16 / 50
闘技大会の街 コロセウム
第16話 エントリー完了
しおりを挟む朝食を食べ終えた僕らは闘技場へと向かった。目を引くドーム型のその建物はこの町のどこにいても存在感を放つ。
近付くに連れて殺気立った男たちが増えている気がした。
「なんか……ピリピリしてるね」
リオンがこっそりと耳打ちする。
「だね、これが闘技大会か」
「何だ~? お前ら闘技大会は初めてか? 」
僕らの会話を聞いていた大男が不意に声をかけてきた。筋肉隆々な男は一目で武道家であると分かった。
身体中についたその傷からただ者ではないオーラが漂っていた。
「そうなんです、初めて来たものでして」
「ふ~ん、ヒョロい男にやせっぽちのガキか。闘技大会で上位に入るとは思えないなぁ」
「ですよね、ははは」
ヒョロい男と言われて少し傷つく僕。そうか……第三者から見ても僕はヒョロいのか……。
一応体を鍛えていたのだけど、悲しいかな、やはり旅芸人という職業であるためそうそうパラメータは伸びない。
こういうのに参加するのは専ら戦士や騎士、それに魔法使いといった攻撃専門の職業の人たちだ。
「でもま、参加賞で5000ガルド貰えるらしいしこれを狙うのも良いかもしれないぞ。治療費で全部消えるかもしれないがな」
ガハハと豪快に笑い、その大男は人混みの中へと消えていった。
「……リオン聞いた? 」
「うん、5000ガルド」
参加するだけでそんなに貰えるなんて正直美味しい。僕は金に目がくらみ、闘技大会とやらに参加することを決めたのである。
◇◇◇
闘技場に入った僕は参加登録をすることになった。あ、リオンは勿論観客だ。本人は出てみたい! と言っていたが流石にそんなことは出来ない。
そして名前の記入を求められ、
『ノア=ディフェンシオ』、と書こうとしてぴたりとペンが止まる。
今この町にはあの女騎士が僕を探して目を光らせている。馬鹿正直に本名なんて書いたら捕まえてくださいと言っているようなものだ。
「どうしましたか? 」
受付のおねーさんも怪訝そうに僕の手が動くのを待っている。まずい、怪しいやつと思われたら終わりだ。
何か良い名前は……。
「リヒト」
ポツリとリオンが呟いた。
「え? 」
「リヒトお兄ちゃん、自分の名前も忘れちゃったの? 」
「あ、ああうっかりしてたよ」
僕は慌てて書類にリヒト、と記入するとお姉さんに手渡す。
「職業は何ですか?」
「えっと……」
旅芸人なのだが、このことを馬鹿正直に言って良いものなのだろうか。
しかし僕の顔色を察してか、受付のお姉さんはこう付け加えた。
「ああ、無理に申告しなくても大丈夫ですよ。職業は内緒っていうのもありです」
「そうなんですね、では内緒でお願いします」
お姉さんはしばし書類に目を通したあと、はいエントリー完了です。と明るい笑顔を向けた。
その後直ぐにルール説明が始まり、アイテムは持ち込み禁止だが武器防具に関しては自由とのこと。制限時間以内に相手を気絶させるか降参させれば勝ちらしい。
なるほどシンプルだ。
「開催は明日ですので今日はゆっくりお休みください。こちらの札を見せて頂ければ無料で宿に泊まれますよ」
こうして手渡された木札を受け取り、疲れきった僕たちはさっさと宿に向かうことにした。
0
お気に入りに追加
1,688
あなたにおすすめの小説
プレアデスの伝説 姫たちの建国物語
のらしろ
ファンタジー
主人公の守は海上警備庁に奉職すぐに組織ぐるみの不正に巻き込まれて、表敬航海中にアメリカで降ろされる。
守の友人である米国海兵隊員の紹介で民間軍事会社にとりあえず就職するが、これまた航海中に大波に攫われて異世界に転生させられる。
転生直前に、カミサマと思しき人から転生先の世界に平和をと頼まれ、自身が乗っていた船と一緒に異世界に送り込まれる。
カミサマからの説明はとにかく長く要領を得ずに分からなかったが転生直後にこれまた別の神様が夢に現れて説明してくれた。
とにかく、チート能力は渡せないが、現代社会から船を送るからそれを使って戦乱続く異世界に平和を求められる。
訳も分からずたった一人大海原に送り込まれて途方に暮れたが、ひょんなことから女性を助け、その女性からいろいろと聞かされる。
なんでもこの世界の神話ではプレアデスの姫と呼ばれる6人もの女性が神より遣わされる男性の下に嫁ぎ国を興すすとき神より大いなる祝福を受けるとあり、初めに助けた女性を皮切りに巡視艇を使って襲われている人たちを助けて、助けていく人たちの中にいるプレアデスの姫と呼ばれる女性たちと一緒に国を興す物語になっております。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~
ぶらっくまる。
ファンタジー
【第五章――月・水・金に18:30定期更新】
魔力ゼロの無能が最強の賢者に成長する!?
日本どころか召喚された世界でさえも不遇な主人公。
ついに、勇者パーティーから追放されるも、そこから彼の本当の冒険がはじまる。
奴隷や貴族を追われた娘など境遇に問題を抱えた美人美少女たちとの冒険を楽しみながらも、己の考えの甘さに悩み葛藤し成長する主人公。
やがて冒険者として頭角を現す主人公は、望む望まざるとも世界の歯車となっていく。
そんな魔力ゼロの主人公が賢者となる軌跡を描いたファンタジー冒険譚!
倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです
桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。
世界最速の『魔法陣使い』~ハズレ固有魔法【速記術】で追放された俺は、古代魔法として廃れゆく『魔法陣』を高速展開して魔導士街道を駆け上がる~
葵すもも
ファンタジー
十五歳の誕生日、人々は神から『魔力』と『固有魔法』を授かる。
固有魔法【焔の魔法剣】の名家――レヴィストロース家の長男として生まれたジルベール・レヴィストロースには、世継ぎとして大きな期待がかかっていた。
しかし、【焔の魔法剣】に選ばれたのは長男のジルベールではなく、次男のセドリックだった。
ジルベールに授けられた固有魔法は――【速記術】――
明らかに戦闘向きではない固有魔法を与えられたジルベールは、一族の恥さらしとして、家を追放されてしまう。
一日にして富も地位も、そして「大魔導になる」という夢も失ったジルベールは、辿り着いた山小屋で、詠唱魔法が主流となり現在では失われつつあった古代魔法――『魔法陣』の魔導書を見つける。
ジルベールは無為な時間を浪費するのように【速記術】を用いて『魔法陣』の模写に勤しむ毎日を送るが、そんな生活も半年が過ぎた頃、森の中を少女の悲鳴が木霊した。
ジルベールは修道服に身を包んだ少女――レリア・シルメリアを助けるべく上級魔導士と相対するが、攻撃魔法を使えないジルベールは劣勢を強いられ、ついには相手の魔法詠唱が完成してしまう。
男の怒声にも似た詠唱が鳴り響き、全てを諦めたその瞬間、ジルベールの脳裏に浮かんだのは、失意の中、何千回、何万回と模写を繰り返した――『魔法陣』だった。
これは家を追われ絶望のどん底に突き落とされたジルベールが、ハズレ固有魔法と思われた【速記術】を駆使して、仲間と共に世界最速の『魔法陣』使いへと成り上がっていく、そんな物語。
--------
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる