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終章
策略
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廃墟に身を隠しながら、ミック達はトップスリードの街中を進んでいった。そこかしこにガラがいた。戦闘はできるだけ避けて進んだが、どうしても戦わなければならない時は、素早く音を立てずに対処した。あまり、魔力の高くないガラしかいなかった。
「多分あそこよ!」
ベルは小高くなっている丘の上の廃墟を指さした。崩れてはいるが、大きさや壁面の装飾から、他の建物より立派だったことがよくわかる。昔は城だったのではないだろうか。
建物の中に入るとミック達は細心の注意をはらい、できるだけ物音を立てずに階段を上っていった。先頭を歩いていたベルが四階で足を止めた。廊下の先の部屋を指さした。
「あそこにラズはいるわ。ガラの気配はないけど罠かもしれない。」
走り出したい衝動を抑え、ミックは足音に気を付けて矢を構えながら部屋の入り口から中を覗いた。
「いたっ!」
壁に鎖で繋がれてぐったりしているラズがいた。明らかに丁重に扱われた感じではない。ミックは弓矢を投げ捨て、走り出した。慎重さはどこかへ飛んでいってしまった。
「ミック!!」
ミックの投げ捨てた弓矢を拾ってディルが叫んだ。その声で、ラズが気がついた。
「ミック!?お前ら…来るな!」
ラズは次の瞬間黒い煙に包まれた。ディルがミックの腕を掴み、ラズから遠ざけた。煙の中から出てきたのは緋色のドラゴンだ。壁や天井をバキバキと破壊した。壁に開いた穴からラズは外へ飛び立ってしまった。ラズが破壊したところから、どんどん崩壊が進んでいく。このままでは建物が崩れ落ちる。
「外に出て追おう!」
ミックが叫び、全速力で全員が階段を駆け下りた。中庭のようなところに出た直後、建物が大きな音を立てて崩壊した。
「あっぶなかったぁ…。」
シュートは振り向いて額の汗を拭った。
「まだ危ない状況よ…。」
ベルの見つめる先には、ラズがいた。そしてそのすぐ隣には…
「理望!!」
叫ぶミックを見て、理望はニヤリと笑った。すぐ近くに環と団蔵、そしてバートで見たトカゲのしっぽを持つガラもいた。
「ミック、取引しよう。」
理望は笑みをさらに大きくした。
「この体は便利だけど、できないことも多くてね。せっかく現世にいるのに食べたり飲んだり、色んなことを楽しめないんだ。現世のものに干渉するにはいちいち魔法を使わなくてはいけないし。だから、私は体がほしい。君が私の物になってくれるなら、そこの三人は見逃してあげる。」
まだ残っている建物から、ぞろぞろとガラが現れた。
「この茂道が理望様の名の下、集めた仲間たちだ。お前らだけでどうにかできる数ではない。」
トカゲ男は誇らしげに言った。確かにそのとおりだった。ざっと見ただけで百人はいそうだ。ここに来るまでに倒したガラとはレベルが違う気配がした。罠だったのだ。ミック達はこの場所に誘い込まれた。
「聞くな。どうせお前の体を明け渡したところで、俺たちを助ける気なんてねぇ。」
シュートが身構えた。
「そんなことないよ。古い魔法があるんだ。契約を取り交わす。違反した側は最悪魂が消えてなくなるというペナルティが課される。さすらい人のお前、知っているんじゃないか?」
ベルは厳しい表情で黙っている。否定しないことで、理望の話が真実だと告げていた。
「さっきと同じだけど、私の出す条件はこうだ。ミックが体を明け渡す。私は無傷の完全な体が欲しい。お前たち三人は、無事に王都まで戻る。悪くないでしょ?」
理望はミックの体を戦って奪い取ることもできるのだろう。しかし、それでは体が傷つくかもしれない。それを避けるためにわざわざ取引などと言い出したのだ。仲間を危険に晒したくない。この状況で一緒に戦ってくれというのは、一緒に死んでくれと言っているようなものだ。しかし、もちろん理望の望み通りになどしたくはない。
「ミック、すきを見てラズの真名を呼びなさい。ラズが正気に戻ればどうにかなるわ。」
ベルがミックに耳打ちした。ミックはかすかに頷いた。ミックは理望に向かって歩き出した。できる限りラズに近付きたい。
「取引成立でいいの?」
理望は完全に油断している。ミックに魔力がないことを知っているのだろう。ミックに奇襲はできない、と。目の前にミックが来ようとも、自分に触れることはできないと思っているのだ。理望が間合いに入った瞬間、ミックは剣を抜いた。油断しているとはいえ、さすが理望だ。腕の先に掠っただけだった。
「交渉決裂かな?」
どうせこうなると思ってた、といったような余裕の笑みを浮かべている。しかし、次第に笑顔が消えていった。剣が掠ったところからパキパキと凍りだしたのだ。
「お前、魔法を剣に…!」
一瞬できたすきに、ミックはラズによじ登った。こんなにそばにガラが沢山いるとなっては、耳元で真名を言うしかない。しかし、ミックが登り切る前に、ラズが動き出した。ミックは振り落とされてしまった。そしてそのまま踏みつけられた。
「がっ…!」
肋骨が何本か折れた感じがした。身動きが全く取れない。
「だめだよ、殺しちゃ。大事な器なんだから。」
腕の氷をあっという間に溶かした理望がラズに笑顔を向けた。
「ミック!!」
ベルが駆け出し、ディルとシュートも続いた。しかし、ラズが吐き出した黒い炎で近付けない。
「理望様、もう仕掛けてもいいのでは?」
茂道の提案に、理望は頷いた。茂道はバッと右腕を挙げた。その途端、取り巻いていたガラ達が一気にベル達に襲いかかった。
「ミック、君が悪いんだ。素直に取引してれば仲間は無事だった。何にせよ、ドラゴンに变化しているラズを気絶させて正気に戻そうなんて無謀だけど。」
ラズに押さえつけられた状態で、身動きが取れない。助けに行けない。今のところ三人で連携を取って何とか応戦しているが、数が多すぎる。きっとあと数分ももたない。
「私としては、どっちでもいいんだ。仲間を失って弱っている君を乗っ取っても、自分から体を差し出してもらっても。」
またあの笑顔だ。冷たく、湖の底のように暗い。悔しいが、理望の提案に乗る以外に仲間を助ける方法が思いつかない。考えなくては。何か打開策を。
「多分あそこよ!」
ベルは小高くなっている丘の上の廃墟を指さした。崩れてはいるが、大きさや壁面の装飾から、他の建物より立派だったことがよくわかる。昔は城だったのではないだろうか。
建物の中に入るとミック達は細心の注意をはらい、できるだけ物音を立てずに階段を上っていった。先頭を歩いていたベルが四階で足を止めた。廊下の先の部屋を指さした。
「あそこにラズはいるわ。ガラの気配はないけど罠かもしれない。」
走り出したい衝動を抑え、ミックは足音に気を付けて矢を構えながら部屋の入り口から中を覗いた。
「いたっ!」
壁に鎖で繋がれてぐったりしているラズがいた。明らかに丁重に扱われた感じではない。ミックは弓矢を投げ捨て、走り出した。慎重さはどこかへ飛んでいってしまった。
「ミック!!」
ミックの投げ捨てた弓矢を拾ってディルが叫んだ。その声で、ラズが気がついた。
「ミック!?お前ら…来るな!」
ラズは次の瞬間黒い煙に包まれた。ディルがミックの腕を掴み、ラズから遠ざけた。煙の中から出てきたのは緋色のドラゴンだ。壁や天井をバキバキと破壊した。壁に開いた穴からラズは外へ飛び立ってしまった。ラズが破壊したところから、どんどん崩壊が進んでいく。このままでは建物が崩れ落ちる。
「外に出て追おう!」
ミックが叫び、全速力で全員が階段を駆け下りた。中庭のようなところに出た直後、建物が大きな音を立てて崩壊した。
「あっぶなかったぁ…。」
シュートは振り向いて額の汗を拭った。
「まだ危ない状況よ…。」
ベルの見つめる先には、ラズがいた。そしてそのすぐ隣には…
「理望!!」
叫ぶミックを見て、理望はニヤリと笑った。すぐ近くに環と団蔵、そしてバートで見たトカゲのしっぽを持つガラもいた。
「ミック、取引しよう。」
理望は笑みをさらに大きくした。
「この体は便利だけど、できないことも多くてね。せっかく現世にいるのに食べたり飲んだり、色んなことを楽しめないんだ。現世のものに干渉するにはいちいち魔法を使わなくてはいけないし。だから、私は体がほしい。君が私の物になってくれるなら、そこの三人は見逃してあげる。」
まだ残っている建物から、ぞろぞろとガラが現れた。
「この茂道が理望様の名の下、集めた仲間たちだ。お前らだけでどうにかできる数ではない。」
トカゲ男は誇らしげに言った。確かにそのとおりだった。ざっと見ただけで百人はいそうだ。ここに来るまでに倒したガラとはレベルが違う気配がした。罠だったのだ。ミック達はこの場所に誘い込まれた。
「聞くな。どうせお前の体を明け渡したところで、俺たちを助ける気なんてねぇ。」
シュートが身構えた。
「そんなことないよ。古い魔法があるんだ。契約を取り交わす。違反した側は最悪魂が消えてなくなるというペナルティが課される。さすらい人のお前、知っているんじゃないか?」
ベルは厳しい表情で黙っている。否定しないことで、理望の話が真実だと告げていた。
「さっきと同じだけど、私の出す条件はこうだ。ミックが体を明け渡す。私は無傷の完全な体が欲しい。お前たち三人は、無事に王都まで戻る。悪くないでしょ?」
理望はミックの体を戦って奪い取ることもできるのだろう。しかし、それでは体が傷つくかもしれない。それを避けるためにわざわざ取引などと言い出したのだ。仲間を危険に晒したくない。この状況で一緒に戦ってくれというのは、一緒に死んでくれと言っているようなものだ。しかし、もちろん理望の望み通りになどしたくはない。
「ミック、すきを見てラズの真名を呼びなさい。ラズが正気に戻ればどうにかなるわ。」
ベルがミックに耳打ちした。ミックはかすかに頷いた。ミックは理望に向かって歩き出した。できる限りラズに近付きたい。
「取引成立でいいの?」
理望は完全に油断している。ミックに魔力がないことを知っているのだろう。ミックに奇襲はできない、と。目の前にミックが来ようとも、自分に触れることはできないと思っているのだ。理望が間合いに入った瞬間、ミックは剣を抜いた。油断しているとはいえ、さすが理望だ。腕の先に掠っただけだった。
「交渉決裂かな?」
どうせこうなると思ってた、といったような余裕の笑みを浮かべている。しかし、次第に笑顔が消えていった。剣が掠ったところからパキパキと凍りだしたのだ。
「お前、魔法を剣に…!」
一瞬できたすきに、ミックはラズによじ登った。こんなにそばにガラが沢山いるとなっては、耳元で真名を言うしかない。しかし、ミックが登り切る前に、ラズが動き出した。ミックは振り落とされてしまった。そしてそのまま踏みつけられた。
「がっ…!」
肋骨が何本か折れた感じがした。身動きが全く取れない。
「だめだよ、殺しちゃ。大事な器なんだから。」
腕の氷をあっという間に溶かした理望がラズに笑顔を向けた。
「ミック!!」
ベルが駆け出し、ディルとシュートも続いた。しかし、ラズが吐き出した黒い炎で近付けない。
「理望様、もう仕掛けてもいいのでは?」
茂道の提案に、理望は頷いた。茂道はバッと右腕を挙げた。その途端、取り巻いていたガラ達が一気にベル達に襲いかかった。
「ミック、君が悪いんだ。素直に取引してれば仲間は無事だった。何にせよ、ドラゴンに变化しているラズを気絶させて正気に戻そうなんて無謀だけど。」
ラズに押さえつけられた状態で、身動きが取れない。助けに行けない。今のところ三人で連携を取って何とか応戦しているが、数が多すぎる。きっとあと数分ももたない。
「私としては、どっちでもいいんだ。仲間を失って弱っている君を乗っ取っても、自分から体を差し出してもらっても。」
またあの笑顔だ。冷たく、湖の底のように暗い。悔しいが、理望の提案に乗る以外に仲間を助ける方法が思いつかない。考えなくては。何か打開策を。
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