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第16話 エルフの里

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 あれから混沌魔法(とでも言おうか)を駆使して、あたしたちはエルフの里に辿り着いたのだった。
 お陰さまでお金はたくさんあるし、魔法もまだまだ使えそうだ。

「ここがエルフの里ね」

 見た目は普通の村のようだ。
 あたしが生まれ育った場所に近い感じ。
 あたしが好きなブティックとかアクセサリーショップがなさそうなのは残念。

「ふむ、城とやらはないのだな」

「そりゃそうでしょ。王国なんてたくさんあったら困るわ」

 そのときだった。

「止まりなさい! 」

 鋭い声と共に、あたしたちは思わず足を止めた。
 見上げると、門の上に人が立っているのが見えた。

 西洋人のような堀の深い顔に、白く透ける肌。そして長い耳が特徴的な美人だ。
 しかしその美人はその綺麗な顔を歪ませて、こちらに警告を続ける。手には弓矢のようなものを構えていた。

「貴女たち、何者ですか? 無関係な人間の立ち入りは禁止です」

「あたしたちはただ観光に来ただけです! 」

「観光……? 今はそんな状況ではありません。お引き取り願います」

 え、そうなの!?
 よく調べてなかったけど、エルフの里って今は行っては行けない時期だったのか……。

 するとルティが声をあげた。

「その理由ぐらいは教えて貰いたいものだな。一体ここで何が起きてる? 」

「ちょっとルティ……!! 」

 あまりにも失礼な言動にあたしは思わず飛び上がる。そんな言い方したらこの人だって怒るに決まってる。

 思った通り、その女性はむっとしたように唇を噛むと、

「部外者に話すことなどありません!! 」

 と声を張り上げた。

「もう良いじゃんルティ、ここはまた今度行こうよ」

 これ以上押し問答していても仕方がない。さっさと先に進むのが良いだろう。

 しかしルティは何かが腑に落ちないのか、しばらく考えこんだ様子で、立ち止まる。
 いくら押しても引いても、彼は動く気はないようだ。

 そんな様子にイラつきを覚えたのか、女性が叫んだ。

「……ここまで警告しても去らないと言うのですね。それならばこちらも強行手段に出させて頂きます! 」

 矢をつがえる女性。

 こ、これってさすがにまずいんじゃない……?

「やばいってルティ! 逃げよう!! 」

「いや我らは行くぞ。この中で何かが起こってるな」

「ええ?! でも入れそうな雰囲気じゃないって! 」

「そんなこと、知ったことか」

 これだから神様というものはどうしようもない。
 一度こうと決めたらテコでも動かないのだ。

 と思っていたそのとき、女性がうっと声をあげたかと思うと、バランスを崩した。そして真っ逆さまに地面に吸い込まれていく。

「え?! あ、ああ、!! 混沌防御魔法カオスプロテクト!」

 すんでのところであたしは防御魔法を唱えると、彼女を安全に地面に着地させることが出来た。上手く見えない壁が彼女を守ってくれたらしい。

 そして恐る恐る彼女に近付くと、元々真っ白な顔が更に青白くなっている。

「だいじょーぶですか……? 」

「近寄るな!!! まずい……まさか……私も手遅れだったか……」

「え? 」

 すると再び女性が苦しそうに呻いたかと思うと、びしびしと嫌な音を立てて、彼女の右肩から下が、まるで爬虫類の鱗のようなものに変化した。

「え、な、何これ?! 」

 見たことのない病気にあたしは思わず慌てふためく。

「まずイ……このママじゃ……村ヲ……」

 女性の額には玉のような汗がびっしりと付いている。
 そして意識が朦朧としているのか、瞼がとろとろと重くなる。

「え、ねえ! ちょっと! 」

 あたしの呼び掛けにも答えずに、彼女はそのまま気を失ってしまった。

「……どうしようルティ」

 あたしはそっと彼の方を見る。

「門番がいなくなって丁度良いではないか。このまま中を見せて貰おう」

 あー、もう最低なやつ。
 まあでも彼女をそのまま放置しておく訳にもいかないので、あたしは彼女を抱えたまま村に入ることにしたのだった。

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