上 下
17 / 29
1年生・春

第17話 いきなりピンチに陥ってますよ

しおりを挟む
 イキリ散らしたコスモに連れられて結界の外に出てみた私たち!

 しかーし早速魔物の群れに囲まれて絶体絶命な状況に追い込まれていた。

 全方位を魔物に囲まれ、逃げ道はない。

「はああああ!!! 」

 何とか道を開こうと剣を振り回すコスモだったが、呆気なく魔物に攻撃をかわされ、反撃を食らう。

 んー、何というか動きに無駄が多いな。格好つけることばかりに集中しちゃって肝心の魔物に攻撃が当たっていない。

「クソが!! おい女、とっとと回復しろ!! 」

「え? 」

 不意に声をかけられ間抜けな返事をすら私。

「は? お前聖女見習いだろ!? 回復魔法の一つや二つ……」

「てへ☆」

 自慢じゃないがこの私、肝心の魔法は一切使えないのである。どうもこの世界の魔法を扱うには深く物事を知る必要があるらしい。

 どういうことかと言うと、例えば水の魔法が使いたかったら、水について詳しく知っていなければ最高の効果は得られない。

 つまり、かしこさが2しかない私には無理だと言うことだ。

 ……全部ゼノから教わったことだけどね。

「役に立たねえ女だな!! じゃあお前!! さっさとしろ! 」

 コスモが次に目をつけたのはゼノ。しかしゼノは冷めた目付きでボロボロのコスモを見下ろしている。

「回復してやっても良いけど……頼み方ってものがあるんじゃない? 」

「は? 良いからさっさとしろ! 」

「お願いします、回復してください、でしょ? 」

 おー、煽る煽る。
 しかもゼノは気持ち悪いぐらいのにっこり笑顔だ。

「何で俺様がそんなこと……」

「ん? よく聞こえないな」

 流石は元魔王! 性格の悪さは天下一品だぜ!

「こんなところで喧嘩しないで下さい! 回復魔法なら多少は私も使えますから」

 このピリピリした空気に耐えられなくなったのかハルが二人の間に割り込んだ。

「さっすがハルちゃん。頼りになるね」

 私たちのときとはうって代わり、猫なで声のコスモ。うーん、分かりやすい。

「でもまずはここから逃げなければ……。私が魔法を使って敵の注意を引きます。その隙に皆で逃げましょう! 」

 ハルは目をつぶると、ぶつぶつと詠唱を始めた。みるみる内に彼女の小さな手のひらに炎の球が出来上がっていく。

 へー、魔法ってこんな風に出来ていくんだ。間近で見た私は少々感動する。

火炎球ファイアーボール! 」

 ハルが投げた炎のボールは、魔物の群れの中で炸裂すると、辺りを燃え付くした。
 
 驚いた魔物どもがそちらの方に視線を向ける。

「今です! 」

 ハルの声を合図に、私たちは一目散に逃げだす……訳がない。

 私の辞書に逃走という二文字はない!

「きゃ! いったーい! 」

 わざとらしく転ぶ私。

「何やってんだグズ! 」

「ユノちゃん! 」

 先頭を行くコスモとハルが声をあげる。

「ごめんなさーい、皆先行っててー」

 言われなくても、とでも言いたげなコスモの姿は木々に隠れてさっさと見えなくなった。

 そしてハルもしばし心配そうにこちらを振り返っていたが、その小さな体はすぐに見えなくなった。

 しめしめ、邪魔者は消えた。

 と、思いきや。

「……わざと転んだだろ」

 私の演技を見抜いていたゼノが腕を組み、目を細めてそこにいた。

 むむむ、一緒に逃げてると思ったのに。

「あったり前じゃない。そもそも私はゼノに騙されたせいでストレス貯まってんのよ」

「まぁ……それは悪かった」

「だ・か・ら! ここにいる魔物どもでもぶちのめしてすっきりすんの」

「助太刀は? 」

「要るわけがない」

 私は学園から支給された両手杖スタッフを掴み直すと、一度大きく振ってみる。

 うん、木製のシンプルな作りではあるけど打撃武器として使えなくもない。

「……絶対使い方が違うと思うんだが」

 細かいことは良いのよ、ぶん殴れればもうそれは立派な武器!

「ゼノは黙って見てなさいよ! 」

 私は息を吸うと、魔物どもの群れに飛び込んだ。

 こちとらストレス貯まってんだよ!!

 手加減は期待しないで欲しい。

ーー後に目撃者ゼノは語る。
 それは一方的なリンチであったと。

 高笑いをしながら両手杖で敵を殴打するその女は、まさしく悪魔であったとーー


 全ての敵を殲滅するのにそう長い時間は必要なかった。

 うん、まあそこそこすっきりはしたかな。

 ただもうちょっと歯応えがあったらなーなんて贅沢言ってみる。

「あーあ、地獄絵図だな」

 遠くで見てたゼノが惨状を目の当たりにして言う。その顔は少々ひきつってるように見える。

 ……ってまさか!

 魔物って魔王の仲間なのでは? そしたら私はゼノの部下をボコボコにしたってことになる……。

 ま、いっか。

 先に襲ってきたのは向こうだし、ゼノの教育不届きということで。

 そのとき、キャーーー!!!

 という甲高い声が森中に響き渡った。この声の主はおそらくハル。

 顔を見合わせた私たちは、声のする方へと走って行くのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

峻烈のムテ騎士団

いらいあす
ファンタジー
孤高の暗殺者が出会ったのは、傍若無人を遥かに超えた何でもありの女騎士団。 これは彼女たちがその無敵の力で世界を救ったり、やっぱり救わなかったりするそんなお話。 そんな彼女たちを、誰が呼んだか"峻烈のムテ騎士団"

Paradise FOUND

泉野ジュール
恋愛
『この娘はいつか、この国の王の為に命を捧げ、彼の願いを叶えるだろう』 そんな予言をもって生まれた少女、エマニュエル。両親の手によって隠されて育つが、17歳のある日、その予言の王の手により連れ去られてしまう。 まるで天国のように──人知れぬ自然の大地で幸せに育ったエマニュエルは、突然王宮の厳しい現実にさらされる。 そして始まる、相容れるはずのないふたりの、不器用な恋。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

処理中です...