16 / 23
第16話 エルフの里
しおりを挟むあれから混沌魔法(とでも言おうか)を駆使して、あたしたちはエルフの里に辿り着いたのだった。
お陰さまでお金はたくさんあるし、魔法もまだまだ使えそうだ。
「ここがエルフの里ね」
見た目は普通の村のようだ。
あたしが生まれ育った場所に近い感じ。
あたしが好きなブティックとかアクセサリーショップがなさそうなのは残念。
「ふむ、城とやらはないのだな」
「そりゃそうでしょ。王国なんてたくさんあったら困るわ」
そのときだった。
「止まりなさい! 」
鋭い声と共に、あたしたちは思わず足を止めた。
見上げると、門の上に人が立っているのが見えた。
西洋人のような堀の深い顔に、白く透ける肌。そして長い耳が特徴的な美人だ。
しかしその美人はその綺麗な顔を歪ませて、こちらに警告を続ける。手には弓矢のようなものを構えていた。
「貴女たち、何者ですか? 無関係な人間の立ち入りは禁止です」
「あたしたちはただ観光に来ただけです! 」
「観光……? 今はそんな状況ではありません。お引き取り願います」
え、そうなの!?
よく調べてなかったけど、エルフの里って今は行っては行けない時期だったのか……。
するとルティが声をあげた。
「その理由ぐらいは教えて貰いたいものだな。一体ここで何が起きてる? 」
「ちょっとルティ……!! 」
あまりにも失礼な言動にあたしは思わず飛び上がる。そんな言い方したらこの人だって怒るに決まってる。
思った通り、その女性はむっとしたように唇を噛むと、
「部外者に話すことなどありません!! 」
と声を張り上げた。
「もう良いじゃんルティ、ここはまた今度行こうよ」
これ以上押し問答していても仕方がない。さっさと先に進むのが良いだろう。
しかしルティは何かが腑に落ちないのか、しばらく考えこんだ様子で、立ち止まる。
いくら押しても引いても、彼は動く気はないようだ。
そんな様子にイラつきを覚えたのか、女性が叫んだ。
「……ここまで警告しても去らないと言うのですね。それならばこちらも強行手段に出させて頂きます! 」
矢をつがえる女性。
こ、これってさすがにまずいんじゃない……?
「やばいってルティ! 逃げよう!! 」
「いや我らは行くぞ。この中で何かが起こってるな」
「ええ?! でも入れそうな雰囲気じゃないって! 」
「そんなこと、知ったことか」
これだから神様というものはどうしようもない。
一度こうと決めたらテコでも動かないのだ。
と思っていたそのとき、女性がうっと声をあげたかと思うと、バランスを崩した。そして真っ逆さまに地面に吸い込まれていく。
「え?! あ、ああ、!! 混沌防御魔法!」
すんでのところであたしは防御魔法を唱えると、彼女を安全に地面に着地させることが出来た。上手く見えない壁が彼女を守ってくれたらしい。
そして恐る恐る彼女に近付くと、元々真っ白な顔が更に青白くなっている。
「だいじょーぶですか……? 」
「近寄るな!!! まずい……まさか……私も手遅れだったか……」
「え? 」
すると再び女性が苦しそうに呻いたかと思うと、びしびしと嫌な音を立てて、彼女の右肩から下が、まるで爬虫類の鱗のようなものに変化した。
「え、な、何これ?! 」
見たことのない病気にあたしは思わず慌てふためく。
「まずイ……このママじゃ……村ヲ……」
女性の額には玉のような汗がびっしりと付いている。
そして意識が朦朧としているのか、瞼がとろとろと重くなる。
「え、ねえ! ちょっと! 」
あたしの呼び掛けにも答えずに、彼女はそのまま気を失ってしまった。
「……どうしようルティ」
あたしはそっと彼の方を見る。
「門番がいなくなって丁度良いではないか。このまま中を見せて貰おう」
あー、もう最低なやつ。
まあでも彼女をそのまま放置しておく訳にもいかないので、あたしは彼女を抱えたまま村に入ることにしたのだった。
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる