整えて貰えないなんて」

「やめなさいよコハクさん、獣人と私たちでは違うのよ。何もかもがね」   

 シャルロッテが答えた。
 なるほど黒髪の娘はコハクという名前らしい。

 あー、めんどくさい。
 私はにこっと笑顔を向けるとさっと空いている席に着いた。

 するとさっと私の隣に座っていた少女が席を立つ。
 
「野蛮な野犬の隣で食事なんて取れない……いつ襲われるか分からない」

 ツインテールのその少女はまだ若そうだ。私は何だかからかいたくなりキラリと牙を見せる。

「そうね、貴女は若いみたいだしとっても柔らかそうだわ」

 ひっと少女が悲鳴をあげた。
 周りの女性たちも一歩私から距離を取る。

 ふふ、中々面白い反応をしてくれる。

 すると、奥の扉から青年が姿を現した。
 その途端にきっちりと席に座るお妃候補の皆さん。私の隣は嫌なんじゃなかったっけ……? ツインテールちゃんもまるで瞬間移動したみたいに私の横に座っている。

「すまない、待たせたな」

 青年がそう言うと女性たちは口を揃えてそんなことありませんわ! と彼を庇う。

 あー、どこかで見たことあると思ったけどこの人がカイルさんか。お妃候補たちが強烈すぎて存在を忘れてた。

「今日は新しい妃候補を紹介するためこの会を開いた。シキ=クレアシオン、仲良くしてやってくれ」

「どーも」

 私はぺこりと軽く頭を下げ、すぐに着席。仲良くねえ……まあじゃれ合いは嫌いではないが。

 私の短すぎる挨拶にカイルは若干顔をしかめたものの、すぐに人当たりの良い笑顔に戻る。

「さあシキも今日は疲れただろう。遠慮なく食べてくれ。この出会いを大切にしようじゃないか」

 テーブルに載せられた豪華な食事。故郷ではお目にかかったことすらない食べ物ばかりだ。

 ……しかし、どうにもネムリソウの匂いが鼻につく。

 ネムリソウとはその名の通り、食べると強烈な眠気を引き起こす毒草の一種だ。その特性から麻酔などに使われることはあるが食べるだなんて聞いたことがない。
 あ、でも私が知らないだけで人間はこの毒草を食べるのだろうか?

「いただきます」

 手を合わせ、皆が一同に食べ物を取り分けた。

「流石、やはり美味しいですわね」
 
 ふーん、あまり皆気にせず食べているようだ。
 ネムリソウもスパイスとして入れてるのだろうか。

 私も真似して近くにあったチキンに手を伸ばそうとした。
 そのとき、ゴンと鈍い音が響く。
 それも一回ではない。

 カランと誰かの手からフォークが滑り落ちた。

「ん? 」

 横を見ると、テーブルに突っ伏してる一同。カイルですら固く目を瞑っている。

「ちょっとルリア、ネムリソウなんて食べて良いの? 」

 ルリアから返事はない。どうやら食べてしまったようだ。

 一体どういうこと……? 
 私の頭は混乱した。
 もしかしてこれがセレスティア王国の伝統なのだろうか……? 皆仲良く眠りに落ちて親睦を深めよう的な……。

「人間の風習はよく分からないな……」

 一人取り残された私は首をかしげる。私も一緒に寝た方が良いのだろうか。

 そのとき、バタンと扉が乱暴に開かれた。何だろう、皆をベッドにでも運ぶのだろうか。

 そちらに視線を向けると、そこにいたのは全身黒づくめの誰か。顔も性別も分からないがそれなりに体格は良い。

 あ、もしかして召し使いの人ですかね?

 私は少しほっとして胸を撫で下ろした。
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