上 下
3 / 29
令嬢生活のはじまり

第3話 女の子はショッピングが好き

しおりを挟む
 お母さまの話を聞いたところによると私はもうまもなくこのお屋敷を離れ、聖セルディウス学園という金持ち学校の寮に放り込まれるらしい。
 それは私にとっては朗報だった。毎日のように繰り返されるきびしーいお作法の訓練にダンスのレッスン、ほんとに辛くて辛くて仕方がなかった。
 それらから解放されて自由な寮生活なんて天国だ! 

 そんで、私は寮暮らしに向けて買い出しと小銭稼ぎに来たのである。

 そう! 城下町である。心配性なお母さまは護衛を付けるといって聞かなかったのだが、無理やり押し切って一人で優雅なお買い物である。

「といっても……一人暮らしって何が必要なんだろう? 」

 前世では実家暮らしだったため、一人暮らしって何が必要なのかよく分からん。

 すると、武器屋という魅力的な看板が目に飛び込んできた。
 これは行ってみるしかない! 

 私は吸い寄せられるようにその店に入ってしまった。

「らっしゃいませー」

 威勢のいい強面のおっさんの声が店内に響き渡る。

 そこにあったのは私にとって涎が出そうになるほどの品物の数々!
 
 ドラゴンの頭を模したような大ぶりの剣に、煌びやかな装飾がほどこされた短剣。
 地球にはなかったような品々が私を待っていた!

「わ~~~!!! 凄い凄い!!! 」

 興奮した私は思わず声をあげてしまう。

「ほう、嬢ちゃん。この良さが分かるかね」

「カッコいいですね~~~、それに強そうです」

 語彙力がない私はこのぐらいしか言えないがおっちゃんは気分を良くしたようだ。

「そうだろうそうだろう、武器はロマンだよな~~。お嬢ちゃん、見る目あるね」

「いや~、それほどでも。えっ!! この大鎌、イカしてますね」
 
 カウンターの奥にかけられていたのは漆黒に塗りつぶされたような真っ黒な鎌。

「分かるか!? この大鎌の良さを!! 」

「分かりますよ~、この夜のような真っ黒さ! スタイリッシュなフォルム! ドキドキが止まりませんね」

 おっちゃんは満足げにうんうんと頷いた。

「試着……というか持ってみても良いですか? 」

 試着という概念があるのかは分からないが私はダメもとで聞いてみる。
 すると、おっちゃんはガハハと豪快に笑った。

「そりゃ構わないが、お嬢ちゃんには無理じゃないかな。これは装備レベルと必要ステータスが高すぎてな……作ってみたは良いものの、装備出来る者がいないのだ……」

 おっちゃんに手渡された大鎌を受け取る。うん、見た目よりずっと軽く扱いやすそうだ。
 軽く振り回すと、ひゅんと風を切るような音がした。

 鎌なんて使ったことないけど爽快感もあるし、広範囲に攻撃出来そうだ。中々良い品物だ。

「お前……それ持てるのか? 」

 持てる? 片手で持てるぐらいの軽さですけど……。私は思わず首を傾げる。

「この死神の魔鎌デスサイズは装備レベル88、ちから300を必要とする化け物武器でな……歴戦の聖騎士ですらまともに持つことが出来ないんだ。それをここまで華麗に扱える人間は初めて見たぞ」

 装備レベル? ちから? 何を言ってるのかさっぱり分からない。

「へぇ、そうなんですね。良く分からないんですが私この武器気に入りました。おいくらですか? 」

「本当は100万Gのところを、お嬢ちゃんの強さに免じて1万Gにしてやろう! 」

 それは大変お買い得だ! 私はホクホク顔で財布を覗き込む。

 ……100G

 しまった、さっき食べ歩きをし過ぎてお金を使いきってしまった。
 すると、外でガヤガヤという人の声が聴こえた。

「なんだろう? 」

「ああ、そういえば大陸一の格闘家がイベントをやると言っていたな。確か格闘家を倒せたら賞金1万Gだとか……」

 大陸一!? それに賞金!?

 このチャンス、逃すわけにはいかない!

「おっちゃん、ちょっと待ってて! 私一稼ぎして来るね」

「おう、頑張れよ~」

 大陸一の格闘家、一体どれほどの強さなんだろう。私はワクワクしながらその人の輪の中に突入していった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

峻烈のムテ騎士団

いらいあす
ファンタジー
孤高の暗殺者が出会ったのは、傍若無人を遥かに超えた何でもありの女騎士団。 これは彼女たちがその無敵の力で世界を救ったり、やっぱり救わなかったりするそんなお話。 そんな彼女たちを、誰が呼んだか"峻烈のムテ騎士団"

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...