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潜入
心の傷
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ディルとシュートが見舞いに来た時に、ベルがミックの状態を伝えた。シュートは頭を抱えた。
「マジかよ…体の傷だったら、俺が何とかしてやれたのに。」
考え込んでいたベルがぼそりと呟いた。
「潜ってみようかしら?」
ディルが少し驚いたような、心配するような顔でベルを見た。
「姉さん、本気?」
「そうよ…もしかしたら、これが私がこの旅に選ばれた理由かもしれないしね。」
何か手立てがあるのなら、なぜすぐに実行しない?とラズは苛ついたが、リスクがあるのかもしれないと思い直した。今の自分は思考が短絡的で視野が狭まっている。
「私は魔法を使えば、人の心に入り込むことができるの。」
「どういうことだ?」
ラズとシュートは同時に言った。お互い顔を見合わせた。シュートはにかっと笑ったが、ラズはふんっと顔をそらした。シュートと同じタイミングで物を尋ねてしまうとは、余程急いている。やはり普段の自分と考え方が違うと思った。
「簡単に言うと、その人の心の中を見ることができるの。相手が眠っている場合は、その人の夢を見られる感じ。」
「マジかよ!え、じゃあ俺の考えていることも…。」
シュートの顔がサーッと青くなった。一体何を考えているのだ、コイツは。ベルはそれを見て大笑いした。
「シュートその顔!あっはっはっ…安心して。人の心に入り込むには…『潜る』って私達は言ってるんだけど…条件がある。」
「俺たちのばあさまは、なんの条件もなく潜れるんだけどね。」
シュートはほっと肩をなでおろした。確かベルは占い師の祖母の力を少し受け継いでいるという話だった。祖母の力がそれ程ならば「少し」とはいえ、ベルは相当な魔力の持ち主なのかもしれない。
「条件は二つ。一つ目は私が潜る相手の体に触れていること。二つ目は相手が潜ることを承諾してくれること、あるいは相手が眠っていること。」
ベルは指を一本ずつ立てて説明した。
「潜ることができれば、相手の心に直接呼びかけることができるはず。」
なるほど。そうすれば、ミックははっきりと意識を取り戻すかもしれない。
「ちなみに、潜るとかなり体力、気力を消耗するから、私は戻ってきた後二、三日眠り続けるわ。」
ディルがあまり乗り気で提案しなかったのはこれが理由かとラズは納得した。ベルにかかる負担が大きいということだ。
病室に入ると、ミックは目覚めたときと同じ姿勢でベッドの上にいた。こちらに顔も、視線も向けない。ただぼんやりと正面の壁を見ている。
「ミック!ちょっと触るぞ。」
シュートが先程医者がやったのと同じように下まぶたを引っ張って目の様子を見たり、目の前で指を動かして眼球の動きを確認したりした。
結果は変わらなかった。ミックは何の反応も示さない。シュートはぎゅっと下唇を噛んだ。
「じゃあ、ディルとシュートは人払いをお願い。ラズは…。」
「病室には戻らんぞ。」
頑なな態度のラズを見て、ベルは微笑んだ。
「違うわよ。あなたは、私と一緒に潜って。」
どういうことかわからない。そんなことが可能なのか。
「私と手を繋げば、あなたも一緒にミックの心の中へ行ける。もしミックの心が戻ってこない原因がお父様の事件なら、あなたがいてくれた方がいいと思うの。」
ディルが何か言いかけたが、遮るようにベルは続けた。
「ただ、万が一私の魔力が尽きた場合、ミックの心の中から出られなくなるかもしれない。それでも来てくれる?」
「何を今更。」
ラズは即答した。今まで散々ミックには助けてもらった。敵を倒すだとか旅の準備だとか、そういった物理的な面でももちろんだが、それ以上に心の支えになっていたのだ。
ミックの明るい声や屈託のない笑顔に、どれ程心を軽くしてもらっていたかこんなことになって初めて気がついた。ジークの時と似ていた。違うのは、今回はまだ取り戻せるというところだ。
「そう言うと思ったわ。早速取り掛かりましょう!」
「マジかよ…体の傷だったら、俺が何とかしてやれたのに。」
考え込んでいたベルがぼそりと呟いた。
「潜ってみようかしら?」
ディルが少し驚いたような、心配するような顔でベルを見た。
「姉さん、本気?」
「そうよ…もしかしたら、これが私がこの旅に選ばれた理由かもしれないしね。」
何か手立てがあるのなら、なぜすぐに実行しない?とラズは苛ついたが、リスクがあるのかもしれないと思い直した。今の自分は思考が短絡的で視野が狭まっている。
「私は魔法を使えば、人の心に入り込むことができるの。」
「どういうことだ?」
ラズとシュートは同時に言った。お互い顔を見合わせた。シュートはにかっと笑ったが、ラズはふんっと顔をそらした。シュートと同じタイミングで物を尋ねてしまうとは、余程急いている。やはり普段の自分と考え方が違うと思った。
「簡単に言うと、その人の心の中を見ることができるの。相手が眠っている場合は、その人の夢を見られる感じ。」
「マジかよ!え、じゃあ俺の考えていることも…。」
シュートの顔がサーッと青くなった。一体何を考えているのだ、コイツは。ベルはそれを見て大笑いした。
「シュートその顔!あっはっはっ…安心して。人の心に入り込むには…『潜る』って私達は言ってるんだけど…条件がある。」
「俺たちのばあさまは、なんの条件もなく潜れるんだけどね。」
シュートはほっと肩をなでおろした。確かベルは占い師の祖母の力を少し受け継いでいるという話だった。祖母の力がそれ程ならば「少し」とはいえ、ベルは相当な魔力の持ち主なのかもしれない。
「条件は二つ。一つ目は私が潜る相手の体に触れていること。二つ目は相手が潜ることを承諾してくれること、あるいは相手が眠っていること。」
ベルは指を一本ずつ立てて説明した。
「潜ることができれば、相手の心に直接呼びかけることができるはず。」
なるほど。そうすれば、ミックははっきりと意識を取り戻すかもしれない。
「ちなみに、潜るとかなり体力、気力を消耗するから、私は戻ってきた後二、三日眠り続けるわ。」
ディルがあまり乗り気で提案しなかったのはこれが理由かとラズは納得した。ベルにかかる負担が大きいということだ。
病室に入ると、ミックは目覚めたときと同じ姿勢でベッドの上にいた。こちらに顔も、視線も向けない。ただぼんやりと正面の壁を見ている。
「ミック!ちょっと触るぞ。」
シュートが先程医者がやったのと同じように下まぶたを引っ張って目の様子を見たり、目の前で指を動かして眼球の動きを確認したりした。
結果は変わらなかった。ミックは何の反応も示さない。シュートはぎゅっと下唇を噛んだ。
「じゃあ、ディルとシュートは人払いをお願い。ラズは…。」
「病室には戻らんぞ。」
頑なな態度のラズを見て、ベルは微笑んだ。
「違うわよ。あなたは、私と一緒に潜って。」
どういうことかわからない。そんなことが可能なのか。
「私と手を繋げば、あなたも一緒にミックの心の中へ行ける。もしミックの心が戻ってこない原因がお父様の事件なら、あなたがいてくれた方がいいと思うの。」
ディルが何か言いかけたが、遮るようにベルは続けた。
「ただ、万が一私の魔力が尽きた場合、ミックの心の中から出られなくなるかもしれない。それでも来てくれる?」
「何を今更。」
ラズは即答した。今まで散々ミックには助けてもらった。敵を倒すだとか旅の準備だとか、そういった物理的な面でももちろんだが、それ以上に心の支えになっていたのだ。
ミックの明るい声や屈託のない笑顔に、どれ程心を軽くしてもらっていたかこんなことになって初めて気がついた。ジークの時と似ていた。違うのは、今回はまだ取り戻せるというところだ。
「そう言うと思ったわ。早速取り掛かりましょう!」
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