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第10話 吸血
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俺の首に噛み付いたカミル。
どういうことだ!? 一体何が起こっているんだ?! と俺は必死に頭を働かせる。
しかしその鋭い痛みに邪魔されて何にも考えられなくなる。
「……痛い? ごめんね」
牙を抜いた彼女はそのまま俺の唇に口付けた。
「んんっ……!? 」
自分の血の味が広がる。
カミルの舌が俺の口内に侵入してくるのが分かり、俺は必死に抵抗する。
このまま彼女に流されてはなんだか自分が、人間ではなくなってしまうような気がしたのだ。
しかし彼女は再び俺の首に噛みつくと、また血を吸い続けた。
「あ、だ、駄目だ……」
そしてその痛みはとてつもない快楽へとなっていくのが分かる。
体が熱い。熱すぎて溶けてしまいそうだ。
このままカミルを滅茶苦茶にしてしまいたい、そんな気分にすらなる。
俺は彼女の細い体に触れると抱き締める。まるでこれでは俺から血を吸われたがっているみたいではないか。
だけど彼女を離したくない、誰にも渡したくない、そんな欲望が沸き上がってくるのが分かった。
「ご馳走さま」
彼女のその言葉と共に、俺は痛みから解放された。
顔をあげた彼女の瞳は真っ赤に染まり、艶やかな唇についた俺の血をペロリと舐めとる。
漆黒のロングヘアと人形のように整った顔立ち、そしてルビーのように赤い瞳が月夜に照らされて光る。
そして彼女は俺からそっと離れると、瀕死のルイスに向かっていくユースリアを後ろから蹴りあげた。
嗚咽を漏らし、その場で倒れこむユースリア。銀の剣すら通じなかった大蛇を蹴り倒す。
『な、何だ!? 』
「ごめんね、ユースリアさん。別に恨みがある訳じゃないんだけど、ルイスさんとミルファさんを返して欲しいの」
彼女の口許に先程はなかった狼のような犬歯がちらりと覗く。
「吸血鬼だ…… 」
村の誰かが叫んだ。
『ふん、まだ若い女吸血鬼じゃないか。わしに刃向かうのか……? 』
ユースリアの言葉を聞くことなく、再び大蛇に攻撃を加える。
そしてユースリアが彼女に飛びかかろうとするが、カミルはまるで闇に溶けたかのように姿を消した。
「ふふふ、暗闇は私の味方よ」
『小娘が調子にのりおって……!! 』
ユースリアの攻撃は当たらない。どんなに必死に体をくねらせても、カミルには意味のないことだった。
カミルはまるでワルツでも踊っているかのように軽快にステップを踏み、見事に攻撃と回避を繰り返す。
「ね、もう諦めたら? 私に攻撃は当たらないんだから」
『ぐっ……』
「別に殺そうなんて思ってない。ただこの村から去ってくれれば私はそれで良いの」
『だ、だ、黙れ……!!! ここはわしの庭だ! 邪魔をするなら排除する……!! 』
カミルはふぅと細く息を吐くと、通じないみたいね。と呟いた。
ユースリアが絶叫と共に尾を振り下ろす。
が、もちろんそれは当たらない。
カミルの右手になにやら霧のようなものがまとわりついていく。
そしてその霧は大きな爪を備えた獣の腕を模していくのが見えた。
「さよなら」
子どもをあやすような聖母の微笑み。
しかし彼女の口許は赤い。
『ま、待て!! 』
ユースリアの懇願も聞かず、カミルは思いっきりその爪を振り下ろした。
散らばる肉片、鮮血。
そしてそれを見下ろすカミル。
誰かがきゃっと悲鳴をあげたが俺はその光景を見続けてしまう。
それどころか、美しいとさえ思っている自分がいた。
どういうことだ!? 一体何が起こっているんだ?! と俺は必死に頭を働かせる。
しかしその鋭い痛みに邪魔されて何にも考えられなくなる。
「……痛い? ごめんね」
牙を抜いた彼女はそのまま俺の唇に口付けた。
「んんっ……!? 」
自分の血の味が広がる。
カミルの舌が俺の口内に侵入してくるのが分かり、俺は必死に抵抗する。
このまま彼女に流されてはなんだか自分が、人間ではなくなってしまうような気がしたのだ。
しかし彼女は再び俺の首に噛みつくと、また血を吸い続けた。
「あ、だ、駄目だ……」
そしてその痛みはとてつもない快楽へとなっていくのが分かる。
体が熱い。熱すぎて溶けてしまいそうだ。
このままカミルを滅茶苦茶にしてしまいたい、そんな気分にすらなる。
俺は彼女の細い体に触れると抱き締める。まるでこれでは俺から血を吸われたがっているみたいではないか。
だけど彼女を離したくない、誰にも渡したくない、そんな欲望が沸き上がってくるのが分かった。
「ご馳走さま」
彼女のその言葉と共に、俺は痛みから解放された。
顔をあげた彼女の瞳は真っ赤に染まり、艶やかな唇についた俺の血をペロリと舐めとる。
漆黒のロングヘアと人形のように整った顔立ち、そしてルビーのように赤い瞳が月夜に照らされて光る。
そして彼女は俺からそっと離れると、瀕死のルイスに向かっていくユースリアを後ろから蹴りあげた。
嗚咽を漏らし、その場で倒れこむユースリア。銀の剣すら通じなかった大蛇を蹴り倒す。
『な、何だ!? 』
「ごめんね、ユースリアさん。別に恨みがある訳じゃないんだけど、ルイスさんとミルファさんを返して欲しいの」
彼女の口許に先程はなかった狼のような犬歯がちらりと覗く。
「吸血鬼だ…… 」
村の誰かが叫んだ。
『ふん、まだ若い女吸血鬼じゃないか。わしに刃向かうのか……? 』
ユースリアの言葉を聞くことなく、再び大蛇に攻撃を加える。
そしてユースリアが彼女に飛びかかろうとするが、カミルはまるで闇に溶けたかのように姿を消した。
「ふふふ、暗闇は私の味方よ」
『小娘が調子にのりおって……!! 』
ユースリアの攻撃は当たらない。どんなに必死に体をくねらせても、カミルには意味のないことだった。
カミルはまるでワルツでも踊っているかのように軽快にステップを踏み、見事に攻撃と回避を繰り返す。
「ね、もう諦めたら? 私に攻撃は当たらないんだから」
『ぐっ……』
「別に殺そうなんて思ってない。ただこの村から去ってくれれば私はそれで良いの」
『だ、だ、黙れ……!!! ここはわしの庭だ! 邪魔をするなら排除する……!! 』
カミルはふぅと細く息を吐くと、通じないみたいね。と呟いた。
ユースリアが絶叫と共に尾を振り下ろす。
が、もちろんそれは当たらない。
カミルの右手になにやら霧のようなものがまとわりついていく。
そしてその霧は大きな爪を備えた獣の腕を模していくのが見えた。
「さよなら」
子どもをあやすような聖母の微笑み。
しかし彼女の口許は赤い。
『ま、待て!! 』
ユースリアの懇願も聞かず、カミルは思いっきりその爪を振り下ろした。
散らばる肉片、鮮血。
そしてそれを見下ろすカミル。
誰かがきゃっと悲鳴をあげたが俺はその光景を見続けてしまう。
それどころか、美しいとさえ思っている自分がいた。
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