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第20話 取引
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気絶した男たちを放置して俺たちは逃げ隠れるようにサクヤの店に飛び込んだ。
カビ臭さと共に、辺りにふわふわ浮かんでいる埃を吸い込んでしまい思わず噎せこんだ。
ちらりとシエルに目を移す。が、彼女はいつもと変わらず少しおびえたように俺の後ろに隠れていた。
先ほど大の男たちをこてんぱんにしたときとはまるで違う。
「その子、まだ"目覚め"が来てないようやね」
サクヤが不意に口を開いた。
そして彼女の傍らにいた狐がふんふんとせわしなく動いていた。
「目覚め? 」
聞きなれない単語に思わず聞き返す俺。
「そ、目覚め。そもそもなんで旦那、そんな子を連れてとるん? ああ嘘つかんでもええよ。うちにはバレるから」
「それは……」
サクヤの怒っているような心配しているような不思議な目。ここはシエルのことは黙っていた方が良いのだろうか? それとも正直に答えた方が良いのだろうか?
俺がダラダラ迷っていると、痺れを切らしたのかシエル本人が口を開いた。
「……私は元々奴隷でした。でも、ヨリが私と契約してくれました」
「契約? 」
「私がヨリを守り、ヨリは私にお給料をくれるという契約です。だからその……今の私は奴隷ではありません」
サクヤはそっか、と小さく呟いた。
「つまり君は旦那の護衛という訳なんやね」
「まあ、そういうことです」
俺が口を挟むと、サクヤは困ったようにこう言った。
「竜族が誰かを守る、か。夢物語やけど、そうなれば素敵やんね」
サクヤは竜族に関して何かを知っているような口ぶりだ。
「さっきから何なんですか? 竜族に関して何か知っているんですか? 」
「そりゃ知っとる。でも今はその話をしに来た訳やないやろう。さ、余計なことを聞いて悪かったね。欲しいアイテムを言うてみい」
何か大事なことをはぐらかされている気がする。
だがそもそも俺たちは天使の涙を入手しに来たのだ。目的を忘れてはならない。
「……天使の涙というアイテムを探している。シエルの背中の痣を消すために」
「奴隷の印を消すためか。ふむ……」
サクヤはゴソゴソと背負っていたリュックを漁り始めた。次から次に色々な物が出てくるが、どれだけの物が入ってるのだろうか……?
するとサクヤの連れている狐が一本のビンを加えてサクヤに寄り添った。
「お、セイヤ。これやこれ」
狐の名前はセイヤと言うらしい。
サクヤはビンを受け取ると、良い子良い子と笑いながらセイヤの頭を撫でた。
「あったわー。これが天使の涙や。何にでも効く万能薬やよ」
顔を近づけて見るも、ごく普通の水にしか見えない。
しかしわずかに傾けてみると、光の角度によってチラチラと色が変わるのが分かった。
「本物なのか……? 」
「当たり前や。うちは本物しか売らん。それがポリシーやからな」
で、とサクヤは話を続ける。
「旦那、これにいくら出せるんや? 」
「いくらと言われても……」
いくらでも出せますけど……とは言えなかった。
そもそも相場が分からないのでサクヤの方から金額を提示して貰いたいところだ。
「うちは君がこのアイテムにどれほどの価値を見出だしとるかを聞きたいんよ。ほらほら、言うてみい」
「そうだな」
俺は指を5本立ててみる。
「500万か。まあ、それぐらいやろな」
「え? いや、5000万だ」
は? と目を丸くするサクヤ。
「5、5000万!? は、はは……旦那は冗談も上手いんやね」
「冗談じゃないぞ」
俺はその証拠に大量のゴールドをサクヤに押し付ける。
「俺はシエルの為ならこれぐらい出しても良いと思ってる。何ならもう2倍出しても良いぞ」
「に、偽金やあらへんよな……」
サクヤは先ほどまでの威勢はどこへやら、ちまちまと金貨を確認し始めた。
しかし全てが本物だということが分かると、放心したようにしばらくぼんやりと積まれた金の山を眺めていた。
カビ臭さと共に、辺りにふわふわ浮かんでいる埃を吸い込んでしまい思わず噎せこんだ。
ちらりとシエルに目を移す。が、彼女はいつもと変わらず少しおびえたように俺の後ろに隠れていた。
先ほど大の男たちをこてんぱんにしたときとはまるで違う。
「その子、まだ"目覚め"が来てないようやね」
サクヤが不意に口を開いた。
そして彼女の傍らにいた狐がふんふんとせわしなく動いていた。
「目覚め? 」
聞きなれない単語に思わず聞き返す俺。
「そ、目覚め。そもそもなんで旦那、そんな子を連れてとるん? ああ嘘つかんでもええよ。うちにはバレるから」
「それは……」
サクヤの怒っているような心配しているような不思議な目。ここはシエルのことは黙っていた方が良いのだろうか? それとも正直に答えた方が良いのだろうか?
俺がダラダラ迷っていると、痺れを切らしたのかシエル本人が口を開いた。
「……私は元々奴隷でした。でも、ヨリが私と契約してくれました」
「契約? 」
「私がヨリを守り、ヨリは私にお給料をくれるという契約です。だからその……今の私は奴隷ではありません」
サクヤはそっか、と小さく呟いた。
「つまり君は旦那の護衛という訳なんやね」
「まあ、そういうことです」
俺が口を挟むと、サクヤは困ったようにこう言った。
「竜族が誰かを守る、か。夢物語やけど、そうなれば素敵やんね」
サクヤは竜族に関して何かを知っているような口ぶりだ。
「さっきから何なんですか? 竜族に関して何か知っているんですか? 」
「そりゃ知っとる。でも今はその話をしに来た訳やないやろう。さ、余計なことを聞いて悪かったね。欲しいアイテムを言うてみい」
何か大事なことをはぐらかされている気がする。
だがそもそも俺たちは天使の涙を入手しに来たのだ。目的を忘れてはならない。
「……天使の涙というアイテムを探している。シエルの背中の痣を消すために」
「奴隷の印を消すためか。ふむ……」
サクヤはゴソゴソと背負っていたリュックを漁り始めた。次から次に色々な物が出てくるが、どれだけの物が入ってるのだろうか……?
するとサクヤの連れている狐が一本のビンを加えてサクヤに寄り添った。
「お、セイヤ。これやこれ」
狐の名前はセイヤと言うらしい。
サクヤはビンを受け取ると、良い子良い子と笑いながらセイヤの頭を撫でた。
「あったわー。これが天使の涙や。何にでも効く万能薬やよ」
顔を近づけて見るも、ごく普通の水にしか見えない。
しかしわずかに傾けてみると、光の角度によってチラチラと色が変わるのが分かった。
「本物なのか……? 」
「当たり前や。うちは本物しか売らん。それがポリシーやからな」
で、とサクヤは話を続ける。
「旦那、これにいくら出せるんや? 」
「いくらと言われても……」
いくらでも出せますけど……とは言えなかった。
そもそも相場が分からないのでサクヤの方から金額を提示して貰いたいところだ。
「うちは君がこのアイテムにどれほどの価値を見出だしとるかを聞きたいんよ。ほらほら、言うてみい」
「そうだな」
俺は指を5本立ててみる。
「500万か。まあ、それぐらいやろな」
「え? いや、5000万だ」
は? と目を丸くするサクヤ。
「5、5000万!? は、はは……旦那は冗談も上手いんやね」
「冗談じゃないぞ」
俺はその証拠に大量のゴールドをサクヤに押し付ける。
「俺はシエルの為ならこれぐらい出しても良いと思ってる。何ならもう2倍出しても良いぞ」
「に、偽金やあらへんよな……」
サクヤは先ほどまでの威勢はどこへやら、ちまちまと金貨を確認し始めた。
しかし全てが本物だということが分かると、放心したようにしばらくぼんやりと積まれた金の山を眺めていた。
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