BLAZE

鈴木まる

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もう1つの姿

雪山

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 ラズは猛スピードで空を飛んだ。自分でもどこに向かっているのかわからなかった。見られてしまった!という思いで頭がいっぱいだった。あの場にいたら、仲間たちの不思議そうな顔が、恐怖や敵意を持ったものに変わっていくのを見てしまいそうで怖くて逃げ出した。

闇属性の魔法を使うことがばれた時、彼らは何も気にせずラズをそのまま仲間として受け入れてくれた。しかし、今回は無理だろう。ガラの姿なのだ。今まで一緒に旅してきた者が、敵対する相手と同じ姿なのだ。到底受け入れられるわけがない。

ラズは雪帽子山まで飛んできていた。山の天気は荒れていて、吹雪がひどかった。幸運にも身を隠すことができる程大きな洞穴を見つけ、そこに潜り込み、体を丸めうずくまった。数珠がなくては、人型に戻れない。これからどうすればいいのか、わからなかった。失意の中でラズは目を閉じた。

 

 ミック達がモデローザに着くと、聞き込みをしなくても緋色のドラゴンの話が耳に入ってきた。雪帽子山にすごい勢いで飛んでいったと人々が興奮気味に話していた。
 
 雪山に入るにはそれなりの準備が必要だとモデローザの人々は口を揃えていった。ミックたちは道具屋や服屋に言われるがままに、買うものを集めた。

「 こんなに買えるのかな…?」

大量の品を前にミックは不安になった。王からもらったお金は一体いくら残っているのだろうか。

「ちょっと、買いやすくしたら足りるよ。さ、俺達は少し離れてようか。」

ディルがミックとシュートを会計場から遠ざけた。ベルが購入予定の品を山と積んでいる台の上にずいっと体を乗りだした。ベルは台を挟んで向こう側にいる店の主人を見て、不敵な笑みを浮かべた。あ、これはバートの市場で見たやつだ、とミックは戦慄した。ここから怒涛の値切り交渉が始まる…!

 最終的に店の主が泣いて頼む形で(「許してください…これで…これで!」)半額以下で全てを購入した。ベルは頼もしいが、自分が店の主人だったら絶対に来てほしくないタイプの客だと、ミックは心底思った。

 一行は装備を整え、街の人に登山道の入り口まで案内してもらった。

「雪山に挑戦する人は滅多にいないから、本当に気を付けるんだよ。雪崩が起きることがあるからね。」

ミックたちのことをとても心配してくれた親切な男性が、壮絶な値切り交渉をした店の従業員であることをミックは後日知り、良心を酷く痛めることとなる。

 ベルがラズの付けていた数珠を持ち、先頭を歩いた。ラズの魔力が染み付いた数珠があることで、魔力を微かに追うことができるということだった。それを聞いて

「高級キノコ嗅ぎ当てられるブタみてぇだな。」

と感心して言ったシュートは、みぞおちに正拳突きを食らって、しばらくうずくまった。かわいそうだったが、あれはシュートが悪い。

 想定してはいたが、ラズの気配は道の先にはなさそうだった。登り始めてしばらくしたところで、山道から外れて歩くことになってしまった。それぞれかんじきを足に付け、圧雪されていない所を慎重に進んだ。

幸いにも天気はよく、冬の山とモデローザの街を見渡すことができた。ラズもこれを見たら元気が出るのでは、と美しさに見とれて思わず足を止めてしまったミックは思った。

「なぁ、あとどのくらいだ?」

はあはあと、息を切らしながらシュートがベルに声をかけた。ベルが立ち止まり振り返った。

「もうすぐよ。目で確認できるくらいには、近くにいるはずなんだけど…。」

四人でキョロキョロとあたりを見回したが、緋色のドラゴンの尻尾の先さえ見えなかった。

 その時だ。ドドドドドという轟音が鳴り響き、地面が嫌な揺れ方をした。街の人は言っていた…。

「雪崩だ!!」

ディルの叫び声を聞き終わるかどうかというところで全員走り出した。雪崩の端を超えれば巻き込まれないですむ。

しかし、雪崩は大きく速く、かんじきを履いた足ではとても逃げ切れそうになかった。ミックは予め用意しておいた、丈夫な綱を結びつけた矢を近くの太く高い木の上部へうった。綱はミックの体にしっかりと結ばれている。

「みんな!綱か私に掴まって!!」

四人は綱を掴み一塊になり、できるだけ木に近づこうと移動した。しかし、たどり着く前に、もうすぐ目の前に雪崩が迫って来ていた。

「くそっ!」

そう言って、シュートが前に飛び出し、雪崩に向かって両手を突き出した。シュートの両手を中心に、氷の壁が作られていく。壁は丸くミックたちを取り囲むように曲がった。頭上も氷で覆われ、氷のボールの中にミック達はいるような形になった。綱だけは、氷の壁を貫いて木まで続いていた。

雪崩はもう数メートルまで来ている。ぶつかる瞬間、シュートが叫んだ。

「おりゃあああああ!!!」

ミックは助けになるかわからなかったが、シュートの背中に手を当て踏ん張れるよう腰を落とした。ベルとディルも、シュートを支えるように手を当てた。

雪崩は氷の壁に衝突し、視界は真っ白になりすぐに暗くなった。氷の壁は壊れなかった。しかし、ミック達の入った状態で雪崩に押し流された。体に綱をがっしりと巻き付けていたミックは、綱に引っ張られ、氷の壁に体を叩きつけられた。体に巻いた綱で締め付けられて苦しい。

慌ててディルとベルがミックを引っ張り氷のボールの外へと繋がっている綱を握って踏ん張った。

 ボールの動きが止まり、雪崩が落ち着いた頃には、全員が疲れ切ってぐったりとしていた。ボールは頑丈で壊れていないようだったが、完全に雪の中に埋まってしまっていた。

「はあ、はあ…わりい、俺がもっといい形状で氷の壁を作れてれば…。」

最初に口を開いたのはシュートだ。

「十分だよ。全員ばらばらにならないで生きてるんだから!」

薄っすらと見えるシュートの肩を、ポンポンとミックは叩いた。しかし、これからどうするかだ。

「ミックのロープを引っ張って出るしかないんじゃないかな?」

ディルの提案に一同賛成し、全員でロープを引っ張ってみた。ズズズ…と音がしてほんの少し氷ボールは動いた。何回かやってみたが、四人で力を合わせても(一人は十人分程の力があるが)、一回の踏ん張りで数センチメートルしか動かなかった。

「んもう!…これ、どのくらい上に雪が乗っかってるのかしら?」

ベルはとうとう一旦綱から手を離し座り込んだ。この方法では雪の上に出る前に力尽きてしまいそうだった。

「シュートの氷でさ、上まで通路作るなんてできない?」

ミックの提案にシュートは首を振った。

「今は無理だ。この球作るのに魔力使い切っちまった。」

しっかりと着込んでいるし、風を通さない空間なので寒さはそこまで感じない。しかし、長い時間いては、酸素がなくなってきてしまうだろう。四人は考え込んだがなかなかいいアイデアは出てこなかった。

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