37 / 64
第36話 今さらギルド
しおりを挟む俺のちっぽけな頭ではこの世界の神話のことなんて分かるはずもなく、かと言ってミシェルに動きもないまま、平和な日々をシエルと過ごしていた。
一応俺の使い魔(と言って良いのか分からんが)は無事にリュイを見つけており、監視もばっちりだ。
ああ俺はプライバシーを守る男なので風呂やトイレなどは見てないぞ。
そして俺はいつか来るかもしれないし日のために、魔力を回復するアイテムを大量に買い込もうと外に繰り出した。
以前使った妖精羽の雫の回復量では50本も飲まなければ魔力を補えなかった。もっと回復量が多いアイテムがあれば良いのだが……。後願わくば美味しいと嬉しい。
「うーん、もっと遠くの町に行かなきゃないかなぁ」
辺りに立ち並ぶお店の品揃えを見ながら、俺はそう呟く。
「遠くの町? 行ってみたいです! 」
キラキラと目を輝かせるシエル。
そういえば他の場所に行ったことなかったな。ずっと家と近所をうろつく日々もどうかと思うので今度どこか連れ出してみるか。
「いつかな。ま、取り敢えずは妖精羽の雫で良いか……ないよりはマシだし」
すいませーんと俺は店員に声をかける。
「いらっしゃい。何をお求めで? 」
「妖精羽の雫、99個下さい」
「はいはい、いつもありがとうね」
道具屋のおっちゃんも流石に馴れたようで、淡々と商品を俺に手渡していく。最初の頃は気絶する勢いで驚いていたこの人だが、今はもう当たり前になっているようだ。
「ん、この豪傑の護符ってのはなんだ? 」
「ああそれは、所持者の体力をちょこっとだけ上げてくれるアイテムですよ。微々たるものですがね、まあないよりはマシというレベルです」
持っているだけで体力を上げてくれるアイテムか……努力せずにパラメータが上がるなんて最高じゃないか?
「よしそれも買おう」
「はい毎度。1個5万ゴールドですがおいくつ? 」
「勿論99個だ」
「相変わらず金持ちだね。毎度あり」
「まあな」
流れ作業のようにアイテムをカバンに入れていく。
うーん、確かに心なしか元気になった気がする。
「これ、どのぐらい体力上がるの? 」
「大体1つで+5だね。世の中にはもっと効果の高いアイテムがあるらしいが、俺の店で売ってるのはそのぐらいさ」
「なるほど……つまり俺の今の体力はおおよそ+495ってことか」
そういえば今の俺のステータスってどうなってるんだろう? かなり前にタクトに見てもらって以降調べてないな。興味もないし。
「なあ自分のステータスを見たいときってどうすれば良いんだ? 」
「鑑定スキルを持ってる人に見て貰うか、後はあれだね。ギルドに冒険者として登録するかだね」
「ギルド……? 」
ネトゲでしか聞いたことのない単語だ。
「え? お兄さんあんだけ金持ちでギルドを知らないのかい? まいったね、俺はてっきり名の知れた冒険者かと思っていたよ」
「はは、まだここに来て日が浅いものですから」
「ギルドってのはまあなんだ、冒険者たちを管理する施設みたいなもんさ。ギルドが発行する依頼を冒険者が受ける。そしてそれを達成したらギルドから報酬が貰える。そんな仕組みだ」
「へえ……」
何だかめんどくさそうだな。というのが正直な感想だった。別に俺は冒険したいわけじゃないし、報酬にも特に惹かれない。嫌みな言い方になるが、金はいくらでもあるのだから。
「冒険……? 面白そう! 」
ただシエルは違ったようだ。聞き慣れない単語の数々に興味を持ったようだ。
「ギルドの建物はお城の直ぐ隣だよ。まあ興味があるなら言ってみると良い」
「はい、ありがとうございます」
俺のローブを引っ張りながらシエルがブーブー口を尖らせる。
「ねーねー、行ってみましょうよ! 楽しいかも知れないじゃないですか! 」
「服を引っ張るな。伸びるだろ」
「行ってくれたら引っ張るのやめます! 」
「あのなぁ……」
……どうも俺はシエルには弱い。
渋々彼女に引っ張られるように、ギルドへとつい足を進めてしまうのだ。
「見るだけだからな、良いか? 」
「分かってます! ちょっと見るだけです。本当です! 」
◇◇◇
意を決してギルドに入ってみると、中はごく普通の酒場のようであった。
昼間だからさほど人はいない。だが屈強そうな男たちが端の方で楽しげに酒を飲んでいた。
「へえ~」
シエルが感心したように辺りを見回している。
自宅とは違う雰囲気を面白がっているようだ。
するとシエルに気が付いた男たちの一人がからかうようにこう言った。
「なんだいお嬢ちゃん? ここは子どもの遊び場じゃねえぞ」
「よく見ると可愛い顔してるじゃねえか。がはは、後数年したら一緒に冒険しようや」
「こらシエル。うろちょろするな」
慌てて俺はシエルの手を引く。
「何だ兄ちゃん子連れか? ここは託児所じゃないんだよ」
「は、はあ。すいません」
だから嫌なんだよこういうところは……。
下品で粗雑な人種が集まるような場所では決まってこういうからかいを受ける。
そのとき、ピシャリと小鳥の囀りのように美しい声が響き渡った。
「よしなさいな貴方たち。新人さんをからかうのは。いらっしゃい、初めての方ですね? 」
その声の主を見て俺は思わず心臓が高鳴るのが分かった。
5
お気に入りに追加
3,048
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる