59 / 69
王都への帰還
終わらない
しおりを挟む
数日かかったとはいえ、これまでの旅路を思えば、王都まではあっという間だった。ミック達はまっすぐ城に向かい、王との謁見を求めた。少し心配していたが、門兵はミック達が来たらすぐ通すよう伝えられているらしく、とてもスムーズに案内された。
謁見の間に久々に足を踏み入れた。とても懐かしい気持ちになる。ここで突然旅に出ろと言い渡されたのだ。あの時は本当に驚いた。玉座に座る王の顔は、あの時はまるで違っていた。とても穏やかで明るい表情だ。ミック達は片膝を付き、挨拶をしようとした。
「作法は省略して良い。面をあげよ。」
ダンデ王の声は、軽やかで優しささえ感じさせる響きだった。
「結果から言おう。姫は目覚めた。」
ディルが安堵の溜息を漏らしたのが聞こえた。ゾルを倒したとはいえ、安心しきれなかったのだろう。
「姫、こちらへ。」
王に呼ばれて玉座の影からザーナ姫が現れた。式典で見て以来だ。あの時も思ったが、グレーに輝く髪や透き通るような白い肌がとても美しい。ミックのイメージする王国の姫そのものだった。ザーナ姫の顔色は良く足取りもしっかりしているが、表情は曇っていた。
「皆様、この度は私の不甲斐なさが原因で大変な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。あとお二人、いらっしゃるんですよね?その方々にも私からお話をさせていただきたいと思っています。」
ディルはなにか言いたそうだったが、言葉が出ないようだった。少し口を開けてすぐ閉じてしまった。姫はミック達を見たが、ディルの方へは目を向けなかった。
「それは、もういい。それより俺が知りたいのは、貴様の言う不甲斐なさに漬け込んだ奴がいるかどうかだ。どうせ調べているのだろう、ダンデ?」
ええー、姫様を貴様呼ばわり!王様を呼び捨て!!ミックは口をあんぐりと開けてラズを見つめた。初めて玉座の間に来たときも城巫女にタメ口だったので、驚いたのを覚えている。幼い頃から城預かりとは言っていたが、呼び捨て…。
「私にそんな風に口を利くのはお前だけだよ、全く…。」
ダンデ王はやれやれと首を振った。ミック達にまた目線を戻したときには、先程とは目つきが変わっていた。
「ラズ、お前の言う通りだ。我々はディルの周辺を調査した。そして、判明した事実が一つ。鳶の塊がニ年前襲われた病は、理望に仕組まれたものだということ。」
「そんな…!原因は子供の持ち帰った山菜だったはず…。」
ディルは信じられないといった顔をしている。
「その通りだ。しかし、本来であればその量の山菜が原因でユーリナ病にはならない。誰かが呪いをかけていた。それが理望だ。」
王は続けた。
「理望はずっと姫を狙っていたんだ。しかし、王都の中の城までは流石に辿り着けない。だから、すきを作ろうとした。恐らく奴にとって誤算だったのは、姫の真名を半分しか知れなかったことと、真名を知ったゾルが協力的ではなかったことだ。」
ディルと姫が惹かれ合うことまで計画のうちだったのだろうか。そこまで人の心の機微がわかるのだろうか。人の嫌がることを巧みに突いてくる理望だ。もしかしたら、その逆の人が喜んだり楽しんだりすることも、熟知しているのかもしれない。恐ろしいやつだ。
「姫の真名を取り返してくれたお前達に、図々しくもさらなる頼みがある。」
ラズが王に質問したときからなんとなく予想はしていた。
「理望を、倒してくれ。」
王が頭を下げた。ああ、やはりこうなった。こんなものを断れるわけがない。この旅はまだ、終わらない。
楽しみにしていたロッテとの再会は、先延ばしになってしまった。それどころか、せっかく姫の真名を取り戻したのに、この国にはまだ平和が戻ってきていないというのだ。そんな状況にも関わらず、ミックは旅がまだ終わらないことを、少し嬉しく感じている自分がいることに戸惑った。
時折、モデローザの雪原でラズに抱きしめられたことが頭を掠めたが、その度急いで別のことを考えるようにした。
謁見の間に久々に足を踏み入れた。とても懐かしい気持ちになる。ここで突然旅に出ろと言い渡されたのだ。あの時は本当に驚いた。玉座に座る王の顔は、あの時はまるで違っていた。とても穏やかで明るい表情だ。ミック達は片膝を付き、挨拶をしようとした。
「作法は省略して良い。面をあげよ。」
ダンデ王の声は、軽やかで優しささえ感じさせる響きだった。
「結果から言おう。姫は目覚めた。」
ディルが安堵の溜息を漏らしたのが聞こえた。ゾルを倒したとはいえ、安心しきれなかったのだろう。
「姫、こちらへ。」
王に呼ばれて玉座の影からザーナ姫が現れた。式典で見て以来だ。あの時も思ったが、グレーに輝く髪や透き通るような白い肌がとても美しい。ミックのイメージする王国の姫そのものだった。ザーナ姫の顔色は良く足取りもしっかりしているが、表情は曇っていた。
「皆様、この度は私の不甲斐なさが原因で大変な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。あとお二人、いらっしゃるんですよね?その方々にも私からお話をさせていただきたいと思っています。」
ディルはなにか言いたそうだったが、言葉が出ないようだった。少し口を開けてすぐ閉じてしまった。姫はミック達を見たが、ディルの方へは目を向けなかった。
「それは、もういい。それより俺が知りたいのは、貴様の言う不甲斐なさに漬け込んだ奴がいるかどうかだ。どうせ調べているのだろう、ダンデ?」
ええー、姫様を貴様呼ばわり!王様を呼び捨て!!ミックは口をあんぐりと開けてラズを見つめた。初めて玉座の間に来たときも城巫女にタメ口だったので、驚いたのを覚えている。幼い頃から城預かりとは言っていたが、呼び捨て…。
「私にそんな風に口を利くのはお前だけだよ、全く…。」
ダンデ王はやれやれと首を振った。ミック達にまた目線を戻したときには、先程とは目つきが変わっていた。
「ラズ、お前の言う通りだ。我々はディルの周辺を調査した。そして、判明した事実が一つ。鳶の塊がニ年前襲われた病は、理望に仕組まれたものだということ。」
「そんな…!原因は子供の持ち帰った山菜だったはず…。」
ディルは信じられないといった顔をしている。
「その通りだ。しかし、本来であればその量の山菜が原因でユーリナ病にはならない。誰かが呪いをかけていた。それが理望だ。」
王は続けた。
「理望はずっと姫を狙っていたんだ。しかし、王都の中の城までは流石に辿り着けない。だから、すきを作ろうとした。恐らく奴にとって誤算だったのは、姫の真名を半分しか知れなかったことと、真名を知ったゾルが協力的ではなかったことだ。」
ディルと姫が惹かれ合うことまで計画のうちだったのだろうか。そこまで人の心の機微がわかるのだろうか。人の嫌がることを巧みに突いてくる理望だ。もしかしたら、その逆の人が喜んだり楽しんだりすることも、熟知しているのかもしれない。恐ろしいやつだ。
「姫の真名を取り返してくれたお前達に、図々しくもさらなる頼みがある。」
ラズが王に質問したときからなんとなく予想はしていた。
「理望を、倒してくれ。」
王が頭を下げた。ああ、やはりこうなった。こんなものを断れるわけがない。この旅はまだ、終わらない。
楽しみにしていたロッテとの再会は、先延ばしになってしまった。それどころか、せっかく姫の真名を取り戻したのに、この国にはまだ平和が戻ってきていないというのだ。そんな状況にも関わらず、ミックは旅がまだ終わらないことを、少し嬉しく感じている自分がいることに戸惑った。
時折、モデローザの雪原でラズに抱きしめられたことが頭を掠めたが、その度急いで別のことを考えるようにした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる