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1年生・春

第26話 あ、助太刀は結構ですので

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「……女二人でこんなところ出歩くな。走れ! 」

 そのフード男から放たれた言葉はずっしりと低い低音、しかしどこか優しさを含んでいるように思えた。

「は、はい! 」

「分かったわ! 」

 弾かれたように走り出すマリー。
 それに続いて走る私。
 
 


 ……よしよし、行ったな。

 逃げたふりをした私は猛スピードで戻ってくると、ならず者の一人に蹴りをお見舞いする。

 よ~し、これで多少はすっきりした。

「お、おいっ!? 何で戻ってきたんだよ!? 」

「こんな面白いこと、参加しない訳ないっしょ!!! 」

 目を丸くする男を尻目に、私は片っ端からならず者たちをなぎ倒していく。

「何だこの女……!? めちゃくちゃつええ!! 」

「さっきは汚い手で良くも私に触ってくれたね! 百倍にして返してやる」

「いや、俺は触ってねえ! 」

 そーんなことはどうでもいい!
 私はストレス解消が出来ればそれで満足なのだから。

「あ~あ……」

 数分後、立っている人間は私とフード男のみとなった。
 あ~、すっきりした! 気分爽快だわと私はにっこり笑顔。
 全員気絶したことを確認すると、フード男がゆっくりと近づいてくる。

「お前……何者だよ」

 ぱさりと落ちたフードから覗いたのはエメラルドグリーンの瞳が印象的な、目つきの悪い青年。
 刈り込まれた艶やかな黒髪と端正な顔立ちから、まぁまぁ男前ではある。

 うーん、噂では赤い目って聞いたけどな?
 似たような人がそー何人もいるだろうか?

 が、私の勘はこの人が戦士科最強だと告げている!!

「あなたがヤナギさんでしょ!? 」

「えっ」

 思わず青年に詰め寄ってしまう私。
 たじろいている青年は肯定も否定もしない。

「ほらほら、戦士科最強と噂の! 」

「いや、あの……。ヤナギではあるけど。戦士科最強って訳では……」

「やっぱり!!!! 私あなたにお願いがあって、私と一戦交えて欲しいの!! 」

「は!? 」

「すっごい強いんでしょ!? お願い! 一回で良いの! 」

「いやいやいや無理だ! 俺に女殴る趣味ないし……」

「殴る? 殴られないからだいじょーぶ! 」

 するとヤナギは呆れた様に肩を落とす。
 そしてポケットからハンカチを取り出すと、私の顔に押し当てる。

「……顔に血ィついてんぞ。せっかく綺麗な顔してんだからもうちょい気にしろよ」

「え? ああ、吹っ飛んできた瓦礫でもかすったかも」

「もう帰れ、ここは女一人で来て良い場所じゃない」

 ハンカチを私の胸に押し付けると、ヤナギはさらりと高い塀を乗り越え、闇へと消えていった。

「あ、ちょ! 待って! 」

 声をかける隙もないほどの素早い動きに、私はただ茫然とその場に立ち尽くすのみだった。

 
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